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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
動き出す状況と月面基地 西暦3147年10月前半

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差し入れ品を開封する

 改めて松永大佐と一緒に退室して来た道を戻る。行きと違い、松永大佐の歩く速度は遅い。考えながら歩いているのかな?

 無言のまま歩き、食堂へ戻った。室内には、出た時と同じ面々が未だに残っていた。

「何でそこで松永に丸投げするの!?」

「私に何を丸投げしたのですか?」

 絶叫じみた声が上がり、松永大佐が対応すると、全員口を閉ざした。それどころか、身動ぎせずに気配を消して背景になろうとしている。

「? まだいたのですか?」

 何しているんだろうねこの人達。と言うか、何でまだいるの。自分が声を出しても無反応だ。 

「どうしたんです?」

「放っておけ。明日の会議を思って気が滅入っているだけだろう」

 松永大佐の声に苛立ちが混じっている。黙っている大人勢は何やらけん制し合っているので、本当か疑ってしまう。ここで本当か尋ねても『気にするな』しか、言われないだろう。

 気を取り直して、ハムを食べよう。松永大佐にも食べるか声を掛け、少しやり取りをしてから近くのテーブルに歩み寄り、端末の収納から差し入れ品のハムを取り出す。食べきれそうな一番小さい奴でいいな。空気に触れると劣化が早まる。けれども、最も小さいもので拳二つ分の大きさのハムしかなかった。しょうがないからこれにするか。これで全部取り出したか確認する為に端末を操作すると、収納した覚えのない品が入っていた。

「――あれ?」

「どうした?」

「いえ、収納に入れた覚えのないものが何か入っていました」

 何だろうと取り出すと、二つの藤籠だった。どちらも数本の酒瓶とメッセージカードが入っている。

「葡萄ジュース? 誰……あ、これはサイからで、こっちはティスからか」

 酒は付き合い以外では飲まなかった。ちなみに自分は下戸では無い。諸所色々と遭って対毒性を身に付けた結果、酒を樽で飲んでもまったく『酔えない』体質になった。アルコールは毒素扱いなのかと思った瞬間だ。

 どこの世界に転生しても、酒に強い体質だったから気にならなかったんだよね。体重の増加が見込めない現在、これの原因も判明している。

 余分な事を思い出しながらも、二枚のメッセージカードに目を通す。どちらも短い文章だが、セタリアに比べると大変真っ当な文章だった。

「仕事の合間にって、こっちはノンアルコールのリキュール? あ、ハーブ畑復活記念で作られた奴か」

 ティスからの差し入れ品はノンアルコールのリキュールだった。流石に三百年も経っていれば、復興は終わるか。独り言を呟いたら、松永大佐が反応した。酒が好きなのかと、思いつつも説明をする。

「ハーブ畑と言うのは、返品した酒の中で最も高かった酒のところの事か?」

「はい。あそこのリキュール愛飲家達が沢山の復興支援金を送っていましたので、機材を十分に揃えられた結果だと思います。……経過時間を考えると、そろそろ復興が終わってもおかしくは無いですね」

 松永大佐は自分の転生云々について知っているからか、何も言わずに納得してくれた。代わりに視線がワインボトルに移る。

「ほぅ。そっちは葡萄ジュースで、合っているのか?」

「今の状態だとジュースのままですね。何ヶ月か未開封のままワインセラーや専用の冷蔵庫に入れて置くと、熟成が進んでワインになります」

「それでは酒だろう」

 地球では馴染の無いタイプだからか、松永大佐は酒と断定した。記念品目的で購入されるワインなので訂正する。

「違います。ある程度の期間を経ないと酒になりません。購入したあとに頃合いを見計らって飲む『ワインの(もと)』です」

「ワインの、素?」

「はい。素、正しくは原料ですね。熟成させる直前なので、葡萄の果実を絞ってボトルに詰めた状態の、ノンアルコールのワインです」

「成程。これからワインになるのか……ん?」

 熟成させる直前だと言うと、松永大佐は漸く納得してくれたのだが、別の事が気になるのか首を傾げた。

 他の大人勢が値段を気にしていた事を思い出して、セタリアからの差し入れ品に比べれば高くないと、松永大佐に教えると微妙な顔をして『まぁ、いい』と言われた。どうやら別の事を気にしたのか、送り主について尋ねられた。

 名前を教える程度なら問題無いので、サイとティス――サイヌアータとトリキルティス二人の名前を教える。日系の名前じゃないと性別の区別がつかないのか、誰の名前なのかと質問を受ける。男の名だと教えると聞き慣れないと驚かれた。

 追加情報を教えて、松永大佐にノンアルワインを飲むか尋ねる。流石に六本も在るから半分までなら分けても大丈夫だ。

「独りで飲まないのか?」

「流石に六本は多いです。支部長はリキュールをお飲みになりますか?」

「……流石にノンアルコールなら、星崎が飲んでも大丈夫だぞ」

「リキュールも本数が有りますし、両方のカードには『皆で飲むといい』と書いて在るので大丈夫ですよ」

 松永大佐にティスからのメッセージカードを渡す。メッセージカードを受け取り、文面を読んだ松永大佐の眉間に皺が寄った。多分日本語で書いて在る事に困惑しているのだろう。

 案の定、松永大佐から『日本語で書かれているのは何故か』と、質問を受けた。ティスも『自分と同じだ』と簡単に説明すると、松永大佐はそれで納得してくれた。オカルト方面に関しては門外漢だから、納得せざるを得なかったかもしれない。

 一番小さいハムとノンアル赤ワイン一本とノンアルリキュール一本以外を仕舞い、話題転換も兼ねて、ハムを焼こう。でも、ハムを片手に厨房へ向かおうとして、松永大佐に食べるか聞き忘れた事を思い出す。

「松永大佐。ハムステーキを焼きますけど、食べますか?」

「ハムステーキ? 本当に焼くのか?」

「食べ比べしますか?」

「……なら、一枚だけ食べるか」

 返答を聞いてから厨房に入ると、松永大佐もついて来た。適当な台の上にまな板と包丁を取り出し、ハムを開封して載せ端の方を薄く二枚切る。一枚を筒状に巻いて楊枝を刺して松永大佐に渡し、もう一枚を同じように巻いて手掴みで食べる。久し振りに食べるが美味しい。

 続いてフライパンを取り出し、温めている間にハムを一枚切り分けて焼く。香ばしい香りがする程度に両面を軽く焼いたら取り出してまな板に載せる。包丁で半分に切り分け、楊枝を刺して松永大佐に渡す。

「確かに焼いた方が美味いな」

 食べ比べの結果、焼いた方が美味しいとなった。日本円にして数十万するハムだから美味しいだろうね。個人的に醤油を掛けて焼いても美味しそうだと思う。


 試験運用隊の厨房は、所属人数の少なさから料理人が不在だった為、調味料類が一つも置かれていなかった。自分が作るようになり、作った品を自分以外の誰かも食べたがるからと、松永大佐が調味料だけは置いてくれるようになった。部隊費用として経費扱いしているらしい。

「使わずに溜まっていた金だから気にするな」

 経費扱いして良いのかと尋ねれば、松永大佐からの返答はこれだった。食べる人間がこれから増えるとも言われた。

 

 醤油の存在を思考から追い出し、今回はそのままで食べる事にして、松永大佐に確認を取る。

「残りも全部焼きますが、食堂の方はどうしますか?」

 他の大人勢の分も残した方が良いかと思ったが、

「向こうで勝手に結論を出すから放っておいていい」

 とっても投げやりな返答が来た。食べさせる気が無いのかと思うが、黒い笑顔を浮かべての返答だったから、気にするだけ無駄だろう。

 そう判断してハムを切って焼いて行く。ある程度の厚く切った方が美味しいが、九枚しかない。ここから半分にしても十八枚だ。人数を考えると足りないが、食べない人も出そうだ。

 ハムを焼いて半分に切ってから、大皿を出していない事に気づいた。グラスも出していない。食器棚から大皿と取り分け用の小皿に、グラスを探し出し、ついでに持って来たトレーに載せる。カットしたハムを大皿に乗せ、席に戻る途中で夕食用のフォークを取る事も忘れない。

 戻った食堂内では激しい議論が行われていた。

「アレは何をやっているんですか?」

「気にするな。冷めない内に食べるぞ」

 席に戻りノンアルワインの栓を開ける。すると、何故か悲鳴が上がった。声の主を探して見ると、工藤中将とその周辺にいる男性陣だった。女性陣も幾人か『あっ』と言わんばかりの顔をしている。皆お酒が好きなのか。訓練学校の卒業生も食い付いているから、卒業後にどこかで飲んだんだろうね。

 松永大佐の発言が『飲む』ではなく、『食べる』だった事が気になる。でも、ハムステーキは冷めると美味しくないので無視してグラスにボトルの中身を注ぐ。白やロゼだと葡萄ジュースっぽく見えないので赤にしたが、仄かに香る芳醇な香りを嗅ぐと赤ワインに見える。少し熟成が進んでいた模様。松永大佐もワインぽい香りに驚いている。もしかして、松永大佐はワイン系が好きなのかな?

「星崎! 俺も飲みたい!」

「支部長に一本渡しても大丈夫か、確認する為なので却下です」

 松永大佐が誰かの叫びを却下した。支部長に渡す・渡さないの話はした覚えは無い。消費に付き合ってくれるのなら、いいか。ノンアルワインは松永大佐の意見を聞いてから飲めばいいので、湯気が立ち上る熱々のハムステーキを取り皿に取り分けて頬張る。うん、香ばしくてジューシーで美味しい。

「支部長には要らねぇだろ!」

 何故、支部長には要らないと言う意見が飛び出すのだろうか? 同調の声を上げる人数が多い、と言うか松永大佐以外の大人全員だ。支部長が慕われていないのか、会議で好き勝手やっている恨みなのか。分からないな。先月何か言っていたような気がする。

 先月の会議の日の昼食時の会話を思い出していると、ドアの開閉音のあとに野太い声が響いた。

「何が要らないんですの?」

 やって来たのは神崎少佐だった。全員の動きが止まる。適当な返事を返していた松永大佐はその隙にグラスを手に取った。軽く香りを嗅いでからグラスを傾け、目を瞠った。お酒になっていたんだろうかと不安になるが、松永大佐はそのままハムステーキを一口齧って目を閉じた。

「んもう、入った瞬間全員無言になるなんて酷いわぁ」

 神崎少佐の発言通りに、本人登場と同時に全員が無言になった。その間にハムステーキを食べ進める。

「あらぁ、星崎ちゃん、何を飲んでいるの?」

 誰もが動いていない中で、動いている人間は自分と松永大佐だけだ。神崎少佐の視線は自然と自分達に向く。

「頂きものの葡萄ジュースです。熟成が進んでワインに成っていないか、松永大佐に確認して頂いているところです」

「あら、そうだったの?」

 適当な理由をでっち上げたら、神崎少佐は信じてくれた。強ち嘘では無い。飲酒可能年齢に達していない自分が酒を飲むのは流石に不味い。ジュースがジュースのままか確認して貰っているも同然だし。見た目が本物の赤ワインにしか見えないから、これ以外の言い訳が思い付かなかっただけなんだけど。

「飲んだ限り、酒には成っていないな」

「そう。なら大丈夫ね」

 酒になっていないのなら、さっきの反応は何だったんだろう? 

「神崎少佐も飲みますか?」

「あらいいの?」

 神崎少佐に一杯勧めたら、嬉しそうな返答が来た。

「本数が在るので、支部長にも一本渡す予定でした」

「ん~、支部長は甘いものを好むけど、ワイン系と甘いお酒は飲まれないのよね。確か、缶酎ハイしか飲まないのよ」

「あれ? そうなんですか?」

「そうよ。ジュースなら、星崎ちゃんが一人で飲んじゃった方がいいわ」

 しかし、一体どこから、支部長に渡すと言う発言が出て来たのか。もしかして、松永大佐は支部長が好む酒を知らないのか。それとも、室内にいる中で、松永大佐だけが知らないのか。謎だが、ハムステーキをばくばくと食べている松永大佐の姿を見ると、もしかしたら酒を好まないのかもしれない。小さな悲鳴が聞こえるけど、この際無視一択で良いな。

 考察をしていたら、神崎少佐がマグカップを持って来た。グラスではなくこれで飲む気らしい。ホットワインじゃないんだが、グラスを探すのが手間だったのかと、言葉が出て来たが、後者の気がした。ボトルの栓を抜いてマグカップに味見程度に注ぐ。

「美味しい! お酒っぽい香りなのに、飲むと完全にジュースなのね。ちょっとワインっぽいけど、アルコールが入っていないのなら子供が飲んでも大丈夫ね」

 ノンアルワインを一口飲んだ神崎少佐は、見ているこっちが大袈裟だと驚くぐらいに驚いている。そして、飲んで大丈夫のお墨付きを憲兵部のトップから貰ったので、艦の中で飲んでも大丈夫だろう。神崎少佐もジュースみたいに飲んでいるし。

 しかし、このワイン(今はノンアル状態)は三本セットで日本円にして百万前後、一本当たり三十万程度の品だ。セタリアからの差し入れ品に比べると、十分の一の値段の安い奴なんだが……軍の基地じゃ高い酒が買えない弊害か? 知らんけど。三十万円するジュースは滅多にないと考えると、神崎少佐の反応は当然な気がする。そもそも、皇室献上品と比べる方が間違っているか。

 そう言う事にし、ハムステーキを勧めてから、神崎少佐にやって来た理由を尋ねる。神崎少佐はハムステーキを食べて美味しいと感想を零してから答えてくれた。

「そう言えば、神崎少佐は何しにここへ来たのですか?」

「実はね、明日も会議をする事になったから、どうして開催するのか知っていそうな人に尋ねようかと思って来たのよ。ほら、お昼もここで食べた人が多いって聞いたから、夕食もここで食べていそうだなって思ったの」

 どうやら支部長からの通達を受けてここに来たらしい。でも、松永大佐に聞きに来たと言わない辺り、他の理由が在ると思っているのだろう。松永大佐は答える気が無いのか、無言でハムステーキを食べている。どうやら気に入ったらしい。明日このハムを使ったサンドイッチでも作ろうかな。普通のハムサンドとハムカツサンドの二種類作ろう。

 明日の差し入れメニューを考えていた間に、神崎少佐から視線を受けた工藤中将が血相を変えて叫んだ。その周囲の男性陣は必死な顔で首を縦に振っている。

 情報が得られなかった神崎少佐は仕方が無いと言わんばかりにため息を吐いてから、マグカップを食器回収口に置いてから去った。

 嵐が去ったら、被害状況を見たかのような悲鳴が上がった。

「ああーっ!! ハムステーキがっ!?」

 悲鳴を無視した松永大佐はグラスを傾けて空にした。もう一杯飲むか松永大佐に尋ねてから、グラスに二杯目のノンアルワインを注ぐ。大皿のハムステーキは無くなったが、自分の取り皿には残っている。と言うか知らない間に移されていたので、自分が食べる分は残っている。

「騒々しい。我慢出来ないのですか?」

「ばくばくと食っていた奴が言う台詞じゃねぇ!」

 再度上がった、誰かの苦情を無視した松永大佐はグラスを傾けた。こっちも気に入ったのか、美味しそうに飲んでいる。

「食べたいのならば、明日の会議で頑張る事ですね」

「……どう言う意味だ?」

「そのままの意味です。明日に備えて今日はもう休んだ方がいいでしょう」

 飯島大佐からの質問にも、松永大佐は曖昧に答えた。

 自分は何となく、ハムサンドを作るように言われそうな、気配を感じ取った。

 このあと。解散とならず、酒好きらしい人達からの熱い要望で、ノンアル赤ワインとノンアルリキュールの試飲大会が行われてからお開きとなった。

 でも自分は、松永大佐が素直に試飲の許可を出した理由を考えてしまった。

 泣いて喜んでいる一部には悪いけど、明日会議を松永大佐が荒らしそうだ。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


※3/21

 質問が来ましたのでこちらにも回答を追加します。



・質問

 届いた葡萄ジュースがサイからでは矛盾が有る。差し入れをするのならティスだけだ。


二部で入れる予定シーンの一つなので、回答を控えようかと悩みましたが混乱を避ける為に回答します。

回答は『ティスがサイに依頼した品』です。

ティスが普段飲まない種類のお酒を自費で購入すると、何の為に購入するのかと、周りからしつこく聞かると判断し、サイに代理で購入して貰いました。仲が悪くても恩の押し付けを忘れない男です。

同封のメッセージカードの文章が短いのは、代筆を疑われない為です。

主人公は毒耐性を得た結果、全く酔わなくなってしまい、ジュースばかり飲んでいました。

元日本人のティスはワイン系を好みません。

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