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第6章 ③ 共闘戦線

第6章 ③ 共闘戦線


「カケル。大丈夫か?さすがに無理させすぎたな。頑張ったな。もう大丈夫だぞ。」


そう言って、男は遠くへと歩いていってしまう。

だんだんと、遠くなって、見えなくなって。


気づいたら見慣れぬ木目の天井が視線に入り、他人の布団で寝かされていた。

自分はまだ癒えぬ頭痛に悩まされるも、ゆっくりと起き上がる。すると


「気づいたね。お疲れ様。」


労いの言葉をかける中森は台所から湯気を立てたカップを2つ持ってきては、一つを渡してくれる。


「コーヒーだけど、飲むかい?それともあったかいのはまだ暑いから嫌かな?」

「いや、凄い寒気がしてたんだ。あったかいのはありがたい。」


カップに入ったコーヒーの温かさで手を温める。


「ここは、稲荷神社の平屋か?」

「そう。こういう時に便利だよね。ここは家電も、ちょっとしたお茶もあるし。無人の割に電気もガスも水道も。まだ繋いだまんまだからね。君たちもこの前使ったみたいだけど?」


ギクッ!やはり、バレてたか。


「不法侵入ならびに、電気と水道も使ったから窃盗だな。主犯は三上さんかな?」


そう聞かれるので、勢いよく首肯する。


「そっかあ、ならしょうがないか。大家さんだし。」

「えっ?ここって中森の叔父さんの家じゃないの?」

「まあ、叔父さんの家だよ。でもここの平屋の建物の土地は三上さんの家のものさ。ご好意に甘えてタダで借りてるけどね。」


ようは、権力者と地域の神社の太いパイプの構築に利用された土地ということらしい。


「なるほどな。それなら納得。で?結局大鯰はどうなった?マルは?あいつは大丈夫なのか?」


中森は矢継ぎ早にきく自分を落ち着くように諭す。


「大丈夫。大鯰はちっちゃくなっただけだけど、しばらくは悪さしないとおもう。念のため、また鎖で繋いでおいたけど。あれじゃ何もできないだろうね。これで、課題クリアとして報告しても問題ないと思うよ。僕はタケノミカヅチから証を貰い、君たちはフツヌシノカミから証を貰う。これで、ぼくはあと二つ。君達はあと三つかな?」

「え?倉橋いつの間一つ多く証を?」

「僕はずっと前から準備してきたんだ。今年の四月からいや、中学入学当初からね。まあ、その事は機会があれば、いつかね。それよりも、君の大事な仲間の方が重要なんじゃない?」

「そうだ!マルは!マルはどうなった?確かに札には戻したが、元々のマルは重症だったから‥」


すると襖がピシャと開く。登場曲が流れて、プロレス独特のコールがなされる。


「赤コーナー、泣く子も黙る、可愛さ、謙虚さ、格好良さ!神出鬼没の不死の黒猫!マ〜ルゥゥ〜さぁーん!じょー!」


口の悪さとあざとさが長所のマルはモヒカン頭のカツラに、ヘヴィーメタルのメイクを顔に施しては、全くマッチしないランドセルを背負って意気揚々と登場してくる。それに合わせて実況中継のアナウンサー福山は過去の経歴を読み上げていく。


「マル選手のご紹介をさせて頂きますと、彼は見かけによらず中身は歴戦の獅子(猫)でしてね、この道一筋40年の大ベテランなんです。過去にはWWEC(Word Wide Enjoy Cat) のタイトル戦にも出場。対戦相手選手全てをノックアウトした経歴を持つ、まさに伝説のレスラー(猫)なんですね!」


それに呼応するように実況席にいる解説者野田も感情を高ぶらせる。


「ええ!マル選手の特徴として「あざと可愛イイね!こパンチ」を繰り出す事によるノックアウトが魅力的な必殺技として知られていますが、リングサイドや記者会見など、とにかくあらゆる場面での場外乱闘が好きな選手として恐れられています。数々の選手が彼の口撃でリングに立てずに不戦勝となった戦いも数知れません!まさにダーティーマル!しかし、日本に帰って来てからは一転、児童福祉活動にも力を注ぐなど、かつての悪役振りは見られなくなってきており、私としてもかつての必殺技、極悪非道な「闇夜打ち」の復活を待ち望むファンの一人です!」

「おおっと、ここでマル選手から相手選手へのマイクパフォーマンスを兼ねての挑発か?」


「おおい!おれは帰ってきたぞぉーいゃ!シャシャシャ!」


「これはどうゆうことでしょう?マル選手はいつもなら相手選手の夕飯をリサーチし、それを吐き出させたるわ!の一言から始まるのが王道の口撃パターンなのですが今回はリサーチを怠ったのか!この言動をどう思われますか解説の野田さん?」

「恐らくこれは待望の悪役キャラ復活を示唆しているのでは?いやまてよ…よく彼の姿を見てください!あれはランドセル!つまり彼は童心に返っても相手選手に勝てる。という挑発です!加えて、相手選手が試合前に禁じられている飲酒、つまりシャンパンを飲んだ事を暗に示すが、その場合この試合は没収試合となり、多くのファンを悲しませる結果となってしまう。それでも相手選手の将来性を見込み、マル選手は全てを不問にし一緒にこの試合を盛り上げていこう!そういう熱い感情を込めているに違いありません!」

「なるほど!それが事実ならマル選手はとんだ大きな心意気をもった選手になったということかぁ!体は小さいが、心はジャイアントなマル選手の活躍に大いに期待です!」



「いや前置きなげぇわ!脳内プロレスのディティールにこだわり過ぎ!」


と突っ込むと、おおー。と倉橋から拍手が送られる。


「凄いですね、息ぴったり!コントというものの神髄をここに見た気がしますよ。」


まったく心にもないことを平然といえる性格にも関わらず、爽やかさが失われることもない。ゆえに好感度がなぜか下がらないキャラに心憎さを感じる。

「は!まだ、修行がたんねぇな。あんなでぶっ倒れるとはよ。地獄で寝てたらピーピーうるせえから、戻って来ちまったぜ。」


どうやらまだ、世紀末レスラー気分を引きずっているらしい。面倒なメタル野郎だ。


「は!あんなナマズ一匹の一撃で地獄なんぞにいくか!せいぜい、幼児用の噴水プールの深さぐらいのもんだろ?」


おそらく、10cmから30cm。計ったことないけど。


「どうです?ここら辺で素直にお互いの生存を喜ぶのはどうでしょうか?」


お互いの手を合わせて、握らせてくる。

最初は気恥ずかしくて、正面を見れなかったが、お互いにがっちりと手を組み、生きてることを確認した。


「ありがとうな。おかげで助かった。」


マルにしては素直な表現だ。


「こっちこそ、ありがとう。大鯰はとりあえず大丈夫だったみたいだし。」

「じゃ、もう朝なので、帰ってくれますか?あとはまた連絡しますし。」


完全無欠を誇る倉橋が欠伸をしてるなんて、おそらく人類史上初めて見た光景だ。

なんでも、マルが目覚めたのも、ほんの数時間前だったらしく。その間ずっと寝ずに見守っていたらしい。


その後はと言うとだ、無事にフツヌシノカミに報告し、証を手に入れることができた。

ヒカルもついでだからということで証を貰っていた。

ついであげるなら、そもそも課題なんてやらなくてもいいんじゃ…。

もちろん、そんな事は言えなかったが。


倉橋もタケノミカヅチから証を貰うことができたそうだ。


そう言えば、途中で消えてしまった天神様に一応お礼の挨拶と倉橋の能力の一時貸与の話だが、

天神様いわく、


「あんなの自分で倒したんじゃないから、対価はいらないよ。知りたいことは自分で知るさ。

あ、それと延長した分は黒猫君の元バディから頂いたから、それも無しでいいからね!」

と元気よく、追い返された。


天神様の挨拶の帰り道。自分は昔話をした。


「なあ、倉橋。思い出したわ。倉橋の家族と会ったこと、その時父さんも母さんも一緒にいたこと。」


「今更思い出したんですか?」


「うん。父さん忙しくてさ、なかなか休み取れなくて、その日やっと遊べると思ったら神社、神社って。神社ならお正月にいつも帰ってるのにさ。」


「羨ましいですね。その感覚は。大人達の思惑に気づくのが早すぎるのは、子供でいれる時間を無くすだけですからね。」


「そっかぁ。いま思えば、しがらみってやつだったんだろうな。それでもさ、その日に近くの大きな公園まで歩いていってさ、キャッチボールしたんだよ。最初で、最後の。」


「なるほど、最初で最後のキャッチボールですか。うちの場合、まず最初が無いので、最後もないですね。私はまず親との会話のキャッチボールが難しかったですからね。共働きですし。」


「な、なるほど。なかなか倉橋も苦労してるんだな。でだ、キャッチボールの時父さんこんなこと言ってたんだよ。投げた言葉は返ってくる。いい言葉を投げれば、いい言葉が返ってくるから、カケルは信じて言葉をかけろって。」


「そうですか。いい親御さんですね。父は研究にしか興味ないですからね。どうせ一緒に外にいってもフィールドワークのついでですから。」


なんか、この数回の会話だけで、倉橋の家庭環境が複雑なことは理解できる。


「そ、そうか。でも、あの時、マルが闇に取り込まれてた時、ふと父さんの言葉を思い出したんだ。だから何となくだけど、ここの場所はやっぱり縁のある場所なんだなぁって、思ったっていう話。」


「そうですか。正確には公園の方が思い出の場所でしょうけど。因みに公園には縁も緑も溢れていますし。」


「あ!それを言うかね!風情がないなぁ。」


「風情ですか。風情とは広辞苑によれば、おもむき。あじわい。情趣。〜」


と手厳しい反論が始まり、その日はボッコボコだった。

それでも、なんとなく。


友達にはなれないけど、仲間にはなれる。そう思った。



第6章終わりです!


まったく関係ないプロレス会場に読者の皆さんを引きずりこんだことは誠に申し訳ございません。

これは恐らくマルが仕組んだ罠に違いない…

ということは既に作者へのマルからの場外乱闘への火蓋は切っておとされているのか!?


あれ?マズイ!!またプロレスネタを挟みたい衝動が…ウッ…グッ、グッ…


以降は何とか堪えるので(多分しません…恐らくしません…やったらすいません!)どうか次回も読んでください!


第7章は学校でのお話もあります!しかし学校で輝く者もいれば、学校で泣く者も…

カケルはどっちなんだ?


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