嫉妬の魔獣 2
「はぁ……はぁ…………つ………着い…」
「着いたー」
「ちょっ…!? アタシのセリフなんですけど!?」
「知りませんよそんなの」
前回、猫の魔獣を統べる猫親分をやっつけたアタシたちは他の魔剣使徒を探しながら、自分達の安全を確保すべく、北にある聖域へと赴いていた。
「マノちゃん、重くない?」
「いえ、全然ヘッチャラです!」
「えー……じゃあ、僕もおぶってくれてよかったんすよー?」
「怪我してないじゃないですか! それに男の子なんだから、それぐらい平気でしょ!」
「一回、心臓、破裂してるんすけどー。 これがフェミニストを自称する女尊男卑アバズレかー」
「友達がいない理由がよく分かりますよ……」
「お褒めに預かり光栄でーす」
悪い人じゃないのは分かってるけど、性格良いとはお世辞にも言えないなこの人……。
聖域とされる建物は二階建ての一軒家で、避難所としては十分すぎる広さだ。
「よっこいしょ……」
レヴィさんの怪我が悪化しないよう、ゆっくりとベッドへ座らせる。
「ありがと、マノちゃん」
「いえいえ! もう少し良くなるまでは、休んでてくださいね」
「うん」
「よっこいしょって……ババアかな?」
「ババ…!? っ……もう、いいです!」
口論するのも疲れるので早々に家の散策へと移る。
一階には寝室が二部屋にキッチン、リビング、お手洗いやお風呂もある。 問題は、、、
「…………」
「どしたんす…か……あー……」
アタシの後を追ってきたガイムさんも微妙な感想だ。
一階の一番奥にあるボロボロの階段。 飛行能力を使えば、難無く上がれるのだが、、、
「すんごい臭いっすね」
「ですね……なんでしょう、この臭い……」
「腐乱臭だと思いますけど、動物とも人とも違うし……。
じゃあ、お嬢さん、ちょっと上がって確認よろしくです」
「分かりまし…って、一緒に上がりましょうよ! 一人じゃ怖いですよぉ〜!!」
「魔猫のボスを倒したんですし大丈夫です、ふぁいとー」
「思ってない! 絶対、自分が行きたくないだけじゃないですか! 女の子一人を危ない場所に行かせて恥ずかしいと思わないんですか!?」
「あ、それは大丈夫っす。 お嬢さんの事は女として見てないんで」
「おいッ!」
「冗談ですよ、ギリギリ性別上、女性として認識できてますよ」
言い方がムカつく〜!!
「じゃ、特別に僕も上がりますよ、未来永劫感謝してください」
「あー!はいはい!感謝!感謝!」
飛行魔法を使い、二階へと進む。
「…………っ」
「真っ暗すね」
「明るくする魔法とか……」
「無いです」
「ですよねー…」
窓が一切無いせいで視界は黒一色、若干の息苦しさもある。
階段近くであれば、下から漏れ出す明かりで微妙に見えるが、そこから少しでも離れ、奥へ進むと何も見えない。 それになにか……なにかゾッとする雰囲気が……。
「……ガイムさん、言いたい事があるんですけど」
「奇遇っすね、僕もです」
アタシたちはその先は何も言わず、一階へと降りていった。
「なんかいましたよね?」
「ですよね! いましたよね!確実に!」
降りて早々、二階で感じた気配で盛り上がる。
「腐乱臭に混じって、ドブに近い臭い……みたいな」
「そ、それに、グルルル……って声も聞こえました……」
「マジすか? だとしたら、犬の魔獣の親玉だったりして……」
「じょ、冗談はやめてくださいよ! ここ、聖域の中ですよ?!」
「いや、だって、犬の魔獣は、そのほとんどが外にいるんすよ?
なのに、一匹だけ、しかも聖域内となると……」
「……ど、どうします?」
「……ここは、やっぱり猫の親玉をぶっ潰したお嬢さんが……」
「ムムムムムムムムリですよ!! あれは不意打ちだったからであって、正面切ってとか絶対ムリです!
それに……幽霊とか出てきそうだし……」
「幽霊って言わないでくださいオバケって言ってくださいそうしないと僕が気絶しますよ良いんですか?」
アタシ以上のビビりがいた。
「騎士なのに幽霊を怖がるんですか……」
「だから幽霊って言うのやめてください馬鹿なんですか死ぬんですか自慢じゃないですけど過去に僕はオバケと遭遇して失禁してるんですよナメないでください」
「本当に自慢になってない……」
「そもそもですよ、なんで聖域内にいるんだって話なんですよ。 なんでですか?」
「ん? アタシに聞いてるんですか!?」
「だって、お嬢さん、ヘッポコとはいえ悪魔じゃないですか。
お仲間の眷属なら分からないんですか? はー…つっかえ」
「ディスらないと話を振れないんですか……。
ウ~ン……聖域の魔力に耐性を持ったとかじゃないんですか?」
「ふっつーの感想っすね、つまんねー」
ヤッバ、殴りたい…! この人メチャクチャムカつく!!
だいたい、口を開けたらすぐ毒吐いてくるから友達いないんだよバァァァカ!! ……口に出しては言わないけど。
「耐性持てるほどの相手なら、獣人型になってるんでしょうね。 僕個人の見解ですけど」
「えぇ〜……犬人間って事ですか……?」
「前回の獣人がライオン……ネコ科の生き物だったので、今回もイヌ科の生き物かもしれません」
「イヌ科……オオカミとか?」
「……冗談でもやめてくれません? 犬の眷属が実はオオカミとか補正かかりすぎでしょ」
「でも、猫の眷属の親玉がライオンだったんですよ?」
「キツネとかにしといてくんないかなぁ、キツネにしてください」
「誰に対しての願望!? 仮にキツネでも幻術とか使いそうな気がしますよ?」
「じゃあ、チワワで」
「犬の中でも最弱に位置してそうな犬種を出してきましたね」
「二人で何してるの?」
「「ギャァァァァァァ!!!」」
「って、レヴィさん!? 体、もう平気なんですか?」
「うん。 それより、私よりも平気じゃなそうだけど……」
目線の先には転がり回る魔剣使いの騎士が一人。
「いやぁァァァァ!! 何!?ナニ!?!?もう嫌ァァァあん!!!」
……あんなビビり散らしてオネエ口調になっている人を騎士だとは思いたくない。
「ガイムさん、落ち着いてください。 レヴィさんですよ」
「嫌ァァ…え? …………。
さて、何の話でしたっけ」
「無かった事にしないでください!」
「無かった事? 僕は、怯えるお嬢さんをなだめていただけですけど?」
このビビり騎士、自分の記憶を捏造している。 というか、ちょっと前にこのやり取りを別の誰かとやったような……。
「はぁ〜……」
「ふふっ……。 それで、二人はここで何をしていたの?」
「あ、実はですね……」
アタシは先程までの出来事をレヴィさんに話した。
「なるほどね……じゃあ、私も一緒に行こっか? 暗い場所を明るくするぐらいの簡易的な魔法なら使えるし…」
「あ、そういえば、オーシャインシュトロームは水と光の聖奥でしたね!」
今、この時まですっかり忘れてたー…!
「じゃあ、お願いします!」
「うん!」
話は纏まり、アタシとレヴィさんは、、、
「女性だけでは危険です、僕も同行しましょう」
は?
「女性だけでは危険です、僕も同行しましょう」
いや、聞こえてんだよビビリナイト。
「ふふっ…ありがと、ガイムくん♪」
「いえ、騎士として当然のお気になさらず」
「…………」
「どうしましたお嬢さん?」
「べつにぃ〜?」
騎士として当然? どっかの誰かさん、さっき一人で行けとか言ってた気がするんですけどぉ〜!?
……というわけで話は纏まり、アタシとレヴィさんとガイムさんは再度、二階へと上がるのでした。
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「っ……」
「団長?」
エナが手にしていた剣の柄を目を通す。
(レーバが心臓のように鼓動を鳴らしている……何かを感じたのか)
「どうかしたんですか?」
「イオ、ここから北にも聖域があったな?」
「二階建ての大きめな一軒家がありましたね。 でも、あそこには団長たちが封印した魔獣が……」
「そうだ、マモンの妨害により、月光世界と遮断された後、俺とアリアが二種類の魔獣長を封印し、その種の力を弱めていた」
「なら、それを知っていてあそこを聖域として使おうとする人は……」
「君には先程説明したので知っているだろうが、君の相棒には、まだ伝えていない。
もしも、安易に手を出してしまえば危険だ」
「っ!」
「この剣の柄、レーバの震えからしてイヤな予感がする。
飛行能力を用いて、一気に進むぞ」
「は、はいっ!」




