第13章 ⑯ 触れられない心
第13章 ⑯ 触れられない心
なんだこの疎外感。さっきの比ではない。全く宇宙言語喋られてる気分だ。ミヤビンゴってなに?ビンゴ大会の主催者かなにかだろうか?
「あれ?もしかして、ドキュメンタリーのやつ?わかる!わかりすぎて困る!あんなにボロボロになるまで練習するなんて‥ほんと泣く。」
なんだかまたおかしなことになってないか。慰めてやつが今度泣いて、慰められてたやつが慰めている?立場が逆転してタオルをシェアする展開を誰が予想できただろうか?
混沌としてきた状況ではあるが、時間を見て驚く。
何と22時!色々あってこんな遅い時間となってしまった。
スマホには案の定大量の通知が来ている。ささっと一言。「これから帰ります。」
と送信するが、その数秒後に電話が鳴り響く。
「すいません。親から電話。」
号泣するヒカルを介抱する彼女には悪いが、自分玄関の方で電話に出る。
「かーけーるー!お前今何時だと思ってんだ!」
その後はもの凄い剣幕で怒られた続け、鼓膜が破れそうになるとはこの状況を言うのだと実感した。
状況を説明して、すぐに帰ることを告げて電話を切る。リビングに戻ると、ヒカルは泣き止んだと思ったら、また別の話に花が咲いたようだ。
「えぇ!あの伝説の回!あれはやばい。まじ心臓止まるかと思ったもん。いやだってあそこで、行く?普通行かないよ!公衆の面前であんなこと。考えただけで‥ふぉー!」
狂喜乱舞するヒカルにそろそろ帰らないとまずいと伝える。するとヒカルは言いました。
「ねぇ。凪ちゃん。泊まってもいい?」
おい。帰ると言っただろ。宮田さんもみんなそう思ってるぞ。第一学校あるから。いくら成績優秀でもサボりはダメだろ。
「えっと。私明日って夜バイトなんです。新聞の折り込みしなきゃいけなくて。」
あれ?バイトも行ってないって話では?もしや配達には出てないだけの話だったのか。
「えー。そしたら私もバイト行く!凪とまだ話し足りない!」
困惑する彼女にお構いなしに抱きついて離れようとしない。こんな頑固なヒカルを説得するのは至難の技だ。故に方法は一つしかない。
「あ!うちの母さんがヒカルに食べさせたいからってケーキ買ってきたって。それと新しい紅茶も。今日帰らないと、ヒカルの分はないだろうなぁ。」
そう、餌で釣る!ヒカルにはもはや言葉はいらない。ヒカルの衝動をどうか揺さぶるか?それに成否はかかっているのだ。
「むーん。」
じっと固まり、思考を巡らせている。どうやら見えない葛藤が彼女の中で起きているらしい。
すると、ヒカルがおもむろに彼女の腕を離す。
「クッキーも付けて。やっぱり紅茶にはクッキーも必要だから。」
「わかった。全力で交渉しよう。」
二人のやり取りを見ていた彼女は苦笑いを浮かべていた。
「うぇーん。凪ちゃんはいつ暇?今度こそ泊まりに来てもいい?てか電話してもいい?」
なんだこいつ?てか戦略めちゃくちゃだな。いきなり来たやつなのに泊まろうとするというとんでも提案をする有様。それでも押しに弱いところがあるのか、彼女はその迫力に押されて、電話をする約束を取り付けさせられていた。
「で、電話でお願いします。」
「やった!そしたら明日電話するからね!約束だからね!電話出ないと、化て出るからね!」
脅し文句は小学生レベルだ。それもまた絶妙なバランスなのだろう。
ここで、「出ないと、祟るよ?」の方なら断然サイコホラー感は出るだろうが、友達できないだろうなそいつ。それが自分でないことを祈る。
「じゃあホントお邪魔しました。あ!これ!玄関先に挟まってましたよ!風で飛ぶといけないと思って勝手に手に取ってしまって。すいません。」
教師から渡されたプリントをさりげなく渡す。
「あ、そうですか。ありがとうございます。お気をつけて。と言うか、これから帰るのにタクシーとか呼ばなくて大丈夫なんですか?」
「ええ。あの、まあ、色々な力がありまして。ちょっとだけ常識が通用しない者達なんです。」
「はあ。」
そんな説明で納得してもらえるとは思わないが、
それを説明してる時間もなければ、納得して貰える気もしない。
そのため、強引だが、ヒカルを連れて彼女の家を後にする。
「じゃあね!あ!今度「君キス」持ってくるから!」
笑顔で手を振る彼女達を引き裂くのはなんだか心苦しいが、これも定め。名残惜しむヒカルを引っ張り、家の外に出ると辺りは真っ暗だ。街灯も少なく、家から漏れる光が道を照らす。
宮田さんに言われ稲荷神社の祠を探すためにタブレットを開く。すると画面の光が眩しさ故に辺りとの差異を感じる。
見るに本当にすぐ近くだ。しばらく歩くと、本当に小さな祠がある。
「これっぽいな。じゃあ自分から先に。」
「ちょっと!こんな所に一人残す気?レディーファースト!少しは気を使ってください。」
腕を掴まれて、本気のお叱りを賜った自分はヒカルに先を譲る。
するとヒカルから思いがけない言葉をかけられる。
「シートとか。凪ちゃんのこととか。カケルが上手くやってくれなきゃ上手くいかなかった。ありがとう。じゃあ、お先ね!」
ありがとう?
唐突に頂いたその言葉は感謝を意味しているのだという事は理解している。しかしこうも心に響く言葉だったろうか。どうも胸に入ったその言葉が心の中で乱反射して消えない。
その言葉の魔力に自分は魅入られたのかもしれない。
風が変わり秋が通り過ぎてしまうのを、しみじみと名残惜しむ様に、
見上げた月が輝く夜に、自分とは違う何かが現れて、溶け込んでいったのが分かった。
第13章が遂におわりました!
ここまで読んだ方なら絶対に最後まで読んで頂けると信じています!
今回のお話の中で相反する家庭事情の二人の親への思いの丈が語られましたが、なんだかこちらも何とも言い難い、こそばゆい気持ちになりました。(´;ω;`)
しかし、次章はとても辛いお話です。
人生は苦難の連続か…
次章お読みください。




