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第9章 ④ マルのお仕事

第9章 ④ マルのお仕事



「おお!マルじゃん!今朝ぶりだな!」

「俺は寝てたから、三日ぶりだがな。ヒカルも久しぶりだな!」

「うん!マルくんも元気そうで安心したよ!」

「ヒカルも元気そうで何よりだ。さすがと言うべきだな。カケルの状態を見ればヒカルの機嫌もわかる。今日は傷一つしかないもんな。」


自分の額を見つめて言うが、これは自分の戒めでもあるのだ。名誉の負傷と、暴力による傷を一緒にして欲しくない。


「で?いま丁度ツトメの話をしてたんだ。それに関することか?」

「ああ、要件は二つだ。まずは倉橋のことについて話しておかないとな。」

「何?倉橋くんは体調不良できないとか?」

「いや、倉橋は最後の課題になる。最後は自力でやるそうだ。そのため、倉橋との共同戦線は終了だ。」

「そっかぁ。残念だな。」

「まあ、あの梟を見なくていいのは朗報だがな!」


どうやらマルは未だに馬鹿にされたことを根に持ってるらしい。神使なのに執念深い。


「で?もう一つは?」

「もう一つは次の神様を決めた!次はククノチノミカミ。木の精霊でもある。うちの祭神、てか俺の上司のクグス神とはマブダチだ。」

「うそ!木の精霊!なんか、光の粉で空を飛びそう!」

「え?どちらかっていうと、ジブリのこだまでしょ?白くて黒い目の。」

「おい。神様を何だと思ってる。どちらかと言えば、ト○ロだぞ。」

「え?それってリアルな感じ?」

「ごめん。やっぱり違う。あんなに風に雨の日傘さしてバス待つとか、愛らしいフォルムはしてない。今までの神様とは一味違うのは間違いないが。」

「えー。ちょっとだけ期待しちゃった。小さい頃好きで、ドングリ埋めて、んーぱ!ってやってたのに。」


中学生にもなって再現してるヒカルは恥ずかしくないのか?


「それなら、ククノチノミカミの専売特許だぞ!むしろ、あっちがパクリだな。」

「ほんと!そしたらドングリ持ってかないとね!」


こういうところは夢見る少女なのだ。の割に頭がいいのだから、神様は才能と精神年齢の配分に関してえらくテキトーらしい。


「それはいいんだけど、もしかしてそのククノチノミカミはお金かからないから選ばれたのか?」

「うっ‥そんなことは‥なくもない。」


その反応からうちの神様の苦しい台所事情はよく理解できた。にしても、クグス神はうち祭神でありながら、見たことも会ったこともない。お友達紹介なら現れても不思議ではないが。


「ねぇ。そう言えばここの神社の祭神とは会ったことないけど、その時には会えるの?」


まさかのシンクロニシティにヒカルに新たなる才能が開花したのかと疑いたくなる。


「お!いい質問だな!それを言おうと思ってたんだ。今回はクグス神直々にご紹介してくれるから、くれぐれも失礼の無い様に正装にてククノチノミカミにはお会いする形になる。」


マルは霊体化を解いて、テーブルのクッキーを触ろうとするのでトレイを上に上げ、お預け状態にする。


「それはさ、むしろ普通だと思うけど、ちなみにクグス神ってどんな感じの神様なの?」


マルは負けじと立ち上がり、クッキーを得せしめようとする。


「えーとなぁ。見た目は人間だよ。」

「それはあんまり答えになってないんだが。」

「百聞は一見にしかず。聞くより実際に会ってもらう方が手っ取り早いな。」


自分でクグス神の話を振っておいて、いつの間にか佐伯ちゃんの写真集に夢中で、話半分しか聞いてないだろうヒカルに話を振る。


「ヒカルはどう思う?」

「え?綺麗。」


やっぱり話が噛み合わない。それは写真集の感想だろうが!写真集なら後でも見れるだろうが!

と言いつつも、佐伯ちゃんの写真集は男女問わず人気だ。凄く気になる。後で見させてもらおうかな。


「そいつは良かった。ま!ヒカルはいてくれるだけでありがたい、太陽みたいなもんだからな。な?カケル!」

「ああ!もちろん!神々しいよな!佐伯ちゃんも綺麗だけど、ヒカルの方がやっぱり綺麗だよな!」


若干棒読み感の拭えないセリフにヒカルから鋭い視線が飛ぶが、それもすぐに写真集へと視線が戻っていく。

ヒカルが写真集に夢中である時を見計らい、マルを部屋から連れ出す。


「おい!あんまり、ヒカルに対して刺激するなよ!せっかく機嫌を直して貰ったんだから。」

「なんだよ。俺は本当の事言っただけだろ?カケルが勝手に自爆してたんだろうが。」


それを言われると耳が痛い。


「それはそうかもだが。今後はヒカルに対しての不誠実な行動、言動は厳に慎むように!」

「ほぉーい。こっちだって、寝込みを狼に襲われたくないしな。」

「それで?いつそのククノチノミカミとは会えるんだ?」

「今週末だな。色々ごたついたのもあって、あと三日は欲しいところだ。」

「なんだか忙しそうだな。前のツトメは終わったんだ。それなのにまだ何かやってるのか?」

「おや?俺を心配してくれてるのか?カケルも意外と俺のことが好きなんだな!」


茶化してくるが、自分は割と真剣だ。近頃は家でのんびりしているところは見ないし、今朝だって疲れてるような様子を感じたのだ。


「マルのことだから、また何か裏でやってるのかもしれないが、あんまり無理はしない方がいいぞ。」

「わかってるって!カケルに心配されるほどのことはそんなにやってないぞ!」

「そんなにはやってないのなら、それなりにはやってるのか?」

「なんだ?カケルにしては鋭いな。まあ、そこはシークレットだな!黙秘権を行使する!」


そう言ってはぐらかされてマルはヒカルのいる部屋へと戻って行ってしまった。

その後はしばらくヒカルとマル、自分で取り留めのない会話をし、解散となった。

マルはまたどこかへと出かけ、ヒカルも自宅へと帰って行った。送ろうか?と声かけしたが、


「またカケルが家の近くを彷徨くと面倒だから、いい!」


とのことで断られてしまった。玄関まで見送ると、自分は一人自室に戻り、ベッドに寝転び天井を見上げた。

天井に貼られた星座のポスターを見てふと思う。


空は広く、星は遥か遠くにある。こんな近くにいるような気はするのに。手を伸ばしても届かない。星のような眩しい存在は、大切にしたい存在はいなくなって気がつく。そんなことばかりなのだと。


何でこんなことを思うのか、考えている間に自分の精神は無意識の底に沈んでいた。




第9章終わりです! マルのお仕事 いかがだったでしょうか?


この第9章は新しいキャラ小倉の登場もありましたが、あっという間に死んだ二人のうち一人は実は結構重要な役割を担っていたんです!(それは後々少し明らかになるかも。)

しかしそれはこの物語よりもだいぶ過去になってしまうので詳細はこの物語の中では書かれていませんが、いつか番外編で書けるといいかなと思っています!


次は倉橋メインです!

彼の闇の原因が明らかになります。


お楽しみに!


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