第4章 ① ツトメに挑戦?
第4章の①です!
第4章の1 ツトメに挑戦?
昨日はまったく散々だった。
家に帰って、早速ベッドにダイブして、そこからの記憶はない。
朝起きて、気づいたのは左の手の平に何か紋様が出ていることだった。
「うわ、何これ?」
すると、黒猫が当たり前のように壁をすり抜け、自分の部屋に入ってくる。
「よう、生きてる?」
フワフワと宇宙空間を漂うようにやって来たアイツは、本心では心配していないことは見え見えだ。
「いや、生きてるけど、なんか変なの出てるんだが?」
「お、挑戦の刻印だな。よかったな、これで正式なツトメの挑戦者だ。」
「いや、これって消えるの?」
見た目はマジックで書かれた感じのため、擦ってみる。
「いや、それは一生消えないかもな。」
「え?」
「いや、ツトメを果たせなかった場合、その刻印は永遠に、貴様の手に刻まれ、己の無力さを思い起こさせるために神が施したものと言われているからな。」
自分はさっきまでのふわっとした雰囲気からの、豹変したように真面目な面持ちにはさすがに動揺した。そんなバカなことがあるなんて。
いやなんたって、一番の問題は刻まれた文字だ。その文字が、
猫。
いや、猫って。神様。冗談きついよ。
(あれだなDISH//の方かな?ひょっとするとあいみょんVerかも?ハハハ)
以下動揺。
どうすんのさ、左手に猫って刻まれた人の人生って。お前は人間ではない。猫からやり直せってことか?
今後、この左手の猫を人に見られる度に何て誤魔化せばいいんだ。
無類の猫好き故に、若気の至りを通り越して、その狂気的な熱に頭をやられ、左手に猫と刻んでしまったと。
それで、誰が納得するだろうか?
いや、いっそ左手を包帯で隠しては?
神社の息子らしく、神の印を刻んだが、それを普段は誰にも見せることは許されていない禁断の印。そういう設定はどうだろうか?‥
いや無理だ、今更神秘キャラの不思議ちゃんになんて、全力で無理だ。
これが絶望か、そう思っていた時ふと黒猫を見ると腹を抱えている。笑い過ぎる苦しみの末に咳込む黒猫に、少しの疑念がたちまち確信へと変わった。
自分は必ずやこの屈辱を晴らす。只ならぬ思いを胸に誓っていると黒猫は
「なあ、これで朝から楽しかった?ちょっとからかうつもりだったのに、マジになっちゃうからな、お前は。だってありえないだろ、神様からの挑戦の刻印?猫って(笑)」
そう言いながら思い出したのか、再度笑いころげ回る。
「おい、これ、ちゃんと消えるんだよな?」
自分は手の平を指差し聞く。
「ああ、油性ペンだけど、消えるから。洗面所で手を洗ってこいニャン。」
との回答を得た。
いや、いつもふざけた時に、猫ぶりやがって。憎しみを内に秘め二階から洗面所へと向かう。
てか、油性ペンってなかなか消えねー。そんな愚痴をこぼしながら、手を洗い。顔を洗う。
ハンドソープで手をこすっては洗い流すを繰り返し手の皮脂の存在を皆無にしていたにも関わらず、薄っすらと残った猫の文字をそのままにして諦めた。
自分は台所に場所を移すと、コンロの横に置いてあった朝ごはんを食べようという思いに至る。今日の朝ご飯は白米、昨日の煮物、味噌汁。
しかし、これではおかずが足りないと思いウィンナーを自分で炒める。フライパンでウィンナーを炒めつつ、一つだけつまみ食いをする。ダイニングのテーブルに朝ご飯を並べ終えると、霊体になって空中を浮遊している黒猫を他所に、
しっかりと「頂きます。」と手を合わせてから、昨日の煮物を口へと運ぶ。
「で?昨日の話の続きは?」
里芋を「モグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグッ!」三十一回は咀嚼し飲み込むと自分が黒猫に問いかける。
「ああ、契約のはなし?」
「そ、そう、それ。」
自分は片手で顎をさすりながら話を聞く。どうにも咀嚼しすぎると顎が痛くなるので注意が必要だという体のSOSを実感する。
「契約ってのは、ツトメに参加します。って意思表明兼、専従契約。つまり、神様に選ばれた者が神との契約をしてツトメに参加するからには、他の神様と二重契約しません。いわば紳士協定でもあるわけだな。」
「ええっと、まず、契約することで、はじめてツトメの参加資格を得るってこと?」
「まあ、そう言うことだな。」
「え?それで、なんで他の神様が出てくるの?だって、神様が選んどいて他の神様も同じ人物を選ぶことなんてあるの?しかも二重契約なんて。」
「チッチッ。」
憎可愛らしい黒猫は前足を振りながらこれだからあまちゃんはと言わんばかりだ。
「え?あるの?二重契約。」
「ああ、過去には二重契約が理由で神の怒りを買っちまった人間がいてな、それはもう酷いことに。」
「何それ、気になるな。」
「聞きたいか?」
「そりゃ、そうだろ。人間、過去の失敗を生かして今の教訓とす。ってじいちゃんが言ってたし。」
そう言うと、黒猫はいつの間にか和服をきて座布団まで用意して落語家ばりに話始めた。なんとなく出囃子も鳴って、寄席にいる気がするのだから、自分の脳内が恐ろしい。
「ではでは、三遊亭猫ん太の昔小噺。はじまりはじまり。」
むかし、むかし。って言っても江戸時代。天下を治める将軍様は徳川綱吉公の時代でした。
そんな折、ツトメを果たすべく修行を続け、神との繋がりを得ることに成功した男がおりました。
その男はえっと、まあ、久兵衛としましょう。
「て、おい、そこテキトーだな!さては作り話だな?」
自分は寄席からのツッコミをいれる。
「お客さん冗談言っちゃいけねぇ。名前は忘れたからテキトーに高級寿司屋の名前だが。あっ、ちなみにシャリはいらないのでネタだけ頂戴ね。猫だから。」
静まり返る寄席。(というかもとよりこの寄席には自分ただ一人だ。)以下漫談。
「ていうのは冗談で、話は本物。だからきちんとお聞きください。お客さん。」
一つ咳払いをして無理やり話を戻す。
「コホン。ではでは、気を取り直して。」
久兵衛は自らの血肉を用いて、神器を依代に神を降神させては、ツトメの課題を克服していったのでした。ツトメの課題を4つ、克服した久兵衛は最後の課題を行うこととなった。
しかし、最後の課題を克服することが叶わないまま、月日が経過したことに焦りを感じた、久兵衛は禁忌に手を出したのです。
久兵衛は己を限界まで高め、神を自らの体に降ろすことを試みました。これを神降ろしと申します。
まず手始めに火の神を呼び出し、遂には神を宿すことに成功するのでした。
しかし久兵衛は、火の神の力だけでは飽き足らず、他の神様も呼び出し、利用することを思いつきます。
久兵衛のこの行動に激昂した火の神は自らを宿した久兵衛の体を真紅の炎によって内側から焼き尽くし、体の一片も残さず灰へと変えた。残された魂は永遠の暗闇へと留め置かれることとなった。
しかし、それだけでは飽き足らない火の神は地上に唯一残った久兵衛の灰を富士の山へと運び、怒りの炎を上げた。
これが世に言う富士山の宝永大噴火。
この噴火で富士の麓はもちろん、江戸まで火山灰が届いたとか。
この噴火の影響で作物は育たなくなり、民衆は飢えに苦しむのでした。
おしまい。おしまい。
「うーん、つまり、神様の力を利用しようとした挙句、二重契約しようとしたから怒って火山を噴火させたってこと?」
「まあ、そんなとこだな。神の怒りに触れれば人間なんてあっという間だな。」
「つまり、本人はあっという間に灰になって死ぬ上に、周りの人も火山爆発でとんでもない被害になるってことか。こんな天災付きのアンハッピーセット、今どきあるのか?」
「そうだよな、おもちゃとスマイルも付けてくれるのかなアンハッピーセット。やっぱ店舗によっておもちゃも異なるって言うしなぁ。」
こちらを盗み見してはツッコミ待ちをする黒猫は放置だ。
「そうだ、今までの流れでどうやって契約したの?」
「は?俺と契約してるじゃん。首飾り!」
「えっ、あれを付けただけで契約してなの?」
「まあ、本来なら降誕の儀式とか、色々仰々しいプロセスがあるんだが、俺はここに居座る神使。神使として神の代わりに契約してるから大丈夫なんだよ。お前らの社会で例えるなら、いわゆる無期雇用の正社員だからな。いちいち契約更新必要な、契約社員とは違うって感じかな?」
「いや、中学生にその例えは分かりづらい。」
「まあ、とにかく。契約によって参加者としての資格を得ているってことはあの倉橋ってヤツもツトメに参加してるってことだな。」
「ということは?」
「つまり、ライバルだろうな。」
「いや、ライバルって倉橋もこんな風に猫としゃべってんの?いや、驚いたな。」
「いや、そこそんな驚く?もっと驚くところあるだろ。」
「え?そうなの?だってさ、そんな雰囲気ないのに、普段はお空に向かって喋ってるんでしょ。それ以上のことって‥」
存外想像してみると想像以上の可笑しさに吹き出しそうになる。すると母が支度を終えて降りてきていた、
「何一人でやってるの?だれかいるわけ?まあいいや。はやく食べて、宿題やるか、神社の手伝いするかどっちにしろ!」
母は自分の頭を小突くと、早々に出かけてしまった。
「いてて。お前のせいで、怒られただろうが。」
「いや、そもそも言葉に出さなくていいから。この前言ったろ。お前に直接話しかけてるって。もう忘れたのか?」
黒猫はこれだから人間はって感じで呆れている素振りを見せる。
「そういえばそうだった。じゃあ無言でいいわけだ。」
「そうだって言ったろ、で!話戻すとだな、倉橋って奴もツトメを果たすのを目指してるって事は何らかの神と契約してるって事だ。その神によっては強力なライバルになる。どんな奴かは知らないが、自らがツトメを果たすために、挑戦者同士で殺し合うことだってざらにある。これからは注意しろよ。」
言ってる側から下で猫らしく、もぎゅもぎゅとキャットフードを頬張る黒猫。
「あのさ、緊張感を与えたいのか、リラックスさせたいのか、どっちなわけ?人の事言えるたまか?」
お返しとばかりに、さっき黒猫がやった様に呆れてみせる。
「いいえ、タマではなく、マルです。雄なのでたまはまだあります。」
どうでもいいボケには冷たい視線を送り突っ込む事をやめた自分は話を続ける。
「まあいいや、それで、ウカノミタマノカミの課題ってどうすんの?まさか、これから米作りを研究して、最高のお米を!とか言うんじゃないだろうな?」
「いやいや、まさかそんな面倒くさいことしないって!」
「それなら、どっかに当てがあるのか?」
「まぁねー。結論から言うと米作りが詳しい奴を探せばいいんだよ。」
キャットフードを食べ終えた黒猫はお皿を綺麗に舐めている。
「へぇ、米作りが詳しい奴ねぇ。で?誰なの?その人?」
「え?知らん。」
お皿を舐め終えた黒猫はクヮーと欠伸をして眠たそうにしている。
「おい、それじゃ話が進まないだろ。さっき当てはあるって!」
「当てはあるから大丈夫。そんじゃ、お昼まで休憩入りまーふ。ふぁぁ。」
そう言うと、「太陽が温もりを与え生物の睡眠導入を促進するサンクチュアリ(縁側)」に行ってしまった。
こんなので、大丈夫なのか?とは思うものの、まだ始まってばかりのツトメだ。焦ることもないか。と自分もクーラーの付いたリビングで、のんびりとする事とした。
ひんやり、かつゆったりとした静寂。こんな時間が永遠に続けばいいのにと思いつつ、うとうとしてると、
玄関からピンポーン!とチャイムの音が静寂を打ち破る。すると聞き慣れた野太い声が聞こえてくる。
次回はいかにも途中で分割したなっていう始まりの仕方します!
すいません!




