まさかのお達し
翌日の朝食後のお茶の時間。
松永大佐から業務連絡がやって来た。ただし、その内容は耳を疑うものだった。
「……本気ですか?」
思わず聞き返した。一機組み上げろって、マジですか?
「ああ、本気だ。佐久間支部長から突拍子もない、そんな指示が来た」
「何をどうすりゃそんな事を思い付くのか。たまにだが、支部長の頭ん中を割って見たくなるな。真っ黒だろうけど」
何故かやって来て、一緒に朝食を取る事になった飯島大佐の言葉に思わず頷く。
「好きなようにやって良いが、作業は保管区内でやるようにと、付け加えられている。作業用のパワードスーツは保管区に搬入済みだそうだ」
「太っ腹な発言ですね」
「満足に操縦出来る人間も、改造出来る人間も、星崎以外にいない。星崎の専用機にして良いとの事だ」
「豪気だな」
「材料は回収した敵機です。日本支部の懐が痛む事は無く、足りないのは人手だけになります」
「考えればそうだな」
飯島大佐の言葉通り、確かにそうなんだけど。気になる事が有り、松永大佐に尋ねた。
「試験操縦したアゲラタムの修理はどうなったのですか?」
「全く進んでいない」
無情な言葉だった。言葉を発した松永大佐も、ため息を吐いている。
朝っぱらから二度目の、耳を疑う内容だった。一週間も経過しているんだが、マジか?
同じ事を思ったのか、飯島大佐も修理が決まってからの日数を数え始めた。
「待て。修理が決まってから何日が経過しているんだ?」
「……そろそろ、八日になりますね」
「開発部は何やってたんだよ!?」
松永大佐の回答を聞いて、飯島大佐はギョッとした。突っ込む声は絶叫に近い。応答する松永大佐の声には、落胆が滲み出ている。
「残存の人員は残骸の分別すら行わずに、支部長が持ち込んだ重力制御機の、通電させる方法で揉めていたそうです」
「開発部はもうアレだな。追加しないでツクヨミ部署の人員を、本国の部署と総入れ替えする未来が見えそうだな」
「寧ろ今すぐにでも入れ替えて欲しいですね」
揃って嘆息する大佐コンビの姿に、状況のヤバさを嫌でも理解する。同時に思わず呆れてしまう。
つーかさ、仕組みが至極簡単なのに、何で揉められるんだろう。その辺も自分がやった方が良いのかな? でも、空白部分が出来るからどうやって埋めるかも考えないとなんだよね。少し考えこんでいたら松永大佐に呼ばれた。
「星崎。開発部は、支部長が徹底的に絞る。何人残るか知らないが、過労で倒れる人間が何人出ようが、支部長は仕事をさせる。重力制御機に関しては、今日中に形にさせるらしい。出来なかったら別のところに声を掛けるそうだ。残りの人員をそちらに集中させる為、修理は中止になる。演習場に移動させた機体を、修理予定機体として保管区に戻したそうだ」
「それでしたら、修理予定のアゲラタムを弄った方が早くに終わりそうですね」
手間と作業手順、アゲラタムとジユの損傷具合を考えて、アゲラタムに決める。
「戦闘用が在るのに、そっちにするのか?」
飯島大佐が意外と言わんばかりの顔をした。口にはしなかったが、松永大佐も驚いている。
「修理予定機の損傷は、頭部と左足の欠損に、胴体部と左腕の装甲だけなので、付け替えれば終わります。それに、手元にある残骸で『どこまで改造出来るか』を、一度見て置いた方が、今後の参考になります」
「確かに、それはそうだな」
「それとは別に、ジユの修理パーツが三機分と少ないです。アゲラタムのパーツを回せば四機分になりますが、パーツが余分に有る方を弄った方がよいかと」
「……それが一番の理由か」
目を眇めて、飯島大佐は断言した。作業の手間で選んだだけなんだが、訂正する必要は無いのでそのままにする。
「余裕が有る方を弄った方が良い、か。星崎は今後パーツが手に入らなくなる可能性が有ると思っているのか?」
口元に手を当てて、何やら考え込んでいた松永大佐にそんな事を聞かれた。
「敵機の殆どは外見を変えただけのアゲラタムでしたので、他支部とパーツの取り合いをしない限り、その可能性は低いと思います」
「そっちの可能性が有ったか」
「はい。支部長がサインを捥ぎ取った事を考えると、有り得そうです」
「確か、アゲラタムに関する情報開示を拒む事を認めさせるサインだったか」
「支部長も支部長で抜かりねぇな」
まったくだと、飯島大佐の言葉に松永大佐と一緒に頷く。
「日本支部でも、アゲラタムの調査優先順位は低かった。それを考えると、実戦に投入しない限り、他支部との取り合いは起きないか」
「確かにそうだが、微妙に読めねぇな」
「佐久間支部長が仰るには、他支部では廃棄対象になっていたそうです」
「捨てる残骸を欲しがった時点で怪しまれると思うか?」
「どうでしょう? そこまで勘の良い支部が残っているとは思えませんね」
「……それもそうか」
大佐コンビの考察の終わりに、突っ込みそうになった。立っていたらズッコケていたな。
……飯島大佐、頷いて良いんですか? つーか、松永大佐も酷評だな。他支部ってそんな状態なのかよ。
「他支部がどう動くにせよ、我々が何かしらの行動を起こさなければ反応も関心も無い。星崎は今日から作業を開始しろ。修理と改造の進捗報告を佐久間支部長も気にしていた。報告は食事ついでに私が聞く。十二時半と十八時半までに、必ず一度戻れ」
「分かりました」
松永大佐からの指示に頷き、予想可能な所要時間を考える。
修理だけならそこまで時間は掛からない。多分午前中に終わる。並行してジユの修理も一機だけ行うか。
問題は改造だ。操縦席の入れ替えには時間は掛からない。これも今日中に終わる。武装は使える奴を選べば、今日中に終わる。武装で修理が必要なのは、銃剣とライフルと盾だった筈。メモを確認しないと。
「星崎。修理時間はどれくらい掛かるか判るか?」
装備面で掛かる時間を計算していたら、松永大佐に必要時間を聞かれた。
「そうですね。アゲラタムを一機だけ修理するだけなら、お昼頃に終わりそうです」
「開発部の無能っぷりが酷いな」
「一機だけの、修理を、行うのでこの時間です」
飯島大佐の嘆きに、一応の注釈を付ける。大佐コンビと違い、自分は開発部の実力を知らない。詳しい事を何も知らないので、一概に彼らを無能と言えない。そもそも、圧倒的な技術力の差が存在するのだ。それを考えると、十把一絡げにするのは可哀想だろう。
それに、アゲラタムには自己修復機能が付いているので、ある程度の時間、放置出来るのだ。
「午前中で一機か。星崎。丸一日修理に専念するとしたら、何機の修理が可能だ?」
「損傷状態にもよりますが、酷いのなら三・四機が限界だと思います」
「なら、戦闘用一機では、どの程度の時間が掛かる?」
「今日行うのであれば、……動くだけで良いのなら、夕方には終わるとは思います」
「待て、松永。お前、何を考えている?」
修理に掛かる所要時間を計算してから松永大佐に答えると、飯島大佐が割って入って来た。
「単に動く比較対象が欲しいと思っただけです」
「本当か?」
「ええ。何を疑っているのですか」
「乗るとか言い出さねぇよな?」
「訓練時間が無いので乗りません。状況に応じて、『星崎が機体を乗り換える』事態は有り得そうですが」
「それは有り得るか」
松永大佐の言い分に、飯島大佐は納得した。自分は内心で、そんな事態が起きない事を祈った。割と切実に。
まぁ確かに、状況に応じて乗り換えるは有りそう。
「そう言う事だ。星崎は二機を修理しろ」
「分かりました。二機の修理を行います」
元々並行してやろうかと思っていたのだ。断る理由は無いし、修理の理由を考える必要も無くなった。纏めてやっちゃおう。
松永大佐に応答を返して、お茶の時間は終わった。




