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第5章 ⑦ 仲間とナマズと?

第5章 ⑦ 仲間とナマズと?


翌朝は普通に登校し、通常授業を受け、帰宅する。今日は化学研究部の活動もないらしく、

ヒカルと一緒に家に帰る。といっても自転車に乗って帰るわけだから、会話が弾むわけでもない。髪をゆらゆらと揺らし、先を行くヒカルの後ろ姿から、夏の風から、秋の風へと変わるのを待ち遠しく感じた。秋の風なら、彼女をもっと近くに感じられる気がしたのだ。こんなことを考えるなんて、自分は終わらぬ太平洋高気圧優位な気圧配置に、嫌気がさしていたのかもしれない。以上叙情。


家に着けば、当たり前の様にヒカルを迎え入れるうちの家族にも驚かされる。


「あら、ヒカルちゃん来たんだ。ケーキ冷蔵庫にあるから食べてってね!」


そう言ってリビングの母親は何の警戒もせず、テレビを見ながら、大笑いしてる。


「美空さん、ありがとうございます!」


彼女がうちの母親を下の名前で呼ぶのはいつものことだ。そして、小慣れた感じに冷蔵庫からケーキを二つ出し、台所から出したトレイに載っける。


「じゃ、先にカケルの部屋行ってるから、後はお茶よろしく!」


お嬢様はサーブする執事の心意気に歯牙もかけることなく階段を駆け上がっていく。

それでも自分は言われた通り、お茶を入れる。それが信頼に足る執事たる所以だろう。

ヒカルは、コーヒーは嫌いなので、絶対に紅茶だ。なかでもアールグレイが好きらしい。家の中ではもっぱらコーヒー派が主流なので、戸棚にはインスタントコーヒーからコーヒー豆まで、揃っているが、紅茶はお客様用しかない。そもそも紅茶を飲んでるのはヒカルくらいなものだろうが。

自分は用意した、ティーカップ二つと、ティーポットをトレイに載せて、2階へと上がる。

部屋を開けると、マルがヒカルの膝の上で、猫を満喫している。


「ほほほ、ヒカルは猫を撫でるのが上手いなぁ。」

「ふふふ。マル君もなかなか猫やってますな。」


と呑気な奴らだ。


「おーい。持ってきたぞ。あ、ヒカル俺のケーキ食べたな?」

「え?食べてないよ。ちゃんと残してるよ。」

「嘘つけ、上のトッピングにあったチョコレートといちごがなくなって、ただのノーマルケーキになってるだろうが!」

「ええ。いいじゃん。ノーマルケーキすらも食べちゃおうかなぁ?って思ってたんだから、結構温情采配だと思うけど。」


いや誰に対して温情采配してるんだか。自分に対しては非情な采配だ。


「いや、待て、この三角の先っぽ!ここも食べたな!」

「バレたか。」

「はぁ。いいよ。ヒカルが食え。お腹空いてたんだろ?」

「え?ホント?ありがとう!じゃあ、サービス。はい、アーン!」


差し出されたケーキを何の躊躇なく自分はケーキを「パクリ」と一口だけ頂く。ヒカルは何か不機嫌な顔をしたような気もするが、おそらく二つ目のケーキはさすがに重く感じたのか、それか、アールグレイではなく、ダージリンであることがバレた。その程度の事だろう。

以上推察。


「よし、ヒカルの元気が出た所で、作戦会議といくか。ではまず、倉橋についてだな。ではヒカル!倉橋についてどうぞ!」


何か考えごとをしてたのか、ヒカルの反応が遅れる。


「え!いきなり私?えっと、倉橋君の事だよね。えっとどこから話せばいいんだろうな。まず倉橋君は皐月先生とは親戚です!」

「ヴッ。なな、何て言った?」


熱い紅茶を吹き出すわけにはいかず。口元を抑えるのに必死になり、ちゃんとした理解ができない。というか平生でもすぐには理解が追い付かない話だ。


「だから、倉橋君は、皐月先生は親戚で、一緒に暮らしてます。」

「はぁーあ?どうゆう事だ!だって苗字も違うし、そんな事一度も聞いたことないぞ!」

「いや、だって誰にも言ってないし。ホントは先生からも言わないように。って言われてたんだもん。」


「ズドーン」と、雷に撃たれるような感覚とはこのことだ。自分は以前にも似た感覚を味わっている。


幼稚園の年中さんの時だ。以下追憶。


駐車場にある月極の文字を、自分はゲッキョクさんという人物が全国の駐車場を知的財産的な権利にて、牛耳っているのだと盛大に勘違いしていたのを、ヒカルにツキギメと読むのだと教えられ、

単に月毎に駐車料金を支払って契約しているだけだと、教えられた時の感覚。

知識を得たからこそ経験する、羞恥と喪失。そう。自分はあの時何かを得て、何かを失ったのだ。


「えーっと、追憶終了した?てか戻ってこい!カケル!いつまでボケーっとしてんだ。話を聞け!」


ヒカルに前後に体を揺らされて、ようやく意識が戻ってくる。


「は!ご、ごめん。つい、意識が。」

「なんか最近のカケルは簡単に意識持ってかれ過ぎじゃない?」

「そうだぞ。人の話はちゃんと聞くもんだ。」


ヒカルがもつ猫じゃらしと遊ぶ、何処ぞの誰かには言われたくない。以上黒猫への文句。


「で、つまり、倉橋君からみて、お母さんの妹さん。つまり皐月先生はおばさんにあたるわけ。」

「そ、そうだったのか。と、すると、まさか早川先生も関係者か?」

「いや、それはないはずだ。そうだろ?」


猫じゃらしを上にあげられて猫パンチをするも手が届かず、ヒカルに弄ばれるマル。

この光景は恐らく、「呑気」を具体的に描いたテンプレ絵画のそれだ。


「そうだと思うよ。倉橋君のお父さんは高校の時には東京に出て、それっきり戻ってないみたい。それで弟さんが神社を継いだらしいけど、その弟さんは去年亡くなってる。おそらく関係したとしてもお父さんの方でしょ。お母さんもこの吉山町の出身だけど、早川さんの家が神社の関係者だって聞いたことないし。」


「そっかぁ、そう言えば、倉橋って中学からこっちに引っ越してきたんだよな?」

「そうだよ。その時にうちに挨拶にしに来て、色々案内とかしてあげたし。」

「えっ?お前らそんな前から仲良かったのか?それになんで、ヒカルの家に挨拶に行くんだよ。」

「え?そりゃ、パパは県議会議員。お爺ちゃんは県知事だからかな?」


そうでした、紅茶を飲んでるこの方はお嬢様だったことを忘れていた。権力者には挨拶周りがつきものなのだ。


「そう言うことか。それは理解した。うちとヒカルの家の繋がりと似たようなもんだろう。それはいい。でもだ、なんで部活動まで一緒なんだ?それにあいつ部活動に参加してる所なんて見たことないぞ。」


「まあね、幽霊部員だから。あ、ちなみにカケルも化学研究部の部員だって知ってた?ほら!」


ヒカルは全ての物の配置を理解してるかの様に、自分の部屋に無造作に置いてあった、生徒会広報誌「きぼう」を、部屋を一瞥しただけで発見する。そうして発掘した書物はこの部屋では最も焼却処分が近い物、つまり燃えるゴミとしてこの部屋で残り少ない寿命を謳歌していた所を急遽呼び止められた格好だ。この発見で書物の寿命が延びたのは幸か不幸か、その答えは知る由も無い。以上雑談。


ヒカルは燃えるゴミの箱から帰還を果たしたその書物の23ページ、化学研究部の欄を見せてくる。

それをみて驚愕した。


部長 佐藤結美 

副部長 三上光

会計 朝長未来 

この子は知らない子だが、ヒカルによれば、


「未来ちゃんはいい子でね。ほんと可愛いの!この前は忙しくて、来れなかったんだけど、今度会わせてあげるね!」


というわけで、正規部員らしい。しかも今年入った一年生らしい。しかし、ここからはより一層知らぬ事実だ。


書記 倉橋晄 

雑務 中森翔


「いや!雑務ってなんだよ!」


思わず広報誌をパン!と閉じる。


「いやぁ。部員が5人以下になると、大会参加とかできないし、部としての活動費が学校から貰えなくなっちゃうの。だから、名義貸しさせてもらったわけ。別に大丈夫でしょ?他に入りたい部活とか無さそうだし。しいて言うなら軽音部とか?」


部屋の音楽コレクションをぶっきらぼうに触る。自分はその行動と発言を簡単に首肯するわけにはいかない。


「おい、せめて人の承諾を得てからにしろよ。それと、肩書きも、「雑務」って。しかも一年生よりも、倉橋よりも下の階級なのか?」

「やだなぁ。肩書きが気に入らなかったの?そしたら‥「名誉部員」とか?」

「それっぽいが、完全に幽霊部員と言ってるのと同じだ。」

「まあ、いいじゃん。細かいことはさ。それにカケルは部員なったことで、いつでも部室に来ていい権利を得たと思えば、安いもんでしょ?」

「その権利は行使すると死ぬかもしれないから遠慮しておく。」


冗談抜きに、ルナさんの目がある場所で、早川先生との対面は死の覚悟をしなければならないだろう。自分もまだ、命が惜しいのだ。以上人命第一。


「そっか。まあ‥いいけど。」


ヒカルはなんだか怏怏として楽しまずといった顔をしてるが、安心しろ、あそこにはいかずともルナさんと遭遇しない、職員室と第一理科室なら喜んで行くのは保障しよう。


「よし。倉橋のことは分かった。それでだ、問題は大鯰をどうするかだ。昨日は倉橋が詳しいとか何とか言ってたな?」

「うん。倉橋君は理系全般得意だけど、特に生物は群を抜いてるかも。全国模試もいつも5位までには必ず入るし、総合でも10番代だから、ホント凄いよね。なんでうちみたいな、公立中学校にいるのか不思議なくらい。」


あいつはそんなに頭もいいのか。クラスでも頭のいい方なのは知ってるが、そんなに好成績を連発してるイメージはないが。


「ふーん。で?ヒカルが言ったら教えてくれるわけ?ナマズの扱い方。」

「うーん。そう言われると、自信ないかも。なんか倉橋君っていざ話す!ってなると案外話しかけづらいし、カケルの方がいけるんじゃない?」


そう言われてみれば、この前は家も貸してくれたし、言えば意外と‥なんて展開を期待してしまう自分がいるが、まあ低い可能性に期待するよりは自分達でどうにかする方策を考える方が利口な気がした。

よって倉橋に頼る作戦は頭から取り去る。


「んん、それでも微妙だと思うから止めておこう。」

「んじゃ考えて仕方ないな。とりあえず、大鯰。こいつを見てみるか!敵を知らずして、対策も立てようがないからな!」


そう言うマルはどうにも大鯰がどんな感じなのか気になって仕方ないようだ。


「え!それ賛成!私ももしかしたら大鯰と仲良くなれる才能あるかもだし!」

「おーい。なんのために集まったんだよ、結局出たとこ勝負かよ。」

「カケル、人生なんて出たとこ勝負!集めた牌が勝負を分けるんだ!」


と決め台詞のように言うマル。見てるだけでも気分は、上がり役は国士無双!と言いたげだ。どれだけの役かは知らないが。以下余談。


「パイ?なにそれ。何かの映画?」

「ああ、この前見た人生を賭けて麻雀に挑む映画の主人公の台詞。」

「ふーん。」

「他にもあるぞ、「人の凄さってのはな、死んだ後にわかるもんだぜ。」とか。」

「えっ。何それ?どんな場面で言ったの?」

「闇金に借りた金をスロットに突っ込んで散財した後に、借金取りに捕まって海に投げ捨てられそうになった時に主人公が言ったセリフ。まさに時世の句かと思ったぜ。」

「へぇ。」


麻雀の映画なのに、スロットが出てくるのはなんだかよくわからないけど、一つ確かなことはある。

セリフの割に場面が死ぬほどだせぇ。以上余談完結。


「じゃあ早速出発ってことで、私は家に寄って着替えてくるから、先に稲荷神社に行ってて!」


しばらくの沈黙の後、話が逸れたのをきっかけにかばんを持ってヒカルは行ってしまった。


取り残された寂寥感をきっかけに自分は漠然とした虚無感に襲われたのは、映画の主人公が示した一部の大人の姿によるものだと推察されるものの、これと言って決定打に欠けるのは主人公のセリフだけを切り抜いたら少しはマシな人生もあるのかもしれないという希望もあったゆえの苦悩かもしれない。どうせなら弟子に未来を託して湖に沈んでいくシーンで言って欲しかった。(個人的にその漫画が好きだ。諦めないド根性。忍び堪える者最高。)


「そんじゃ、カケルと俺は先に稲荷神社行くか。」


沈み込んだ気持ちを奮い立たせるには何かきっかけが必要とは感じてはいるが人生のバイブルは絶賛ツヨシに貸し出し中だ。それなら格好で。との結論に至り思案するが、これもまた答えが出ない。そこで期待した答えが得られるとは思えないが、一応マルに聞いてみる。


「でさ、格好は何の方がいいと思う?」

「そりゃ、どうせ汚れるだろうから、ジャージだろ。潔く、生贄になりたいってんなら、白装束でも構わないけど。」


それに関しては即時回答する。


「それは遠慮しておく。」


自分は結局ジャージに着替えて、一応、「頼れる!魚介類飼育のお手本」

をバックに追加して入れ、出発する。案外この本の表紙の「ギョギョ魚!おさかなさん!」

と鉾フグ帽子の男性の吹き出しのセリフが一番のカンフル剤になったのだから、自分としてはまさに「ギョギョギョ!」なのだ。

おかげで気分も上向き、もはや慣れた道を自転車でスイスイと漕いでいく。

身軽なジャージとなった自分はそういう所でもストレスから解放されたのは大きな要因になっている。こうも早く漕げるものかと、今までのタイムロスを嘆きつつ、ほんとにあっさりと稲荷神社に到着する。以上道程紹介。

しかし早く着いたところでヒカルが到着するまでは、暇なので、この際稲荷神社を調査してみる。



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