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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
軌道衛星基地にて 西暦3147年8月

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奇妙な事を知った一日になった

 格納庫から一台の担架が去って行く。載せられているのは、昨日突っかかって来た隊員だ。内臓が完全にやられているのか吐血している。

 噓でしょー……。

 そんな感想しか浮かばない。佐々木中佐から一度だけ、ガーベラの『パイロット殺し』の異名は聞いていたし、怪我の具合も聞かされたけど。

「こ、ここまで重傷を、負う?」

 松永が言った通りに、バーニアを吹かしただけでパイロットは負傷した。 

「確かに重傷だが、俺と同じぐらいだろう」

「いや佐々木、そうじゃないだろ」

 自分と同じく担架を見送った、佐々木中佐と井上中佐の中佐コンビは漫才じみた事をしている。お蔭で暗い空気は流れていない。

「二十人目は乗りこなせたが、二十一人目は負傷してリタイアか。松永、支部長に報告はするのか?」

「一応します。ま、自業自得なので、あとで一言言う程度に留めますがね」

「松永お前、後藤に止めを刺す気か」

 戦慄する佐藤大佐と、悪魔の笑みを浮かべる松永大佐の大佐コンビも似たような事をしている。てか、支部長に報告ものなのかよ。

 重傷っぽいけど、これと言った感情は湧いて来ない。何と言うか、ダイナマイトを抱えて地雷原に飛び込むに似た、過激な自爆にしか見えなかった。

 装甲が歪んだガーベラを見上げる。フレームまで歪んだかは不明だが、隣で左肩が歪んだナスタチウムの破損具合を考えると……。

「フレーム逝っていそう」

「星崎。お前まで気にするのはそこか……」

「いや、アレは完全な自爆でしょう。どこの世界にダイナマイトを抱えて地雷原にダイブする人がいるんですか?」

「自爆なのは同意するが、例えが過激だな」

 井上中佐が呆れ果てている。そこまで呆れる事かね?

「星崎の言う通り、自爆である事には変わりない。整備に時間は掛かる。午後の予定は支部長に報告してから決める。それまで待機休憩とする」

 松永大佐の慣れた反応を見るによく起きる事なのかもしれない。深く考えるのは止める事にした。

 技術士官の橋本(?)って人は、午前中の模擬戦などで入手したデータ片手に嬉々としてどこかに去った。開発部からの出向って聞いたから、多分開発部に向かったんだろうね。誰にも何も言わずに移動するのはどうかと思うけど。

 技術士官が去ると同時に、佐藤大佐もどこかへそろりと移動を始めて、黒い笑みを浮かべた松永大佐に捕まった。

「佐藤大佐、どこに行く気ですか。丁度良いので今朝の始末書も一緒に提出しましょう」

「期限まで一時間以上も時間が残っている。別に今提出しなくても良いんじゃないか?」

「始末書の提出は支部長からの指示です。――さぁ、逝きましょうか」

 うっそりと笑みを浮かべた松永大佐に首根っこを掴まれて、佐藤大佐はパイロットスーツ格好のまま、引きずられるように連れて行かれた。佐藤大佐の言い訳が『夏休みの宿題から逃げる、夏休み終日二日前を迎えた小学生』じみていたが、気にしない事にした。

 松永大佐が口にしていた始末書と言うのは、今朝のナイフ投げの事だろう。  

 今朝の事を知らない中佐コンビに簡単に説明する。それでも、『佐藤大佐がナイフを食堂のドアに向かって投げた』としか言えないが。的が自分だった事を言わなければ大丈夫だろう。

 中佐コンビは揃って『あの人は何やってんだ』みたいな顔をした。

 気持ちは解る。だって、的にされたんだもん。

 その後、三人で更衣室に向かった。自分と井上中佐は着替える為に。佐々木中佐は持って来たパイロットスーツとヘルメットをロッカーに入れる為に。

 やる事は無く、時間は十二時を回った。つまり昼食時となった。独りで食事となる筈も無く、試験運用隊隊舎の食堂(利用者ゼロ)で中佐コンビと一緒の昼食となった。食事の前に佐藤大佐のナイフ投げの痕跡を中佐コンビに見せると、揃って呆れを含んだ声を上げた。

 自分はサンドイッチとスープを昼食に選んだ。ホットサンドメーカーは無いが、六種類のメインサンドとジャムサンドを三つ作った。佐々木中佐はお代わりする前提なのか、一番大きい丼を二つ使い、スープを入れてご飯を盛りその上に大量の肉料理を乗せていた。井上中佐は大盛のボロネーゼパスタだ。大盛と言っても二人前だ。

 食事中、井上中佐が気を使ってくれたお蔭で変な空気にはならなかった。佐々木中佐が脳筋だった事も良い方向に作用した。

 代わりに食後、座学で手を抜いていた事についてチクチク言われた。

 やっぱりバレていたか。でもね、下手に高得点を取るとプライドだけの奴ら(周り)が煩いんだよ。今の点数でも、睨んで来る奴が多いし。裏掲示板とかも教官達が毎日交代でチェックしているし。そんな事を言えば、中佐コンビは揃って何とも言えないと言った顔になった。

 訓練学校のOBだったら、校内の事とか知っている筈なのに。あの超ギスギスした空気を知らないのかと逆に尋ねた。すると意外な答えが返って来た。

「もしかしたら、十年前の大規模作戦の失敗が影響しているのかもしれないな」

「大規模? 作戦、ですか?」

 おいおい。授業でそんな昔話は聞いた事が無いぞ。しかも、大規模作戦が失敗したってマジでヤバくないか。

「授業で聞いた事がありませんが、どのような作戦でしたか?」

 推測だが『授業で内容を教えられなかった』事から、内容的にかなりヤバいんだろう。大敗なのかも。ネットで調べれば出て来るかな?

 その推測が正しかったと裏付けるように、中佐コンビは顔を見合わせた。

「何の話をしている?」

 そこへ、ちょっと萎れた感じの佐藤大佐(流石に軍服に着替えていた)と松永大佐がやって来た。隣の松永大佐は小脇に嵩張った紙袋を抱えているが、肌艶麗しく非常に機嫌良さげだ。見事に対照的で、顔が引き攣りそうになるが『授業で聞いた事の無い、十年前の大規模作戦について尋ねていた』と言えば、大佐コンビは揃って僅かに顔を顰めた。

 ……そんなに聞いてはいけない事だったのかね? 何か、地雷を踏み抜いた感が出て来たな。

「授業で聞いていない、か。松永、中等部では教えないんだったか?」

「いいえ、卒業後に配属された部隊で教える事になっています」

「……そうだったのですか」

 卒業後に教える。どう考えてもヤバい内容なんだろう。深追い厳禁だな。強引だが話題を変えよう。

「松永大佐。午後に模擬戦などは行うのでしょうか?」

「ガーベラは無傷だったから、十四時より行う。モニター室集合だが、その前に、星崎は制服を替えて来い」

 そう言って、松永大佐は小脇に抱えていた紙袋を自分に差し出した。受け取ってから中身を見ると、正規兵用の軍服とパイロットスーツとヘルメットだった。靴は訓練生正規兵共に、共通のショートブーツを使っているので変わらない。

「訓練生がツクヨミにいると噂が立っている。今更だが、正規兵の軍服に着替えろと支部長が言い出した。いかに試験運用隊とは言え、林間学校中の訓練生が一人だけいるのは目立つ、そうだ」

「確かに、私の林間学校免除を知っている人は少ないですね」

 どうせなら、出発前に渡して欲しかったぜ。今更だけど。

 食事は終わっているので着替えに行くか。

 一言断りを入れてから紙袋を手に部屋に向かった。



 時間は流れて十八時過ぎ。

 一日の就労を終えて、中佐コンビの荷物運びに付き合う。移動途中で、城嶋と言う名の井上中佐の部下に荷物を預けた。その場で中佐コンビと別れて来た道を戻る。歩きながら思い返すのは先程の会話だ。

『そうか。星崎は松永大佐との接触の時間が短いから『アレ』を知らないのか』

『星崎少尉。その光景を見て何も思わなかったのですか?』

 井上中佐の言う『アレ』とは何だ?

 血相を変えて逃げ出した人間を見て何を思えと言うんだ城嶋中尉!? 

 てかさ、暈した物言いで『松永大佐はヤバい人間』だって言っていないかコレ?

 

 松永大佐に関して謎が深まった……!


 遊び半分でゲームのクエスト風に言って見た。言って見て、気づいた。気づいてしまった。

 自分が知っている情報、少な過ぎない?

 立ち位置を知る為の情報収集は行なって来たが、防衛軍に関して知らない事が多い。敵の事もほぼ知らんけど。

「う~ん」

 昼食時に中佐コンビが言っていた『十年前の大規模作戦』についても調べたいけど、調べる事や情報が少々ごちゃごちゃして来た。歩いていた足も止まる。

「リストを作るか」

 先ずは情報を整理しよう。手持ちの情報と、知らない情報、調べる情報と、あとは何だと、口元に手を当てて唸る。

「何のリストだい?」

「? ……松永、大佐?」

 背後から足音も気配も無く声が掛かった。聞き覚えの有る声に背後へ振返ると、背筋に寒いものを覚える微笑を浮かべた松永大佐が立っていた。どこかで別れたのか、佐藤大佐の姿は無い。早く答えろと言わんばかりに大佐の笑みが深まったので、慌てて回答する。

「さ、先程別れた井上中佐が『松永大佐のアレを知らないのか』と仰っていましたので……」

「おや、井上中佐がそんな事を言ったのかい」

「はい」

 嘘は言っていない。正確には、『松永大佐との接触時間が短いから『アレ』を知らないのか』、が正しい台詞だ。

 だけど、何故か松永大佐の笑みが一瞬見てはいけないものに変わった……ように見えた。

 ……すまん、井上中佐。

 心の中で井上中佐を生贄にした事について謝った。


 ※※※※※※


「――べっくしょばぁいっ!?」

「どうした井上!?」「中佐!?」

「いや、大丈夫だ。急に背中に悪寒が。何だ? この背筋が凍るような悪寒は……」


 ※※※※※※


 多少台詞を端折ったが嘘では無いし、全て言う必要も無いだろう。誤魔化すとあとが面倒臭そうな空気がする。

「井上中佐のお言葉から、私は知らない事が多いのではないかと思い、一度知っている事を紙に書き出してみようかと思っていたところです」

「ふぅん。ま、情報の整理は初歩中の初歩だな」

 納得して頂けたようで何よりです。松永大佐が納得したように見えただけかもしれないが。

 すぐには解放して貰えず、どんな会話をしたのか根掘り葉掘り聞かれた。

 大した時間話しをしていた訳では無いので、簡単に答えて行くと、漸く解放された。

 そのまま部屋に戻らず、無人の食堂で夕食を取る。それにしても、本当に他の隊員――整備兵すら見ないな。不文律って隊員が少ないから出来たのか。そんな幽霊部隊が有るとは思えないけど。そう言えば、鈴村大尉も昨日の夕食以降見ていないな。

 マジで分からん事が多過ぎる。

 食べ終えたら早々に部屋に戻る。紙とペンを取り出して書き出して行く。

 手持ちの情報と知らない情報、調べる事を書き出していると、時間はあっと言う間に過ぎ、気づくと二十三時を過ぎていた。

 慌ててシャワーを浴びて、就寝準備をする。

 部屋の電気を消してベッドに潜り込むと、疲れが溜まっていたのか気絶するように眠ってしまった。


 

 眠りが深かったのか、夢を見なかった。

 熟睡できたのは良いが、気絶入眠は健康に悪い。どうにもならないが。

 顔を洗い、寝癖の付いた髪を櫛で梳かす。

「……」

 普段見ない鏡に映る己の髪。蛍光灯の白い光を反射して、髪が薄っすらと白金色に反射している。白色の蛍光灯の光を浴びて、同じ白色で反射しないのは、転生を繰り返して霊力量が増えて行った結果だ。このままだと何時か、霊力の封印に障りが出るかもしれない。

 幾つか前のとある世界で、再会した実父から教わった方法を試したけど、歯止めが掛かっているようには見えない。増える量が若干減っただけ。

 それは、この見慣れた黒髪のままでいられない日が来る事を示していた。

 霊力を完全に開放した状態の髪は『金の粒子を纏ったような』状態になる。しかも、一房持って振れば粒子が散る。

 どう考えても『普通の人間の髪』ではないのが丸分かりだ。

 これに関しても対策を考えないといけない。

「本当に、ままならないなぁ……」

 目の前の問題を片付けなくてはならないのに、何時やって来るか分からない問題の準備もしなくてはならない。

 己の当初の目的は潰えてしまったのに。

 深く息を吐いてから、頭を振って思考から追い出す。

 昨日になって支給された制服に着替えて、朝食を取る為に食堂へ向かった。



 三日以降は特に問題は無かった。

 データ収集を兼ねた模擬戦を佐々木中佐と井上中佐(交代制)の二人と何度も行ったが、気を揉むような状況にはならず、どちらかと言うとかなり楽だった。

 試験運用隊にやって来て二日目が特殊だった模様。佐藤大佐も来なくなったし。今思うと豪華な面子だな。

 五日は休暇となったので、ツクヨミ内を歩き回った。私服は持って来ていないので、正規兵用の軍服のままで歩く。軌道衛星基地と言われるだけあり、非常に広大だった。意外だったのは、幾つかの会議室が近くに在った事。アプリの地図を見ながらの移動だったのに何度か道に迷った。自分は方向音痴なのか?

 用が有る時以外に歩き回るのは止めよう。購買部への道だけ覚えれば良いな。

 心にそう誓った。

 そして、さしたるトラブルが無いまま、データ整理や報告などの必要が出た為、上層部都合で八月七日は休暇に変更となった。


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