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第5章 ④ 仲間とナマズと?

第5章 ④ 仲間とナマズと?



「次の神様は…フツヌシノカミ!刀の神であり、武神としても有名な神様だ!」


「へぇー。」「へぇー。」


案の定2人揃って鈍い応答がリンクする。


「おいおい、反応が鈍いな。刀の神だぞ、武神だぞ、カッコいいだろうが!」

「いやぁさ。カッコいいだろうが、なんだろうが、また厄介な課題出されるんでしょ。死を覚悟して行くのに、そんなテンション上げていけないでしょ。」

「まあ、そうだよねぇ。そもそも刀は興味ないし。」


マルは期待していた反応と違うようだったのか、少し(へそ)を曲げている。


「おい、おい、なんだよー。せっかく喜ぶと思って選んだのに!それに最近はゲームのお陰で、刀剣女子ってのがいるんじゃないの?それにヒカルって意外とサブカル女子じゃないの?」

「いやいや、私ゲームはあんまりやらないし。てかマル君の中での私ってそういうイメージなんだ‥」

「え?だって部屋の中に飾ってあるあれは‥」


とマルが何か言いかけた時には驚いた。ヒカルの危機を察知したのか、狼が現れて、霊体化したマルをパクリと食べてしまった。


「ぅぉぉ。出してくれぇ。」とルナの口からモゴモゴと小さなSOSが聞こえる。

「ふぅー。ありがとうルナちゃん。危ない危ない。」


ヒカルは胸を撫で下ろしているが、よっぽどか、いきなり喰われるマルの方が危ない思いをしてる気はする。


「いや、いきなり食べられるのはちょっとだけ可哀想だから、五分くらい軽く咀嚼してから出してあげて。」


マルを思って温情を願い出るなんて、自分も心が広くなったな。と実感する。

5分は長かったのか、3分程で口から唾液でべちょべちょになって吐き出されるマル。


「うぇぇ。なんだこれぇ。俺の毛並みがぁぁ。」

「黒猫よ。あなたはヒカルの好意によって部屋に招かれたのです。そのヒカルの秘匿情報を迂闊に喋ってはいけません。この意味はわかりますね。」


あのマルが物凄い剣幕で怒られている。そしてこんなに怯んでいる姿を見るのも初めてだ。


「す、すいませんでしたぁ。今後一切このようなことはしませんからぁ。お許しおぉ。」 


見るも見窄(みすぼ)らしくべちょべちょの黒猫に侮蔑の目を向けつつ、


「いいでしょう‥今後は気をつけるように。私は戻ります。」


そう言い残し、再び消えてしまう。


「馬鹿だなぁ。ルナさんに敵う訳ないだろ。」


平静を装いつつも、自分も恐怖で、膝がプルプルと震えていた。以上恐怖体験。


「え?なんか2人ともめっちゃ怖がってない?そもそもルナちゃんのこと、さん付けしてるし。」

「え?は?当たり前だろ。ルナさんは神の使いなんだからな。ハハッ。」


無論、動揺の色を隠せるわけもない。肉食動物に食われるのは、あんな食われ方なのだと恐れ慄く。


「うぇぇん。いじめられてたぁ。カケルが怒らせるからぁぁ。」


マルが泣きながら、とんでもない濡れ衣を着せてくる。


「おいおい、とんだとばっちりだな。ほら。」


霊体化したマルは触れられないので、気持ちだけ拭いてあげる。


「大丈夫だよ。霊体なら、ルナちゃんの唾液はそのうち消えるから。で、本題を」

「ぐすっ。ああ。まずはフツヌシノカミに挨拶して、課題を頂く。その後の活動はメインは週末と、放課後になるわけだが、ヒカルは週末に参加してくれれば、いいからな!てか、ヒカルは忙しいだろうし、ほんと!来れる時だけでいいからな!」


明らかな忖度と、会いたくない奴(狼)を警戒しているようだ。


「ふーん。了解。まあ、そんなに化学部も忙しいって訳でもないし、なるべく参加するよ。ちなみにカケルはどうすんの?」

「ああ、カケルはもちろん放課後も、週末も全参加な!強制だから!どうせ暇人だろ。」


こちらは勝手にスケジュールを決めてくるが、自分だって一応神社の手伝いとかそれなりやってきたのだ。暇人扱いとは心外だ。まあ、暇人と言えば暇人なので、反論はしないが。


「はい、はい。了解しましたよ。」

「よし!それじゃあ、早速、今日の夜8時に、稲荷神社集合な!ヒカルは巫女さんの格好を忘れずにな!」

「はぁーい。そしたら、私は部室に戻っていいかな?皐月先生と結美が既に面白そうなことを始めてる気がするんだよね!」


とルンルン気分のヒカルを止める訳もなく。ヒカルを見送る。


「ふぅ。これで、あいつも行ったろ。」

「おい。ルナさんをあいつ呼ばわりはまずいぞ。どこで見てるかわからない。」


と小声で警戒する。


「おい、あれは忠犬ハチ公と同じ部類だぞ。主人の近くにいるはずだ。それにあのデカさだ。

相当な霊力を消耗するはずだから、基本は依代の中で休んでるだろう。」


と言ってるマルも小声なのは謎だ。


「そ、そうなの?この近さでも大丈夫な訳?」

「ああ、恐らく。ヒカル自身がわからなければ、大丈夫だろう。ただ主人の呼び掛けには応えるらしいから、迂闊にヒカルを刺激するなよ。ヒカルの嫌悪感とか、好意とか気持ちに反応して、出てくるかもだからな。」

「なるほど。わかった。気をつける。」


それを聞いてホッとした。全ての煩悩を捨て去らないと、ルナに殺されるんじゃないかと心配していたのだ。これで、自分の心の平穏は何とか保てそうだ。


「でだ、ここに来たのは二人が居たからちょうどよかったってだけが理由じゃない。ここの学校には猫の社があるのは知ってるか?」

「ああ、毎日社ってか、石像の横を通ってるからな。それがどうした?」

「実を言うとな。あれは俺をモデルにしたものなんだ。」

「はぁ。自分があまりにも尊敬されないからって嘘はよくないぞ。どうしてマルを石像にするんだよ。お前は生前招き猫でもやってたのか?」

「おい!信じてないな?こんな可愛い姿は仮の姿だ。本当の姿はあの犬っころなんか、目じゃねぇ。それに、もしもの時の為に封印を解こうかと思ってな。ここに来た訳だ。」

「ふぅーん。で、その封印って解いたらまずいんじゃないの?どうせうちの先祖か何かが悪さしてたマルを封印したんでしょ?」


と言うと、図星だったようで、あからさまに誤魔化す。


「まぁいいだろ。ちゃんとお前のばあちゃんには許可も取ってる。ほら、その証拠に、社の鍵と、お札だ。」


と実体の鍵とお札がボン!と出てくる。


「なるほどね。この札は式神用の札だ。つまり、社に封印されてる力をこっちに移して、いざって時に解放する訳だな。」

「カケルにしては物分かりがいいな。その通りだ。もちろん、式神解放にはカケルの霊力を鍵にすることになってる。それがお前のばあちゃんからの条件でもあるからな。」

「なんだ。それなら、安心じゃん。こっちが霊力を込めなければ、解放されないし。」

「まあな。それに俺自身も力を持て余しちまう。出来れば使いたくはない力だ。」

「そっか。まあ、とりあえず、社の所へ行くか。」


そうして教室を後にし、正面玄関の下駄箱で上履きから運動靴へと履き替える。校庭では野球部と、陸上部が部活をやっている。それはいつもと変わらないが、野球部のマネージャーが泣きながら、ブルーシートを必死に洗っているのはお気の毒なことだ。どうやら血を流して返してはくれたものの、獣の臭いはなかなか落ちないらしい。それと、鹿の頭を見たショックから立ち直ってない。ってところだろう。


アイツらの代わりに謝っておこう。すいません。


心の中で謝罪と合掌を済ますと、いつもと同じく、校舎裏手へと向かう途中に、社はある。


「おーい、着いたぞ。」

「よし。そしたら、石像の奥の社の鍵を開けてくれ。」


そう言われて、まずは周囲に人影がないことを確認して、素早く、社に近づき、鍵を開ける。開けるとあっさりと、お札が貼ってある石がポツンと置いてあるだけだ。


「なんか、社の中身ってあっさりしてるよな。」


中の石を取り出して、他に何もないことを改めて確認する。


「何言ってんだ。大切なものは目に見えないって言うだろ。凄いものほど、意外とあっさりしてるもんさ。ホントなら、中森の家の者以外が鍵を使って開けようとすれば、呪いで大変なことになるんだぞ。それだけ、強力な縛りを課してるが、その分、他の防御策はしてないがな。」

「ふーん。そんなもんなのかねぇ。で?このあとは?」

「右手で、石を持って、左手に式神用のお札を用意しろ。そんで、式神用のお札に霊力を込めろ。そうすれば、あとは勝手に流れ込むはずだ。ほら、さっさとやらないと、バチあたりなやつだと思われるぞ。」


そう急かされた自分は、言われた通りに右手に石を持ち、左手にはお札を持つ。

そして、一呼吸をおいて、左手のお札に霊力を込める。すると、札は青白い炎をあげてくるが、燃えはしない。

最初は何も感じなかったが、突如、漆黒の霊気が体を流れていくのが分かった。とても暗い。あったことのない程暗く、毫末程の光も感じない。全くの闇。

それが全身を駆け巡り、全てが式神のお札に入っていったのを感じた時には、自分はこの季節とは思えないほどの寒気に、生きた心地がしなかった。


「カケル。大丈夫か?」


初めてこんなに心配しているマルを見たが、大丈夫だ。手の震えは止まらないが、何とか、気持ちを保てている。


「ああ‥何とか。夏でよかった。寒さで死ぬかと思った。」

「ふっ。そうか、そのくらいの言葉が出るなら大丈夫そうだ。さあ、石はそのまま戻して、鍵をかけてくれ。元あった通りに頼むぞ。」


さっきの心配の割には、人使いが荒い。

自分はやっとの思いで石を置き、社に鍵をかけ、何事もなかったかのように自転車置き場へと向かう。途中少しふらつきはしたが、なんとか歩ける。


「この札は自分が持ってていい訳だな?」

「ああ、持っててくれ。何かあった時はそれで、本来の姿に戻る。そうはなりたくないがな。」

「そっか。まあ、使わないだろ。」


自分は札をバックへとしまい、肩にかける。


「なんか、やたらと疲れたわ。こっから帰るのかよ。」

「まあ、嘆いていても仕方ない。千里の道も一歩から。カケルの家へも一漕ぎ目からだ。そうだ!母を訪ねる思いなら力も出るだろ。」

「いや、全然やる気出ないんだけど。それに母を訪ねちゃうと、二千里増えちゃうから嫌です。」

「もう、細かいなぁ。ほら!少年よ!大志を抱け!そして、チャリを漕げ!」


霊体で、ふわふわ浮いてるやつを横目に、

自転車を漕いで家に着いた時には、完全にグロッキー状態だった。もう、動けん。と察知した自分は約束の時間までは、準備の時間を除いて4時間はあることを確認すると、アラームを設定し、眠りについた。



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