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第12章 ⑩ 旅は道連れ、情けをくれよ!

第12章 ⑩ 旅は道連れ、情けをくれよ!



「えー!古賀さんおじいちゃんのことそんなに好きなんですか?」


後部座席からシートベルトを外して、運転席の方に乗り出すヒカル。


「いやぁ。まあ、知事は非常に感謝してくださるので。いつもやり甲斐を感じてはいたので。」


ヒカルの突飛な行動に驚きつつも、横目でヒカルを見る古賀さんは、愛想笑いを浮かべていた様に思う。


「ヒカルお嬢様。道路交通法違反です。一般道であってもご自身の為にも、もちろん運転者の古賀さんの為にも、装着はするべきでは?」


漫画でしか見た事ない、キリリとした鋭い眼光を飛ばす宮田さんの圧に負けて、ヒカルはシートベルトを付け直す。


「はぁい。でさ!私達はどこに泊まるの?」


「近くの旅館です。温泉もあるそうですし、一泊には十分なランクかと。」


「ふーん。そう。温泉は混浴とか?」


その発言で古賀さんの運転が乱れ、危うく反対車線の車との衝突事故を起こしそうになる。


「お嬢様、少しお静かに。そして不規則発言にはお気をつけください。」


突如の問題発言に、流石の宮田さんもいつもより語気を強めて注意を促す。


「冗談だよ!でも了解。なんか少し眠いから寝るね。着いたら教えて。」


そう言うと、車窓に頭を傾けると目を閉じてしまった。どうせカップルを装うなら、自分の肩を借りる方がそれっぽいのに。そこは少しだけ残念な気もする。


その後の車内は静寂だ。夜の国道と言っても山道だが、山道を走る車がヘッドライトで照らすのは、アスファルトの道、森の木々と、道路標識。


そしてたまにくる対向車のヘッドライトが目を刺激して、眠気を邪魔する。それに加えてブレーキの減速に合わせて赤いブレーキランプが光るのが、後続車のフロントガラスからもわかる。


すやすやと寝息をたてるヒカルとは対照的に眠気を遮られた自分は窓から暗い森を見つめながら、ぼんやりと過ごす。


しばらくすると、街の灯りが見えてくる。コンビニやらスーパー、ドラッグストア。ありきたりな街の光景になんだか、懐かしさすら感じる。そんなことを思っていると、ほどなく旅館に着く。

旅館と言っても高そうなホテルのような旅館だ。


正面玄関にはシャトルバスはつけれるぐらいのロータリーがあり、玄関脇の看板には緑庵荘とある。


周りの植込みも綺麗に整えられており、気軽に一泊のランクの旅館でないことは察する。


自分は車から降りると、トランクに入れた荷物を古賀さんから受け取る。


「今日は大変でしたね。おつかれでしょうから、ゆっくりと休まれてください。荷物は部屋まで運ばなくて大丈夫ですか?」


「大丈夫です!古賀さんこそ遠くまでありがとうございました!あとまだ運転あると思いますけど、お気をつけて!」


荷物を受け取った自分は、他のSPの方にもお辞儀をして挨拶を済ませる。


「お気遣いありがとう。ではまた。」


そう言って車に戻ろうとするが、少し行った所で自分の所に引き返してくる。すると小声で囁く。


「今度はなるべく近場の逃避行をお勧めするよ。それと事前にこっそり場所を知らしてくれると、ありがたい。仕事が捗るんでね。もちろん二人の時間は配慮するからね。」


最後にウィンクまでされてしまった。多分この人は物凄いいい人だ。善人オブザ善人だ。


そんな若人を見守る優しく温かい視線が胸をうつ。そんなことはつい知らず。


未だにヒカルは寝言を言いながらまだ就寝時間だ。故に宮田さんがおんぶして運ぶ様だ。


「宮田さん。自分達は大阪に戻りますので、後は頼みます!」


クラウンに乗り込んだ、古賀は、旅館正面玄関のロータリーを回り、走り去っていく。

手を振り見送ると、残されたのはキャリーバック二つと、手持ちのバック。二つリュックサックだ。


「中森君。悪いけどキャリーバック頼めるかな?手持ちのバックはお嬢様のものだし私が持つから。」


ヒカルをおんぶしながらの宮田さんにこれ以上の負担はさせられない。


「いや、手持ちバックも大丈夫です!キャリーバックの上に載せて運びますから!」

「そうかい?それはありがたい。手続きは終わってるから、あとは仲居さんにも手伝って貰えるかな?」

「わかりました。」


自分の返事もそうそうに、旅館の人が慌ただしく出て来たようだ。


「出迎えに遅れてしまい本当に申し訳ない!私、支配人の瀬戸と申します。ささ、荷物は私共にお任せください!」


そう言うと、手荷物と、キャリーバックも仲居さん達に持っていかれてしまう。


「急なお願いにもありがとうございます。」


宮田さんがお礼を言うとかなり恐縮したように、支配人は言動も態様も低くしている。


「いえいえ!とんでもございません!二部屋でしたら丁度空きがございましたので、一つは菊の間。もう一つは普通の客間となりますが、よろしかったのでしょうか?」


「ええ、男二人は普通の方で。この方だけ、菊の間へお願いします。」


おんぶしたヒカルを指して支配人に伝える宮田さんの言葉から本日の宿泊予定を察した。



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