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第13章 ⑥ 触れられない心

第13章 ⑥ 触れられない心



「おい!保護者ならいるだろ?秘書のアイツに電話かけて迎に来させればいいだろ?」


「って、なるほど!その手があったか!助かる!」


「いいから早く電話してこっから出せ!」


膨れっ面のマルがこれ以上臍を曲げないようにするためにも、上手く誘導する。


「あの!保護者なら親戚の叔父さんならいるんです。電話してもいいですか?」


「あ、一緒におるん?ならしてもらえると助かるわ。こっちも何もなしに返すんわ厳しんでの。」


自分はまずはヒカルに電話して事情を話して宮田さんの携帯番号を教わる。


「何?今取り込み中だけど?」


ヒカルはワンコールで出た上に、言う割に電話口からはマダム達の談笑する声と、マッサージチェアのような低い振動音が聞こえてくるのは気のせいか?


「あのさ‥今学校の先生に捕まってるんだが、保護者の人を連れて来ないと返せないって言うんだ。とりあえず宮田さんの携帯番号教えてくれない?」


「あらやだ!里中さんちのお子さん二十歳?大きくなったのねぇ。」

「やだ、小池さんちのお子さんも高校生よ!全く歳取ると一年が早くて困っちゃうわね!笑」


と賑やかなマダム達の豪快な世間話ばかりがやたらに聞こえてくる。そのせいか、ヒカルも聞き取りづらいようだ。


「え?何?聞きづらいんだけど!そっちはそんなんになってるの?うーん、まあ、いいけど。てか今それどころじゃないの!わかった?そしたらあんまり宮田さんに迷惑かけないでね。んじゃ。」


それだけ言うと、一方的に切られてしまった。それどころじゃないって。それに聞き取りづらいのはそっちの責任だが‥。


その数秒後、携帯番号が送られてくる。それをタップして、また電話をかける。前方には腕組みをしながらまだかと、まだかと男性教師が待ち構えている。


するとワンコール、ツーコール目で繋がる。


「はい。宮田ですが。そちらは?」


「あ、もしもし中森です。お忙しいところ突然すいません。今豊富士中学校にきてたんですが、問題発生しまして、申し訳ないですけど迎えに来てもらえますか?」


「それは構わないですけど、どんな問題ですか?事件ですか?事故ですか?

もし犯罪の揉み消しなら、少々お時間必要かと。単に迎えに行くなら、30分程で行けると思いますが。」


まるで、110番のオペレーターのような冷静かつ無駄のない回答だ。というか選択肢に犯罪の揉み消しも入ってるのは突っ込むべきなのか?ボケなのか、マジなのかわからなくて本当に困惑させられる。


「えっと、単に迎えに来てください。それと、先生に代わってもいいですか?」


「ええ、公立中学校の教師なら公務員。公務員とは何年も仕事してますから大丈夫ですよ。痛いところも痒いところも熟知してます。」


それを聞き、スマホを男性教師へと渡す。


教師はスマホを受け取り、数分会話すると、態度が驚くほど豹変した。


「な、なんね!君達老獪三上茂の親戚かね!こんじゃまるで、心配して損したな!君はご息女の付き添いでこんな所まで来たんか。それはご苦労なこっちゃ。」


引き攣った笑顔で、肩をバシバシ叩いてくる。体育会系のノリはとりあえず、肩叩くのは慣行らしい。


お爺さんも酷い言われようだ。老獪って。世間ではそう言うイメージで通ってるらしい。確かに老獪‥いや妖怪?みたいに長生きしそうな雰囲気はあるけど。


「いやはや、すいません。ご心配をおかけして。」


「いやぁ、なんのなんの。こっちこそ、余計なことしてすまんかったね。そういや相田凪やったね。彼女なら最近学校も来とらんし、会議でも話題なっとったけど。近くに親族がおらん言う話やったから怪しいなぁ思うちょったけど、政治家の親戚なら安心やね。ほんで?これから相田の家行くんか?」


「えっと、まあ。凪がいれば、伺おうかと。」


「そんならこのプリント持っていってくれるか?住所は教えるで、最悪ポストに入れてくれればええけん。」


なんか一気に信用度増し増しですけど、この人大丈夫なのか?もしや全国で政治家の親戚詐欺に引っかかる人は案外多いかもしれない。


それにさっきまでは、しらばっくれていたのに、アッサリ手のひら返しで教えてくれるものだ。


やっぱり権力者、政治家三上茂の名前は恐るべしというところか?


「わかりました。ついでに渡しておきます。」


「助かるわ。本当は担任が家庭訪問のついでか、生徒経由で渡すんが決まりなんやけど、担任の三嶋先生が仕事忙しくてしゃあないのよ。そんで、代わりにこっちが頼まれたんやけど、こっちも部活やらなんやらで忙しくての。ほんま助かるわ!」


自分の仕事が減って嬉しそうな男性教師は、どうやら「決まりは破る為にある!」を身をもって体現される方らしい。


おそらく座右の銘は「海千山千」だ。


渡されたプリントは学級通信やら、授業の課題やらでさして重要な物はないらしいが、にしても見知らぬ輩に渡すのは如何なものか。普通なら何らかの処分ものだろう。


まあ、こっちは口実が出来てラッキーなので、告げ口とかはしないが。


「いえ、ついでですから。ちなみに相田、いや凪の学校での様子ってどんな感じです?」


「え?相田か?相田はあんまり関わってないけん詳しくは知らんが、新聞配達やってるのもあってか、意外と体力あるんよ。体力テストの成績もええ。そんで、バスケ部とか陸上部とかどうや?って一度話したことあったんやけどな。」


「そしたら凪はなんて?」


「いや、アルバイトもあるし、家のこともあるから難しいってな。それはそうやし、それ以上はこっちも言わんかった。色々あるやろうし。」


「色々って何かあるんですか?」


「いや‥まあ色々やろ。それ以上は個人のプライバシーに関わることや。よう言わん。」


さっきまでは普通にプライバシーを喋っていた男にも線引きはあるらしく。急にガードが硬くなる。


男性教師は椅子から立ち上がると、あからさまに時計を気にする。



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