第8章 ② 祭りはいつも生きるか死ぬか!?
第8章の2 祭りはいつも生きるか死ぬか!?
そう言って、自分の腕を離すと、一人歩き出す。
「どうしたんだ?何か話すことでもあるのか?」
「カケル。こっちまで来て。」
屋上の中程に来るように言われ、ヒカルに近づく。
「ここか?」
「もっとこっち!」
自分の両手を持つヒカル。
「ねぇ。こっちを見て。」
自分はヒカルの言う通りにヒカルを見つめる。こうして互いを見つめると、目線の違いから自分の方が、背が高くなったんだと初めて知る。
上目遣いに少し頬を赤くした彼女の姿に、鼓動が再加速している事が分かる。
「ねぇ、なんか感じる?」
「えっと、なんだ?スピリチュアル診断か?」
「違う!こうしたら?」
ヒカルが急に自分の胸に顔を埋めてくる。
「えっ?」
「こうしてたら、なんか感じる?」
「そりゃ。ヒカルの髪のシャンプーの香りとか?」
「それは‥いいでしょう。ほかには?」
「他?鼓動とか?」
「うん、それもいい。でももっとあるでしょ?」
「えっと‥あったかい。気持ちが。」
そう言うと、自分の学ランを握りしめる手が解ける。顔を埋めていてヒカルの表情は読み取れなかったが、少し微笑んだ気がした。
「いいよ。ご褒美。」
そう言うと頬に口づけをして、走り去って行く。
急なことで、何が起きたか理解できない。
自分の頬に唇が触れて、微かなヒカルの痕跡が妙に心をくすぐったくさせた。
「カケル。ここまではなかなかの出来です。皆も喜んでることでしょう。」
久しぶりに見たルナの姿とタイミングの悪さに狼狽する。
「お!お久しぶりです。そ、そのご覧になって?」
「ええ、ヒカルの意識は全て入ってくる。鈍感、頓馬な男でもここまですれば、よもや。と言ったところですね。」
「あ、あのう。さっきのは?」
「ありのままを感じて、ありのままを表現しただけです。あれがヒカルの気持ちです。カケルも少しはヒカルのことがわかりましたか?」
「えっと。それは、何と、なく。」
頬に触れて、触感を確かめる。優しく、柔らかい感覚がまだそこには残っていた。
「ふっ。まあ、いいでしょう。それが今のあなただ。しかし、私は今ここに現れたのはただひやかしではありません。私にはあの黒猫の様な趣味はないので。」
「はぁ。」
「今日、ここで知って頂きたいことがあります。それはヒカルの能力についてです。」
「ヒカルの能力?」
「ええ、彼女は見ての通り特別です。見目麗しいという点でもですが、彼女は人を、全てを惹きつける能力を持つ。その力は発揮させれば、異性はおろか、同性、種族を問わず彼女を好きになる。しかし、それをコントロールするのは並大抵のことではありません。」
「えっと。その能力はいつから?」
「ヒカルが生まれた時からです。当初は力は弱く、大きく問題になるほどではありませんでした。しかし、ここ2、3ヶ月力が強まっている。おそらく、ヒカルの気持ちが影響しているのでしょう。誰かに好きになって欲しい。振り向いて欲しい。その深層真理が彼女の能力を異常なまでに強めている。神を惹きつけるほどに。」
それは何となく、わかる気はする。最近綺麗になった気はしていた。それ以上の何かがあったのは気づかなかったが。
「それってなんかまずいんですか?」
「ええ、彼女の霊力は無限ではない。そんなに彼女の能力をばら撒いていては、彼女はいずれ、魂を失う。」
「それはつまり‥」
「ええ。ご想像の通りです。ですから、今日、すぐにでもこの事態を処置する必要があった。この札を見てください。」
ルナは霊力を込めた札を神術で取り出す。
「これは?」
「霊力封じ。彼女にはこれを持ち歩いて貰っています。これで少しはマシになる。そして、今日はヒカルと特別な契約を交わしました。」
「霊力封じですか。そんな事になっていたなんて。それで?契約ってのは?まさか言っておいて教えないなんてことはないんでしょ?」
「ええ、その契約こそ、今日、この校舎屋上の地点において、彼女の能力を一時的に完全に封じること。それが契約の内容です。」
「それはつまり、さっきのヒカルは、一切能力は持ってない、普通のヒカルだったわけか。」
「ええ、彼女の能力を一時的といえど、完全に封じるには、満月の力を借りる必要がありました。そして、それは成された。結果は上々です。」
「いや、でもなんでそんなまどろっこしいことを?」
「はぁ。あなたも無粋な男ですね。彼女の能力によって好きになってもらっても意味がないのですよ。本気で好かれたい。その一心なのです。あなたはヒカルの気持ちが理解できたのでは?」
「えっと。ヒカルは自分が落ち込んでたから、元気付けようと、その、キスを‥」
「はぁ。まったく。これではまた、逆戻りの可能性もあるのですか。カケル!ハッキリ言います!ヒカルのことが好きですか?ヒカルのことを大切だと思っていますか?幼馴染としてではなく、特別な感情として、女性として。」
真剣にそんな事を考えたことはなかった。漠然と
ヒカルがいて、それが普通で。ヒカルとの時間は大切で、心地よくて、それでいて‥
あったかい。心から。
それが、ヒカルへの感情だ。これが、どれくらいただの幼馴染の頃の感情と違うのかわからない。
けど、体はもう、走り去ったヒカルを追って階段を駆け降りていた。
ヒカルのことだ。まだ帰っていないはず。必死になって校舎を走り回り、外を見る。すると、佐藤と一緒になって花火をしていたのを見つける。
自分はいてもたってもいられず、窓を開けて声をかける。
「おーいー!三上光!そこで待ってろ!動くなよ!」
校舎に振り向いた彼女を確認して、自分は再び走り出す。
玄関から外履きに履き替える事も忘れて、飛び出す。
「はぁ。はぁ。ヒカル。さっきのなんだよ?あれじゃ、はっきりしないだろ。」
息を切らしながら、ヒカルの手を取る。
「おや?これはお邪魔かな?そしたら、撤退するかな。後で結果教えてねぇ!」
と佐藤はニヤつき顔で花火を持って校庭のみんなのいる方へ行った。
「さっきのは、その。カケルがあんまりに落ち込んでるから、慰めてあげようと思っただけで、そんなに特別な意味なんてないから!あんまり気にしないで!」
「そっかぁ。やっぱりそうだったんだな。って言うと思ったか?」
俯くヒカルの顔を覗き込む。
「とりあえずこっち来て。」
今度は自分がヒカルを引っ張り、校舎裏の駐輪場の所まで行き着く。
「なぁ、さっき特別な意味はないって言ったでしょ?」
「うん。言った。」
「これは特別な意味があるから。しっかり覚えておいてな。」
自分は彼女の額に口付けをした。最初は驚いた顔をしていたが、彼女は再び俯いままだ。
「バカ‥このバカ、バカ、バカ、バカ‥」
と自分の胸を叩く。その握った手ひとつひとつが、彼女の今までの思いだったと思うと、申し訳なくなる。
「ごめんな。気づいてあげられなくて。ヒカルがいることが当たり前になってて、ヒカルの大切さに、思いに気づけてなかった。ごめん。」
気づけば彼女の頬には涙が伝っていた。
「本当に悪いと思ってる?」
「ああ、本当に悪かった。」
「本当に悪いと思ってる時はね。こうして‥」
重ねた唇は彼女との繋がりを感じた。
過去と今が繋がり、この場所、この時に彼女と出会えていること。多分いろんな偶然と必然によってこの事は起きている。だからこの世に絶対な事はないのかもしれない。だけど、あえて自分は絶対だと言おうと思う。
この時の感触と、その後の笑顔を、永遠に忘れることはないと。
第8章 ② 終わりです…
こ…んなて…て展開になるとは…作者も驚きのカケルの大胆さには脱帽しました。まさかのロマンス。青春。
これを引き出したのもヒカルのカケルへの真摯な思いかもしれませんね。(おそらくそうでなければこんな展開にはならなかったはず。)
しかし…やはり恋はそうは簡単にいかないのです…
だって祭りはいつも生きるか死ぬか、なのですから…次回その意味を知ります。
次回お楽しみに!




