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第12章 ② 旅は道連れ、情けをくれよ!

第12章 ② 旅は道連れ、情けをくれよ!



「てのは冗談で、普通に神様に会いに来たんでしょ?」


「そ、その通りで御座いますであります。」


日本語能力まで落ちているが、今日のマルは大丈夫なのかと心配になる。もしや、さっきのは空元気でマルも船酔いで調子が悪い?もしくは霊力が減っているのか?それならすぐに手当をしなくては。そう思い始めたところに、見覚えのある、どこか懐かしい人が船着場にやって来た。


どうやら迎えの人らしい。近づいて来たその人を、はっきりと見て、自分は言葉を失う。


「はーい、皆さん!絶海孤島ツアーにようこそ!今回ガイドを務めさせて頂きます、クグス神こと、中森虹一です!」


ツアーコンダクターらしく、「ようこそ!」と書かれた旗を片手に、もう十一月だと言うのに、半袖のアロハシャツに、短パン。


ビーチサンダルの夏仕様の男は自らを中森虹一と名乗った。これは何の冗談だろう?死んだ人間そっくりのやつが出てきて、家族をおちょくるのが目的なら、そいつはかなりのサイコパス野郎だ。


すぐにでも持ってきた札で海に沈めてやるべきだろう。それとも本物なのか?


それなら、なぜ今まで死んでた事にしていたのか?母さんが、自分が、みんながどれほど会いたがっていたのかを知らないとは言わせない。


「どう?みんな元気してたかな?」


加えて、歌のお兄さんの様なテンションで自分達を迎え入れるこの男に、自分は腹が立っていた。


故にどちらにせよ、海に沈めるべく、札に霊力を込めて臨戦体制を取る。


「ちょ、ちょ、ちょい待ち!そんないきなり札なんて出して、陰陽師じゃあるまいし、こっちは戦う気はないよ!」


アロハ男は両手を挙げて戦闘の意思はないことを伝えてくる。


「おーおー。早速親子喧嘩か?仲いいな。」


「おい、おい、勘弁してくれ。この格好の方がカケル君が喜ぶって言うからしたのに、完全に逆効果では?」


助けを求める男はせっかくの旗を放り投げ、両手を挙げて降伏をアピールする。


「え?このアロハ姿の方がカケルのお父さん?」


そんな中でも各々の反応は異なる。


ヒカルは自分と目の前のアロハ男の遺伝継承部分を探すのに夢中だし。

マルはマルでサプライズ演出が上手くいったとご満悦の表情だ。


「残念ながら違うぞ。彼こそ、我らが総大将!いやボス!どっちでもいいか。とにかく、クグス神様だ。どうか神の御慈悲を。」


ヒカルの腕から降りて恭しく跪くマル。それを見て自分もとりあえず札をしまい、戦闘状態は解かれる。


「なんだい?今更遅くないか?一応主神なんだけど。」

「それなら、もうちょっと威厳を持って登場して頂かないと。これでは完全にイカれた中年男性です。」


まず、アロハ男の格好の問題を指摘するのは当然だが、父さんの姿をして自分の目の前に現れるのは、神の悪戯にしてはタチが悪過ぎる。


デレカシーのかけらもないのか?神というのは。


「あー。そこか。どうも彼の格好のイメージが、アロハが強すぎてね。他の衣装がイメージできなかったんだ。彼と初めて会った時もこんなハイビスカスの描かれたアロハを着てたんでね。それはすまない。」


「それと季節感がなさ過ぎると思いますよ。今は秋ですし。それにここは南国ってわけでもないですから。」


ヒカルの冷静な指摘に対してオーバーに頭を抱えるクグス神。


「あ!そっか!秋なんだっけ。忘れてたよ。偉い神様と違って、季節ごとに行事とかやらないからわかんなくて。」


若干の皮肉がこもっていることはその薄っぺらな笑顔から読み取れる。

我ながら、これがうちの祭神とは、歴代の神職達の苦労を思うと、こんな風に思われてるのかと思う残念だ。

こっちだって色々行事はやってるのだ。おそらく気にしてないから気づいてないだけだ。


「ではクグス神。この二人をククノチノミカミにご紹介頂ける手筈ですよね?」

「ああ、もちろん!そのためにわざわざこんな所まで来て貰ったわけだしね。ささ!こっちだよ!ククノチノミカミはこちらでお待ちだ。」


ツアーコンダクターらしく、一行を案内するクグス神。島民が多く住む中心街ではなく、立て看板を通り抜け、山へと向かう坂道へと歩みを進める。


道は山の頂上近くまで続いているようで、幸いにもしっかりと舗装された道ではある。雑木林を抜けて山の頂上をこの荷物で目指すとなったら、それこそ、サバイバルツアーにはなりそうな険しさだ。

そうならなかったことは不幸中の幸いだ。ヒカルは一人先頭を歩くクグス神に横並びになり、忌憚無く話しかける。


「その。クグス神様は、何でそのカケルのお父さんの格好をなさってるです?何か理由でもあるですか?」


「おお。さすが三上の家は違うね!ズバッと直球ストレート勝負!ううんとね、マル君に言われたってのもあるけど、彼はなかなか面白い人間で、数少ない人間の中ではお気に入りだったんだ。それもあってこの姿だったんだけど‥ちょっと失敗したね!彼には悪いことしたなぁ。もちろん、カケル君。君にもね。」


神様の割には素直に誤りを認めるのは、素晴らしいとは思うが、やはりまだ許せる気にはならない。


「おーい。うちの主神が謝ってるんだぜ?ここは顔を立ててくれないと困るよ。それに契約した神の力は重要だって、一番最初の方に言ったろ?もう忘れたかもしれないけどよ。」


「えー!そうなんですか!そしたら、サクヤビメ様にお願いしたら、私の力もパワーアップしちゃうのかな?」


「えーと。君の契約神はコノハナノサクヤビメなのか?意外だな。てっきり‥」


あからさまにマルが咳き込み、会話を遮る。何か知られたくないことがあるらしい。



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