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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
軌道衛星基地にて 西暦3147年8月

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八月最終日の日付が変わる前~松永・佐久間視点~

 二十二時。深夜と呼べる時間帯だが、松永は隊長室で明日締め切りの書類と星崎に割り振る書類を分けていた。

 星崎に割り振る書類の量は、正直に言うと松永よりも多い。だが、本人は気にせず、松永よりも『先に』終わらせてしまう。

 あの書類を捌く速度を見て、松永は心から思った。

 ……もっと早い時期から手伝わせれば良かった、と。

 八月七日以降から手伝わせればと思うが、あの頃の星崎は左足を中心に負傷していた。その為、余り仕事は割り振れなかったが、与えた仕事はあっと言う間に消えて行った。一体どこであの書類処理技術を身に着けたのか。

 特に報告書関係は見事で、要点を纏めた紙数枚だけが提出された時は驚いた。しかも、補足として各報告書を一枚に纏めたものまでもが添付されている。

 報告書を読み纏めている時の星崎の行動を盗み見たが、右手と左手が同時に動いていた。手元を見ずに、片手で何かのメモを取り、パソコンのキーボードを叩く様は、『見事』としか言いようが無い。

 とにもかくにも、星崎が書類仕事を手伝ってくれるので、松永の仕事量は以前よりも『減って』いる。

 不正発覚後の開発部は、繋がりの在った試験運用隊隊長の松永が監督――具体的に言うと、松永が開発部ツクヨミ部署の実質トップになる――する事で解体こそ免れたが、仕事の成果は殆ど出ていない。星崎が齎す情報の方が遥かに有益だ。

 松永に齎されたのは、膨大過ぎる仕事のみ。しかも、非常に杜撰な管理体制だったので、立て直しには最低でも二ヶ月もの時間が掛かると思っていた。

 けれども、星崎に手伝わせた事により、八月末日でほぼ九割方が終わった。星崎に手伝わせるまでの、あの激務は何だったのか。

「終わったのだからそれで良い」

 松永の思考が回想途中で別の方向に流れかけた。松永は、あえて声に出して、己に言い聞かせる。さっさと手伝わせなかった己が悪いと付け加える事も忘れない。

 それに、星崎の仕事の処理速度に関しては、何かしらの経験を保有している事が判明している。どうやって身に着けたのか一度聞いて見たいが、『量をこなしただけ』と回答されたらどうしようと、回答を想像出来る程度には星崎の性格把握が出来ていた。

 松永は書類を割り振り終えると、最後のメールチェックを行う。

 一時間程前、佐久間支部長から来たメールを最後に一通も来ていない。パソコンの電源を落とそうとしたところで、珍しい人物から一通届いた。

 開封してメールの内容に目を通し、内容が松永にとっても興味を引くものだった。午後だけならと了承の返信を返し、松永はパソコンの電源を落とした。

 自室に戻っても、松永が考える事は星崎の事だ。

 今日新たに判った事を思い出し、松永は『とある疑問』への回答を得た。

 星崎の大人への不信感の原因が、入学前の教官一同の対応に在った。しかも、記憶喪失の報告が上がっていない。大林少佐は追加業務で調査している事だろう。

 その大林少佐は、諜報部にも星崎の席を作りたいと言った。

 諜報部と二重所属だから情報を多く知っている。

 これは確かに、星崎にとって都合の良い言い訳になる。諜報部との二重所属者の正確な人数は松永も知らないが、それなりの人数がいると聞いている。星崎が隠れ蓑にするのならばピッタリだろう。

「それにしても、前世か」

 情報と言う単語の連鎖で思い出す。前世の記憶。オカルトが排斥された現代で、そんな単語を聞く日が来るとは思わなかった。星崎は記憶を持っていて、困っている様子は見られない。逆に、名前すら思い出せなかった状況下では、前世の記憶を思い出したのは幸いだっただろう。主に、行動に悩まないと言う点で。

 塞翁が馬と言うべきか、禍福は糾える縄の如しと言うべきか、非常に解らない状況だ。

 眠気がやって来た松永は、シャワーを浴びてから早々に眠った。


 ※※※※※※


 同時刻。

 佐久間は執務室で引き続き残業に追われていた。夜勤の人間以外は眠っている時間で、佐久間は日勤側だ。

 その、日勤側の佐久間が残業として何をしているのかと言うと、二時間前に井上中佐から届いたメールの内容を改めて読み直していた。メールの内容を吟味してから、追加指示をメールで送る。

 組んだ両手を上に伸ばして、椅子に座ったまま軽く伸びをして今日の激務内容を思い出す。

 特に松永大佐が、扱いに困っている星崎を連れて来た時は焦った。ギックリ腰で動けないのを良い事に、死んだ振りをしてやり過ごしたくなった。星崎から知りたかった情報が得られたので、結果オーライとするしかない。

「敵を特定するだけの情報が無い。しかも、時間が掛かり過ぎている」

 最も知りたかった情報だけは得られなかった。敵勢力側の事情は知らなかったし、知る気も無かった。しかし、敵の特定には必要な情報だった。

 別の宇宙から来た謎の勢力。

 別の宇宙に接触した事で文明が傾き、他所の宇宙への接触を侵略を禁じる条約までもが存在するところで、地球に侵攻する理由は何なのか。

 そして、時間を掛けている理由は?

「分からんな」

 偶然が重なって得られた情報の価値は大きい。

 だが、他支部にすら明かす事の出来ない情報でもある為、扱いは難しい。日本支部でも知っている人数は片手で足りる。今後の状況次第では幹部達にも教える事になるが、星崎から『必要以上に広まらないのであれば構わない』と了承は得ている。

 ……いかん。深みに嵌まり始めている。

 思考がループする気配を感じ取り、佐久間は一度目頭を揉んだ。

 暫しの間を置き、佐久間は『結論は何か』と自問する。

 結論は、情報の開示は戦況を見ながらで問題無い。

 星崎に尋ねる場合、逐一松永大佐を通す手間が発生するが、不審に思われる事は無いだろう。支部長と幹部のやり取りを疑う人間は少ない。

 自問自答で得た結論に満足した佐久間は、再び書類仕事に戻った。


 翌日。

 佐久間は揉み返しの筋肉痛で、悲鳴を上げながら書類仕事をする羽目になった。


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