表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/151

第6章 ② 共闘戦線

第6章 ② 共闘戦線


決戦の日は昼まで寝て、夜に備える。「寝る子はよく育つ」と言うが、「昼間寝る子は夜起きる」の経験則を実践した。なぜなら、眠くなりすぎて途中倒れこむような事態はなんとしても避けていきたい、との思惑故だ。(ようは最近何故か意識を無くしている事が多いという反省からだ。)


聞くに倉橋の作戦では、夜行性の鯰を川から誘き出して、道真公の分身を使って倒すらしい。

もちろん分身だけでは足りないので、倉橋が神使の力を使って闘うから、自分は見てればいいと言われたが、当然そんなありがたいお言葉に従う義理はなく。ばあちゃんの護符に、マルの式神用のお札も持参していく。


マルにはもしもの時は解放することも事前に確認しておいた。


「おう!鯰なんて、焼いて食ってやる!」


あの梟の神使に再会してから完全に対抗心を燃やし、息巻いているマルだが、正直言ってこの力は有り余る力であるのは覚悟している。あの暗闇は普通ではない。そう言ったことから勘案するに、奥の手であることには間違いないが、代償がどのようになるかも予測不能では使用は避けたいところだ。

そのため、なるべく通常戦闘でも戦えるようにと、久々に自分でも術式を構築し霊力を込めた札を作った。そうして準備万端で、敵地へと乗り込む。という運びになったのだ。


そして決戦の火蓋は切って落とされた。

まず、倉橋とは別々の入り口から大鯰の精神世界へと入る。そして倉橋側の封印である大鯰の頭の鎖を解放して、動ける範囲を広げ、地上戦へと洒落込む形だ。尻尾の鎖は繋がれたままだが、

それでも想像以上に動きは活発になり、大鯰は水面から跳ね上がっている。縛りが一つ無くなった大鯰は相当手ごわそうな相手である事は容易に理解できる。


「こっちの封印は解きました。中森、どうぞ始めてください。」


冷静な倉橋の開戦の合図から、囮として橋付近を歩く。

すると案の定、自分目掛けて食らい付いてくる。大鯰の攻撃を急いで避けて、川の中から地上の河原へと誘導する。敵のスピードを考慮するに、得意の水中戦を行われたんではとても敵わない。

そのためにまずは目一杯引き付ける必要があったのだ。そうして上手く地面へと誘導したタイミングで、もちろん彼らの力も借りる。二回三回と、自分に食らい付こうとする大鯰はおおよそ川縁から3メートルは引き離す事に成功した。それを見て、懐から式神の札を取り出し、霊力を込める。


「今だ!霊力解放!ここにきたらん!天の雷!」


詠唱に呼応するように、パァーンと一筋の光と雷鳴が鳴り響く。

初撃の雷撃は大鯰には直撃し、ビリりと痺れ一瞬白目をむいたが、まだまだ戦闘意欲は旺盛なようだ。

そんな大鯰に先制攻撃を加えた雷光は河原に舞い降りて来る。雷光を纏って道真公と、牛車を引いた牛の神使が現れる。彼もまた電撃を帯びた姿で、迂闊に近づけばこちらが感電死しそうな危険性を感じる。


「はぁ。やっぱり呼ばれて来たけど、鯰退治とはね。もっと趣がある、歌界とかにしてほしいよね!」


多少の文句は言うものの、剣を振りかざすその力は本物だ。初撃の攻撃から束の間、剣から放出された、雷撃が大鯰に直進していく。


「ゔぉぉおお!」


唸りをあげる大鯰が河原の石を物ともせず地面を抉り、土の壁とする。相手も流石に二回も同じような技を食らう気は毛頭無いということだ。放たれた雷撃が土壁に吸収されると、その土壁を尾びれで自ら破壊し、こちら吹き飛ばしてくる。弾丸の速さにも匹敵する土や石の攻撃に一行は守りを固める。(天神様と倉橋は防御結界なるものでガードするも、自分にはその技術はないためひたすら後ろに下がり急場を凌ぐ有様だ。)


「あちゃー。こりゃ手強いね。やっぱり電気には敏感なんだな、こりゃ。」


天神様は地面に着地すると、連れてきた牛車の中を探っている。後退を余儀なくされた自分は大鯰の攻撃が小休止したのを見計らい合流をして意識疎通を図る。


「おいでくださりありがとうございます。どうかなさいましたか?」

「いやぁ。ね。剣一つじゃ心許ないじゃない?色々な武器持ってきたから使ってもらおうかなぁと思って。」


そう言って牛車の中から弓矢と、薙刀を取り出す。取り出された二つの武器は霊力を込めれば相当の力が発揮できるだろう事は自ずと分かる。

弓はその射手いての腕力すらも強化し、矢の先についた金の鏃は敵を貫き、白梟の羽で作られた矢羽は正確に標的へと向かわせ、敵を射る。

光を放つ薙刀の刀身は穢れを寄せ付けず、闇を祓う。そのような効果を付与された武具は劣化することはなく、まさに神話の世界、神の武具と言える。

「弓矢は梟くんのほうが似合ってるかな。てなると、薙刀は君だね。」

自分の背丈を超える薙刀を渡される。

「霊力を込めれば、雷の力が使える。振ってごらん。」

そう言われるので、霊力を込めて太刀を振ると、雷を纏い、いかにも攻撃力が上がってる気はする。

「ありがとうございます。」

「はい、どういたしまして。それじゃ!ちょっとの間、時間稼ぎ頼むよ!」


天神様は詠唱を行うと、霊力を溜めている。


「ええっ!戦ってくれないんですか!」


面前に迫る大鯰に、雀の涙のように、斬撃を浴びせるも、全く効いていない。いくら良い武具を渡されたところで、それを生かす才覚がなければ宝の持ち腐れだ。

必死に斬撃を飛ばすも、大鯰にとっては爪で引っかかれる程度で重症にはならない。

かといって直接腕力を以て相手に切りかかる。という捨て身の作戦を取っても、致命傷には程遠い。仕方なく斬撃で相手をいなしつつ、味方の援護射撃を待つという消極的作戦を取らざるを得ない展開になってしまう。繰り返し振りかざす薙刀の重さに自分の上半身が遂に悲鳴を上げる。おまけに敵の攻撃を素早く避け続けていたために足の筋力も限界が近づいている。満身創痍の体を動かしては、時間を稼いでいると、ようやく声がかかる。


「中森!一歩下がって!」


すると倉橋は先程渡された天神様の弓矢で霊力を込めた一射で攻撃する。するとその威力は凄まじく、ミサイルが飛んでいったのかと思うくらいの爆発で、辺りが土煙で見えなくなる。


「避けろ!カケル!」


土煙のせいで辺りが見えずにいると、声が聞こえ、横から突き飛ばされる。咄嗟のことで分からず混乱するが、次第に視界を取り戻す頃には何が起きたのか理解した。

マルが自分を庇い、大鯰の攻撃をまともに受けていたのだ。邪魔な河原の石を薙ぎ払った大鯰の一撃。

その石の一つがマルを直撃したのだ。痛みから動けずに横たわるマルをすぐに怪我の程度を確かめる。見た目からも、感触からも分かったが、肋骨を骨折したマルの内臓へのダメージもかなりのものだ。


「マル!しっかりしろ!この!」


声をかけるが、意識がはっきりとしない。


「中森!今はとりあえずもっと引いて!相手との距離が近すぎる!それに、陸に引きつけないと、また川に戻ってしまう!」


倉橋が何か言ってるが、あまりの動揺と疲労感から、自分の耳には入ってこなかった。


「おい、何とかしろよ。お前の力なら何とかなるだろ。そ、そうだよ!時を操作して、元に戻れないか?なあ、聞こえてんだろ!」


マルを必死に抱き抱えながら、大鯰の攻撃を避けるも、攻撃に当たるのは時間の問題だった。

すると、牛車を引いていた牛の神使が大鯰に突進して、大鯰に悲鳴をあげさせる。


「少年!ちょいとデカイのいくから!下がってね!」


と天神様の詠唱が終わったのか、霊力が更に高まっている。2本指を上げ、標的に向かって振り下ろす。


「一気に頼みますよ!神の雷撃、雷光突!」


天神様が振り下ろすと、雷撃が一直線に大鯰に向かい、大鯰の身体を貫く。大鯰の体表は焼け焦げて、その衝撃から意識を失っているように見える。


「やったか?」

「いや、まだでしょうね。ふふふ。これは大ピンチです。」


大鯰は一時意識を失っていたが、今度はその眼に火を灯したように尾びれで地面を叩きつけ反撃に出る。

叩きつけた衝撃で地震が起き、立っていられない。それに加えて大鯰は大勢を立て直すために、川へと戻ろうとしている。

倉橋は地震の揺れの中、川への帰路を塞ごうと霊力で弓を放つも雷撃への耐性を持ちつつあるためほとんど効果がない。


「弓がダメならあなたの梟はどうですか?空からなら何とかなりませんか?」

「すいません。彼は戦闘向きの神使ではない。万事休す‥ですね。」


一方自分とマルは天神様の作ってくれた時間で距離をとって退避していた。


「か、カケル。聞こえるか?」


か細く、震えた声のマルの瞳にはいまだに力強さが残っている。これならまだ助かると必死に効果のありそうな術式を試していく。


「マル!大丈夫か?今、回復の術式を!」

「いや、いい。ここで、やるしかない。式神の札もってるな?」


息絶え絶えの状態になってもまだ戦おうとするマル。


「バカ!あれ使っても勝てる保障ないだろ!それに今のお前じゃ‥」

「大丈夫だ。俺は人間みたいに血はダラダラ流さないし、遺体も残んねぇ。きらきらお星様がいいとこだ。」

「ふざけんな。笑えねーよ!」


知らぬ間に目から落ちる雫が、とめどなく溢れてくる。


「いやぁ、まだ諦めるところじゃないぞカケル。勝ったら儲けもんの大勝負。このままじゃどのみち、くたばっちまう。頼むカケル。」


真剣な眼差しで自分を見つめては魂で訴えてくる。マルのここまでの本気は感じたことなど今まで一度たりともなかった。自分は意を決して胸元に大事にしまっていた式神の札を出す。


「いいんだな?これで終わりじゃないよな?」

「大勝負だ。勝っても負けても悔いない。」


その言葉を聞いて雫を拭くと、自分は覚悟を決める。


「時々流転せし、その魂、この世の縛りから解き放たれ、我が前に現れよ!」


漆黒の札に霊力を込めると、黒猫の真の姿が発現する。体長は3mはゆうに超える。黒く禍々しい霊力を纏い、その目は以前の穏やかなマルとは異なっていた。牙が剥き出しになり、体毛は逆立っている。それはマルでもなんでもない。怪物だった。


「ヴヴッヴォォーオ!」


憎悪と執念の雄叫びを上げ、大鯰へと向かっていく。

それを察知したのか、再び地面を抉り、土の壁を作る大鯰。しかし、黒猫はそれをひと掻きで粉砕する。そして右前足で、大鯰の頭を殴りつけると、次の瞬間には大鯰の上方に位置取りし、上から叩き潰さんとばかりに、胴体に打撃をあたえる。それからも四方八方から目にもとまらぬ神速で、打撃を食らわせていく。


「す、凄い。移動スピードが全く追えないし、霊力も凄まじい。」

「そうだね。しかし、単純なスピードじゃないね。あれは時間を、空間を移動してるね。あれは。」


黒猫は打撃だけでは足りないと、霊力を左前足の爪に集中させている。


「これで決める気だ。僕らは退避しようか!」


天神様は倉橋、離れていた自分を抱き抱えて両方から離れる。


「グォォー!」


雄叫びをあげながら大鯰に必死の一撃を食らわせる。


「グァァー!!」


必殺の一撃を食らった大鯰の悲鳴が空気を揺らす。その悲鳴は空気を伝い、鼓膜どころか心臓まで張り裂けそうな振動となって自分達を襲う。


その振動による直撃を避けるために、天神様も耳を塞ぎ、二人も牛車の後ろに隠れてやり過ごす。

しばらく続いた振動が収まり、両者の様子を見ると、大鯰はダウンしたようだ。しかし、沈黙した大鯰を執拗に攻撃を繰り返す黒猫。


「これは近くにいたら危なかった。この声だけで失神してしまうレベルだ。まったくあんな近くにいてまだあれだけ殴る元気があるなんてあの黒猫君は凄いね。まぁ、これで大鯰は退治できたね。大半は黒猫くんのおかげだけど。」

「え、ええ。それで、マルはあの状態から戻りますか?」

「いやぁ、それはどうだか。見るにこの神使、いや神そのものなかもしれないが、霊力をずいぶんと抑えられていたようじゃないか。あの霊力をその札に戻せれば、元に戻る可能性はあると思うが、あれに触れながら、霊力を戻すのって至難の技だと思わない?」


暴れ回る黒猫を見て、天神様は笑顔で、無理だって言いたいらしい。


「自分はやりますよ。この状況で引けるわけない。マルは命懸けで戦ったんだ。ここであいつをほっとけるわけないでしょ。」


ヒカルの意思も入った赤い鉢巻を頭に巻き、気合を入れる。


「中森は意外と熱血漢でしたか。」


その格好に倉橋も呆れた表情を浮かべるも、でも嬉しそうに笑ってる。


「よし、そしたらここからは別料金ね!もちろん、知識の神は使わせて貰うよ!別料金は後で私の願い事をきいて貰うからね。覚悟しておいてね。」

「は、はい。」

「あ!あと、これを返そう。君のお父さんの魂。さっきの黒い札を出して。」


そう言われて黒い札を出すと、天神様は掌をかざし、魂を込めていく。


「よし。できた。計算通りなら、これで、少しは彼も言うこと聞いてくれそうだからね。では、弓の少年と私は囮。君はタイミングを見て黒猫に近づき、札で霊力を回収する。そうすれば、元の可愛らしいおチビさんになるはずさ!」

「わかりました。では囮頼みます!」

「どうぞ、こっちは耐えますから早めにね!」


天神様は牛車を使い、黒猫の視線を向けさせる。


「こっちだ!」


中森も弓矢で、攻撃をして引きつけてくれている。

自分はその間に、黒猫に近づいていく。


「ありゃ、まずいな。君はどいてて!」


天神様は札を取り出すと、防御結界を張る。すると黒猫は猛スピードで突っ込んでくる。

ドン!ドン!と結界を破ろうと頭突きする。結界を何重にも重ねていくが次々と破られていく。全て破られるのは時間の問題のように思われた。


「今だ!霊力を!」


そこに自分は天神様の合図で、黒猫に近づくと手を触れる事で霊力を回収しようとするも、尻尾で薙ぎ払われる。


「いや、これはダメだわ。もうさすがに耐えられない。それに時間切れだ。後は二人でどうにか頑張って。」

すると


「パァッーン!」と結界が破れる。


そして結界が突き破られた天神様は遂に神使もろとも消えてしまう。


結界が消えて無防備になった倉橋に黒猫が飛びつこうとする。

自分は咄嗟に薙刀を投げ、倉橋への攻撃を阻止する。直撃した黒猫は視線をこちらへと向けて標的を自分へと移す。


捨て身の自分は黒猫の動きを予測して拳を打つ。奇跡的にも神速でやってくる黒猫に霊力を込めた右カウンターパンチが当たるがビクともしない。


しかし打った拳で動きが鈍る黒猫。それを感じた自分は大声で叫ぶ。


「ふざけんな!お前にはまだいっぱいやり返さないといけないことが沢山あるんだ!こんな拳一発で済ませる気か!お前がいなくちゃダメなんだ。お前とがいいんだ!目覚ませぇ!このばかぁ!」


するとその言葉にのった魂が黒猫、いや中にいるマルに話しかける。

すると黒猫の瞳のなかで、昔のマルの面影が蘇ってくる。


「なあ、マル。笑顔だろ!笑顔!お前が俺の子を守ってくれるんだろ?」


そうしてマルの魂に男との過去の記憶が流れてこんでいく。

屈託のない笑顔を向けてマルを撫でている男。

ふざながら、一緒に笑い合った男との過去の記憶だ。


「おーい。こっちだ!こっち!」

「ふざけんな!おれの分食べたろ!」

「ここにお前がいる限り、みんなの笑顔はいつまでも、いつまでも、ずうっと続くんだな!「ほれ、おやつのササミ!」


ぼんやりと浮かぶ男の後ろ姿に話しかけるマル。


「ふざけてるのはどっちだよ、コウイチ。お前が死んで、こっちはとんだお荷物背負わされちゃったじゃんか。」

「お前に託されたものがあるのに、俺はすっかり忘れるところだった。そういや、お前はいつもおんなじことしか言ってなかったもんなぁ、いつも、笑顔、笑顔ってな!ちったぁ語彙増やせや!」


そう言うと振り返った男は笑った。いつもの笑顔だ。



「おい!聞いてんのか!マル!もう、朝食の特製猫飯作ってやんねぇぞ!」


マルに必死の声が届いたのか、自分を押し潰さんとしていた黒猫が急に力なくガクンと倒れ込む。


「今しかない!早く霊力の回収を!」


倉橋に言われ、自分は黒猫に手を触れながら札に霊力を流し込む。

ビシッと頭が割れるような痛みと、あの漆黒の霊力が身体中を、駆け巡るのがわかる。

霊力を札に移し終えると、自分はその場で意識を失った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ