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第6章 ① 共闘戦線


第6章 共闘戦線


昨日はあのまま解散したが、倉橋からはすぐに連絡が来た。見るとメールの文面には最低限の要件しか記載がない。


明日の夜22時。ここにて、現地集合。黒猫の神使は連れて来ないこと。との注意書きと、地図のURLが添付されている。タップしてみると、ここって東京じゃん!

しかも都心の中心。東京大学も近いこの神社に現地集合だそうだ。


自分はそれに従い、現地に向かう。ホントの一人っきりは、久しぶりだ。それに東京にはしばらく行ってない。あまりいい思い出のない地だが、これも、何かの縁ってやつなのか?それなら、まさに自分が試されている証なのかもしれない。

そんな事を考えてると、夜道を走る自転車は危ない。途中何度も電柱にぶつかりそうになりながら、急ハンドルにて回避!を繰り返しようやく吉山稲荷神社に到着する。例のごとく社殿裏に回り込み、目的地を意識する。数ある稲荷神社の中で明確に場所を意識するのは案外難しい。

そうかと言って、曖昧な意識であらぬ所に連れて行かれたのでは敵わない。ここは集中し、地図の場所と鳥居を思い浮かべる。すると、ヒスイの勾玉が光り、みるみるうちに体が別次元に引き込まれたかと思うと、意識した場所へと放り出される。


目的地近くの稲荷神社だ。小さな稲荷神社で常駐で管理する神職の人もいない。まさに夜に中学生が異空間から飛び出てくるにはもってこいな場所だったのだ。とりあえず周囲に目撃者がいないか確認すると、スマホを取り出して目的方向へと歩き出す。時間はまだ21:50だ。ここから目的地は大通りの坂道を行くか、階段を昇る道があるようだが、自分は人目を避けるためにも細い路地を抜けて階段を昇る道を選択する。この時間帯はまだ人も多い。うっかり警察官にでも出くわした際には怪しまれるだろうこと間違いなし!の薄暗い路地裏を通り、目的地近くの階段を一気に駆け上がる。少し息があがった自分の視線の右側には既に鳥居が見えている。もちろんその下には倉橋が待っていた。


「時間ちょうどですね。」

倉橋は右腕に着けた時計を見ながら、少しの苛立ちを込めてこちらを鋭く見つめる。

「やけに時間に厳しいな。時間ちょうどなんだろ?」

「いえ、価値観の相違には乗り越えがたい壁がある事を思い知らされた。その教訓を知れただけでも今日は満足するべきなんでしょう。どうぞこっちです。」

鳥居をくぐるのかと思いきや、神社の境内に沿って作られた塀沿いを歩いて行く。

「で?今日はここの祭神である、学問の神様にお会い出来るってことか?」

「ええ、今回はお察しの通りここの主に会います。菅原道真公、天神様と呼ばれたりもしてますよね。」

「天神様か。それなら、東京じゃなくてもゆかりの神社はたくさんあるだろうに。福岡の太宰府天満宮とか、どうしてわざわざここなんだ?」

「フッ、まあ覚えてないとは思っていましたけどね。ここは、初めて中森と会った場所ですよ。そういう縁もあってここから、行く事にしました。」

「そうだったけか?よく覚えてないが。」

「まあいいですよ。そんな事はさておき、さっさと行きますか。」

「いや、そりゃ行きたいけどさ、こちらの入口も閉まってるんだが‥」

正面の参拝口も朱色に金家紋が施された門に閉ざされ、自分達の目指す本殿はおろか境内にすら入れない状況だ。


「これくらいなんてことないですよ。こちらの側からなら塀も高くない。ここからお邪魔しましょう。」


そう言うと倉橋はスーパーマンのように、さらりとジャンプして門の横に連なる塀を越えていく。

残念ながら何の手助けも無しにそんな芸当が出来るほど自分はスパイ教育を受けていない。よって縄をかけて塀をよじ登り、何とか境内に侵入する。

例によって監視カメラ等は倉橋の神使がうまくやってくれたようで、こんなガッツリ不法侵入でも警報器が作動することはない。

しかしだ、こんなことするくらいなら、どっかの末社にすればいいのに。と本音では言いたかったが、そんな水を差す雰囲気でもないため口を噤む。

拝殿からの侵入も本殿へとつながる扉の開錠も手際よく行う倉橋を後ろから見ていると実在のスパイの世界を見ている気分だ。

「倉橋さぁ、そんな開錠技術とかハッキングみたいのはどこで習うわけ?」

「これですか?これは自然と身に着けました。常識ですよ。寄宿学校でも養成機関でもこの程度技術は入門編みたいなものです。もっと難しい施設へのミッションもありますから。と言っても中学生にはこの程度の難易度のミッションしか来ませんが。ほら、開きましたよ。」


会話をしつつ平然と警備システムの解除を行い、南京錠を数十秒で開錠するのが常識の世界に生きてる人は常識では非常識と言う。しかもさらっと養成機関って危なそうな団体の存在を明かしてるが、それはいいのだろうか?これは後で口封じさせられるフラグではないことを祈る。


薄暗い本殿の中で目を凝らしていると、奥には丸鏡があることが分かる。


「さあ、ここだ。ここから先はちょっとした通行証が必要なんです。手を出して頂けますか?」

「それは別にいいけど、通行証ってどんな物なの?」

「通行証とは言いましたが、正確には物ではありません。僕が持つ繋がりを霊力で同じように付与するだけですから。」


そう言うと出した左手に中指で何やら印をなぞる。するとなぞった跡が光り輝き、五芒星が浮かび消える。


「いまのは?」

「簡易術式ですよ。本当に自分の繋がりを譲渡するとなったらこんなものでは済みませんが、今はこれで十分です。そしたらこれで中に入れます。そしたらお先にどうぞ。僕は後から行きますから。」


自分は倉橋に誘導されるがままに従い、本殿にあった鏡に触れる。すると意識がフッと沈み込み、再び意識が浮上した頃には石畳の地面に四つん這いになって手と膝をついていた。


土埃を払うように立ち上がって辺りを見回すと、寝殿造の建物があり、庭もついている。どうやら誰かの家の敷地らしいことは理解できる。


「着きましたね。これが、道真公の精神世界か。やはり、生前の記憶から構成されてるらしい。こんなに現実世界と似てるとは。」


四つん這いになっていた自分とは対照的に二本の足でしっかりと立つ姿の倉橋には余裕を感じさせる。それでもこんな精神世界は見たことがないらしく、周りを閲しては感嘆しているのがかえって印象的だ。


「ああ、どっちが本物か区別がつかないな。」


自分も空に浮かぶ雲と、月を見上げる。精巧な造りで彩られた本物に限りなく近い世界。その姿に自分も関心していると、機を見ていたように話しかけてくる者がいる。


「ええ、これは本物であり、偽物ですよ。」


そう言うと母屋の暗がりから、一人の男が出てきた。やはりと言うべきか、狩衣に烏帽子の平安貴族スタイルだ。その姿を見るや倉橋と自分はすぐに頭を下げる。


「恐れ入ります。私、ヤゴコロオモイカネノミコトと契約し、今宵、道真公のお力お借りしたく参上し、奉りましてございます。名を倉橋晄と申します。」

「そうですか。ここまで、来られるのは特別な者のみです。そして、縁のあるもの‥ですからね。それで?何をしろと言うのですか?私も神になったとは言え、誰から構わずお助けしろと言われても、正直なところ、嫌なのです。本音は自助努力をおすすめします。」

「ええ、道真公のおっしゃる通り。しかし、私共の相手は、精神世界の、大鯰。神が封ぜし、怪物です。いささか、人間の手には余る。そこで、道真公にお願いできないかとお頼み参った次第でございます。」

「ふむ。そうですか。大鯰ねぇ。確かに鯰は切ったことも、あります。しかし、神が抑えるほどのものではありません。私であってもいささか、荷が重いですね。」

「もちろん、タダでと言うわけではありません。これをご覧になってください。」


倉橋は梟の神使を招来させると、梟は純白の翼を開き、自から白き光を放っては周囲を眩ませる。倉橋がそれに消えていくと、あの日見た、眩い光とともに白装束に包まれた人が現れる。


「ほぉう。神と同化、所謂神降ろしですか。これは凄い。」

「ええ、この状態であれば、ヤゴコロオモイカネノミコトの力の一端を使うこともできます。道真公の望む。この世でのあらゆる知識をご覧になられることも可能です。」

「この世での‥ですか。そうは言っても、とても魅力的な提案です。もちろん、成功報酬と言ったところですかね?」

「申し訳ありませんがそのようにして頂きたい。こちらとしても提供できるものが少ないもので。もし今すぐ提供せよとお申し付けならば、我々の魂くらいはなんとかなりますが?」


それは本音を言えば承服しかねる条件であり、それを倉橋は勝手に付け加えている。ならばここは訂正をするべきところだろうが、頭を下げて両者の話を聞くしかできない自分には不承不承ながらも従うしかない。


「いえ、そこまでの横暴は言いません。そうですねぇ、それの代わりにといってはなんですが、そこの彼の魂。いや正確には君のお父さんの魂を預けてくれませんかね?」


両者の会話に入れず、ずっと下を向いていたが、途端に話を向けられて思わず、見上げてしまう。顎鬚を蓄えた俊秀なる人の姿には、厳めしい印象より実直さを印象付けられる。


「お、恐れながら、私の父の魂でございますか?」

「そうです。あなたについてる魂と話がしたい。その魂は私の知りたい知識を持っている。」

「申し訳ありませんが、私には父の存在は感じられないのですが。」

「いいえ、確かにあなたの肩に付いているじゃないですか。」


そう言うと、天神様は首飾りに触り、ふわふわとした白い塊を抜き出す。


「この魂は恐らくはあなたの守護がメインなのでしょうが、調べるほどに非常に興味深い。人間の魂の純粋さとはまた違っています。これを私に預けさして頂けるのならこの上ない喜びなのですが。了承していただけますか?」

「ええ、天神様がそれでよろしいのであれば、どうぞお気になさらず。」

「そうですか、ありがとう。この魂は必ず返します。いえ、解放すれば、恐らくあなたと元へと帰るので心配は要らないと思いますが、その間あなたたちの守りが手薄になりましょう。その間には、私の分身を与えましょう。この札を持ちなさい。」


すると式神用のお札、二枚セットを手渡してくださる。二つのお札それぞれには天神様の霊力を込めたもの、もう一つは天神様に仕える神使の力が込められた札だとのことだ。

必要な時にはこれを用いて呼び出すらしい。式神の普段使いすらした事がない自分からすれば、こんな神様を呼び出すなんてなかなかのハードルの高さに辟易してしまいそうだ。


「この術符を用いて、私の分身を召喚しなさい。さすれば、大鯰の遊び相手にはなるでしょう。あとは、あなたたちの力次第です。神をも超える人間のパワーに期待してますよ。」

「ありがとうございます。活用させていただきます。」


お札を頂き、礼を述べて道真公の精神世界を後にしようとすると、後ろから呼び止められる。


「そうだ帰り道は分かりますか?」

「ええ、我々は元来た道を戻ろうかと考えておりますが、何か問題でも?」

「そうでしたか。実はこの世界は私の趣味もあって複雑な仕組みでして。ですから特別なことをしなくても想像するだけで元居た場所に戻れますよ。かえってこの世界で入口や出口と言った概念を探すと迷うように仕向けているのでね。畢竟、出口を探すよりその先の目的を想像するのが重要だということです。」

「それは大変重要なことをご教示頂きありがとうございます。」

「いいえ、帰り道に迷って人生を棒に振るのは勿体ない方々ですからね。どうかお気をつけて。そして近いうちにまた会いましょう。」


その言葉にしばしの別れ挨拶を交わし、言われた通りに戻りたい目的を思い浮かべる。すると今度は意識はそのままに神社の拝殿へと戻される。

戻ってきた倉橋は何事もなかったかのように警備システムを復旧させるなどあらゆる痕跡を消し、隠蔽工作を済ませる。

足手まといにならぬように先に境内の外へと出た自分は、街頭の明かりが一つ照らす下で倉橋を待つ。

何食わぬ顔で、再び塀を乗り越えて出て来た彼はその場に留まることなく歩き始めた。自分はそれを追いかけるようにして小走りして追いつく。


「お疲れ様。なあ、ちなみに初めから首飾りに父さんの魂がいるって知ってたのか?」

「ええ。まあ。君の父、中森虹一の存在は吉山稲荷でお会いした時から感じてはいました。」

「なんだ、そうだったんだ。それなら、はやく言ってくれればよかったのに。」

「それは無理でしょう。君についていた魂の存在を証明しようにも、見えていない人には理解できませんから。」

「そうなんだ。それはなんかすまん。倉橋って魂とか見えるんだ?」

「ええ。物心ついたころから。迷える魂は多い。だが、君のは特別だ。迷い魂とは違うもの。

だからあの道真公も興味を示したんだと思いますよ。」

「そうなんだ、肝心の自分はまったく感じ取れていないけど。」

「君も修行すれば感じることも、見ることも可能ですよ。それをするかは君次第だと思うけど。ではここらへんでお先に失礼しますね。」

そう言って倉橋は手を上げて朱色の鳥居が連なる稲荷神社の前で消えてしまった。都心に寂しく残された自分は、掴みようのない倉橋に矢も楯もたまらない感情が渦巻いていた。


時計を見るともう、24時だ。田舎と違い、こんな所でウロチョロしてると、やっぱり補導されかねない。急いで稲荷神社経由で吉山稲荷神社に戻り、田舎の空気を味わう。新鮮な空気を味わった後は相変わらず自転車での帰宅だ。自宅のガレージに駐輪すると、玄関先にマルが何故か出迎えてくれた。


「おう、お疲れ。明日だろ。決戦は。」

こういうところは何となく察しがいい。人間の気持ちをこれくらい気遣ってくれれば、愛護動物として家族の一員であることを認証するだろうに。

「正確には今日だけどな!」

頭をくしゃくしゃに撫でて、愛でるとなんだか、安心して自分は眠りについた。

今回は短めです。次回はバトル要素も!なんか雷ってカッコいい…

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