第12章 ⑥ 旅は道連れ、情けをくれよ!
第12章 ⑥ 旅は道連れ、情けをくれよ!
「オッケー。そしたら、電話かけてくるから、適当に課題クリアできそうなの探しておいて!」
ヒカルはスマホ片手に、境内を出ていく。残された男達は拝殿の階段に腰掛け、この世の不条理を考えざるを得なかった。
「なあ。自分もいい所の子供に産まれたかったな。」
「そうだなカケル。人は力の前には無力だな。だがな、まだお前には権力者への道は残されてるぞ。」
「なにさ?こっからアメリカの大統領は無理だぞ?」
「確かにアメリカは無理だが、日本はわからん。ヒカルの婿養子になれば、晴れてお前も政治家一家の仲間入りだ!」
「それ本気か?」
怪訝な顔をしている自分を見て、笑うマル。
「なんだよ。ヒカルと結婚なんてどんだけ遠い話してんだよ。それに自分が神社継がなかったら、潰れちゃうだろ?それでもいいのか?」
「んーん。まあ、それもありなんじゃないか?社殿とかだけで、神職の居ない神社も沢山ある。無理して継ぐ必要ないだろ。あの神様が社殿がどうこう言うと思うか?」
「そうかなぁ?さっき祭事がショボいって怒ってなかった?」
「え?そんな事言ってないだろ。ただ季節に鈍感なのを誤魔化しただけさ。知ってるだろ、神様はみんなプライドが高いんだ。ただそれだけのこと。」
「そうかぁ?まあ、どっちにしても権力者になるより、権力者の孫のポジションが一番いいかもな!(笑)」
「それは違いない!(笑)」
二人して意気投合してると、ヒカルが戻って来る。
「ちょっと。ちゃんと課題クリアできそうなの探してた?こっちはちゃんと宿確保したのに。」
「本当か!凄いな!で、結局どこの誰に頼んだんだ?」
「結局隣の市長に電話したら、公務が終わるのが、18時くらいなんだって。その後からだったら、市長直々に車でお迎えに来てくれるって!」
「ほう。やったな!もちろん猫は大丈夫なんだろうな?」
「あ、それはどうかな?聞いてないけど、ダメなら、霊体化してくれる?」
「ハイ!承知しました!」
やはりヒカルに対しては、マルはやけに引くのが早い。自分相手なら絶対ごねていたに違いない。
「そうかぁ。でも18時って今、11時だぞ?こんな所であと7時間も待つのかぁ。」
とつい本音が出てしまう。
「まあ、そうガッカリしないで!秘書の人がね、こっちの市に住んでるんだって。それで、久々知神社のこと聞いたら、近くに喫茶店があるからそこで聞き込みしたら良いって教えてくれたの!どう?有力情報でしょ?」
「さすがヒカルだ!では早速その喫茶店で待つとしよう!」
マルはすぐにでも移動しようとするが、ヒカルが人差し指を出して横に振り、マルを止める。
「チッ、チッ、チッ。ダメよ、マル君。聞き込みは一人で十分。それに現地でククノチノミカミに参拝する人の悩みを解決することがベストでしょ?それなら、分担した方がよくない?」
この手の提案には裏があるのが定石だ。
ならば、喫茶店での聞き込みを勝ち取ることが、ここでのベストな選択になるだろう。自分はそのことを悟られぬように、ヒカルにフェアな戦いを提案する。
「ならさぁ。ジャンケンで、決めようか?勝ったら好きな方を選択するってのは?」
自分の顔を顰めっ面で見つめてくるが、答えはすぐに出ていたようだ。
「却下!カケルがここで見張り。私が喫茶店で聞き込み。マル君は霊体化して、周辺情報を探って!以上!何かあったら、電話して、私はあっちにいるから!」
そう言ってヒカルは有無を言わせず、行ってしまった。その後すぐにSNSのメッセージで住所が送られてくる。おそらく喫茶店の住所だろう。
「なあ、酷いよ。」
「ああ。酷いな。さっきの結婚云々だが、ヒカルはやめとけ。あれは恐妻になる。いずれは鬼神になって暴れるな。あれは。」
二人して遠くを見つめ、しばらく気落ちした後、自分達は言われた通りに気持ちを切り替えて、必死に行動した。
参拝者の監視担当の自分は課外学習をこなす中学生!を演じ、おそらくアカデミー賞に最優秀課外学習を頑張る中学生賞があれば、ぶっちぎりで受賞する演技だったと思う。(他にノミネートする学生は皆無だろうが。)
そんな名演も虚しく、ほとんど参拝客は来ず。たまに来たってどんな願い事したんですか?なんて聞けず、とりあえず参拝客の特徴を記録しておく。そのくらいのものだ。
この程度の参拝客数なら、幼稚園児でも記録できそうだ。
日が傾くに連れて寒さも増してきてる上に、こんな参拝客をただじっと見つめてるだけだと、さすがにきつい。
境内を歩き回ったり。周辺から観察してみたりととりあえず、6時間観察を続けたものの、得られた成果は参拝客9人。
絵馬の願い事は、
「早く結婚したい!」
「彼女ほしい!」
「彼氏欲しい!」
「ずっといられますように!2周年記念!ありがとう!♡」
「大学合格!」
「娘の受験が上手くいきますように。」
「隣の家が静かになりますように。」
などなど、たくさんの願いがあった。ただ一つ、見過ごすことができないのは最後の願い事だ。
「隣の家が静かになりますように」はただ事ではないだろう。
その絵馬には釘で藁人形を刺している絵もついていた。
単純に解釈するとだいぶホラーな展開を祈念した絵馬らしい。
どうか両方の平穏な日々を祈るばかりである。
しかしこれらの成果を持ち帰り、猫と彼女が満足してくれるとは到底思えない。とは言え、彼ら方こそ何も得られずに打ちひしがれているのでは?という淡い期待もある。
赴く足は重いが、ヒカルの待つカフェへと向かう。
スマホを見るにすぐそこらしい。日も沈み、辺りはすっかり真っ暗だ。街灯も乏しく、国道を走る車のヘッドライトが唯一明るい。
スマホには、店名Stork feathersとある。意味はわからない。多分英語だとは思うが。国道沿いを少し歩き、目的地に着く。
アーチ状の看板があることはわかるが、何が書かれているかまでは暗くて読み取れない。
そもそも看板なのだから、おそらく店名が書いてあるんだろうから問題にはならない。しかしもし、ここで「一見さんお断り!」とデカデカと書いていたなら、それをわざわざ看板に書いて主張する店主の経営マインドがわからない。
余程人見知りのマスターか、変人の二択だろう。




