表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
新しい変化 西暦3147年12月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

209/209

昨夜の事を思い出す~誰も得しない悲喜こもごもな出会い~

 チャーター機に乗って移動途中。

 自分の隣の席では、持参した変装道具で変装した姿(瞳の色以外を変えた)で椅子に座っているサイは、昨晩の事で頭を抱えていた。自分は何度も『済んだ事だし、セタリアからお説教を貰っているから大丈夫だ』とサイに言ったが、バンダの執念に負けた事を気にしていた。

 自分とサイの対面座席の正面に座る佐々木中佐は、サイの黒髪と衣装を凝視していた。佐々木中佐の左隣に座る井上中佐はサイの事を心配そうに見ていた。

「サイ。過ぎた事なんだから、いい加減諦めなさい」

「……そうは言ってもだな。バンダの野郎が、あそこまで執念深く付いて来るとは思わなかった」

「常に結果を出し続けなければならない外交部の所属だから、あの執念はしょうがないよ」

 今の自分では、右手を蟀谷に当ててため息を吐くサイの肩を叩いて慰める事しか出来ない。



 時を――昨晩、バンダが出現した時にまで遡る。

 ツクヨミに残っていた支部長を始めとした会議出席者と佐々木中佐と井上中佐達一緒に、小型転移門を起動させてサイを迎えていた。如月学長と武藤教官は何やら仕事が有るとかで、ツクヨミに来てはいるが演習場にはいない。

 転移門の停止操作を行っていた時、足音が聞こえた。

 ……誰だ? 見送りのフラガか? それとも、カルタか?

 サイは支部長と如月学長の二人と簡単な挨拶を交わしている。サイが背後を気にする素振りは無い。

 では、この足音は誰のものなのか? 転移門の停止操作の手を止めて、内部を覗き込んだら、紫色の瞳と目が合った。

「げっ」

 そんな声が思わず漏れてしまった。


 視線が合った人物の外見は、軍事施設には相応しくないものだった。

 ピンクの髪をツインテールにしており、毛先が肩に付く長さだ。髪を結い上げている紐の形状にも拘っており、頭の両脇に二匹の白と桃色の羽を持った蝶が止まっているようにも見える。

 紫色の大きめな瞳と、綺麗に整えられた眉と、整った顔立ちを際立たせる化粧は薄く施されている。

 肝心の衣類は白を基調とした長袖のロングワンピースに似ているが、見るものを不快にさせない程度に、髪色に合わせた薄いピンク色のリボンとフリルが差し色のようにあしらわれている。身に着けている手袋が真っ白なので、差し色が目立つ。

 ロングワンピースの裾で見え難いが、足元は飾り気のないヒール付きの白いショートブーツを履いていた。ショートブーツは手袋と同じく、差し色が入っていない。

 ちなみにだが、ルピナス帝国外交部では、服装にこれと言った決まりはなく、『相手を不快にさせる服装はしない』事だけを守れば、割と自由だ。

 向こうの宇宙では、己の主義主張を目立たせる為に、『全裸』で国際会議に臨む国家元首(男)がたまに出没する。全裸を理由に会議場から追い出すと、女装して出直してくるから手に負えなかった。


「バンダ! なんで来たの?」

 驚きとこれからやって来かねない混沌を想像して、ちょっと悲鳴っぽい声が出てしまった。

 こいつはそんなに他所の支部長を弄びたいのか?

 色んな意味で問題しかないから、是非とも帰って欲しい。

 追い返そうとしたが、自分の悲鳴っぽい声を聞いた大人一同からの注目を集めてしまった。

「ん? バンダ? 本当に来てんのか!?」

 支部長と話し込んでいたサイがこちらに気づいた。そして、バンダの姿を捉えたサイはギョッとした。

 サイと二人で慌ててバンダを追い返そうとしたが、支部長が待ったを掛けた。

「支部長。心に傷を負っても、私とサイは責任を取りませんよ」

「逆に気になるんだが、時間を作って来てくれたのならば、挨拶するのが筋だろう?」

「こいつはそこまで殊勝な奴じゃないぞ。……ケリアのありがたみを感じて貰う為に、挨拶はさせるか」

 サイは己の中で整理を付けたのか、バンダに道を譲った。

 直後、大人組の殆どの人がどよめいた。男性陣の中には胸を抑えている人もいた。

 ここで、『殆ど』と付けたのは、五名ほど違う反応を示したからである。

 松永大佐とマオ少佐が怪訝そうに首を捻っていた。佐々木中佐と井上中佐は互いに顔を見合わせた。神崎少佐は何かが引っ掛かるのか口元に手を当てている。

 自分はこの五人の反応を見て思った。バンダの正体に気づいたか。セントレアって言う前例が在るから分かりやすいか。そして、仕事都合でここにいない、飯島大佐と佐藤大佐、如月学長と武藤教官の四人がバンダを見たら、どんな反応をするんだろう。

「おいおい、星崎。一体どこがイナゴでハナカマキリなんだ? 俺の想像では松永をもっとヤバい奴にした感じだったんだが、どこをどう見ても可憐な花だろ?」

「今回ばかりは工藤中将に同意するわ。星崎、説明して頂戴」

 大人達が困惑している。支部長もどう言えば良いのか迷っている。松永大佐は口元を少し痙攣させた。

 全員の耳目を集めたバンダは無言でただ微笑んでいる。見るものを虜にするような微笑みだ。

「バンダ。責任は取りなさいよ」

「そうだぜ。逃げられないからな」

 サイと一緒にバンダに釘を刺した。これで責任から逃れようとしたら、セタリアに『全力でバンダの尻を引っ叩いて』とお願いするしかない。

 未だに無言のバンダの左脇を小突いて、事態の収拾を図ろうとしたが、佐々木中佐から質問がやって来た。

「星崎。俺の目には男に見えるんだが、今回は本当に女なのか?」

 佐々木中佐の言葉を受けて、殆どの人がギョッとした。

 すぐに、『それだけはあり得ない!!』と、あちこちから『バンダ男説』を否定する絶叫が上がる。特に、女性陣が必死に否定している。

 バンダが登場した際、大抵の人は『バンダの性別は女』だと判断する。上から下まで、女性ものを身に纏っているので、そう判断してしまうのは仕方が無い。

 答えを求めた日本支部の面々の視線がバンダの集中した。

 耳目を集め、ふっ、と笑ったバンダは、右目元でピースサインを作った右手を横にして添えて、左手は左脇を掴むように置き、左足を上げて体を右に軽く捻るポーズを取り――言い放った。


「ふっ、僕は誰かって? 僕は――男さ!」


 外見からは想像もつかない程に低い声が、バンダの口から出て来た。一瞬、バンダではなく、松永大佐の口から発せられたのかと疑う程に低い声だ。実際に何人かが松永大佐をチラ見した。

 現実だと理解した日本支部の面々の背後で、絶望を齎す吹雪が吹き荒れる情景を幻視した。まぁ、そうなるわな。

 日本支部の面々の反応を見て満足したのか、バンダはポーズはそのままに、左目でウィンクを飛ばして『てへっ』と、舌を少し出して笑う。


 イメージ的に松永大佐と逆だもんね。

 忘れがちだけど、松永大佐の声は『ハスキーな女性』と間違えるぐらいに高い。黙っていても、喋っても、性別不詳って別の意味で凄いな。


 大変ウザい言い草で、カミングアウトに等しいバンダの台詞を聞き、六名を除いた日本支部の面々は絶望から膝を突いた。

 男性陣は『俺のトキメキを、返せ……!』と言いながら、ペシペシと演習場の床を叩く。今にも血涙を流しそうな勢いだ。

 女性陣は『負けた。男に、負けた』と言って、演習場の床の上で四つん這いになった。なお、大林少佐だけは『男の娘なのね!』と、一人歓喜していた。

 サイが床に膝を突いた面々を気の毒そうに見ている。そこへ、床に膝を突いた面々に対して、呆れた視線を送っていたマオ少佐がある意味当然と言える質問を、ポーズを取る事を止めたバンダに向ける。

「なんでお前は、女装しているんだ?」

「何でって、僕は自分に似合う服装を追及しているだけだよ? まったく、どいつもこいつも、本当に心が狭い! 女が男の格好をしても何とも思われないのに、どうして男が女の格好をしてはいけないんだ! 僕は言いたい。周囲の人間に似合うと思わせる服装なら、周囲を不快にさせなければ、男女ともにどんな服を着ても許されるべきだ! 性別種族外見に囚われずに、己が追及した服装をする権利が与えられている!!」

 バンダが言っている事は真面だ。けれども、目の前で膝を突いている人を見ると……遊び半分で騙しているように感じる。

 一方、バンダの主張を聞いたマオ少佐は何とも言えない顔をしていた。その顔には『主張は間違っていないが、肯定するのもアレだなぁ』と書かれている。

 他方、松永大佐と中佐コンビは呆れていた。支部長も三人と同様に呆れていたが、神崎少佐と大林少佐だけは『その通りよね』と激しく同意していた。

「何と言うか、予想通りになったな。バンダ。どうやってこれを収めるんだ?」

「収める? 何を言い出すんだサイヌアータ。騙された奴が悪いに決まっているだろう!! ――あいたっ」

 サイが、無責任としか言いようのない言葉を吐いたバンダの頭を思いっ切り叩いた。

「騙された奴が悪い云々以前に、お前はこっちに来るなって言われただろ!」

「え~、だって、簡単に騙されてくれそうな面白い玩具が沢山集まるんでしょ? 僕も行きたい。遊びたぁい♪」

「遊ぶな。俺は仕事で来たんだよ。遊ぶんなら帰れ」

 サイはバンダを転移門に向けて押し出しに掛かった。帰りたくないバンダは抵抗する。

 未だに床に膝を突いている面々は、フォローのしようが無い。セタリア経由でバンダにお詫びのお酒でも請求するか。

 ……それにしても、バンダの性別を外見に惑わされずに『女じゃない』と判断した五人は凄いな。

 神崎少佐は自身と同じ匂いを嗅ぎ取った可能性が高い。

 だが、残りの四人――特にマオ少佐は良く気づいたな。セントレアと言う前例を知るから、残りの三人は気づいた可能性が高い。マオ少佐はセントレアに会っていないのに、よく判ったな。

「大体だな、お前は外交部の仕事を何だと思っているんだよ!」

「僕の仕事は馬鹿を炙り出してルピナス帝国にとって有利な状況に持って行く事さ!」

「顔を引き締めて言うな」

 サイとバンダの攻防は続いている。あの分だと、もう暫くは終わらないな。仕方が無いと、心の中で諦める。

 先ず、セタリアに『バンダがこっちに無断で来た。帰らせるから、全力で尻を引っ叩いて反省させて(意訳)』と言う内容のメールを素早く作成して送る。

 次にバンダの死角に移動して、収納機から形状記憶型の鞭を取り出して腰に巻き、続いて隕鉄製のモーニングフレイルを取り出した。自分の行動に気づいた何人かの表情が引き攣った。

 でもね。バンダは気絶させないと送還は出来ない。これは苦渋の決断である。

 苦渋の決断だと、己に言い聞かせた。バンダは熊(厳密にはゴリラか?)の獣人族と馬の獣人族のハーフなので、棘付き鉄球の一撃では負傷しない。

「えいっ」

 バンダがこちらに気づく前に、身体強化魔法を発動させ、モーニングフレイルの鉄球部分を掴んで投げた。

「へぶぁっ!!」

 鉄球はバンダの後頭部に直撃した。

 サイはバンダを助ける事はせずに、横にひょいっと避けた。そのまま、べしゃあと、バンダが床に前のめりに倒れた。サイは後頭部に鉄球を乗せたまま痙攣しているバンダの足を、素早く縄(人工木の繊維を使っているので、人力で引き千切るのは不可能)拘束する。脚力自慢の馬の獣人族の血が濃いので、先に足を拘束するのが鉄則(?)だ。

 サイの手慣れた行動を見て、日本支部の面々が顔を引き攣らせた。幾人かは『死んだんじゃ……』と顔を真っ青にしている。

「ちょっと! 痛いじゃないか!?」

 日本支部の面々の心配を他所に、バンダは両手を使って、ガバッと、起きるなり抗議の声を上げた。バンダの後頭部に突き刺さらなかった棘付き鉄球が音を立てて床に落ちた。

 棘付き鉄球にバンダの血液が一滴も付着していない。その事実を知り、日本支部の面々は困惑する。完全にギャグマンガでしか起きないような事が目の前で発生しているから、困惑するのは当然か。

「直撃を食らったら、普通は痛いじゃ済まないんだけど……無傷だし、いっか」

「良くない! 鉄球を投げるのは、究極の事故物件と言われる首都防衛支部の変態共だけにしてよね!」

 両足を拘束されたまま起き上がったバンダは、頬を膨らませて『ぷんすこ』の擬音が似合う怒り方をした。そんなバンダにサイが疑問を投げ掛ける。

「それ以前に、馬の獣人族の血が濃い熊の獣人族との混血なのに、何でお前は無事なんだ?」

「こればっかりは、おふくろ――じゃなかった。母上の血の賜物だね」

「バンダの母親ってゴリラだっけ?」

「本当に、よく間違えられるけど、母上は『熊』だからね! 幾らサイヌアータでも、母上の鉄拳が飛んで来るよ」

「陛下の拳よりマシなら問題無いな」

「そこで、生身でアゲラタムとやり合える陛下を出すな! 反則過ぎるわ!」

 床に転がった棘付き鉄球を収納機に回収している間に行われた、サイとバンダの会話を聞いて、日本支部の面々の殆どがドン引く。自分は腰に巻いていた鞭を、解いて右手に纏めて持った。

 大林少佐だけは、『馬のオトコノコ? おっとりとした可愛らしいウマムスメはいないの……』と床に膝を突いて嘆いていたが、皆スルーしている。

 ……大林少佐の奇行はスルー出来るんだ。何で、バンダの奇行はスルー出来ないんだろう?

 種類が違うのか、奇行が過ぎるのか。謎だ。

 そこで、新たな足音が響いた。

「……何この状況?」

「え? フラガ!」

 誰かと思えば、困惑顔のフラガだった。

 丁度良い。バンダを引き取らせよう。

「フラガ? 何でお前まで……」

「陛下から『大至急、バンダを拾って来い』って命令が来た。『尻が割れるまで全力で引っ叩く』って息巻いていた」

 フラガの短く簡潔な説明を聞き、サイは質問を重ねる事を止めた。セタリアがメールを読むタイミングが速くて良かった。

「ちょおおおおおおおっ!? 誰だ!? 陛下に連絡したのは!?」

 一方、バンダは両手で頬を挟み、断末魔の悲鳴にも似た絶叫を上げた。

「あたし」

「なんでぇ!?」

「アンタが帰らないから」

「いぃやぁあああああああっ!?」

 バンダは両足が拘束されている事を忘れて逃走を試みたが、すぐに顔から床に突っ込む形で転んだ。

「ふんぬっ」

 しかし、諦めの悪いバンダは馬の獣人族としての脚力を使って、縄を引き千切った。

 ……馬の獣人族の混血だからって、こんなところで馬脚? 馬力? を出さなくても良いと思うんだが。

「こんなところで掴まってたま――へぶあっ!?」

 縄を引き千切るなり、走り出したバンダだったが、自分が右手を動かす方が僅かに速かった。

 バンダの左足に鞭の先が絡み付いたタイミングで引っ張ると、見事にバンダを転ばせる事に成功した。バンダはツクヨミに来て二度目の、べしゃあと言う転び方をした。顔から床に突撃したので、二回目だ。

 バンダが転んでも誰も何も言わない。

 鞭の持ち手をフラガに渡し、回収させる。フラガは黙って鞭を使い、バンダを引き寄せる。ズルズルと、擬音を付けてバンダは床の上を滑って移動する。

 手元にやって来たバンダの腰の辺りの服を掴んだフラガはそのまま肩に担ぎ上げた。鞭は返して貰ったよ。

「ちょっと! 持ち上げ方!?」

「このまま連れて行く」

「おう、陛下に『念入りに頼む』って伝えてくれ」

「分かった」

「分かったじゃないよ!? おーろーしーてー!」

 バンダはじたばたと暴れるが、担いでいるフラガは小動もしない。余りにも諦めが悪過ぎるので、ハリセンでバンダの頭を叩いて諦めさせた。

 皆に軽く会釈をしてから、フラガは去った。



 バンダを担いだフラガが去った。

 追加で厄介事が訪れる前に、自分は鞭をハリセンを収納機に仕舞い、転移門を停止させた。

 大分遅かったが、ルピナス帝国外交部に所属するものの為人を知れたのは良い事だろう。心に傷を負った人は多いが、

「ねぇ、星崎。心身外見ちゃんとした女の子でおっとりとした可愛らしい馬の獣人族の子っていないの?」

 大林少佐だけは自分の肩を掴み、鼻息荒く、まったくもって見当違いな事を聞いて来た。

「いませんよ。そんな奇行、じゃなかった、希少種は」

「今、『奇行』って言わなかった!?」

「いや、奇行種で合っているぜ。馬の獣人族は気性が荒い奴が多い。バンダの父親は例外中の例外だな」

「何でよ!? ……はっ!? 兎は? 兎は大丈夫よね?」

「兎? どっかの誰かさんが『海兵隊式新兵罵り文言集』を使って調教をしたから、前線中毒の首狩り種族に変貌しているぞ」

「どおしてなのよぉ……」

 サイが告げた真実を聞き、大林少佐は『よよよっ』と今にも泣きそうな勢いで、再び床に膝を突いた。深く絶望していらっしゃる。

 どうしたものかと悩むが、出来る事は無い。自分は無言で鞭を収納機に仕舞った。



 サイを慰めたが、昨晩の事を思い出すと……慰めは意味をなさない気がして来た。

 ちなみに、深夜の時間帯にセタリアからバンダに関する報告メールが届いていた。セタリアが、自身の膝の上に乗せたバンダの尻を引っ叩いている動画付きだった。

 動画を見て、正直に『要らねぇ』と呟いてしまった。『誰得だよ?』と言いたいが、確実に実行した証拠を送って来ただけだと己に言い聞かせた。多分、セタリアも証拠として送って来た筈だ。そう言う事にしておこう。

 メールに『ちゃんとお尻が八つに割れるまで叩いたわ』と書いて在ったけど、この際、無視だ。

「佐々木中佐と井上中佐、ちょっと良いかしら?」

 そこへ、明らかに元気の無い大林少佐がやって来た。

 井上中佐が対応すると、『もうすぐ到着するから、最後の細かい打ち合わせをしたい』と支部長が中佐コンビを呼んでいるそうだ。

 サイの事を引き受けると言って、三人を送り出した。

「……なぁ、リチア」

 日本支部所属のものがいなくなった瞬間、サイは声を若干小さくして自分を呼んだ。

「何?」

「このまま、こっちにいるのか?」

「現状が解決するまでは、こっちにいるしかないでしょうね。仮に解決しても、そっちの宇宙との今後とかを考えると、最低でも、うん、四十年ぐらいはこっちにいるしかないよ」

 サイからの質問に、普段はしないが、明確な数字を入れて回答した。

 

 ここで四十年と言うのは、自分が魔法で外見に手を加えないでいられる年月だ。今の年齢が十五歳なので、四十年後は五十五歳になる。外見を化粧で誤魔化していると言っても通用するギリギリの年齢だと思っている。

 こう言う時、二十代後半で老化が止まってしまう己の体を面倒に感じる。魔法でどうにか出来るから、まだマシなんだよね。

 

 自分の回答を聞いたサイは『そうか』と一言言うに止めた。

「でもその前に一度、日程は相談中だけど、そっちに顔を出す予定だよ。アルテミシアも気になるけど、あのティファが動いているのがちょっと気になる」

「やっぱりお前もおかしいって思うのか?」

「そりゃね。一度は大規模犯罪組織にまでなったところだよ? 禁忌の線引きが出来ていないって事は無い」

「黒幕が絡んでいるって事か」

「それは不明だよ。でも、アルテミシアが私に接触を求めて来たって事は、ティファの内部に異変が起きている可能性は高い」

「アルテミシアがティファに関する何かしらの情報を持っていると良いな」

「何も持っていない状態で、あたしに接触して来るような連中じゃないでしょ?」

「そうだな……。話は変わるが、本家は良いのか?」

 サイの唐突な話題転換に少しだけ驚いた。でも、返す言葉は決まっている。

「出奔した身だからどうでも良いよ。てか、何か言える立場じゃないし」

 そう。自分は家を出奔した。

 本当は他国に亡命する気でいた。けれど、出国直前で先々代の皇帝に掴まり、色々と話し合った結果、『出奔』と言う形で落ち着いた。

 あの日以降、大公家に戻った事は無い。敷居すら跨いでいない。襲名した名前も変えて、二度と大公家には関わらなかった。

 家督争いは骨肉の争いになったが、自分が次期当主になった頃からだったので、多少内容が悪化したところで変わらない。

 先々代皇帝と先代皇帝から、たまに大公家の現状を聞かされたが、何も思わなかった。

 ――やっぱり、父親に殺されそうになり、返り討ちにしてしまったのが大きいのかな?

 答えは無い。一度縁を切ったから、絡むべきではないと判断し、大公家の情報収集もしていない。

「そうか。もう絡む気は無いのか」

「そうだけど、……ヘンにしつこいけど、どうしたの?」

「いや、アルテミシア絡みで、変な情報が入ったんだ。アルテミシアの創設者が『先史文明の王家の第一王女だった』って言う、真偽不明の情報だ。俺も陛下も真に受けていないが、反大公家派がまるで真実かのように、言いふらしていたんだ」

「仮に真実だったとしても、大公家とアルテミシアの成り立ちは異なる。それに、居場所が公表されている妹のところへ、『どうして姉は会いに行かなかったのか?』って点が気になる」

 ルピナス帝国が建国した際に、『先史文明最後の王家一家の次女がルピナス帝国にいて、大公家を興した事を公表した』と、正式に記録が残っている。

 当時の政治背景を知ろうとすると、『滅茶苦茶・ぐちゃぐちゃ・ドロドロ』としか感想が抱けない様相で、政治関係が分からない自分からすると理解不可能だった。

 唯一判明したのは、公表が第二王女の意思だった事か。第二王女の意思で公表されたのならば、『行方不明の姉を呼び寄せる為に公表した』と、推測するのが良いだろう。

 アルテミシアの創設者が第一王女だとするのなら、『第二王女に接触しなかった理由は何?』となる。

「やっぱり、気にするのはそこか。こっちに来るのなら、その辺は言われかねないから忘れるなよ」

「はいはい。……ま、それ以前に、アルテミシアの創設日は第二王女(初代女大公)が逝去してから千年以上もあとだ。妹が死んでから、義賊みたいな組織を設立する意味が分からないよ」

「ふむ。それもそうか」

 感じた疑問点を口にすれば、サイは『確かにそうだな』と引き下がった。

 

 先史文明最後の王家の姉妹は、生き別れたまま生きて再会する事は無かった。

 第二王女は初代女大公として、生涯を終えた。

 行方不明の姉に宛てた、第二王女直筆の手紙も残っているから、これは事実だ。


 ……それにしても、何で今になってこんな噂が出て来るんだ? 亜種とは言え、黒幕の同種別個体を、羽化する前にぶった切った時には、こんな噂は出てこなかったぞ。

 奇妙だ。まるで、誰かに興味を持たせるかのようなタイミングで、流されたとも取れる噂だ。

 どの道、アルテミシアと接触はする。

 ニゲラが自分を出せと騒いだのならば、ツクヨミに押しかけて来かねない。

 生身でアゲラタム二個小隊(六機)を撃破するような奴がやって来たら、間違いなくパニックが発生する。一つ目と言う、衝撃的な外見を考えると、パニックを深刻にさせるから、こっちに来て欲しくない。ニゲラに出会ったら五秒で即バトルに確実に発展するから、ツクヨミに来られたら被害がヤバい事になる。

 ニゲラに会うならルピナス帝国の演習場だ。肉片が飛び散ろうとも、血の海が出来ようとも、あそこならニゲラがどれだけ暴れても被害は出ないし、掃除も楽だ。

 でも、宇宙海賊の頭領で戦闘狂なくせに、ニゲラの一人称は『私』なんだよね。脳が一瞬バグる。自分も戦った時に『ん? んん!?』ってなった。

「星崎~。そろそろ着くわよ」

 大林少佐に呼ばれ、思考を切り替えた。サイを連れて席を移動する。到着十分前にチャーター機に搭乗した全員で最終確認を行う予定だ。

 これから嫌がらせ合戦となる、交流会が待っている。

 その前に何故、こんな情報がやって来るのか。

 一先ず、交流会で何も起きない事を祈ろう。

 でもその前に、出発前に神崎少佐から『変な人に絡まれたらこれで叩きなさい。これで叩かれたら、二度と近づいて来なくなるわ』の言葉と共に、スタンスティックではない叩く道具を渡された。これを使う機会が無い事を祈らねばならない。

 交流会が終わったら、お菓子を自棄食いしよう。

 今から帰還後の予定を立てて、サイと一緒に移動先の席に着いた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

誤字脱字報告もありがとうございます。

間が空いてしまいすみません。


書いていてふと、松永が初登場時に「年齢どころか性別さえも、外見と声だけでは特定不可能」って書いた事を覚えている人いるかな?って思いました。

そんな松永ですが、作者の脳内では主人公に対してはスタイリッシュストーカーボイスで、他の面々に対しては、御芍神紫(知っている人いるかな?)で、機嫌が悪くなると黒崎一護になる。何故こんなにブレるのか?

そしてバンダですが、当初は兎にするか、人型種族にするか、人の姿を取るスライム系にするか悩みましたが、最終的に馬で落ち着きました。終始低い声で喋ります。高い声は出しません。

セントレアと違い、カチューシャは身に着けていません。耳の先をリボンの一部に見せています。こいつのギャグ具合についても結構悩みました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ