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第10章 ⑤ 追い求める者

第10章 ⑤ 追い求める者


「なるほど、これは面白いわね。霊力を込めた木の実だ。これで君の魂を奪わないでくれってことね。いいでしょう。それに元々君の魂は奪う気はなかったのよ。そちらの神使については、他の神の領域に入った以上好きにしてもいいってのが、暗黙のルールである事を考えれば代償として頂こうと思っていたけど、これで我慢しておくわ。」


宮司の言っていた、表裏一体とはこの事かと実感する。凄みを利かすフア神の異なる一面に触れると、あの冷静な梟でさえ心に隠した動揺を抑えきれずにいるほどだった。


「これは大変失礼致しました。お詫び申し上げます。」

「僕からも謝らせて頂きたい。フア神の領域に対して、ヤゴコロオモイカネノミコトの神使である彼を連れてきてしまった非礼をどうかお許しください。」


倉橋は頭を下げる。


「まあ、いいでしょう。この木の実を受け取った以上は何もしないわ。それで?あなた達の目的は何?まさか観光ではないでしょう?」

「ええ、我々が今回参上させて頂きましたのは、ツトメの課題を頂きたく。参上した次第でございます。」


それを聞くと少し俯くと、考える仕草をし、自ら入れたハーブティーを口にする。


「そうでしたか。こんな末端の神にもツトメの課題を求める挑戦者がいようとは思わず。少し考えてしまいました。にしてもどうして私に?木の属性を持つ神は多くいます。特に私のような神は多い。まずはその理由を聞きたい。」

「そうですね、大きな理由と致しましては、フア神もまた知性の神であることで知られております。契約を交わしたヤゴコロオモイカネノミコトもまた、知性の神で知られております。故に同じ知性の神として名を知られるあなた様から課題を頂きたいと思った次第にございます。」

「不愉快ですね。正直。それでは私と彼の勝負のようではありませんか?彼の知性か、私の知性が上かを確かめたいと言っているに等しいわ。違いますか?」


口調は冷静だが、やはり何処か棘を感じる。


「いえ、決してそのようなことではありません。あくまでも、(えにし)の問題です。数ある神々の中から近いものを感じた。それ故にございます。」

「私からも申し上げさせて頂きたい。我が主であるヤゴコロオモイカネノミコトは決してそのようなことは考えておらず、倉橋様の考えにご賛同なさって、契約なされた経緯がございます。」

「それならば、経緯とはなんですか?」

「それは僕から答えさせて頂きます。僕のツトメの参加への動機は、真理を知ること、それすなわち世界の成り立ちや、神々の誕生の起源、力の源を探ることにあります。」

「ほう?真理とは、聞くに魂を捧げることにあると聞きますが、そうではないと?」

「ええ、文献を辿るに、ツトメにおける真理とは穢れなき、清廉な魂を捧げることにあるとも、考えられます。しかし、僕はまだ解かれていない謎があるように感じられるのです。」

「謎ですか?それはヤゴコロオモイカネノミコトもわからぬ謎ですか?」

「ええ。彼もわからない謎です。なぜツトメの儀式が必要なのかです。神の力は多くは信仰心によって霊力を集めることで、神としての力を保つことが可能です。それにもかかわらず、わざわざ人間に試練を課し、魂を回収し、それを八百万の神の奇跡の源とするにはあまりに不釣り合いですし、手間をかけ過ぎている。現在にあっては「血の贖い」による魂の回収も可能である以上、何故ここまでの事をするのかは、不自然です。やはりそこには何か理由があるのではないかと推察しております。」

「確かに効率的ではないでしょう。しかし、神の気まぐれであるなら、それも納得いくのでは?人間を試すのは神の役割でもありますし。」

「それはごもっともな指摘ではあります。しかし、物事には多くは理由がございます。ツトメにおいても、これにはやはり理由があると考える方が自然です。そしてヤゴコロオモイカネノミコトはそれを踏まえて、僕と契約を結んでくださった。それが、僕がツトメに参加した理由であり、これまでの経緯になります。」

「そうでしたか。あなたのツトメに参加した理由も経緯もわかりました。それであるならば、私はあなたに課題を与えます。これを。」


フア神は左手を出すと、倉橋のブレスレットに触れる。すると光がブレスレットに入り、証が与えられたことがわかる。


「こ、これは?」


困惑の表情を浮かべる倉橋に対してフア神は

優しく微笑みかける。


「これは私の課題です。ツトメにおける真理を解き明かすこと。その謎を解くことを命じます。故に課題はあるようでありません。ここで、課題を出すとやはり、彼との比較になりそうですからね。それと私も彼も分からぬ謎を解き明かして欲しい。単純なことですね。」

「なんと有り難きお言葉。必ずやご期待に添えるように努力して参ります。」

「ええ、もちろん期待してます。頑張ってください。それともこの花畑の全ての花の数を言い当てよ。と言った課題でもいいですよ。私は悠久を生きる身、退屈凌ぎにはなりますからね。」

「なかなか厳しいですね。すべてを数えるのは一体何日かかることやら。」

「人間お得意の人海戦術という手法がありますよ。奇しくもあなたにはそんなお仲間が沢山いるようには見えないですけどね。」

「そうですね、お察しの通り僕には協力してくれる仲間は少ない。それでも頼んだら手伝ってくれそうな奴は知ってるんです。今回はそういった人たちの助けを借りずにやりたかった。ですからそれをするのは、また別の機会でもよろしいですか?」

「いいですよ。またいらしてください。本当の答えを見つけた先に、あなたが何を感じたのか、それを教えてくれることを楽しみにしています。」


茶目っ気のある仕草で倉橋を惑わしたフア神は、神でありながら遊び心にも造詣が深いようだ。かけたその言葉には先程の様な棘はなく、これもエールの一種なのだと気づかされる。

それは差し出した手を握ってくれた、フア神の温かみから倉橋はそう確信した。


倉橋と梟はフア神にお礼を言い、ログハウスを後にしようとする。

玄関まで送ってくれた、フア神は帰りがけに花束をくれた。薄桃色の花弁に中心が白い。星の形をした花だ。


「本当によく考えれば凄い因果ですね、この花を摘んでいたのは。まさにあなたにとってぴったしです。」


聞くに、渡されたこのペンタスという花はギリシア語で5を表す、ペンテを語源としている。花言葉は「希望は叶う」だそうだ。

実際にはなんでも希望が叶う、魔法のランプではないことはわかっている倉橋だが、

知りたいことが知れる。という点においては、希望は叶うは正しいのかもしれない。


倉橋は花を見つめながら、ようやく答えに近づけることへの期待感を感じつつ、気合いを入れ直していた。未だに知られていない謎に迫るには様々な調査が必要となる。来る12月27日までに残る疑問や不明点をあらう時間ができた。

倉橋はその者に会って疑問を解消せずにはいられないだろう。何故なら彼は根っから学者なのだから。

持って帰ったペンタスは、不思議と枯れることなく咲き続けていた。そのことは彼の知識欲を掻き立てたことは言うまでもない。




第10章終わりです!


例によって個人的な感想。


作中に出て来たペンタスという花ですが、小さな花が集まって身を寄せ合う感じがなかなかいい感じで好きな花です!

将来はガーデニングするならやってみたい品種です!


次章はマルがメインのお話です。

どうやら白蛇様の為にマルがいろいろやっていたようです。また悪い事な気がしてならない…


とにかく次章お楽しみに!


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