第4章 ⑦ ツトメに挑戦?
第4章の7 ツトメに挑戦?
「私さ、コノハナノサクヤビメのとこ、言って説得してくるわ!旦那は馬鹿だけど、私達の事を思ってやってくれたんだって言えば、少しは理解してくれるかもだし!」
そう言ってヒカルは集落の方へと行ってしまった。
「いや、もう、無理。俺少し休んでもいい?」
いよいよ助けを待てずに音を上げた自分は、畦道へとダイブして逃げ込む。
「いやぁ。まだまだ!」
ツヨシは1人気を吐いているが、そろそろ限界だろう。少し休んでもらわなくては体を壊してしまう。
「おい!ツヨシ!ケボタの新モデル田植え機が来たぞ!」
「え!ど、どこだ!救世主か!メシアか!」
「いや、やっぱり疲れてじゃん。少し休めよ。」
「はぁ。期待させるなよ。はぁ。じゃあちょっと休むか。」
勢いよく畦道へダイブするツヨシは突如地面すれすれでツイストロールして何かをかわす。
「うぁ、カエルもちゃんといるのかよ!潰しそうになった!」
潰れることを免れた二ホンガエルのつぶらな瞳が「ありがとう」と感謝している気がする。それほどの微笑ましさだ。その後はどうでもいい事で、笑って休憩時間を過ごすという、なんとも平和なひと時を謳歌し、戦略的な労働を心がける自分達は20分を目安に休んでは1時間作業を繰り返していると、ヒカルがやって来た。遠くにはサクヤビメも見える。
「ねぇ、サクヤビメ様が田植え機使ってもいいって!田植え機はどうせ隠し倉庫にあるからって!」
「え?でもそれって、いいの?あんなに怒ってたのに。」
「うーん。なんか、ちょっと言い過ぎたって。嘘ついてたのが一番許せなかったんだって。だから、ニニギ様が謝れば、使ってもいいって!」
とすると、問題はニニギノミコトにどうこの場を収めてもらうかが、重要らしい。
「つまり、ニニギ様がサクヤビメ様に謝れと?」
「謝るってニニギノミコトがか?いや、それは無理だろ。神様だぞ、プライド高いぞ。」
水をさすマルを無視して、作戦会議を招集する。
「よし、まず、ニニギ様に、サクヤビメ様が悪かったって謝罪してた事を伝えて、ニニギ様が謝れば、あの自動トラクターを買ったことも許してくれるって言おう!」
「いや、なかなか盛ってないか。自動トラクターは多分許して無いんじゃ。」
ツヨシの懸念はごもっともだが、ここは「嘘も方便」との言葉にあやかることとして、強行する。何しろ会議迅速かつ、大胆に決定にすることが肝要である。と誰かが言っていそうな気がするのだ。あくまで論拠は「気」一つだがこの場での選択肢がほとんど無いのだから、この選択は当然のようにも思える。
そうなれば、もちろん説得役はヒカルだ。そうと決まれば早速実行だ。大幣は意外と邪魔なので自分が預かり、ニニギノミコトに近づいてもらう。じゃあなんで、そもそも持って来た?と思う方もいらっしゃるだろう。なんでか持ってきてしまったんだ。しょうがない。無意味なこととわかっていても、それをしてしまう、それがこの世の常さ。 Q.E.D.
「ねえ、ニニギ様。サクヤビメ様がね。昨日は本当にごめんなさい。あなたの優しさに気づいてあげれずに、あんなに怒ってしまって。私のせいよね。って凄い落ち込んでるの。それにね、あの自動トラクターってよく見たらカッコいいわよね。って言ってたよ!だからね、ニニギ様がサクヤビメ様に謝ってみれば、仲直りできるんじゃないかなぁ?」
見事に小学生に話しかけるかのような優しい巫女の説得に、少しは耳を傾けてくれてはいるみたいだ。
「サクヤビメがかい?あのサクヤビメがとてもそんな事を言うとは思えない。特にトラクターの件は前の農業用ドローンを買った時も酷く怒られたんだ。かっこいいなんていうわけ‥」
俯いた顔を上げることは無く、テンションは相変わらず低いままだ。
てか、こいつドローンも買ってんのか。常習犯じゃん。確信犯じゃん。もはや、ただのマニアじゃん。って‥いや、こいつって言ってしまった。ニニギ様は農機具に深い造詣をお持ちになられてるんですね。が正解だ、と自己反省をする。以上猛省。
「いや、前半が正解だ。カケル。お前は間違ってない。あいつはしょうもないやつだ。」
もどかしさに耐えかねたマルが自分の意識に入ってくる。
「おい、勝手に人の脳内を読むな!それにしょうもないとは言ってない!」
自分は大きな声を思わず出してしまい、バツが悪くなって、マルを連れてニニギノミコトから離れる。自分達が離れたのを機に、再びヒカルは話を進める。
「はやい、話ね。ニニギ様が謝ってくれて、サクヤビメ様の許しが得られれば、田植え機が使えるの!そうすれば、うちの男2人が喜ぶんだけど‥どうかな?」
もはや、ヒカルの口調はただをこねる小学生を諭す先生のようだ。
「うーん。男2人だけかい?」
ヒカルの手を取り、謎に気分を害する切り返しに彼女は動じない。(セクハラ行為には断じて法的手段に訴えで出ることを心の中で宣誓する。)
「もちろん、私も。だからね、謝りにいこ?ね?」
握られた手を逆手にとってさらに相手の瞳を見つめる。というもはやここはどこぞのお店か?と思わせる芝居振りだ。
「うーん。じゃあ一緒なら。」
目線を下げて、頷く。ああ、落ちたな。この客。と思いつつ。サクヤビメ様はこんなを相手にしてんのかと思うと、心労がさぞかし酷いだろうと、同情したくなった。
「一緒はダメ。男らしいところ、ヒカルにみ、せ、て。」
鼻をトントンと触れるヒカル。いや、やり過ぎだろう。さすがに‥と思うが、効果は絶大らしい。
「おおし!言ってやる。俺はできる!行ってくる!」
鼻息を荒くして気合を新たにしているニニギノミコトを見ると、なんだかこっちが居た堪れなくなる。こんなんで、夫婦ってもってるのか?と世の中の夫婦を疑いたくなった。




