第12章 ⑬ 旅は道連れ、情けをくれよ!
第12章 ⑬ 旅は道連れ、情けをくれよ!
「ここには記録があって遡れるだけのものだけですがここ数百年、歴代当主自らや近い者が早くに死んでいる。それはどの当主も例外はない。」
「それってつまり、現当主のヒカルのおじいちゃんもですか?」
「ええ‥先生の場合は、奥様の房枝様を事故で亡くされています。」
自分は家系図を下のほうにやると、茂の配偶者の位置の房枝は赤印がつけられている。
「で、でもそれって偶然なんじゃ?こんな死因もまるで違うのに、それがまるで呪いで死んでるみたいなこと、非科学的で説得力にかけるんじゃ?」
「ではこれをご覧ください。」
宮田さんはタブレットの画面を切り替え、ライブラリを開き、写真を見せる。
「少し‥見づらい所もありますが、ご容赦を。」
写真には車の後部座席にいる女性を貫く様に鉄パイプが突き刺ささっている様子が収められている。女性はシートベルトを着けた状態で前へと項垂れているが、背中から腹部へと貫かれている。夜間だったのかフラッシュの光で見づらい箇所もあるが、腹部からは血が溢れ出ていることが見て取れる。
「これは先生の奥様、房枝様の事故の写真です。何か奇妙だと思いませんか?」
「うーん。他の写真を見せてもらう限り事故は建物か何かに突っ込んだ感じですか?」
「ええ、運転手は対向車がこちらの車線に入ってきてそれを避けようとして建設中の建物の中に突っ込んだ。そして、足場の鉄パイプが不幸な事にも後部座席の奥様を襲った。」
「確かに、突っ込んだ影響で死ぬよりも、その後鉄パイプが降ってきて突き刺さるのは中々あり得ない確率だと思いますが‥」
「問題はそれだけではありません。この写真。いつ撮ったんでしょうね?」
宮田さんの言葉の意味が一瞬わからなかった。写真は事故なのだから、警察が撮ったに違いない。しかし、もしこの時即死でないなら、実況見分時に体はここにあるはずはない。間違いなく、病院に運ばれているはずだ。それなのに何故この写真は事故発生時を捉えているのか?
「事故の後、事故の被害者は救急車で運ばれたんですか?」
「ええ。奥様はそのドライバーの携帯電話からかけられた119番で救急搬送されている。ドライバーは奇跡的に無事でした。この額の傷を除いて。」
宮田さんは前髪をかき上げ、隠した傷跡を見せる。4センチはあろうかという額を斜めに切り裂いた傷は傷跡以上の深さを感じる。
「そして、あろうことかドライバーは自らの事故により怪我をした奥様を救助する事なく、自らのスマホで写真に収めた。」
その事実を聞かされた自分は状況の不可解さに理解が追いつかなくなる。
「私は事故で死にかけた人を助けるどころか、写真に撮って、しかも先生にその写真を送付していたそうです。私は救急車が到着した時にはその場に立ち尽くしていた。そう聞いています。私にはその記憶がありませんけどね。」
その状況でそのような行動は不自然にもほどがある。普通に考えるなら、異常者の行動だ。
「その後救急車が到着し、奥様は搬送されますが、搬送先でお亡くなりになりました。それが事故の概要です。どうですか?これが偶然起きた事故ですかね?それとも事故後の私の行動からは意図的に私が奥様を殺したとも考えられるでしょうけど。」
目線を落とし淡々と話しているが、宮田さんにとってはかなり辛い話なはずだ。それでも、話してくれたのは何か深い訳があるように思えた。
「そうでしたか‥事故後に宮田さんの記憶が飛んでる原因とかわからなかったんですか?」
「いえ、事故後、私自身も脳の検査と縫合手術を受けていますが、何もわかりませんでした。医師には心意的なショックによる一時的な記憶喪失だろうと言われましたけどね。それでも私にはわからない。夫妻にはとても良くして頂いていた。その日は一人親世帯を支援するクリスマスパーティーの会場視察の予定だったんです。奥様はとても楽しみになされていた。少しでも子供達の笑顔を作れたらと。いつも私に語ってくださっていた。それなのに、私は‥」
それまで、冷静に話していた宮田さんは言葉を詰まらせ、目からは涙が溜まっていくのが分かった。
「宮田さん‥」
かける言葉が見つからなかった。しばらく、宮田さんの感情が収まるのを待ち、話を続ける。
「宮田さんがそれでも秘書を続けてらっしゃるのはヒカルのおじいちゃんのお陰ですか?」
「ええ。先生は事故を起こした自分を責めずにおっしゃってくれました。「これは起こるべくして起こったことだ。お前は悪くない。ただ言いたいのは、お前と妻には悪いことをしたな。それでもお前は生きていてよかった。」
その後に先生は、私に三上家のこと。「血の贖い」のことを教えてくださりました。それで、私は自分を少し許すことができたのです。」
「そんな過去があったなんて。ヒカルのおばあちゃんが亡くなっているのは知っていましたけど、事故でとは知りませんでした。つまり「血の贖い」の契約者は必ず不幸に巻き込まれる。その周辺の人間も含めて。」
「ええ。お分かり頂けたようで。そして、私の友人であった小倉もこの契約を結んでいる。貴方の神であるクグス神と。」
さっきから知らない情報が氾濫して、キャパオーバー気味だ。どうして宮田さんの元同僚で、現職市長がうちの祭神と関係あるのか不思議でしょうがない。
「その、よりにもよって何でうちのクグス神が出てくるんですか?「血の贖い」なんてのはうちの家ではやってないですし、第一に小倉さんがうちを訪ねて来たことなんて一度もないです。」
「それはそうでしょう。「血の贖い」は禁忌。それをやってる事自体が秘密ですし、この界隈の者でも知ってる者は多くない。それにクグス神を紹介したのは貴方のお婆様ではない。貴方のお婆様はこの術を禁忌として扱う者の一人ですからね。」
「じゃあ誰が紹介するって言うんですか?うちみたいなマイナーな神様がそんなに知られているとは思いませんけど。」
「そうかもしれませんね。それでも紹介されたのです。あなたのお父様、虹一さんに。」
意外過ぎて唖然とした。父さんがそんな事をやっていたのか?確かにマルと父さんは面識がある様なことは聞いていた。
今までは何となく詳しく聞いてはこなかったが、これは父さんの過去を知れるチャンスでもある。




