話し合い後に~松永視点~
食堂で星崎と別れた松永は、飯島大佐を連れて隊長室へ戻った。予定よりも早く佐久間支部長へデータと報告書に一言添えて、メールで纏めて提出し、星崎との先のやり取りについて飯島大佐と話し合う。応接セットのソファーに対面で座り、松永は飯島大佐に考えを尋ねた。
「星崎の先の回答はどう思いますか?」
「アレは完全な白だ。これ以上は疑う必要性も無いな」
「そうですね」
先程、松永が星崎へ投げ掛けた質問の『それでも』の本当の意味は、『己が造り上げた武器で、味方を討つ事になるかもしれないが良いのか?』と言う事だ。
松永と飯島大佐は、星崎が『否』と答えるのか注目したが、全く見当違いな回答が返って来た。あの反応では、敵味方よりも開発部の事しか考えていないのだろう。
「星崎は敵に関する何かしらの情報を持っていて、その情報から『アレは味方では無く、敵だ』と捉えているのか」
「あるいは元々敵だったのか。分からないですね」
「そうだな。星崎が何かボロを出してくれれば、何か判ると思うんだが」
「抜けているようで、肝心なところは口にしない。演技なのか、素の反応か。それすらも判断不可能」
「思っていた以上に厄介だな」
「ただ、保有知識量が多いからか、誘導すればある程度は騙せるようですが」
「……抜け加減が絶妙だな。佐藤に爪の垢を煎じて飲ませたいぜ」
「教わっていない筈の書類仕事もこなせるので、是非ともそうしたいですね」
途中から、ここにいない問題児を思い浮かべて、二人は揃って息を吐いた。二人は暫し無言で解決の糸口を探る。
「飯島大佐。ボロで一つ思い出した事が有ります」
先程、飯島大佐が言った『ボロを出してくれれば』の言葉で、松永は三日前のやり取りを思い出した。
「何を思い出したんだ?」
「第五保管区で敵機が暴れたあの日、星崎は支部長の目の前でボロを出していたようです」
「けど、支部長が俺らにボロを聞いたとは一言も言っていない。それはボロの確認が済んでいないって事じゃないのか?」
飯島大佐の指摘を聞き、松永は『確かにそう思うだろうな』と内心で思った。
「実は三日前に、そのボロの内容を教えてもらいました」
「内容を聞きたいところだが、どうせ支部長から口止めされてるんだろう?」
「ええ。他言無用と言われましたね」
佐久間支部長は確かに『内容の他言無用』と言った。
「で、ボロの内容を聞いた感想は?」
けれども、佐久間支部長から『感想を誰かに言ってはいけない』とは言われていない。若干、言葉の粗探しじみているが、飯島大佐もそれを解っていて尋ねている。松永は取捨選択してから回答する。
「そうですね。……荒唐無稽過ぎたので、何とも言えないですね。ただし、状況証拠は揃っています」
「……証拠が揃った荒唐無稽な話。聞きたくないな」
「ですが、思っていた以上に星崎の行動と符合する点が多いです」
「例えば何が在る?」
飯島大佐からの問い返しに、松永は佐久間支部長と同じ事を告げた。
「あのマイペースな行動は周囲に合わせる為に行っている可能性が高いです」
「周りに合わせる理由が見えん」
「一歩下がって周囲を観察してから、周りに合わせて動く。常に一歩遅れて動くからマイペースに見える」
「確かに周りに合わせる――と言うか、溶け込む事に気を使っているみたいだな」
溶け込むと言う、飯島大佐から出た単語に松永は、確かにその方がしっくり来ると思った。
「それでも実力は隠し切れていないから、意味が有るように思えん」
「そうですね……」
頷き合っていると電子音が鳴り響いた。松永が執務机に向かい、席に着いて卓上映像通信機を操作する。通信の相手は佐久間支部長だった。
「おや、佐久間支部長。何か問題でも発生しましたか?」
『錦戸准将が急にやって来たんだが。心当たりは、有るよな?』
「その件に関しては、私よりも飯島大佐の方が詳しいです。今、通信を代わります」
『飯島大佐? そこにいるのか?』
「ええ」
映像の中で訝る佐久間支部長に松永は短く肯定してから、交わされる通信内容を聞いて呆れていた飯島大佐を手招きした。手招きに応じて、松永の代わりに席に着いた飯島大佐は支部長に軽く挨拶してから、何が遭ったのか簡単に説明した。
松永はおまけとして、星崎から譲り受けた録音データを送り、こちらの無実を証明する。
「――こちらからの報告は以上です」
『……………………よぉーく、理解した。うん。厳罰ものだな』
送った録音内容を聞いた映像の中の佐久間支部長は、眉間を揉み、長い沈黙を挟んでから、急に投げやりになった。声が半分程死んでいるので、どうでもよくなった可能性が高い。
『えっ!?』
『何か不満が有るのか?』
『そ、それは……』
『ただでさえ予定が詰まっている、このクソ忙しい時に問題を起こした自覚が無いのか。……あぁ、そうだ。飯島大佐、今のガーベラのパイロットはこの面子の事を聞いて、何か言っていたか?』
問題を起こした隊員達もそこにいるらしく、困惑の声が聞こえて来た。どうやら、処罰が軽くなると、馬鹿な事を思っていたようだ。共にいる錦戸准将はどのような説明をしたのだろうかと、松永は気になった。
「言っておりましたが……。松永、あいつ珍しく毒吐いていたよな?」
「確かに毒を吐いていましたね。『支部長の無茶振りを体験したい、血の気が多くて血気に逸る、被虐趣味の立候補者が沢山いるんですね。パイロットの立候補者が掃いて捨てる程にいるなら、一人ぐらいは適性者が見つかりそうなのに』と」
全くもってその通りだと思った二人は、うんうんと首を縦に振る。
『確かに、良い感じに毒を吐いてるな。誰の影響か気になるが』
「佐久間支部長。それはどう言う意味でしょうか?」
『ははは。細かい事を気にするな。邪魔したな』
その言葉を最後に、佐久間支部長は逃げるように通信を切った。
「逃げたな」
「逃げましたね」
ブラックアウトした画面を見つめて、二人は揃ってぽつりと呟いた。
あとで直接佐久間支部長に会いに行こうと、松永は今後の予定を変更した。




