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第5章 ⑥ 仲間とナマズと?

第5章 ⑥ 仲間とナマズと?



「よおおし。これで、全員到着‥ですねぇ。」


ルナに気をまわしつつ、人数を確認するマル。


「ええっと、ここはどこですか?」


との自分の疑問に、ポンとマルの手が頭にあたる。


「痛っ。なんだよ。何か記憶が混乱してて、稲荷神社まで行ったのは覚えてるんだけど、その後が思い出せないし。もうフツヌシノカミの精神世界に着いたのか?」

「ええ、そのようですよ。辺りを見れば、そんな気はしますけど。」


ルナは首を動かして辺りを見回す。


「す、凄い数の剣だね。まるで、剣のお墓みたい。」


興味関心が常人とは少しずれているヒカルは本数を数えているが、数える意味あるんだろうか。本当に謎だ。


「ああ、これが、フツヌシノカミの精神世界。まさに、神自らを象徴してる世界だ。」


地面に突き刺さる剣を眺めているマル。どうやら剣に写る自らの姿を見ては毛艶を確認しているようで、こちらも自由人極まりない。

そう言う自分であってもこの世界には瞠目(どうもく)した。ずっと先まで、剣がそこら中にあるが、それ以外が見当たらない。正真正銘の剣の世界だ。こんな世界は現実ではまずありえないし、今後お目にかかることもないだろうからと、この目に焼き付けておく。そうは言っても地面も乾いた大地で、これでは作物は育ちそうもないのは残念に思ってしまう自分もいるのだから人間の感情とは複雑で難解だ。


「では、参りましょうかね。フツヌシノカミは恐らくこっちなので。」


綺麗に剣の刺さっていない場所が真っ直ぐに続いて道になっているところを進んで行く。


「恐らく、フツヌシノカミは武神。挑んでくるものは拒まない。と言ったところでしょうね。それとこれを。カケルの持ち物です。」


自分のバックを放置せずに持って来てくれたルナが渡してくれる。せっかく自転車で運搬してきた道具の数々が日の目を見ない展開は避けられそうで安心する。


「ご、ご親切にどうも、ありがとうございます!」

「凄いね。ほんと。大地はパサパサ。上は結構風が吹いてるみたいだし、神様によってこんなに違うんだ!」


初めての世界であってもこんなに感動できる余裕があるヒカルはやはり只者ではない。道を真っ直ぐに5分も歩くと、社殿が見えてくる。

社殿の門の前には人の形をして真紅の甲冑をきて武装する屈強な門番二人が仁王立ちで立ち塞がる。


「お前たちは何者だ?フツヌシノカミに面会を希望か?それとも武勇を用いての挑戦か?」


屈強な門番に薙刀を喉元に突きつけられるが、不思議と怖い感じがしないのは何故だろう。それより怖いものを知っているのはこういう時に役立つらしい。


「ええと、中間ですかね?僕らはツトメに挑戦してて、フツヌシノカミに課題を頂きたくて。来たのですが‥」


両手をあげて自分が答えては相手の出方を窺う。


「ふん!貴様らか!挑戦者とは。しかも二人。まあ、いい。フツヌシノカミからは挑戦者は通すようにとのお達しだ。そこの二人は通れ!」


自分とヒカルはあっさりと門を通る。


「以下!神使風情は出入りを認められてはおらん!ここで、待ちたまえ!」


そう言われると、文句言いたげにルナが門番を睨み、「グルル」と唸り始める。


「およよ。お待ちください。他意はないんです。ちょっとお腹が空いてて機嫌が悪くて。」


マルが必死のフォローをするがフォローしきれてない。


「ルナちゃん大丈夫だから。お願いだから、ここで待ってて。」


ヒカルが言うと、渋々ながらルナは引き下がった割には睨みつけることだけは辞めそうになかった。


「お前達は行け!フツヌシノカミは本殿にいらっしゃる。」


そう言うと、門番はマルとルナに睨みをきかせつつ、役目に戻る。


「ひゃあ。凄いな。ルナさんは。迫力が。目がもう。」

「ルナちゃんは優しいんだけどね、怒るとああなっちゃうの。まあ、戦うわけじゃないし、マル君とルナちゃんがいなくても大丈夫でしょ?」

「うん。大丈夫だと思うけど。」


その2分後にはその言葉を後悔した。盛大に後悔した。以下「後悔先に立たず」


「表を上げろ。顔を見たい。ふむ、ふむ。男のほう。君は強いかね?」

「え?ええっと。普通かと。」


そう、答えるのと同時に、フツヌシノカミの姿をちらりと見る。こちらも真紅の甲冑姿に薙刀を右手に持ち、腰には長刀を二つ差している。


「ほう、普通か。巫女は儀式のためにやって来たのは理解できるが、男の方はなんだ?力試しに来たのではないのか?」


そう言うとフツヌシノカミは薙刀を立てかけ、拳をポキポキと鳴らす。

「いえ、ツトメに挑戦する身。課題を頂き、証を頂戴したく参上させて頂きました。」

「ほう。では課題は力比べだ。と言ったらどうする?主は勝てそうにないが。」

「ええ。力比べではおよびません。しかし、僭越ながら申し上げますなら、知略であればフツヌシノカミの満足のいく結果を出せるかと。」


と思いっきり虚勢を張ってしまった。しかし、こうでも言わなくては確実に力比べさせられる展開だ。

実を言うと、この本殿に行く前に、広い中庭で何人もの兵士が剣を交えて、武を競っているのを目撃してしまったのだ。

そこでは、剣を用いて、決闘も行われていたし、

なんなら、土俵もあった。つまり相撲の可能性すらあるこんな所で、力比べは絶望的すぎる。


「ほお。知略とは。戦において、必要なのは武勇と知略じゃ。主は知略を持つとな。ならば、丁度よい課題がある。そちらを課題としよう。」


と言うと、フツヌシノカミは守衛に何やら運ばせて来た。


「主には大鯰をどうにかしてほしい。大鯰はわしと、タケノミカヅチ。この二柱で、押さえ込んでいるじゃが、しばしば、暴れての。面倒なのじゃ。この大鯰をどうにかしてくれれば、証を授けよう。主ら、これをもて。」


すると一人の守衛から鍵を渡される。


「この鍵は?」

「その鍵はな、大鯰の鎖の鍵じゃ。二柱で、大鯰の頭と尾をそれぞれ要石から発生する結界で抑えているがの、それでも結界内に入った者を殺してしまう危険があるからの。鎖で、少々動きを制限しておるのだ。その鍵があれば、大鯰に近づけるからの。では期待しておるぞ。主の知略をの。」

「承知致しました。ご期待に添えるようにさせてる頂きます。」


そう言って、本殿を後にし、マル達と合流する。


乾いた大地を重い気持ちで、歩いて帰る。

元来たポイントで、出口を見つけ、神社の本殿に戻る。なんとか、まだ眠っている警備員さんを起こさぬ様に本殿を後にし、稲荷神社の社へと急ぐ。あとは無事、吉山稲荷神社に戻り、

前に倉橋のご厚意で休ませて貰った平屋に、ルナの神術で入らせて貰う。

完全なる不法侵入だが。そこは、後で謝っておこう。しかしやっとそこで一息つける。


「しかしなぁ、ナマズってなんだよ。フツヌシノカミってナマズ飼ってたのか?」

「いえ、フツヌシノカミとタケノミカヅチは香取と鹿島の神にあらせられる。この近辺は地震も多く、それを抑えるために、二柱はご尽力されたということでしょう。」

「そ、そうなんですね。知りませんでした。」


と相変わらず。平伏するマル。


「いやぁ。凄い迫力で、一言も喋れないなんて初めてだよ!よかったよ、カケル!よく知恵比べに持ち込むなんて、わたしなら思いつかなかったなぁ。」

「あ、ありがとう。でも、まあ大鯰って言っても、とどのつまり自然現象である地震を治めろってこと?」

「そう言う解釈もできますね。大鯰はあくまで、地震による影響で生まれた伝説です。地震をなくせれば、大鯰の伝説も弱まり、次第に大人しくなるでしょう。」

「えーと、そしたら、地震を止めるってこと?流石に無理だよ。あそこら辺は過去の統計的に見ても地震が起きやすい所だもん。」

「いや、そりゃそうだろ。元々地震が多いから伝説が生まれてる訳で、それを止めれれば、苦労はしないですよねぇ。ねぇヒカル様。」


やっぱりマルの口調が途中で敬語に切り替わる。勿論忖度。


「とすると、やっぱり精神世界の大鯰をどうにかするしかないのか。」

「まあ、そんなら、それで、ウチには専門家がいるじゃないか。」


マルがヒカルを見る。


「え?私?新鰭類しんきるいなんて専門外だよ!」


え?しんきるいってなに?

って顔でマルを見るが同様の顔だ。


「あーもう。ナマズなんて、わかんないよ。皐月先生は化学の専門だから、生物はわかんないし、うーん。倉橋君ならわかるかもだけど。」


「なんで、そこで倉橋の名前が出てくるんだ?倉橋って生物得意なのか?」

「え?知らないの?倉橋君のお父さんは生物学者。お母さんは地理学者なんだよ。」

「えっ!知らなかった。てかそう言えば倉橋もツトメに参加してるんだっけか?」

「ええ!そうなの?カケル以外にもツトメってやつをやってる人がいるなんて、しかも倉橋君か!凄い偶然だね!」

「ええ、その情報は初めて聞きました。黒猫。どう言うつもりですか?ツトメに関する事項は全て話すようにと念を押したつもりでしたが。」


マルを蛇に睨まれた蛙のように睨むルナ。


「えーと。倉橋については正直あまり、分かってなくて、契約を結んでるって事は確からしいいんですが、どこの神と結んでいるのか、神使も誰かもわからないもので、お伝えするべきか悩んでたんです。すいません。すいません。」


ひたすら平伏する。


「はあ、まったく。挑戦者同士での戦闘の可能性だってあります。敵の情報は逐一報告してください。」

「は、ぎょ、御意。」

「えー、大丈夫じゃないかな。倉橋君はうちの部活の一員だし。」


ここでヒカルの衝撃的な発言が飛び出す。ラブストーリーは突然に始まるように、ぶっちゃけトークも前触れも無く始まるのが定石である。そう進言したのはきっと8チャンの制作陣だろう。


「え?えぇぇぇ!」


その発言にはマルと自分は思わず驚倒させられる。


「二人とも声大きいよ。今は夜だよ。それにここは無人のはずでしょ。」

「いやでも部活の一員?って…そ、そうだった。すまん。」

「それに、今日はもう遅いし、その事も含めて明日カケルの家で話合いして、大鯰をどうするか決めるのがいいと思うんだけど?」

「ああ、そうだな。肝心の大鯰をどうするかはまだ、解決してないしな。」

「それなら決まり!私は着替えるから、カケルは先に帰ってて!」

マルと自分はお構いなしに荷物ごと外にほっぽり出される。

「いや、俺も着替えたいんだけど‥」

締め出された玄関で立ち尽くしていると、マルが

「カケル。諦めろ。もう、帰ろう。」

と全ての悟りを開いたかのような穏やかな顔で言う。その悟りは新たな境地に至り心が穏やかな顔そのものだった。本音は凄い不気味だったけど。

帰り道こそゆっくり帰れたが、この格好の不便さが、よりじっくりと感じられた。




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