嫉妬の魔獣 5
「何からと言われても……」(急に現れてアタシを助けたと思ったら二人になったりして、その後すぐに二人いたこの人が一人になったりしたのに何をどう聞けば……)
一度に複数の出来事があり、頭の中での処理が済んでないマノはあたふたと顔を歪める。
「……団長、まず、順を追って自己紹介からしたらどうでしょう?」
「そうか、確かにそうだな。 まだ名前を名乗っていなかった」
それを見抜いてか、自分達の事を説明しようとイオに促され、エナは服を軽く払い、敬礼をする。
「俺はニルプス王国騎士団所属、エナ・グォリース。
騎士団長であり、魔剣使徒として王より任命されている。 俺の扱っている魔剣はレーバテインだ」
「同じくニルプス王国騎士団所属、イオ・ノウミークです。
騎士になってまだ一年ぐらいですけど、私も魔剣使徒なんですよ!
魔剣名はダーインスリイフです!」
「! もしかして、お二人ともガイムさんの知り合いですか?」
「ガイムを知ってるの!?」
小柄な茶髪の少女、イオは鬼気迫る表情でマノへと身を寄せる。
「あああああはい……この先の聖域のお家に……」
「やっぱり知らずに行っちゃったんだ……。 団長!」
エナが小さく頷くと、イオは飛行魔法を使い、ガイムのいる聖域へと一気に飛び去っていった。
「はやーー……」
「さて、確認だが……。
君はマノ・ランブルグで間違いないな?」
「え、あ、はい!」
「そうか。 では、次の質問だ。
どうやってこの世界に入り込んだんだ?」
「えっとー……納得してもらえるか分かんないですけど……」
マノは赤陽世界の天照城で聞こえた声と歪んだ空間に飲み込まれた事を説明した。
「歪んだ空間……リバイアサンの攻撃からアリア達を守るために使ったリドゥフェーズの影響がそんな所にまで……。
すまなかった……無関係な君を巻き込んでしまい……」
「あ、頭上げてください!
大体の事情はガイムさんから聞いてますし、それに……。
ガイムさんの言うとおりなら、皆さんが元の世界に戻れないのはアタシのせいですし……」
「…………」(あの王が、自らの力を宿した物を与える相手と聞いたときは少々驚いたが……。
これは……確かに普通の悪魔とは違うらしい)
「……エナさん?」
「魔力は回復したか? そろそろ俺たちも北の聖域へ向かうぞ」
「あ、はい!」
エナから借りていたレーバテインの刀身を返すマノ。
「あ、そうだ。 いい加減その武装を解かないのか?」
「へっ? あ、そうですね……。 最初に変身してからずっとこのままでした…あはは……。
っ…………と、!?」
腕輪の武装を解除した瞬間、全身に軋むような痛みが走る。
「! 腕輪と肉体の結合が上手くいかなかったのか……。 これで魔力の再利用が行われていなかった理由は分かった」
「え? つまり…?」
「先にも言っただろ、使いこなせていなかったんだよ」「な…るほ……ど……。 あのエナさん、それよりも……」
「?」
険しい表情をするマノを見て、ハッとする。
「ああ、そうだな。 もう少し休んだ方が良いかもしれないな。 ほら」
そう言うと、エナはレーバテインの刀身を再度マノへと渡す。
「しゅみましぇん……」
「気にするな。 俺こそ、気が使えなかったな」
「あの、エナさん」
「なんだ?」
「エナさんは、あの腕輪の事、どこで知ったんですか?
アタシがルイさんから貰ったのは、皆さんが影の世界に閉じ込められた後だと思ってたんですけど……」
「王の手紙だ」
「手紙?」
「聖域には別次元に通じている箱があるだろ? あれを使って月光世界の情報を得ていたんだ」
「なるほど〜。 あ!じゃあ、アルハさんの事も……」
「勿論、あの方の事も存じ上げている。
まさか、あの方直々に六大世界の悪魔を封印していただけるとは思わなかった」
「アルハさんって、そんなに偉いんですか?」
「偉いって……まさか、あの方の本当の名を知らないのか? あの方の名は――――」
「「!!!!」」
アルハの名を言おうとしたエナの言葉が途切れる。 ドわすれとかじゃなく、そんな事がどうでも良くなるほどの事が起きた。
「エナさん……今の魔力、感じました?」
「……感知しないようにする方が難しいだろうな、この魔力は……」
身の毛もよだつ魔力、それは二人の位置から北の方角、ガイムたちのいる聖域からだった。
「君が以前に感じた魔力はこれだったのか?」
「はい……」
「そうか……君もリバイアサンの魔力を……」
「これがリバイアサンの魔力……。 こんなに恐ろしいんですか?」
「いや、封印した直後は、ここまで膨大な魔力量は無かったはず……」
「だったら急いで向かいましょう!」
「だが、君の体は……」
「モーマンタイです! 行きましょ、エナさん!」
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次回は9月10日18時に投稿予定です。




