第4章 ② ツトメに挑戦?
第4章の2 ツトメに挑戦?
「おおい!カケルいるか?」
渋々、玄関へと赴くと玄関にはツヨシがいた。
「おお、どうした?また森に何かいたか?」
「いやぁ、すまん。まだ、怖くて入れてなくてな、スマホは‥?」
と物凄く申し訳無さそうに言うツヨシ。
「ああ、大丈夫。大丈夫!普通にあの後近くで見つけたからさ!」
そう言うと安堵したのか、少し俯き加減が直る。
「そうだったかぁ。よかった。本当にすまなかった!それでなんだが、あの時は千載一遇のチャンスだったんだ!ほら!これ見ろ!」
右手に握りしめていた新聞紙を開くとその紙面はどうやら東スポだ。
「未知の飛行物体!怪しい白い光は何処へ!」との見出しを見せてニンマリ顔のツヨシ。
記事によると、自分達があの白装束との接触があった日に、この町の近くで白い光が飛んで行くのが目撃されたらしい。
「な!凄いだろ!本物だぜあれは!幻覚じゃなかったんだ!」
さっきとはうって変わって興奮冷めやらないツヨシに言って聞かせる。
この記事の写真では何かはわからないし、捏造かもしれない。それに、これ以上危ない思いはしたくないし、ツヨシにもして欲しくないと、切々と訴えた。すると
「でもこれはチャンスだぜ。だってカケルも見たいだろ?未確認飛行物体。」
その問いに対し、宇宙人でも未知の生物でも、太古の幻獣だろうと自分は信じているが、
ただ一つ信じられないのは人間だ。故に人間が関与する新聞社には信ぴょう性が低く、もし宇宙人及びそれに準じた存在が脳内に直接コンタクトしてきたのなら直にNASAに連絡した方が良い。にも関わらず新聞記事になどにするという事は信ぴょう性が低いことの証左なのだ。よってこの記事は捏造の可能性が高い。との情け容赦の無い回答に
「そうかぁ、そこまでいわれたら、仕方ないかぁ。また別のネタを探してくるよ。」
ツヨシは背中を丸めてしょんぼりとしては、トボトボ帰って行った。
小さくなる背中には哀愁を感じさせるのだから、彼の熱意は本物だろう。にしても、また別のネタを探してくるとは。実際その熱意に応えてやりたい気持ちが心の隅で燻る。
内心今回のは当たりだったぞ!って言ってやりたいところだが、ツヨシに危険が及んではいけない。ここは、心を鬼にしてツヨシを見送る。
すると、黒猫も昼休憩からご帰還のようだ。
「あれ?教えてやんないの?不思議大好き少年に。」
「ツヨシに教えたら色々ややこしい事になるだろ。それにこの前みたいに危ない思いはさせられない。」
「ふーん。まあ、彼は、THE一般人だから、あんまり関わってこないかもな。」
「え?ツヨシは!一般人だけど、他には居るってことか?」
「まあ、そうだな。そのうち手伝って貰うかもしれないしなぁ。挨拶しておこうかなぁ。」
いや、そんな風に近所を挨拶して彷徨かれては困る。断固阻止だ!
何せ、いきなり猫が喋る衝撃をご近所さんに与える訳にはいかないだろう。ご近所には後期高齢者がほとんどなのだ。そうやって心臓の発作を誘発していたんではこの地域の医療体制が崩壊してしまう。そうした懸念を払拭するためにも自分は黒猫に指導する。
「止めてくれ。家でじっくり大人しくしてろ。」
自分の忠告に従うような奴ではないと思うが、
注意喚起は必要だ。なんでもそうだ、立ち入り禁止、この先危険と書いてあって事故に遭うのと、誰でもどうぞお構いなくと書いてあって事故に遭うのでは大いに責任を取るべき者が変わってくる。そんな自分の訓戒を、軽くあしらって町の方へ向かって行く黒猫。
「っておい!言った側から!こんな昼間からどっか行くのか!」
「ああん?次の課題は待った無しだ。早速情報収集だ。カケルもついてこい!あっ!勾玉あるよな?」
今更ながら振り返り確認してくる。
「ああ、首飾りと一緒に身につけてるけど‥」
「ならよし!早速、稲荷神社にレッツゴー!」
と勝手にスタスタと行ってしまう。
「おい、おい!何も持ってないけどいいのか?」
「大丈夫、大丈夫。ちょっと聞き込みするだけだから。」
まったく、勝手が過ぎる奴だ。少しぐらい予定を立てて計画的にできないものか。
そんな文句を呟きながらも、こんな危険生物?を放置する訳にもいかず、追従し昨夜の稲荷神社に到着する。
「よし!じゃあ早速移動といこうか。ここの神社の移動地点は、ここだな!」
まるで何かの目印を置いてあったかのように昨夜倒れていた社殿の裏に立つ黒猫の横については、棒立ちする。
「で?どう‥」
と聞く前に
「いち!に!サン!」
と黒猫が言うと体が異空間に取り込まれていったのが分かった。
気づいた時にはこの前のウカノミタマノカミの宮殿とは違う所だった。辺りは高床式の建物が林立している。狐達が運んでいるのを見るに麦や米、穀物を貯蔵する倉庫街のようだ。
「ここで何するんだ?」
「まぁまあ、カケルは見てればいいから。」
そう言うと忙しそうに働く狐に話しかける。
相変わらず怪訝な表情になるも、話をし続けると態度が急変し、なんだか、ここの責任者らしき狐が出てきた。
「いやはや、クグス神の神使様御一行とはついぞ、知らず。大変失礼致しました。我々のブラッ‥いえ!顧客リストの最重要のお客様さまの方々がどうしてこちらに?」
「いやぁ、ウカノミタマノカミが出した課題知ってる?」
「ええ、もちろんですとも。ま、まさか、こちらの供物から献上する訳では‥」
黒猫の余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)の表情に相対する狐はさっきから冷や汗が止まらない様子だ。
「んな訳無いじゃないですか~」
とニヤリと不気味な笑みを浮かべる。
「そ、そうでしたか。それは何よりでございます。」
「でもまぁ、最高のお米の目星がつかなくてさぁ、ここいらの供物が?なんか?なくなってしまうかと、そう言う事故もあったりするのかなぁって。」
黒猫の緑色の虹彩の眼から放たれる鋭い眼光に慄く狐を見ていると、こちらがかえって申し訳ない気持ちにさせられる。
「いや、は!そんな事は、まさか‥」
その反応からは何か後ろ暗い事情があるのか、狐は狼狽の色を隠せていない。
「大丈夫。秘密はちゃんと守るから。その代わりと言っちゃなんだけど、最高のお米ってどこで手に入れられるか教えてくんない?」
黒猫の口調は穏やかだが、明らかに要望というよりは、命令のようにしか感じれないのだが。黒猫の中では「私の要望は達成されるものであって、拒否され得るものではない。」
との気概を感じる。まさに私の辞書に「不可能はない」のだ。以上傲慢。
「え、ええ!もちろん。やはり最高のお米となりますと、やはりニニギ様でしょうか。アマテラス様の神勅を受けて稲を育ててらっしゃりますから。」
「ほう、ほう。ニニギノミコトね。それは良い事を聞いた。だけどさぁ、つてがないんだよね。紹介してくんない?」
その態度はどっかに電話案内に頼むくらいの軽さだ。黒猫の辞書いわく、「遠慮」の二文字も記載されていないらしい。その代わりに「無作法」「脅迫」は常用のようだ。見るに説明文にはこうある。
「無作法」:自分が信ずる道を行け。それは礼儀を知らないのではない。礼儀は威厳が補うのだ。
「脅迫」:1;相手の真意を明らかにし、自らの望みを成就させる最適な手法のこと。
2;考えるな!従え!の意。
Exマルは脅迫を心得ており、マルは完璧な存在だ。彼を否定することはこの世の摂理を否定する も同じであり、正解は彼が作り出すのだ。
これが辞書だというのなら、もはや出版社、編集部にクレームを入れるべき案件なのは間違いない。
「ええっと、す、すいません。何分私どもは神使の身分。神を紹介する立場には‥」
「あ、そっ。じゃあいいや。とりあえず場所だけ教えて、後は何とかするから。あ!ちゃんと紙に書いてよ。後で、間違いでした!ってならないように!」
本当にどこまでも図々しい黒猫に終始平身低頭の狐だった。
ここまで、やるのは余程の弱みを握られてる違いないが、知ったところでロクな事はないので、詮索はしない。触らぬ神に祟り無しとはまさにこの事だろう。そのおかげもあってか狐は最大限のスピードをもって対応してくれた。ニニギノミコトの精神世界に一番近い稲荷神社の祠を教えてくれたし、ちゃんと紙にも図にして書いてある。
右下にはクグス神 神使御一行様
お気をつけて行ってらっしゃいませ。の文字と
加えて稲荷神社のお守りとお札を添えて渡してくれた。まるで旅館の女将さんばりの気遣いだ。
「いやぁ、悪いね。じゃ!また頼むよ!」
何ら悪びれる事もなくスタスタと帰る黒猫。
「おいおい、こんなん貰ってよかったのか?これってルール違反とかでは‥」
「大丈夫!大丈夫!そんなルールないから。神様の怒りの方が怖いだろうしね‥」
またあのニヤリと笑う顔は悪魔にしか見えない。
「まぁ、いいか。それで、ここに行って最高のお米は貰えるわけ?」
自分は貰ったお札を不思議に思い、透かし見て言う。
「え?貰えるなんて言ったけ?」
「は?どうゆう事だよ。お米を貰ってそれを献上するんじゃないのか?」
「いやぁ、神が作りし物だよ。そもそもニニギノミコトが作ってるのは別の目的がある訳だし。それを頂こうなんて、畏れ多いよ。」
「じゃあ、どうすんのさ。今からお米作るってか?」
「そ!大正解!これから作るのさ!最高のお米をね!」
「いやぁ、ご冗談を。今何月だと思ってるんですか?そんなの間に合う訳‥え?実際貰えないならどうすんの?」
「だから!現実の世界じゃなくて、精神世界で作るんだよ!それに、お守り貰ったろ。中身開けてみ!」
そう言われて、貰ったお守りの中身を確認する。
中には木札かと思いきや、紙包がある。それを開くと中には種もみが入っていた。
「え、これって。」
「悲しい事故があったんだろなぁ。まぁ、入っていたんだから、しょうがない。有効活用しよう!」
完全に想定内というか、満面の笑みの黒猫。
こいつ、腹黒過ぎる。見た目の黒さより、こいつの中身の方が真っ黒だろう。しかし、「ダークサイド堕ちしたライトセイバー使いの平和の守護者」よりも遥かに邪悪さのない可愛い眼には、騙される人間が多数いることだろう。
「そいじゃ、さっそく挨拶しに行こうか?ニニギノミコトに。」
「いやいや、こんな格好で?」
というのも自分はポロシャツ、チノパンの人間社会ならギリ、良いかな?ってレベルの格好だ。
「ああ。だって挨拶だけだし、かえって正装で行くのは歩き辛いだろ。」
「まあ、そうだけど。それにだ、何か貢物はもってきたのか?」
「大丈夫。貰ったお札見てみ。」
そう言うのだから、見るしかない。
すると、お札が「ボン!」と煙を立てたと思ったら、薄い木箱へと変化する。
中身を恐る恐る見ると‥砂金だ。
「うわ‥これ。」
中身を確認した黒猫は
「ほうほう。なかなか、やるなあいつ。」
想定以上の供物なのか関心している。こちらとしてはいまいち関心ポイントが理解に苦しむが。
「なんか、いかにも悪い政治家が饅頭の下に現金隠して送るみたいな事してるな。これ。」
自分が不満そうな顔をしていると
「何言ってんだ。神の世界を人間が真似してんだよ。」
と、さも当たり前かのように勝手に進んでいく。
「おいおい、賄賂が神の世界の真似事なのか?」
勝手に進む黒猫を追いかけながら話す。
「何言ってんだ。神様が何も無しに何かしてくれると思ったら大間違いだぞ。カケル。考えてもみろ。お賽銭や供物。全部賄賂みたいなもんだろ。」
「いやいや、お賽銭や供物は神様に対する感謝だけど、賄賂は見返りを求めてるし、なんか‥響きがよくない!」
そう言うと、黒猫は自分もバカにしたように笑う。
「ふふはは。いやはや、響きの問題。言い方の問題か。でも、感謝と言いつつ、神様にご利益求めるのが人ってもんだ。人なんてそんなもんさ。見返り無しの好意なんてない。どっかで見返りを求めてんのさ。ま!そんなことはどうでもいいんだ。今の問題はニニギノミコトにどう気に入られるかだが‥」
と話しているうちにお目当ての祠があったようだ。勾玉がさし示してくれている。
「お!ここか?」
「ああ、そうらしい。こうニャレば、猫の可愛さで落とすしかないニャン。」
猫好きにはたまらない、黒猫にとってとびきりの可愛さをアピールしたポーズをしたようだが、自分はそれには目もくれずに祠にふれる。
すると、またあの吸い込まれるような感覚になり、世界が凝縮されたような錯覚に陥る。
次の瞬間にはもう別の世界に着いていた。




