嫉妬の魔獣 6
「ごめんね、ガイムくん」
マノが犬の魔獣を追跡をする一方、ガイムは北の聖域にてレヴィの傷の手当てをしていた。
「お気になさらず。 それよりも噛みつかれた傷は……」
レヴィが上着を脱ぎ、首元を見せる。
「……どう?」
「…………パッと見、塞がってますね。 凄い回復力だ」
「そっか……良かった! これであと三つかな!」
「三つ…? 何がッスか?」
「ううん! コッチの話」
「そうすか……。
…………。
…………っ。」
「ん? どうしたの?」
「あ、いや、その……」
目線を逸らしたガイムが指だけをレヴィの胸元へ向ける。
「状態は把握できたんで、もう着てもらっても……」
「あっ、ごめんね、見たくないもの見せちゃって……」
「いや、そんなことは――!」
「なーにイチャイチャしてるのよ」
「え?」
ガコン! 硬い突起物で後頭部を叩かれるガイム。
「ってぇ……なぁ! って、あああ〜〜アッっ!?!?」
「!?」
驚く二人。
ガイムの後ろには細長い得物を肩で抱える茶髪の小柄な少女。
「無事だったのか、イオ……」
「ええ、無事でしたよ?! 誰かさんが喧嘩した挙げ句見捨てたけど無事でした!」
「見捨てたというより、僕が見捨てられたような……」
「なんか言った?」
「なんでもないでーす」
「…………で、その人は?」
「……」
「ああー、レヴィさん。 僕たちよりも先にこの世界に居たらしいんだけど、記憶が曖昧で詳しい事は――」
「まさかそれを信じてるわけ?」
「うん」
「はぁ……バッカじゃないの? そんな嘘に決まってるでしょ」
「なんでそう言い切れるんだよ」
「普通の人間がどうやってこの世界に入り込むわけ?」
「それは……そうかもしんないけど……。 この人は悪い人じゃない…(多分)」
「ふ〜ん……」
「っ……!」
イオは訝しげな顔でレヴィをジロリと見つめる。
「ガイムって、こういう大人びた雰囲気もイケるんだ」
「……は? お前、何言って……」
「別に。 ただ、私がリバイアサンのせいで、体が腐りかけていた時に、上着脱がせてそういう事をしてたのかって思っただけ」
「おい、いい加減にしろよ。 僕は犬の魔獣に噛まれたレヴィさんの傷を確認するために…」
「あ、そうだ! 犬の魔獣!
なんで勝手に二階に上がったの!?」
「なんでって……それより、話を逸らす――」
「いいから答えなさいよ!」
「キーキーうるっさいなぁ! もう少し黙って言えないのかよ!」
「何それ、こっちが心配してるのにうるさい?! 人の親切をなんだと思ってるわけ!?」
「そういうの、世間一般ではありがた迷惑っていうんだよ。 騎士になってから足引っ張ること以外、何も出来なかったくせに…」
「あの…二人とも喧嘩は……」
「貴女には関係ないですよね? 引っ込んでてもらえます?」
「レヴィさんに当たるなよ、嫉妬か?見苦しいな」
「なっ…! 嫉妬じゃないもん!!」
「ガイムくん、女の子相手にそんな言い方をするのは……」
「良いんすよ、コイツにはこれぐらいが…」
「嫉妬じゃ……っ…ないもん……! ぐすっ……」
口から出る言葉とは対象的に、鼻先を赤くし、目を潤ませるイオ。
「え……割とガチで嫉妬でキレ散らかしてた感じだったの…?」
「うっさい! そうよ!好きな男が知らない女と仲睦まじくしててジェラシー全開だったのよ!悪い!?」
「いや、悪いというか、なんというか……」
抑えきれなくなった目からポロポロと涙を溢すイオ。
(昔っからだけど、めんどくさい性格してるなー……ま、でも)
頭を搔きながら「やれやれ」といった思いを抱きつつも、その華奢な体を優しく包容する。
「抱きしめたぐらいで私が許すとでも?」
「思っちゃいないけど、僕も好きな相手が泣いてるのを黙って見ているのは心苦しい……です」
「…………面倒くさい女って思ってるくせに」
「否定はしない――」
「しろよ」
「じゃ聞くなよ、あと最後まで聞け。
否定はしないけど、そういう部分も含めて愛おしいとも思ってる」
「…………」
その言葉を聞いたイオは、ガイムを受け入れるように彼の背中へ手を回す。
(フッ……良いこと言ったな、ぼk…)
「今、良いこと言ったな…とか思ったでしょ」
「…エスパーかな?」
「やっぱり思ってたんだぁ〜〜っ!!」
「え、いや、うん。 思ってない! 素で出てきた言葉!
This is 素!」
「今、エスパーかな? とか言ったくせに!」
ー数分後ー
「それで、レヴィさん?は敵じゃないと」
「現状はな」
「なんだか歯切れの悪い言い方ね」
「完全には信用してないから、僕」
「えっ、そうなの?」
二人がリビングのソファで会話をしていると、、、
「おまたせ~」
寝室から着替えを済ませたレヴィが足早にやって来た。
「わざわざ、こっちに来なくても、寝室で休んでいても良かったんすよ?」
「そうはいかないよ〜。 二人にとって私は怪しい人みたいだし」
「あ、聞こえてたんすね……」
「ふふっ…まーね」
「でも、その方が良いでしょうね。
レヴィさん、私たち魔剣使徒は明確な素性が分からない貴女を監視対象としています。 ですので、その容疑が晴れるよう、私たちに協力をーー」
「!?……」
「…………」
三人の息が張り詰める。
その場にいる三人全員が感じたその魔力は、身の毛もよだつ恐怖を抱かせ、指一つ、体の震えすらも許さなかった。
「ガイム、これって……」
「間違いなく、あの悪魔の魔力だろうな……」
「で、でも……こんなに凄い魔力じゃ……」
「もしかしてだけど、あの魔獣を吸収したりしたんじゃないのかな……」
「吸収……それでオーディン様が戦った時と同じぐらいの強さを取り戻してるって事なのか……?
そんなの、僕達だけじゃ……」
「対象、発見」
「「!!」」
三人の視線が一斉に声のする方へと向けられた。
「っ……」
「あれ?」
「誰も……いないね……」
「私、ちょっと見てきます!」
「おい、勝手に一人で行くな!」
聞こえた無機質な声の出処を探るため、キッチンへと一人向かうイオ。 それを追うようにしてガイムとレヴィも移動する。
「っっ〜〜ッ!!」
ステンレスを殴打する音と、ぽちゃん…と水に何かが落ちる音。
「イオ?」
「あれ、イオちゃん……」
それを最後にイオは姿を消した。
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次回は9月17日18時に投稿予定です。




