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勘違いは誰にでもある

 春一月二十二日。

 セアラ・ディパンドは、重い足を動かすことだけを考えて、王城の長い廊下を歩いていた。

 これから陛下との会見の場へ行く。

 陛下の紋章さえあれば、誰が行っても同じだっただろうに、自分が行かされたことが、セアラには未だに納得できない。

 十日間、本当にきつかった。

 頭が痛いし、体が重い。胸がむかむかして、吐きそうだ。

 背を伸ばして、いつも通りに歩くのが本当に辛い。

 とにかく早く解放されたい。

 本当に、本当に、酷い目にあった。願い事のひとつやふたつ飲んでもらったくらいでは引き合わない。

 すでに夜の帳が降りている。

 一行は静かにその部屋に入った。

 今夜も、命を受けた日と同じ顔ぶれがそろっていた。いや、セアラの父がおらず、近衛騎士団長がいる。

 王家の方々は奥に一列に並んでおられた。そこから一歩手前の左端に大将軍と近衛騎士団長、右端に宰相、そのとなりにヴィエラがいた。

 セアラ達は向き合う形だ。後ろに近衛騎士たちが何列かに分かれて立っているようだ。

 セアラとカディールが最前列だ。

 ヴィエラは、カディールを完全に無視して、セアラにだけ微笑みかける。それには一応笑顔を見せて答える。すぐに視線を落としたことには許してもらいたいとセアラは思う。表情をつくるのも辛い。

 カディール殿下が、何事もなかったかのように、しらじらしく帰国の挨拶をした。

 国王陛下は、それにはひとつ頷いただけで、セアラに労いの言葉を掛けてくれた。

「ご苦労だった。セアラ。」

「身に余るお言葉を有り難く存じます。」

 お約束のやりとりなのでそう言ったが、身に余るどころか、全然足りないと内心で思う。

 その後もお約束の作法通り、宰相に陛下の勅命を示すペンダントを返す。

「報告書は少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか。」

 今日、この場で確認したい大事な事はこれだけだ。覚書はつけているが、それでは正式文書にならない。

 宰相は、鷹揚に頷いてくれた。

「いいですよ。慌てなくて大丈夫ですからね。」

 いつになく優しいのは、疲れた顔を隠し切れていないせいだろう。

 とにかく、これで解放される。

 王城に部屋を用意してくれてなかったら、廊下で寝てやる。セアラがそんな気分で、殿下随行員代表の侍従ロベル・ジグドの口上を聞くともなしに聞いていた。

 終わって。早く終わって。

 頭痛と吐き気で、セアラは、もうそれしか考えられなくなっていた。

 ジグドの話が終わった。

 セアラは宰相の方に目をやった。この後、誰が話そうと、ここで体調不良を理由に席を外しても不敬にはならないはずだ。

 一歩踏み出そうとした時だった。

「セアラ。」

 第二王子レンカートに呼びかけられた。

 思わず眉間にしわが寄りかける。

 今回の件、あなたは何も関係ないでしょう。呼ぶんじゃないわよと心の中で思いつつ、無表情のまま、レンカートの方を向いた。

「はい、殿下。」

 ご令嬢方に人気のきれいな顔の王子様が目の前に来る。

 何故来るの?

 何故片膝を折って、見上げてくるわけ?

「セアラ、結婚しよう。一生を共にして欲しい。」

「え?!」

 カディールが声を上げた。まるで声を出す元気のないセアラの代わりのように言う。

「ここで言うか、レンカート。」

 けれどレンカートはセアラだけを見上げてくる。

 セアラは、レンカートがさらに何かを言おうとしているのを察知して、慌てた。驚いて固まっている場合じゃない。

「私、許婚がいますから。」

「えぇぇ?!」

 今度の驚きの声はカディールだけではなかった。王家の女性の方々とヴィエラの声が重なっていた。

 陛下のご面前だと言うのに、騎士たちの声も幾人か混ざっている。

 部屋中ざわついている。

 声を上げなかった人たちも、互いに顔を合わせたりしているんだろう。

 平然としているのは、国王陛下と兄ゼフィルだけだ。

 宰相と大将軍、近衛騎士団長も驚いている。

 どうしてそんなに驚かれるのかわからない。

 セアラだってもう十九才なのだ。婚約者がいたって全然おかしくない。

 レンカートは、目を見開いて、固まっていた。

 ため息がでた。

「そんなに私に許婚がいるのが意外でしたか。」

「全然、そんな様子なかっただろう。」

 突っかかるように言ってきたのは、カディールだ。そのままの勢いで、兄のゼフィルにも詰め寄った。

「ゼフィル、知っていたのか。」

「妹の事ですから。」

「何で言わないんだ!」

「妹の事ですから。」

 同じ返事しかゼフィルは返さない。確かにゼフィルが妹の結婚事情を一々カディールに報告する義務はない。

「どこのどいつだ!」

 何故か怒りまで含ませてカディールが、聞いてくる。

 セアラとしては、目の前で跪いたまま動かないレンカートの方を何とかして欲しい。

 少し多めに息を吸って、セアラはレンカートに話しかけた。

「レンカート殿下、あなたのお相手は私じゃないでしょう。ハレア王国の王女でしょう。ハレアは東南の国、ジゼット王国が脅威という点ではアディードと同じです。友好関係が出来れば、ジゼットを牽制できますよ。ハレアは海に向かって開けている国ですから、海運交易もしやすくなります。」

 レンカートに、ものすごく傷ついた顔をされた。

「おまえ、最低だな!」

 カディールが怒っている。

 何とでも言え、恋愛花園の住人めとセアラは思う。いまや目の前の第二王子もその花園の住人ということがわかって、体調不良がいっとき吹きとんでしまった程の驚きだ。

 レンカートが、自分の立ち位置に気づいていないとは思わなかった。セアラとの結婚などありえない。貴族院がこぞって反対する。

 セアラ・ディパンドは、男と張り合おうとする身の程知らずの女だと思われている。実に評判が悪いのだ。自分でもよくわかっている。

 王弟妃は、アディード王立学院の卒業生だ。女学生の掟を気取るつもりはないが、セアラは、彼女を支える側の一人なのだ。支えられる側に回るつもりはない。

 そもそも、レンカートは今まで何の意思表示もしなかった。唐突に何を言い出すのか。

 頭痛が前より酷くなって戻って来た。胸のむかむか感も治まらない。

「どこのどいつなんだ!」

 カディールが叫んでる。

「殿下、頭が痛いので叫ばないでください。」

 我慢できずに言ってしまうと、急に大人しくなった。そう言えば、体調の心配をしてくれていたのだったと思い出す。

 カディールの、感情をそのまま表すところ、早々に直しておくべきだったろうにと、カディールの教育係にまで心の中で八つ当たりをする。

 こういう時は兄に頼るに限る。

 セアラがゼフィルを見ると、頷いてくれた。

「レンカート殿下、どうかお立ちください。」

 言いながら、ゼフィルが彼の肘を支えて立ちあがらせる。

 セアラはそのまま立ち位置をずらした。代わりにゼフィルがレンカートに向かい合ってくれる。

「レンカード殿下、お気持ち有り難く存じます。しかし妹は、殿下のお妃でないほうが、みなさまのお役に立つでしょう。」

 穏やかだけど、迷いのないゼフィルの声が、宰相に向いた。

「宰相閣下。妹は体調を崩しております。御前から下がらせていただきますことをお許しいただけますでしょうか。」

 宰相が、セアラを見た。小さく頷くと、陛下を見上げる。

 国王陛下を見ると、セアラを見て頷いてくれた。

 下がる事を許すと言う宰相の声を聞いて、セアラは国王陛下に最大礼をする。腰を落としたら、そのまま座りこんでそうなのを気力で起き上がる。

 作法通りに部屋を出ると、情けない顔を見せても大丈夫な人がいた。

 侍女長、イレーナ・ファゼット侯爵夫人だ。

「大丈夫ではなさそうね。」

 そうささやいて、女官を傍に呼んでくれる。

「客室にお連れして。」

 侍女長の計らいが胸にしみる。

「ありがとうございます。」

 小さい声しか出ない。ひそめたわけでなく、もうセアラは声をしっかり出すのもつらい。

 少し歩いて、客室に入る。

 ドアがしまったとたん、セアラがしたことは、しゃがみこみ、着ていたドレスの裾を前にかき集めることだった。

 そこに、嘔吐した。床は汚せない。ドレス一枚より高価な敷物が敷いてある。

 一緒に来た女官が驚いていた。

「セアラ様、人を呼びます。」

 女官がドアの向こうに消えた間も、吐き続けていた。苦しい。頭がくらくらする。

 座りこみ、前かがみになったまま動けない。

 すぐに何人もの女官が入って来た。

「セアラ様、お医者様がすぐに来られますからね。」

「このドレス、脱いでしまいましょう。」

「まだお気持ちが悪いのでしたが、こちらにどうぞ。」

 陶器の洗面器が差し出される。

 セアラのドレスの、背中や脇や胸元が緩められ、そっとドレスが脱がされていく。その間にまた嘔吐してしまった。

 浅くて荒い息が、ゆっくりと正常に戻っていく。

 吐ききってしまったのか、少し楽になる。

 口をすすぐ。もう吐き気が来ない事に、ほっとした。

 ドアがノックされた。何かやりとりをされているようだけれど、セアラは動けないまま、女官が器用に寝衣に着替えさせてくれるのに身を委ねていた。

「ベッドまで行きましょう。」

 静かな声で女官に言われたけれど、すぐには動けなかった。それでもいつまでもここに座りこんではいられない。

 セアラが足に力を入れると、女官が立つのを手伝ってくれる。そのまま支えてもらって、ベッドに辿り着いた。

 ゆっくりと体を傾けて横になる。

 頭痛はまだ残っていたが、とても眠い。

 医者がいるようだった。嘔吐したことを女官が伝えてくれている。

「他にどこかつらいところがありますか?」

 良く知っている医者だった。セアラは安心して答える。

「頭痛と、からだが、少し、痛くて、重い、です。眠くて。」

「眠っていいですよ。起きたら、薬湯を飲みましょうね。」

「はい。」

 小さく返事をした後はすぐに何もわからなくなった。

 セアラは、九日ぶりに、安心して眠りを迎えることが出来のだった。


 目が覚めると、まだ夜だった。

 蝋燭の灯りがひとつ灯っていて、傍にいてくれた女官がすぐセアラに気づいてくれた。

「お目覚めになりましたね。薬湯を召し上がってください。」

 頭痛は消えていた。体はまだ休息を欲しがっていて重いが、自分で起き上がることが出来た。

「もう頭痛はなくなったのだけど。」

「そうですか? 痛み止めも入っていますが、お腹の調子を整える薬湯ですから、ご心配なく召し上がってください。」

 説明されて、受け取った。

「ありがとう。」

 ゆっくりと飲む。

「ゼフィル様がいらしていますが、お会いになりますか?」

「会うわ。」

 心配を掛けただろう。もう大丈夫だと伝えたい。

 けれど、入って来たのは兄だけではなかった。

「陛下。」

 慌てて、ベッドから降りようと思ったが、寝衣のままだ。

 動揺したが、こういう時の対応方法が頭に浮かんだ。許しを乞えばいい。こちらは病人だ。

「このようなお姿をお見せして申し訳ありません。お運びいただき、心より御礼申しあげます。」

「よい。」

 陛下は、普段の何を考えているかわからない顔でなく、優しい表情を見せてくれる。

 起き上ったセアラに、女官が肩かけを掛けてくれた。

「無理をさせたな。ローゼルも、ミドラスも反省していた。我儘を言って、安心させてやれ。」

 宰相ローゼルと、大将軍ミドラス。我がままの言い甲斐がありそうだ。

 けど、我がまま言われると安心するって、よくわからない。

「レンカートの事、セアラに言わせてしまったな。」

 陛下が眉を下げている。

 ハレア王国の王女は今十四才。リリエル王女と同い年だ。

 娘を嫁に出したくない父の心境が、ハレアの王女に政略を持ちかけることを躊躇わせる、そんな複雑な心境を、セアラが王の私室にお茶を持って言った時、滔々と語られたことがある。

 もちろんセアラは、右から左に聞き流した。莫迦じゃないかとは心の中だけで思った。ただ、言うべきと思うことは言った。

 ハレアと縁続きになりたい国はたくさんありそうですから、縁談は出遅れたら不利です、と。

 レンカートにはすでに話していると思っていた。何をしていたのですかと、言いたいが、これも心の中だけにする。

「先に伝えておく。一部の者の処遇についてだ。」

 陛下が王の顔になった。

 その切り替えに、セアラも神妙に答えた。

「はい。」

「アレド・カガンドは、北の国境勤めにつかせる。レイオン・リングードは咎めなしだ。」

 戦場になる可能性が一番高い東の国境に、アレドを行かせるのはさすがにやりすぎだったかと、セアラはため息を飲み込む。

 レイオンには何事もなくてよかった。彼は頭がいい、きっとどこでもやっていける。

「アコード領には、軍から管理官を送る。期限なしだ。エミル・アコードは、東の国境で二年預かる。」

 セアラが願っていた沙汰だ。あの西の国境警備のゆるみ具合は危うい。

 弟のハルジェスが言っていた。先輩騎士たちから聞く他の国境警備の話はとても厳しいと。アコードはそんなではなかったと。

 エミル・アコードも、知るべきだろう。

「ゼフィルは、内宮を去る。」

 セアラは驚きに目を見開いた。陛下を見、それから兄に目を移す。

 兄には内宮にいて欲しかった。

 だから、宰相に喧嘩を売るような真似までして、無理をした。兄のゼフィルを切ることはしないと思っていたのに。

 兄は静かな面持ちだ。彼も同意していることがわかった。

 そりゃあ私が勝手にした事だけど、とセアラは思う。でも、ゼフィルだってカディールの近侍になるって言っていた。

「ゼフィルの願いだ。」

 陛下の静かな声は、それが決定だと念押しをしているようだった。

「他の者に大きな異動はない。」

 セアラは頭を下げた。

「はい。」

 それ以外は言えない。陛下の言葉は続く。

「セアラの結婚許可証にサインをした。」

「有り難く存じます。」

 嬉しいのだけれど、何だか力が抜けて下げたままの頭が上がらない。

「よく休め。」

「はい。」

 陛下の気配が静かに遠くなっていく。

 かわりに兄が側に来た。

「ごめん、セアラ。」

 顔が上げられないまま聞いた。

「どうして?」

 どうして近侍をあきらめるの?

「留学に行ったからだよ。」

 ゼフィルは近くにあった椅子を引き寄せて座った。

「幼い頃から、ずっと殿下と一緒だっただろう。近すぎたんだ。甘えがあったんだよ。私にも、殿下にも。お互いに対してね。止めきれなかったのは、そのせいだ。だから、私は殿下から離れる。」

 大きなため息をゼフィルがついた。それからまた話してくれる。

「それに、留学中に良い体験をした。内宮の侍従長より、街道係の仕事や領地運営に取り組みたくなったんだ。剣も弓も体術も、近衛騎士に鍛えてもらったんだよ。これでもかなり出来るんだからな。」

 何だか悔しくて、セアラは言い返す。

「なによ。どうして教えてくれなかったのよ。そうしたら、吐くほど頑張ったりしなかったのに。だいたいゼフィルお兄さまの手紙は短すぎるのよ。その時は生きていたんだってことしかわからなかったわ。どこにいたって、晴れの日もあれば、雨の日もあるわよ。他の事、書きなさいよ。暗号も取り決めてたのに、全然使わなかったわね。」

 ふいに、思いついたことがあって、兄に向き直った。手にしたカップから薬湯が少々こぼれる。が、セアラは気にすることなく、ゼフィルに声を上げた。

「まさか、ハルジェスには言っていたとか、私だけ知らなかったとか?」

「言ってない、言ってないよ。」

 慌ててそう言うゼフィルを、セアラはしっかりと見る。

 嘘ではなさそうだ。

 でも、わかった。

「ゼフィルお兄さまは言葉が足りない。決定的に足りない。私も直感で気がついた事を説明するのは下手だけど、三回目ぐらい同じ事について話したら、それなりになるわよ。バンデルで、お兄さまは殿下に何回お説教をしたの? 三回どころじゃないはずでしょう。殿下も自分も甘えていたですって。違うでしょう。説得の言葉が足りなかったのよ。いや、違うわね。」

 セアラは薬湯を一口飲むと、欲求のままに話し続けた。

「説得してなかったでしょう。お願いしてたんでしょう。『殿下、国境を越えましょう。』とか、『アコードに行きましょう。』とか。そういう言い方をしていたんでしょう。」

 決めつけたが、兄からの反論はない。少し目を開いて、身を引いている。セアラの思った通りだったに違いない。

 薬湯をもう一口飲んだ。もう兄は見ない。低い声で、心のままに言う。

「なんてことなの。そう思えば、内宮にいた時からそうだったかも。カディールを黙らせていたのは、私の扇だったのよ。ゼフィルのお説教が効いていたわけじゃないんだわ。なんという不覚。信じていたがゆえに見誤ったわ。お兄さまが、こんなに不甲斐なかったなんて。内宮で侍従長なんてとんでもない。何が街道係よ、領地運営よ。」

 セアラはきりっとした表情で兄を見た。

「簡単に何とかなると思わないことね。」

 顔を強張らせてしまったゼフィルから目を逸らすと、ひとつ大きなため息をついて、セアラは残りの薬湯を飲み干した。

「誰か、お願い。」

 女官を呼ぶ。内宮の女官は優秀だ。すぐに静かに姿を現す。

「薬湯を全部飲みました。」

 そう言うと、女官がカップを受け取ってくれる。

「兄が帰ります。」

 女官は少し頭を下げて、手でドアを指し示す。ご案内いたしますと言う仕草だ。

「ごきげんよう。お兄さま。」

 セアラは、返事を聞かず、ベッドに入って背を向けた。

 ゼフィルが立ちあがる音がする。

「お休み、セアラ。」

 少し戸惑ったような声。言いすぎたかもしれない。

 出て行く気配を追ったけれど、引きとめる気はなかった。どうせすぐに仲直りをする。

 ただ自分が情けなくて、泣きたい。

 リザルで、ゼフィルが迷うことなくバンデルの領主館に自分が挨拶に行くと言ってくれたとき、心配だったけど、信頼できると思った。だから、口上も任せた。けれど、もしかしたら、失敗だったかも。一緒に行ったフェナン・ソーザも若い近衛騎士だ。交渉人として頼りになる人だっただろうか。

 考えても遅い。

 心の底からため息が出た。

 身内のことは贔屓目に見てしまうって、本当だった。

 倒れるほど頑張って、わかったのがそれだった。

 こんな失敗はもう二度としない。

 セアラは目を閉じる。

 とにかく体を酷使する日々は終わった。それだけは確かだ。

 眠りに落ちる前、必ずこのことは後世に書き残してやると誓った。


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