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第12章 ⑪ 旅は道連れ、情けをくれよ!

第12章 ⑪ 旅は道連れ、情けをくれよ!


本日、私、中森翔、14歳、今宵、見知らぬ男と二人で寝ます。


それを具体的かつ明瞭に想像して欲しい。


確実に微妙な空気感になる。それは窒素約78%、酸素約21%、その他約1%の「空気」ではなく、あくまで「空気感」なのだ。


前後に「約」をつけないと弾き出せない数字のように、「感」にはなんとも形容し難い事情が蔓延ることを予感させる。はぁ。


「か、かしこまりました。ではそのようにご準備を。食事もお部屋にお運び致します。夕食は何時に?」


「中森君?君はどうする?お風呂が先とか希望は?」


「いえ、特には。」


「そうかい?なら、とりあえず食事を。あ!こっちの寝てる方は無理に起こさないでください。機嫌が悪くなるので。食事も起きたら軽食を取れる様に準備して頂けると助かります。」


「かしこまりました。では20時にはお持ち致しますので、それまではお待ちを。」


「ええ。わかりました。助かります。」


「部屋は仲居の方が案内します。どうぞ。」


自分は誘導された通りに部屋へと向かう。建物は5階建てで、客室数も結構ありそうな雰囲気だ。エレベーターで向かうが、自分は3階で降りる。エレベーターの表示板には菊の間は5階らしい。


ここで一旦宮田さんとは別れ、自分達の部屋へと案内される。


VIP待遇のお姫様は今頃ベットに横になっているのか?それとも、座敷で布団なのかは謎だ。それはいいとして、


少なくとも自分の案内された部屋には座卓のある部屋と襖で仕切られ、もう一部屋ある感じの普通の部屋だ。


「ご夕食のご準備ができましたらお声掛けします。お寛ぎください。」


丁寧にお辞儀をして仲居さんがいなくなると、自分は部屋にポツリと取り残される。


とりあえず、部屋を見てみるが、これといった特色もなく、窓から見える景色も、さっき見た街の様子が見えるだけで、あんまり風情があるとは言えない。


余程車窓から見た、森を抜ける国道の方が風情では勝っていたかもしれない。


窓辺の椅子に腰掛けて、ゆるりとしていると、宮田さんが戻ってくる。


「申し訳ないですね。中森君。こんな部屋でおじさんと二人きりなんてね。お嬢様と一緒がよかったですか?」


フランクに話しかけてきた宮田さんは、スーツの上着をハンガーに掛けると、座卓の座椅子に座る。なんだか思った空気感との違いに戸惑う。


「えっと、いえ!まさか!でも、ヒカル一人で大丈夫なんですか?」


「あれ?心配を理由に一夜を狙ってますか?それとも豪華な部屋の方が狙い?」


「いやいや!そんなわけないじゃないですか!」


慌てて否定するとそれっぽいが、実際それはない!断じてない!豪華な部屋は少し気になるが。


「まあ、お嬢様は大丈夫です。君も知っているだろうけど、狼の神使に任せましょう。」


「ええ。って!宮田さんはどこまで知っているんですか?」


「どこまでって、どこまでも?いや、お嬢様と中森君がキスして、付き合うのかなぁ?って思ったら大喧嘩して、ボコボコにされたとか?そう言うことなら知っているかも?」


いや、それって大体の事情知っている気がする。てか、どうしてそんな事まで、知っているのか!やっぱり監視されているのか?と疑い、思わず周りを確かめてしまう。


「大丈夫ですよ。プライベートなことはあんまり報告しませんから。あんまり報告すると、悟さんも、先生も、心持たなそうですしね。」


座卓に置かれたポットからお湯を出してお茶を頂く宮田さんは何者なんだ?


「それは術式を使って、とかですか?それとも、あなたも神と契約か何かを?」


「ああ、方法?方法は独自の術式ですよ。内容は教えませんが。秘書やってると、鈍っちゃいますね。」


「あのう。宮田さんは何者ですか?」


「フフッ。まさかの何者かを聞くんですか?強いて言うなれば、三上茂の第一秘書にして、神の行いを知るもの。って感じですかね。納得して頂けますか?」


「はぁ。納得はしてないですが。」


「とりあえず、貴方達がしているツトメについて等々は知っています。三上家は代々そう言った神事に関わっていることも。それぐらい知っていれば十分ですかね?黒猫さん?」


その言葉に一瞬疑問符がつくものの、マルの姿を見てこちらも驚かされる。

霊体化してかつ、一切気配を絶っていたのにも関わらず察知された。ということらしい。


「マジかぁ。せっかく隠密行動してたのに。カケルだって1ミクロンも気づいてなかったのに。」


「残念でしたね。カケル君とだけお喋りするのは勿体ないですからね。」


「で?そっちの要求は何?ヒカルの事なら、俺は何にもしてないぞ。文句あるなら、コノハナノサクヤビメに言ってくれ。」


「ええ。そちらは致し方のないこと。それよりも、悟さんの方です。それは貴方が仕組んだ事でしょ?」


「ん?何かあったんですか?悟って確か‥ヒカルのお父さんじゃないですか?マルが何か悪いことしたんですか?」


被疑者である、霊体化したマルを身柄拘束しようとするが、すり抜ける。


「あー。あれね。そんなにまずかった?オオクニヌシは怒ってる?」


「いえ、神よりも、私が仕える上司のご機嫌が宜しくないとは言えます。」


「ほう!それは大変だな。にしても可笑しいな。情報が漏れるなんて。悟は言うわけないし、そうすると、アイツか。にしてもアイツも二枚舌外交が上手くなったな。」


「いえ、リソースは小倉ではありませんよ。元秘書仲間といえど、今では彼は私を信用してませんから。独自の情報網です。彼は貴方の忠実な駒でしょ?」


これはどうゆうことだろう。まさかのマルと宮田さんの間に微秒な空気感が漂うとは。


こうなると、どのタイミングで割って話しに入るか迷う。


「ふーん。ま。うちは別に損失ないから。後は勝手にどうぞって感じだから。」


「そうですか。では引き換えに中森翔君を頂いても?トレード交換ってとこですね。」


「いいぜ。カケルはくれてやるから、せいぜいこき使ってくれ。そんな割に合わないトレードをするやつならな。」


「どうでしょう?将来性なら悪くない。先行投資ですよ。」


「いや!両者とも!当事者抜きで勝手に話を進めないでください!」


ここで割り込まないと、ずっと本線に入れない若葉マークのドライバー状態になってしまう。


「これは失礼。しかし、二人で話したいのは本音です。黒猫さんには一時ご退出願いたい。」


「へぇ。そうかい?なら二人で話してくれ、おれはどっちにしろ明日の夜までもどらねぇ。どうぞゆっくりとくつろいでくれ。じゃあな。」


マルは一方的にそう言い放つと、また壁の向こうにすり抜けて消える。


それを確認した宮田さんは、一呼吸おいて、マルの存在の有無を確認し、自分に話しかけてくる。

「ふぅ、実は、君に聞いておいて貰いたい話があるんですよ。」



舞台は兵庫県へ。


いやそもそもカケル達のいる県はどこなんだ?という疑問があるでしょうが、一応あの県だろうなぁ。という設定はあります。


しかし、厳密にその県だけにしてしまうと物語上の矛盾が生ずるため、明言はしません!

関東近辺だろうと思われますが…


肝心の物語はここからシリアスな展開もあるので、是非ともお読みください!


気づけばもう第12章…

ここまで来たら全部読んで欲しい!

作者の願いは届くのか!?


次回もお楽しみに!


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