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第9章 ② マルのお仕事

第9章 ② マルのお仕事


何気なく流れる今朝のニュースに耳を傾けながら、自分は朝食を取る。

なんでも、議員さんが不正な金を受け取っていたらしく。しかもその当事者二人が亡くなるという痛ましいニュースだ。アナウンサーの淀みなく聞きやすい声で悲惨なニュースを聞くことほど残念なことはない。


「元首相、大友玄蔵議員は心筋梗塞によって倒れられ、搬送された病院にて、昨日亡くなられたとのことです。また、贈賄容疑がかかっていた門松建設の常務役員の東堂渉容疑者を警察は調べていましたが、今朝、自宅マンションの一室にて、死亡しているのを発見されました。警察は死因については明らかにしていませんが、遺書が残されていたことから自殺の可能性が高いとのことです。つぎのニュースです。」


「県議会では知事の発案により大内ダムの下流域における自然環境保護を目的とする定期的な放流の是非をめぐる条例案が採択され、賛成多数により可決しました。これにより、大内ダムでは通常よりも多く放流を行うこととなり、利水ダムとしての役割を果たせなくなります。そのため一部議員から反対意見が出されましたが、今月の初めから既に定期放流が始められており、下流域では水質の改善が見られるなどの成果が見られています。一方で、住民の間でもあまりに性急なタイミングでの条例案の策定、議決までの流れや、条例そのものの是非を問う声は大きく、今後の知事の対応が注目されます。」


と話題が変わるタイミングで、うちの母親が好きなアナウンサーのチャンネルへと変えられる。

どちらかと言えば、自分は雲のマークの番組よりも、みんなの為の公共放送の方がいいのだ。

それと朝ドラ最高!と言っても、虚しいだけだが。ばあちゃんもじいちゃんも公共放送派だが、この時間帯だと二人はいないので、必然的にこうなる。


「ほら!カケル!準備したら、早く出ないと遅刻するよ!」


メイクをしながらテレビを見れているのかは疑問だが、それを言ったところでしょうがないことを知っている。母は「いや、聞いてるし。」

って言うのがオチだ。そんなことを朝から議論する余裕はないのだ。

出発までの時間に追われる自分は、奪われたチャンネル選択権を求めて争うわけでもなく、自室からバックを取りに二階へと上がる。

すると、今日は珍しく自分の部屋でスヤスヤと眠るマルを物珍しく見つけ、折れ耳にして遊ぶ。こうするとスコティッシュ・フォールドみたいで、憎たらしいコイツも可愛いのだ。

寝てるこの時ばかりをチャンスと思い、スマホで撮影する。

この写真でヒカルが許してはくれないと思うが、ヒカルが所望している品物と一緒なら効果はあるのではないかと、蜘蛛の糸でも欲しい気分なのだ。大事に机の引き出しにあるお詫びの品を確認し、親にバレはしていないかとヒヤヒヤして過ごしていた。

これはあくまでも自分の趣味ではない。しかし、これを中学生男子の部屋で見つけた祖父母の気持ちを考えると。なんだか隠したい気分だったのだ。これはヒカルの趣味?らしいが。

これがマルの冷やかしだったりした日には‥それは本当の地獄だろう。マルには代わりに犠牲なるように強く要求するだろう。これ以上の身体的、精神的苦痛は命に関わる問題だ。すぐにでも119番。もしくは人権相談ダイヤルに電話したいくらいだ。


そんなことを考えていたら時間になり、自分は慌ただしく、自転車に乗り、学校に行き、

授業を受け、これまた慌ただしく、帰宅した。このおよそ8時間を2行で完結表現するぐらい、その間の時間は内容がないものだったと思ってもらって構わない。


それはそうと、帰宅して一目散に自室に上がり、

お詫びの品を確認する。そして覚悟を見せるために着替える。今日はヒカルがこの家に来る日なのだ。今までの数々の非礼を詫びるため、額が血だらけになるほど土下座を繰り返す動画をヒカルへと送り、もはや土下座のプロとして、土下座の解説動画をYouTubeに投稿できるレベルに達していた矢先、やっとヒカルが連絡をくれたのだ。


「土下座はいい。とりあえず。直接会って殴るから覚悟しておくように。」


との返信を受け、自分は死装束を纏い、もはや神様だけでは加護が足りないと、数珠を片手にひたすら念仏を唱えるという精神状態になり、神仏習合状態。いや、神仏ごった返し状態をこの身に体現させていた。


玄関チャイムのピンポーン。この音は死へのカウントコールであり、この数分後には勝負は決しているだろう。自分の最後にしてはやけに優しい音だ。どうせならリングに上がるレスラーのようにゴングを鳴らして欲しかったのが、ここにはない。自分は女神(鬼)を待たせるわけにはいかず、すぐさま下に降りて迎えにあがる。


「ヒカル様。本日はおいでくださり有り難き幸せ。早速2階のほうへ行かれますか?」

「あー。お茶。それとお菓子。用意したら上がってきて。」


ぶっきらぼうに自分に指示すると、女神(鬼)は2階の自室へと上がっていく。

まずは、お茶とお菓子を所望になったか。これは予想通りだ。いつもの様に紅茶と、クッキーを用意して、2階の自室へと向かう。この時もちろん、この部屋は既に女神(鬼)の領域であることを忘れてはいけない。コンコンコン。と3回のノックをし、

確実に承諾を得ることが主従関係、いや、神と人間との間の取決めなのだ。単にヒカルと自分の上下関係からくるルールとも言う。


「ヒカル様。お紅茶とクッキーをお持ち致しました。」

「入って。」


承諾を得られた自分は入る前に一礼をしてから、神の領域への一歩を踏み出す。


「待って!」


踏み出した一歩で、女神(鬼)の怒りに触れたのかと、即座に全身がフリーズする。


「はい!待ちます!」

「カケルはさ。今回のこと、反省してる?」

「も、もちろんです!これから一生を懸けて償っていく所存です。」

「それについて嘘はついてない?」

「もちろんです。嘘偽りはなく。真意です。」

「神に誓って言える?」

「もちろん。神に誓って。」

「カケルのお父さんに誓っても?」


それを言われた時、神に誓うことはできたのに、即答できない自分がいた。父はそもそもこんな事をしたら自分を酷く叱ったに違いない。

それでも、父のことだから、自分に謝りに行かせた後に、もう一度父一人で謝罪に行くぐらいのことは平気でしてくれただろう。

そんな父に誓ってこのことを許してもらうことはなんだか父に悪い気がしたのだ。それ故に父に誓うことは逃げになる。そう思い、自分はこう答える。


「父さんに誓うと、父さんに対しても申し訳ないからそれはできない。」


それを聞いたヒカルは黙り込む。少し考えを巡らせたのか、ヒカルは口を開く。


「カケルに対して、お父さんの事を言うのは卑怯だったね。ごめん。さっきのは取り消し!とりあえずそんな風に突っ立ってないで、入っていいよ。」


その言葉を待ち望みにしていた自分は部屋に入り、持っていたトレイをテーブルに置く。



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