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第7章 ① 龍神伝説、秋の夜長はSNS

第7章の1 龍神伝説、秋の夜長はSNS



季節は秋へと移ろい、茹だるような暑さはどこかに行ってくれたらしい。学校の銀杏が黄金色に輝いては、ひらひらと葉を落としている。

地面にはじきに黄金色の絨毯がひかれるのだろうなと、ぼんやりと見つめていると、心は穏やかになれる。

みんなもちょっとは外の景色を見て、心を落ち着けたほうがいい。そんな進言(戯言)は通りそうもないが。

やはりこの身近にある風光明媚な景色を嗜む自分とは無関係に進められる教室での対話、いや戦いとは対照的であると言える。以下戦闘惑星。


「絶対に食品販売だ!それも焼きそば!これは我ら川見中の伝統であり誇りだ!」


男子筆頭、西の前頭三枚目くらいの強さを誇るツヨシが先鋒に立って口撃する。


「ぜっったい舞台よ!それも演目はノートルダムドパリ!目指すは金賞よ!」


うちのクラス委員であり、クラス委員の元締めクラス委員長の長嶺真紀はピシュン!ピシュン!と、土俵に上がった男子を腰に左手を当て、右手の指先からビームでも出すかのように一人一人瞬殺していく。土俵に上がる男子共が戦闘力53万に圧倒される、この光景は否が応でもナメック星での悲劇に重なって見える。ああ、彼女はおそらく第四形態まであるだろう、と勝手に傍観者ながら予想なんかしてみる。


「おお!熱いな!みんな!それでこそ青春だ!」


手をたたきながら称えている黒川。彼は普通の教師、という仲裁役はここ数年で飽きたのか、見守る。という傍観者を決め込むスタンスらしい。放任主義も行き過ぎれば、無法地帯ということを知らないらしい。


「もう、ここらで決めないと時間ないし、多数決取りましょうよ。」


こんな時は意外とまともな事を言う化学研究部、部長の佐藤にはびっくりした。佐藤も部長という立場になり、それなりに普通にやることを覚えたらしい。たぶん‥おそらく‥。しかし、その提案には大賛成だ。放課後はまたあれの準備で忙しいのだ。

出来れば、もっと簡単なやつがいい。あの三流雑誌のような記事の発表ですら、構わないと思ってる。

UFOや雪男、ツチノコだろうが、雪の子だろうが道産子だろうが‥そんな事で、構わないのだ。いや‥道産子はただの北海道展だな。


「ふん!そんなの食品販売に決まってるよな!」


こちらの思考を知らずに、傍観者を決め込んでいた自分と肩を組んでくるツヨシだが、自分はあくまでも傍観者であり、無気力者なのだ。どちらもやりたくないのが本音だ。

それに見ろ、項垂れる男子達を。さっきのビームを食らっても、まだ戦う気のある男子はお前くらいしかいないぞ。

ちゃんとスカウターの戦闘力を見たのか?それともお前はサイヤ人か?こっちはれっきとした地球人だぞ。たとえ戦ったとしても、気円斬で尻尾を切るのが精一杯だ。やめてほしい。


「へえー!そうですか!食品販売は何かと許可も面倒ですし、PTAの方々が今年は豚汁を振舞ってくれるそうですよ!それにクラスでの販売がなければ、商工会の方が焼きそばは作ってくれるじゃありませんか!これはもはや、演劇をやる意外の選択肢はありませんわ!」


腰まで伸びた艶やかな髪を振り上げて、余裕のポーズを取る佐藤。

「ホォーホッホッホ」って笑ったらもはやそれにしか見えないだろう。そのうち劇場版で金色に光るんだろな。


「では決をとりたいと思います。賛成する方に挙手をお願いします。」


やる気のないクラス委員の片割れ、倉橋の進行によって採決がとられた。

結果はクラス委員二人を除き、演劇26 食品販売3で大敗を喫した。


3票の内訳はツヨシ、流れで挙げさせられた自分。そして、「ハイ!先生も焼きそば!」と教師の黒川。そのボケに対して、正の字を無言で書き足す倉橋。


いや誰か突っ込んで!意外と黒川必死のボケだったのに、可哀想過ぎる。

結構恥ずかしがってたぞ、黒川。無言で挙げた右手をゆっくりと下げていく時のなんともいえない表情。HRを終え、教室を去って行くジャージの後ろ姿が、やけに哀愁を感じさせていたのは気のせいではないだろう。


画して、文化祭の我がクラスは演劇をやることとなり、自分は衣装作成と買い出しというありがたく雑用の任を命じられたのである。

これはあわよくば、ツトメの課題と同時進行も案外、楽なのではと、ぬか喜びしていたことは言うまでもない。


時間は少し前に遡り、10日前のことだ。

せっかくのツトメから離れ、穏やかな学生生活を送ろうと思案していた。しかし、人生という試練の旅は自分に中間テスト。

いやテストという名の別名「健全な若者の記憶力と思考力を醸成しようと大人が画策した紙切れ」を攻略する必要に駆られていたのだ。

テストのことをすっかりと失念していた自分は、ヒカルのノートをコピーさせてもらい、テスト範囲の復習を行う羽目になっていた、土曜日のことである。


「おおい。次の神様決めてきたぞ!」


机の引き出しを「ドス!」と開けて出てくるマル。

そのおかげで、机に向かって座っていた自分は腹部に思いっきりボディを入れられることとなり、うずくまる。


「ウッ!ど、どこから出て来てんだお前‥」

「ボク、ドラ○もん!」

「いきなり小ボケかまされても突っ込めないからやめてくれ‥」


床に這いつくばる自分を見ても、何も悪びれることない。それどころか、追加で小ボケをかましてくる始末だ。


「えー。なんかノリ悪いなぁ。ほら!四次元ポケット!はないから、異次元ポケット!的な?」


するとマルの手に「ポン!」と巻物が出てきて、巻物をバッと開く。


「今回は龍ヶ峰市!水沼町!ここの土地神にしたから!」

「なに‥いきなり、来て、唐突すぎる。普通に入ってこい。」


体勢を直し起き上がると、唐突に示された巻物の中身を具に確認する。


「なんだ?機嫌悪いのか?カルシウム足りてないんじゃないか?ちゃんと牛乳飲んでるか?ここの近くは酪農も盛んらしいから、帰りに飲んでくか?」


「誰が居酒屋に行くみたいに酪農家に直に牛乳飲みに行くやつがいるか!」


小煩い奴を適度にいなしながら見ても、大したことは記載されていない。本当に地名だけのようだ。


「まぁ、たしかに。直飲みするとお腹壊すしな。おれも直飲みは避けたい。猫だから。」


どうでもいい話をして話題がズレてしまったため、軌道修正をかけて本題に戻る。


「で?どうして土地神?今までの有名思考はどうしたんだ?」


「チッ、チッ!甘いな。マイナーな神様こそ狙い目だと気づいたのさ。有名な神様は忙しい。プライドもえらく高い。しかも貢物が半端なくかかるので(ここまででも結構かかってる。日本円的にはうん千万らしい。てかどっから出てんだそのお金?闇献金か?官房機密費か?)こういう時こそ、土地神様を大切にしましょうっていうメッセージだ。」


つまり、マイナー神様の方が扱いやすく、お金がかからない。ということらしい。どうやら、神秘や不思議、都市伝説を追う、雑誌、「ホントにあったシリーズ」も遂にタイトルに資金難の兆候が見えていたが、うちも皮肉なことに神秘なことを追うには金が必要らしい。


こんなことで、部屋のタンスの上に放置していた雑誌を再び思い出すこととなってしまうのだから、案外あのタイトルには意義深さや、

思慮深い意味がこめられているやもしれない…かもしれない…。


「ホントにあったシリーズ♪心を!魂を、奮い起こせ!!!?もう出たの♪

嘘!!?ここでロト7キャリーオーバーが♪」


どうだろう、これでもはや何の雑誌かはわからない。ただ、唯一言えることは、編集長はどうやらロト7を買っていたが、遂にキャリオーバーのあたりが出たことにショックを受けたあまり、タイトルにせざるを得ない心理状態だったんだろう。しかし、字面に音符を載せられるとなんかムカつくのは、自分だけだろうか?「!」では表現しきれない、感情の機微がそこにはあるというのだろうか。


そんなモヤモヤと引き換えに、自分のお小遣いから980円が毎月消えていってることへの怒りが、こんなことを思わせているのだと信じたい。自分はこんな思考の未統合感を抱えつつも話を続ける。以上怒髪天を突き切れず。


「で?それは二人には伝えた?」

「ああ、二人にはすぐ伝えたぞ。カケルは最後だ。」

「はぁ、そうですか。で?何すればいいわけ?見ての通り勉強中なんだけど。」


自分は机に広げたノートや教科書を見せる。白紙のノートがだんだんと埋まってはいるのだが、脳内メモリへのインプットはまだ芳しくない。紛れもなく苦境(ピンチ)なのだろう。


しかしそれは苦境(チャンス)とも読む。苦しい事を境に人生という道を、勉学を諦める事で真っ当なレールから外れるチャンスの事を言う。良い子は真似するべきではない。


「おお!カケルにしては珍しい。しかし勉強なんてあと回しだ!二人は忙しい。カケルだけで挨拶行くぞ!」

「おい、二人に忖度してるのにこっちにはないのかよ。」

「ええ。だってぇ、ヒカルはルナが恐いし、倉橋はあの梟が嫌いだから、頼るの嫌なの!」


上目遣いで可愛いまん丸お目目で助けて欲しいと訴えている。しかし、理由がわがまますぎるだろ。そもそも人間じゃなくて、神使の方なら余計に自分でどうにかしてほしいものだ。とはいえ、なんやかんやと、やらざるを得ない雰囲気にさせられてしまうのだ。結果として自分の押しに対する弱さが露呈してしまう。という結末だ。


「はぁ、仕方ない。わかったよ。行けばいいんでしょ。で?なんて名前なの?その神様。」

「吾輩は蛇神である。名前まだない。」


どこで生まれたか頓と見当がつかないので、スルーだ。


「へぇ。蛇神なんだ。」

「反応鈍っ!もっと突っ込んでくれよぉ。」

「んじゃ、名前がないなら、適当にジャ○ーダとか名前つけとけば?ほっぺが赤い、黄色い電気ネズミも出てくるとかさ。」

「おお!おお!そういうのだよ!でもどちらかと言うと、草タイプじゃないんだよな。水辺なんだよなぁ。あ!ハ○リュウーだな!ドラゴンタイプもどちらかといえばピッタリだわ。」


勝手にポ○モンの話題で盛り上がってるが、特性が脱皮なのも蛇に似てる!とは言わない。

めんどいので。


「そら、見つかってよかったわ。で?そのハ○リュウーは自分だけ会って全員分の証くれるの?」

「まあ、最初から言っておけば、わかってくれるでしょ。いやぁ、児童労働は法律で規制されてて、ちょっと許可下りなくて!すいません!って言っとけばなんとかなるでしょ。」

「いや、そんなの通じる相手なの?絶対怒られるやつだよ。神様に法律関係ないもん。」

「え?そんなことないでしょ!コンプライアンスは重要だろ。最近じゃ、盆踊りだって近所の苦情でイヤホンしてサイレント盆踊りだぞ!神様だってこれからはそういうところ気にしていかないと。それに時代はICTで業務効率化だ!テレワークや!最悪VRゴーグルでもかけて、VRの二人に会ってもらおうや。」


お前は本当に神の使いか?「サービス推進したくなるよね協議会」とか、胡散臭い所の回しもんとかじゃないかと疑いたくなる。しかし当の本人が、いつの間にやらどこからか出してきたVRゴーグルに夢中になっている。まさかとは思うが、自分のお小遣いから買われていないことを祈る。


「そんなの、めちゃくちゃ失礼だろ!それなら、普通に謝った方がいいわ!」

「そう?まあ、カケルがそうしたいならいいけど。」


マルはVRゴーグルを装着状態で、夢中になって前足で何かを触ろうとしている。


「何見てるんだ?」

「え?カケルの好きな子!」


自分の好きな‥


「え!ダメダメ!絶対ダメだって!」


VRゴーグルを外そうとするがピョンと避けられる。


「嫌だなぁ。今更隠すことでもないだろ。おお!こんな直近に見るとこんなかたちしてたんだな!」


と両足で弾力性を楽しむかのようにフミフミと動かしている。


「お、お前ヒカルで遊ぶな!」

「おや?ヒカル?はて、何のことだ?俺は、猫目線を楽しもう!VR猫じゃらし編をみていたところだ。」


勝ち誇ったようにニャリと、VRゴーグルを、外す。


「へぇ?ゴホッ、ゴホッ。いいから、返しなさい。」


狼狽した自分に満足したのか意外と今度は素直に、渡してくる。


「はいよ、カケルも猫目線で、美人に膝枕してもらうといいぞ。」 

「するか!」


ホントはめっちゃ気になるけど!


「お前も素直じゃないなぁ。まあ、お前を揶揄うのもこれくらいにして、早速行くか!」


勝手に満足したマルは霊体となって外に出て行ってしまう。勝手に行ったのだから放っておけばよいものの、それが出来たら苦労はしないのだ。

仕方無しにバックを持ち、自転車で吉山稲荷神社に向かう。鳥居の前に自転車を止めて、マルの待つ社殿に向かう。


「おお、きたきた。今回は普段着で、行くのか?」

「え?ダメなのか?また着替えるのもう、面倒なんだけど!」

「おいおい、神社の息子が、そんなんでどうする。ほらよ!」


マルが自分の頭に触れると、あっという間に着替える。って、こんなことが出来るなら毎回やってくれ!だがしかし、今回は何とも豪華だ。特別な時にしか着ない、衣冠単(いかんひとえ)だ。しかも上位の神職しか着れない、黒の(ほう)。こんな格好で出て行ったらまさに大目玉をくらいそうだ。


「こりゃ、分不相応すぎないか?」

「まあ、いいだろ!これだけ着飾っておけば、向こうが勝手に偉いやつだと思ってくれれば、儲けもんだからな。」


完全に発想が詐欺師の考えと同じじゃないか?とりあえずスーツ着て、会社の同僚で通せるから!何聞かれても、会社の同僚で、ものを受け取りにきましたって言って、適当に相槌うっとけ!

って強面のお兄さんに言われて、とりあえず行っちゃう若者?みたいな。


「ああ、それと何聞かれても適当に偉いやつのフリしてね!そういう体で行くから!」


いやていって!もろ詐欺師じゃん。


「いやぁ、流石にバレないか?まだ中学生だぞ?」


神を騙すには力量が足りなすぎる自分と、マッチしない衣装。明らかに見ればわかる顔の幼さ、という隠し切れない、いやもはや隠してすらいない大きな違和感を心配しているのだ。


「大丈夫!昔は元服って言ってカケルくらいの歳でも成人の儀式をやってるやつもいたんだ。神様は大抵時間感覚に疎いから、そういう時代だって思わせておけば、何とかなるだろ!」


なんて!強靭なメンタル!鬼胎を抱くことなどなく、俺のやることなすこと、何とかなるぜ!のオプティミストらしい。言い方を変えれば、無計画の、無責任なやつとも言えるが。

諦めのついた自分は不安に至る思考回路を停止させることで折り合いをつける。


「はぁ。仕方ない。やるしかないか。」

「そうだ!やるしかない!やる気も出たことろで、お先に!」


その言葉を残してマルは「シュポン」と消えた。


次回、いかにも途中分割からスタートするパターンです。ご了承ください。

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