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第9章 ③ マルのお仕事

第9章 ③ マルのお仕事



「その、すまない!でも本当に一生を懸けて償っていくから許してくれ!」


プロの土下座師としてやっていけると、「YouTuber土下座仙人ホムラ」から認められた土下座を披露する。彼は数々の炎上を鎮めてきたこのから、別名鎮火のホムラと呼ばれる。まさにSNS世界のファイアーファイターなのだ。

その土下座を免許皆伝した自分の土下座は、もはや通常の三倍。赤い彗星すら叶わないほどのスピードで回数を重ねる。これそこ自分が一年戦争からインスピレーションを受け編み出した技。「赤い土下座」だ。

なぜ赤い土下座かは自分の額と、床を見ればわかる。


「あのさ。喧嘩売ってる?それともどっか病気なの?」


鼻白むヒカルを見て自分の方向性の違いをはっきりと理解する。師匠はあくまでもYouTuber。それを忘れていたのだ。自分は改めて、額に絆創膏を貼りきちっと謝罪をする。


「すいませんでした。」

「はぁ。まったく変な動画送りつけてくるし。さすがに心配になって来てみれば、これだもの。」

「まったくその通りでございます。面目ない。」

「で?謝罪だけで、終わらせる気?誠意ってもんがあるでしょ。」


ベットに座り足を組んで見下すヒカルに、自分は机から例のあれを恭しく差し出す。


「え?これって。」


ヒカルもなぜこれを知っているのか?と目を疑うように見つめる。


「その、ヒカルが好きだと聞いたので。」

「え!まさか、覗きしたの!最低!」


ヒカルは立ち上がり、自分の頭部目掛けて蹴りが飛ぶ、すんでまでいく。


「違う!マルから教えて貰ったんだ。どうしても、ヒカルに喜んで欲しくて。それを‥」


それを聞いたヒカルは得心を得たのか、再びベットに座り、貰った大和坂47の佐伯友梨の写真集とその下に隠した漫画本をベットに置く。


「佐伯ちゃんだけ?サトチの写真集も出たはずだけど?」


サトチ?おそらくメンバーの名前であることは確かだ。しかし全くわからない。サトウ製菓のチーズ煎餅の略にしか思えない。


「す、すまん。そこまでは情報不足だった。それと‥その漫画はそれで大丈夫だったか?」


漫画の事を言われると、ヒカルは顔を赤くして声を小さくする。


「べ、別にいいよ。」

「そ、そうか。それは良かった。」

「あ、あれだからね!こ、これはたまたま好きな声優さんがアニメに出てて、それで原作が気になっただけで‥それに真紀がどうしても読んでってしつこいから仕方なく‥別にカケルと倉橋くんとでそういうのは想像してないから!」


顔どころか耳まで真っ赤にしてる。必死の弁明は墓穴を掘るからやめた方がいいと思う。とにかく、美男子同士の愛春(悦び)と青春を極めて繊細に描いた作品「君との春」はいわゆる腐女子には熱烈な支持を集めているらしく、ヒカルは隠れ信者らしい。

委員長の長嶺は隠れ信者は性に合わないらしく、校内でひっそりとブックカバーで隠して読んでいるものの、遂にこの前の文化祭で周知の事実となったところである。


「そのさ。ちゃんとブックカバーも買ってあるからさ。安心して家にも置いておけるだろ?」


自分は別に買っておいた布地のブックカバーをヒカルに渡す。


「あ、ありがとう。そのさ。もちろんこのことは学校のみんなも、家族にも内緒だからね。」


ヒカルの恥ずかしそうに俯くのを見ると彼女の可愛らしさに、殺されかけたことを忘れそうになる。


「もちろん!この秘密は墓場まで持っていくから。」

「絶対だからね!もし破ったら本当に墓場にこの本よりももっと恥ずかしい本を御供えするからね!」


真剣な眼差しでとんでもない事を言う。リアルな話、女性の方が長生きなのでそれはなかなか怖い話だ。想像して欲しい。

お盆に家族揃ってお墓参りした時にR18の本が線香とお花と共に御供えされていた時の家族のリアクションを。


「おじいちゃんってこう言うのがすきなの?」

「見ちゃダメ!」


孫と子供夫婦の呆れた表情が目に浮かぶ。

こうなれば、二度と墓参りには来てくれないだろう。


「それは‥本当にやめてほしいです。」

「なら、絶対従うこと!いい?これは国家機密レベルの話よ!うちではこう言うのは読まないっていう体なんだから!」


ていならやめればいいのだろうが。政治家一家ではそうもいかないのだろう。


「それはもう。絶対です!口が裂けてもいいません!」

「それならよし。拷問されて、自白剤を飲まされてもダメよ!」


どこに自白剤を使ってヒカルの秘密を暴こうとする政治結社があるのかは聞いてみたいものだ。おそらくそいつらは、赤い色の服を着てるやつは全て社会主義者だとして、投獄すべきと唱えるペイトリオットに違いない。


「そ、そうですね。それなら舌を噛み切ります。」

「よろしい!それなら安心!」


どうやら自分の自死を悲しむことはしてくれないらしい。自分で言っておきながらも少し悲しい。


「それでなんだが、次のツトメのことは何か聞いてるか?」

「ああ。その話?そういえば、マルくんもルナちゃんも何も言ってきてないね。」


紅茶を飲みつつクッキーを頂く御息女は、自らの指輪をみつめる。


「そうだったのか。てっきりまた自分だけで知らないパターンかと。」

「まあ、マルくんも忙しいんじゃない?最近はめっきりルナちゃんも顔見せてくれないし。」

「そうかもな。最近家にいる方が珍しいくらいなんだ。あ、そう言えば、レア写真あるんだった。」

「ん?なにレア写真って?まさかまた盗撮写真?」


確かに承諾は得ていないが、猫には肖像権はないので、ギリ許して欲しい。


「えっと、オフショットだから、そういうのはあとで確認しておきます!」

「そう。まあいいや。見して。」


ヒカルは自分の持っていたスマホを覗くために、体を寄せてくる。

当たった腕から伝わる彼女の体温と髪からはシャンプーの香りが自分の感覚をやけに刺激してくる。


「へぇ!可愛い!マルくんって寝てると予想してたより可愛いね!」


思ったより機嫌をよくしてくれてありがたい。こんな時には猫の手を借りてみるものだ。


「おお!二人とも仲直りしたのか!」


壁をすり抜けて、霊体姿のマルがタイミング悪く、帰宅してくる。自分は慌てて、ヒカルに渡したスマホを隠す。



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