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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
新しい変化 西暦3147年12月

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会議の終わり

 休憩を挟み、自分が作った資料に関する質問の受け答えを行い、首都防衛支部が破壊したもう一つの転移門の破壊に関する報告を行った。首都防衛支部が転移門を破壊している映像も公開した。

 マオ少佐が映像を食い入るように見ていたのが印象的だった。他の人が唖然とした様子で映像を見ていたので、非常に目立っていた。

「なぁ、こいつらは何で今になって介入して来たんだ?」

 映像が終わるなり、マオ少佐の口からそんな質問が飛び出した。マオ少佐以外にも気にしていた人は多かったのか、あちこちから『確かに』と、同意の声が上がった。


 やっぱり、向こうの宇宙について知らないと、この手の疑問は出て来るんだね。

 

 端末を操作しながら、そう思ってしまう。

 八月辺りに支部長に話した気がしたので、何となく支部長を見た。けれど、支部長は皆に話していないのか、小さく首を横に振った。支部長に許可を取ってから、大人一同に向かって説明する。

「向こうには、『他所の宇宙への接触と侵略を禁止する』と言う内容の条約が存在します。これまで、一度も抵触する国家は現れませんでしたが、十年前になって条約に抵触した国家が発見されました。条約に抵触した国は解体されたので、既に存在しません。十年間の空白は、『接触しても良い支部を探していた』為です」

「待て、何でそんな条約が存在するんだ? 他所の宇宙になんて、気軽に接触出来るようなもんじゃないだろ」

 佐々木中佐からの質問は、地球の技術基準で考えれば正論だろう。納得して貰う為には、向こうの宇宙の特殊な事情を語らねばならない。作り話のようにも捉えられかねないが、事情の説明として語る。

「向こうの宇宙の先史文明では、新天地を求めて別の宇宙への接触を計画したんです。物理的に超えられない次元の壁を観測し、接触して亀裂を入れて、別の宇宙の観察を行おうとしました。次元の壁に亀裂が入った時に、観察するよりも先に厄介な種が入って来てしまい、その種が原因で先史文明は滅びました」

「滅びましたって……。その、次元の壁だっけか? それに亀裂を入れただけで文明が駄目になったのか?」

「はい。その種は高度な文明に対しての、カウンター的な存在でした。たった一つの厄介な種が原因で、宇宙全体が一つの国家だった先史文明はあっと言う間に傾き、国家はバラバラになりました。先史文明が滅びた事に対する戒めとして、『他所の宇宙に干渉してはいけない』と、そんな内容の条約が誕生したんです」

「そんな事が起きたのか」

 説明の合間を縫って出て来た一条大将の疑問を肯定した。一条大将は『そんな馬鹿な!?』と言わんばかりの顔をしていたが、自分の回答を聞くと複雑そうな顔になった。

「その大事件を二度も発生させる訳にはいかないので、向こうの宇宙でこの条約に加盟しない国はありませんでした。大規模犯罪組織ですら、この条約に加盟はしていませんが内容は守っています。中堅規模以下の犯罪組織は無視する方向にありますが」

「規模はともかく、犯罪組織までもが守る条約だったの!?」「そりゃあ、抵触は出来ないな」

 回答の合間に、あちこちからギョッとしたような声が上がった。

「ですが、十年前にこの条約に抵触した国は、財政難が原因で国家存続の危機に陥っていました」

「いきなり生々しい事情が飛び出したな」

「自業自得な商売が原因で財政難に陥った国でしたので、どこも援助しなかったんですよ。どんな事情であれ、条約に抵触したので国家は解体されました。現在、その尻拭いと言う形で、別の国――ルピナス帝国が動いています」

 説明の合間に、質問が入ったのでその都度回答したが、説明だけはどうにか終えた。

 自分の説明を聞いていた大人一同の顔を見回すと、情報を噛み砕いているのか、皆険しい表情を浮かべていた。一度、条約について話した筈の支部長ですら、顎に右手を添えて何やら考え込んでいる。

 そして、最初の質問者のマオ少佐は、組んだ膝上で頬杖を突き、口を真一文字にして考え込んでいた。

「単純にその面倒な条約が原因で動けないのかと思ったが、動けない理由がちゃんと存在したんだな。犯罪組織が条約を守っているのに、取り締まる側の国家が破ったら、体面的にも問題が多いな。しかも、現在動いている国は関係ねぇのに尻拭いでいると来た。文句の一つや二つ言いたかったが、完全に筋違いになるな」

 マオ少佐は頭を乱雑に掻きながらそう言った。室内を見回すと、マオ少佐と同意見なのか何とも言えない顔をしている人が多い。そんな中、一条大将が嘆息を零してぼやいた。

「確かに今、俺らに手を貸してくれているところに文句を言うのは筋違いだ。だがな、星崎。今回の事を引き起こした黒幕の正体も掴めていないのか? 条約に抵触した国家の解体は、随分と迅速に行われたってのに」

 一条大将のぼやきはもっともかもしれない。ここから先の情報を言っても良いだろうか考えて、自分は支部長を見た。自分と視線が合った支部長が頷いたので、先の情報を口にする事にした。

 そもそも、この場は『幹部会議』だ。出席者の他言無用は当然だ。どこかに情報を漏らせば、罰則を受ける。

 遅れてその事実を思い出したが、情報の機密具合を考えると、支部長に確認を取った方が良いな。再度支部長を見ると、大きな頷きが返って来た。

「一条大将。黒幕の正体は掴めていますよ。現在どこにいるのか分からないので、調査中ですが」

「うおおおいっ!? 黒幕が誰なのかだけは判ってんのか!?」

 一条大将のぼやきのような疑問に回答すると、支部長を除いた全員がギョッとした。支部長だけが無反応だったので、セタリアからの手紙を自分と支部長以外に読んだ人がいない可能性が高い。

「内部に潜入した調査班からの報告で、黒幕の正体は判明しています。ただ、調査班が全滅しているので、現在の居場所が掴めていません」

「居場所が不明? 居場所の候補も上がっていないのか?」

 情報を得た時の衝撃から復活した佐藤大佐が、余り聞かれたくない疑問を口にした。本音を言うと『回答したくない』が、今後の行動抑制を要求しやすくする為にも、この場で言ってしまおう。

「現時点で、居場所が太陽系範囲内で在る事は確定しています。ですが、そこから更に絞り込みが進んでいない状況です。現在上がっている候補は、金星、火星、木星、冥王星、これら四つの惑星とその衛星です」

 冥王星は西暦二千年代になってから、どこかの国際機関が議論した結果、『準惑星』に格下げされている。

 訓練学校での授業でも、惑星の種類は『水金地火木土天海』で習った。ここで『冥王星? そんな名前の惑星なんて、在ったか?』とか言われなくて良かった。

 内心で胸を撫で下ろしていると、別のところから提案の声が上がった。

「そこまで候補が絞り込めているのなら、こちらからも調査をすべきだろう」

「それは駄目です」

「……『我々では邪魔になる』と言う意味で駄目なのか?」

 苛立ちが多分に込められた佐藤大佐の言葉を、自分は首を振って否定する。他にも、ちょっと苛付いたり、ムッとしたような顔をしている人が多くいた。言葉にして、否定の意味を理解して貰う事を試みる。

「違います。現時点で、防衛軍は『調査をするだけの余力が有るように見せない方が良い』、と言う意味です」

「余力が有るように見せたらどうなるのよ?」

 誰の声か分からないが、別の方向から質問が飛んで来た。ここから先の回答は『最悪の事態を想定したもの』だが、下手な行動を取られては困るので、言葉を紡ぐ。

「黒幕が行動予定を繰り上げます。現時点で、黒幕への対処方法が見つかっていません。黒幕への対処方法が見つかっていない現状で、余力が有るように動いたら――」

「動いたら、どうなる?」

 言葉を切って室内を見回したら、これまでずっと黙っていた支部長が口を開いた。


「脅すようで悪いですが、最悪のケースを想定すると、我々は為す術無く、僅か数日で地球が滅亡します」

 

 室内に重い沈黙が下りた。出席者の中には顔を俯かせているものまでいる。

 それはそうだろう。『身勝手な行動を取ったら、それが原因で地球が滅亡します』と宣言したも同然なのだ。ここにいる全員が重く受け止めるのは仕方が無い。

 自分の言葉を飲み込んだ幾人かが、自分を見た。

 疑問を解消したい気持ちは解る。けれども、自分は掌を向けて質問の受付を制止し、支部長に確認を取った。

「申し訳ありませんが、質問を受ける前に支部長に確認が有ります」

「星崎、何かな?」

「セタリアから貰った手紙の意訳文章を、ここにいる方々に開示していないのですか? 私の回答と似た内容の文章が、あの手紙には書かれていた筈です」

『……えっ!?』

 再びギョッとした出席者一同は、皆一斉に、支部長を見た。皆の視線を集めた支部長は動じない。

「済まないが、私も情報の咀嚼に時間が掛かっている。手紙の内容を開示して質問を受けても『そのように書いて在った』としか回答出来ない」

「支部長、ゲルト大佐を引き込む時にその情報の一部を使いましたよね?」

「別のところが調査した結果、そのような事実が判明したと、伝えただけだ。ゲルト大佐も真実が知れるのならばと、受け入れてくれた」

 先々月の作戦開始前に支部長が取った行動を暴露したが、支部長に大したダメージは入らなかった。自分の代わりに出席者の大半が支部長に問い詰めるも、支部長は『情報の開示は来年以降にやるから待っててね』と言って、回答を拒んだ。

 支部長の拒み方を見て、出席者の大半は諦め顔になった。『納得が行かない』と、支部長が憤慨した。けれど、工藤中将の『休憩にしようぜ』の言葉に同意した会議出席者の殆どが同意の声を上げたので、支部長の憤慨は聞き流された。

 マダオ顔になった支部長を無視して、皆は休憩に入った。あ、不貞腐れた支部長が不貞寝を始めた。一条大将以下、マオ少佐までもが支部長を無視している。

 ……良いのか、この状況?

 立場が一番低いので言えないので、ここは貝になるしかない。

 どうするかと考えた時、タイミング良く電子音が鳴った。勿論、音源は自分の端末だ。

 何だと思い、端末を操作すると、一通のメールが届いていた。

「うん?」

 メールが届く事自体は不思議な事ではない。サイからの連絡かと思ったが、端末を操作して送信者の名を見た瞬間、送信者の名前を二度見した。

 ……何で、ティスからメールが来るんだよ!?

 慌ててメールを開封して、内容を読む。ティスから届いたメールの文章を読んで、内心で『マジかよ』と言葉が漏れる。


 あのセタリア相手に、一ヶ月も駄々をこねたのか。 

 ティスよ、そんな事をやって良いのか!? ディフェンバキア王国は、一応、ルピナス帝国の属国だろ!?

 

 喉にまで出かかった言葉を飲み込んで、メールの文章を読み直し、蟀谷に手を当てて悩む。

 ティスからの申し出は、正直に言うとありがたい。でも、セタリアが許可を出すかちょっと怪しい。今日のところは、ティスに在庫の確認だけお願いしよう。

 手早くメールの返信を済ませて端末を閉じたら、室内にいる全員が自分を見ている事に気づいた。

 どうしたのかと、声を掛けると、松永大佐が代表して『何をしていたのか』と問いを口にした。

「ティスにメールの返信をしただけですよ?」

「本当にそれだけか? 返信内容は何だ?」

「すみません。糠喜びにする訳にはいかないので、それだけは言えないです」

「糠喜び?」

「はい。最終的にセタリアから許可を取る必要が有ります。さっきの返信内容は在庫の確認依頼です」

 自分の回答を聞いた大人一同は顔を見合わせた。

「星崎。その在庫を確認をして許可が取れたら、日本支部にとって良い事が起きるのか?」

「許可が下りたら、性能の良い機体が手に入りますね」

「ホントか!?」

 続いた松永大佐の質問に回答したら、工藤中将が歓喜の声と共に椅子を蹴り倒して立ち上がった。工藤中将以外にも歓喜の表情を浮かべている人がいる。マオ少佐は口笛を吹いて驚いていた。

「性能が良い機体って、向こうの宇宙の機体の事だよな? それが手に入るかも知れないのか!? スゲェじゃねぇか!!」

「確かに性能は良いですけど、組み立てはツクヨミでやる事になりますよ」

「……どう言う事だ?」

 工藤中将のテンションが一気に下がった。吉報だとはしゃいでいた大人達も、すんっ、とした表情になった。

「アゲラタムの性能を底上げする強化パーツ、と言えば解りますか? 少し時間が経っていますが、その在庫確認をお願いしたんです」

「そんなものが存在するのか……」

 誰かの呆然とした大きくもなく、感心が多分に込められた声が会議室に明瞭に響いた。その言葉を聞いてか、頷いているものもいる。

 そんな中、一人難しい顔をした飯島大佐が口を開いた。

「星崎。その強化パーツって言うのは、使っても大丈夫なのか?」

「大丈夫だと思いますよ。見た目は大分変っているので」

 飯島大佐の疑問に回答したら、何かに気づいた松永大佐が一瞬だけ瞠目した。

「? ……っ、星崎、その強化パーツと言うのは、正しくは『換装ボディと装備一式』の事か?」

「確かにその通りですが、教えましたっけ?」

 己の記憶を探りながら、松永大佐の言葉を肯定した。すると、飯島大佐と松永大佐の表情が揃って険しいものに変わった。

「え? 何? どうしたの?」

 黙り込んだ二人を見てか。支部長が不穏な気配を感じ取り、顔を強張らせた。他の面々は顔を見合わせている。

 そして、数分程度の時間、考え込んだ飯島大佐と松永大佐が顔を見合わせて頷き合い、二人して自分に説明を要求した。

 特に変な事は考えていない。『セタリアからの許可が下りるかも分からない状況だ』と前置きしてから、ティスから届いたメール内容と、自分が送った返信内容を報告した。

 支部長から『一言欲しかった』とお小言を貰った。でも、『下手に待たせると、自分のおねだりではなく、日本支部のおねだりと捉えられかねない』と回答して支部長には諦めて貰った。

 何が原因でセタリアからの印象が悪くなるかを知って貰う為にも、ここは我慢して貰うしかない。

 

 自分がティスに依頼したのは、クォーツとホークスアイの換装ボディと装備一式だ。

 この二機は元々、損傷したもののフレームが無事な機体の修復時間を短縮する為の『交換用のパーツ』だ。

 クォーツとホークスアイは『新型機をして仕上げ直されて』世に出ている。

 この事実を考えると、換装ボディと装備一式は『時代遅れ』か、『型遅れ』として扱われている可能性が高い。

 自分の予想通りならば、『使わなくなったお古を譲って欲しい』とおねだりする事も可能だろう。セタリアが許可を出すか分からない。

 仮に許可が下りなかったら、クォーツかホークスアイのどちらか一機だけに限定して、こちらで組み上げる事を前提に交渉する。

 

 在庫の確認を依頼したと、報告を終えると同時に、草薙中佐が音を立てて椅子から立ち上がった。

「ちょっと、それって!」

「抵抗が有るようでしたら、一機分だけにします」

 草薙中佐の表情の険しさと物言いのキツさに加えて、肩を怒らせていたので、自分はその言動を『抗議』だと判断し、すぐに回答を口にした。

「そうじゃないわよ! アンタはあの銀色の機体と交戦して、死ぬような目に()ったでしょ!? それを忘れたの!?」

 けれど、草薙中佐の言葉を聞いて、抗議では無かった事に気づいた。

 自分と草薙中佐の接触時間は少ないので、草薙中佐の為人の把握は出来ていない。それでも、『己が気に入らないものには噛み付く癖持ち』と判断はしていた。

 気に入らないが故の抗議だと思ったので、草薙中佐の否定の言葉にはちょっと驚いた。一先ず、草薙中佐を落ち着かせる言葉を口にする。

「草薙中佐落ち着いて下さい。それは忘れていません。ですが、見た目が変わり果てているとは言え、あの機体の開発には私も携わっていたので、特に何も思いません」

「へっ!? アンタ、あの機体の開発に関わっていたの!?」

 室内にいる殆どの人がギョッとした。

 ……皆さん、今日はギョッとする回数が多いね。

 他人事のような感想を内心で呟いてから、説明する。

「はい。銀色の機体の正式名称は『クォーツ』と言います。防衛軍が知るあの機体の本来の装甲の色は白でしたが。クォーツは、オニキスが高速近接戦闘を行った時のデータを基に開発しました」

「じゃあ、黒いのは?」

「あっちは無人機です。別の支援特化型の機体が遠隔操作で動かしています」

 説明を終えたら、室内は静かになった。

「星崎。アンタはやっぱりどこかおかしいわよ」

「先々月の作戦時にやり返しましたが、おかしいですか?」

 何がおかしいのかと、首を傾げた。望んだ回答は来ない。

 回答の代わりに支部長が挙手してから発言した。 

「星崎。在庫確認を依頼したのは、クォーツの分だけか?」

「支部長!?」

 悲鳴にも似た、支部長を咎めるような声が上がるも、支部長は手を上げて制止した。

「いいえ。砲撃と射撃に特化した機体の換装ボディ一式の在庫確認もお願いしました。他の機体は、重火力型、拠点防衛型、支援特化型なので、この三つは無理だと判断しました」

「確かに、その三つは厳しいな。星崎。来月半ばに向こうに行きたいと言っていたが、それを貰いに行くのか?」

「融通が聞くか否かは聞く予定でした。メインはセタリアに挨拶と、アゲラタムの残骸と新品パーツの交換交渉と、調査の進み具合を聞きに行く、この三点です」

「成程……。星崎、返事はサイヌアータ殿と相談してからでも良いかな?」

「支部長が納得した上で、許可が頂けるのならそれで構いません」

「星崎、あの御仁が反対するとは思わないのか?」

 これまで黙っていた一条大将が口を口にした。

「思いません。反対する以前に、セタリアが『状況が落ち着いたら来なさい』と言っていました。私が向こうに行く事には反対はしないでしょう。ツクヨミに戻って来れるかの方が心配です」

 断言したら、一条大将は難しい顔をしたままで引き下がった。一条大将が難しい顔をしているのは、先月、セタリアが来た時の会話を思い出したからだと思いたい。

「なぁ、星崎。向こうに行く時は一人で行くのか?」

「工藤中将、一緒に行きたいんですか?」

「馬鹿を言うな! 俺は他の奴の何倍も働いているんだぞ!? 交易目的の外遊を楽しめって言うのか!?」

「美味しいお酒を浴びるように飲めますよ?」

「俺は菓子に釣られてのこのこ付いて行くおこちゃまじゃありませんのよぉっ!?」

 工藤中将が絶叫した直後、自動ドアが手動で蹴り開けられた。


「おーほっほっほっ! (わたくし)を除け者にしようなどと、百年早いですわ、草薙要ぇっ! ……え?」


 手動で蹴り開けられたドアから入って来た女性は、何故か、肩に掛かるぐらいの長さのウェーブが掛かった色の濃い赤茶色の髪をかき上げてから高笑いをし、草薙中佐を指差して表情を凍り付かせた。

 室内にいる大人一同は白けた顔をして、登場した女性を見ている。

 自分は、出オチ芸人のようなこの女性が誰なのか知らない。大人が反応を返すまでの間に女性を観察する事にした。

 顔を作る事を前提にした化粧をしているからか、顔の輪郭がハッキリとしており、何故かクライン少佐を思い出した。

 次に、ボブカットと言うにはやや長い髪は赤茶色だが、海老とかアメリカザリガニを連想させる色味をしている。

 最後に体形だが、補正下着を何個も重ねて身に着けているのが丸判りだった。気を使って丁寧にボディラインを誤魔化しているが、注意深く観察すると丸判りだった。

 自分が乱入者を観察を終えると、支部長が天井に向かってため息を吐いた。

「皆、ちょっと済まないが、草薙中佐と瑞貴中佐以外は席を外してくれ」

「支部長。私も残って良いですか?」

「それは氷室中将の好きにしなさい」

 草薙中佐と瑞貴中佐と支部長に呼ばれた乱入者が絶望顔を浮かべた。最初に行動した神崎少佐の手で、乱入者はドアの前から支部長の傍へ運ばれた。出入り口を遮る人がいなくなったので、工藤中将を始めに殆どの人達がぞろぞろと出て行く。

 支部長の言葉に従い、殆どの人が会議室から出て行くのを見送りながら、マオ少佐が松永大佐に質問をしていた。

「なぁ、ミズキって、もしかして……」

「もしかしなくても、その通りだ。我々も行くぞ」

 松永大佐の回答から、この女性の正体に気づいた。

 ……この出オチ芸人みたいな人が、クライン少佐の同類?

 確かに瑞貴中佐は、髪色は赤系で化粧も濃く、クライン少佐と似た点が有る。でも、この二点だけで同類とは言わない。内面でも、クライン少佐と似たところが有ると言う事か?

 松永大佐に聞かないと分からないが、今は支部長から席を外すように求められている。

 自分も、松永大佐とマオ少佐と一緒に会議室から出て、試験運用隊隊舎の食堂にやって来た。一条大将と大林少佐、自ら残ると宣言した氷室中将以外の会議出席者が、全員揃っていた。各々好きな席に座りのんびりとしている。

 自分は松永大佐に手を引かれて、食堂内の隅の席に座る。松永大佐は自分の右隣りで、マオ少佐は向かいに座った。

 座って最初の話題は、瑞貴中佐に関する事だ。



 瑞貴華中佐。

 士官学校時代からの草薙中佐のライバルを自称する人物で、日本支部に所属する女性パイロット。

 階級に見合ったパイロットとしての技量は誇るが、書類仕事は苦手。

 三年前、草薙中佐と共に中佐に昇進し、パイロット側代表幹部候補にも名を連ねた一人。ただし、草薙中佐共々、書類仕事が大の苦手で、ミスも多かった。

 当時、月面基地での戦闘でパイロット側代表幹部が一人戦死し、日本支部幹部の欠員合計三人に達していた。

 幹部の欠員が三人に達し、これでは支部運営に支障を来すと判断した支部長が独断で『幹部選考会』の開催を決定した。

 松永を始めとした面々が最初は反発した。だが、戦闘による負傷で四人目の欠員者が出た事と、一人の将官級(御年七十六歳)が年齢を理由に退役してしまった事により『パイロット側代表幹部のみ』に絞り、開催に同意した。


 ちなみに、将官級側の幹部の選出方法は、非常に複雑かつ、一年以上の時間が掛かる為、行われなかった。

 その内容は、パイロット側代表幹部の大佐階級の『松永大佐・飯島大佐・佐藤大佐・高橋大佐』の四名のうち三人から、交渉を始めとした事を行って推薦状を貰い、一条大将の仕事の手伝い一年を乗り越えて、支部長の後ろ盾を務める人達との面接で合格点を貰わなくてはならない、狭き門だった。

 大抵のものは、松永大佐と飯島大佐の二人らの推薦状を貰う時点で失敗する。

 佐藤大佐と高橋大佐はこの二人の推薦状を持っていないと『信用出来ない』と言って推薦状を出さない。ものぐさな二人は余程の事が無い限り、『その都度、自ら調べる』と言う事をしないのだ。

 もっとも、この難関を乗り越えても、今度は一条大将の仕事の手伝いが有る。第一の難関を乗り越えたとしても、ここで挫折するものが多い。

 最終試験の面接は『集団圧迫面接』を一人で乗り越えねばならない。

 ここまで来ると、最早『新しい人を受け入れる気が無いんじゃない?』と疑われる鬼畜仕様だ。だが、実際に全ての難関を突破した人物(代表例・工藤中将)がいるので、乗り越えられない壁では無い事が証明されている。


 新たなパイロット側代表幹部候補者は二十人近くもいた。

 けれど、書類仕事を始めとした課題をやらせて行く内に、脱落者が続出し、最終的に四人にまで減った。

 この時に残った四人が、清水中佐、森中佐、草薙中佐、瑞貴中佐の四名だった。

 最終課題で、五時間通しで書類仕事をさせて適性検査を行い、ここで瑞貴中佐が草薙中佐に僅差で負けて脱落した。

 そして、三年後の今回。

 再び幹部の補充が必要となり、草薙中佐が教育担当者となり、瑞貴中佐が再び候補者になった。


 

「常に人手が足りない現場の闇を感じますね」

 瑞貴中佐に関する情報を松永大佐から聞き、そんな感想がポロリと出てしまった。

「おい、ストレートに言うな」

「否定の材料が無いのは事実だ。マオ少佐もあと三年が経過したら、幹部入りするかもしれないぞ」

「……勘弁してくれ。イタリア支部でも、役職持ちにならねぇように、根回しとかで滅茶苦茶苦労したんだぞ」

「根回しが出来るだけの頭が有るのなら、問題無く出来るだろうな」

「くっそ、藪蛇になったか」

 悪態を吐いたマオ少佐には悪いが、根回しをするだけの発想がある時点で、予想以上に適任かもしれない。

 根回しって、やらない人はやらないし、やっても土壇場で切り捨てられる事も在る。だから、根回しの内容を確実にするのって意外と難しいんだよね。

 マオ少佐が天井を仰いだ瞬間に、自分は松永大佐に気になった事を質問した。

「松永大佐。瑞貴中佐は、どの辺りがクライン少佐の同類なんですか? 確かに顔を作っていた化粧は濃い目ですし、海老かアメリカザリガニの殻みたいな髪色は赤系ですけど……。あ、補正下着を重ねて身に着けていたので、クライン少佐と同年齢なんですか?」

「星崎。そこまで辛辣な評価は下さなくても良いぞ。その前に一つ訂正する。瑞貴中佐の年齢は草薙中佐と同じく、今年で三十三歳だ」

 松永大佐の訂正を聞いて驚く。瑞貴中佐はあの見た目で三十三歳だったのか。 

 同時に食堂のあちこちから『三十代前半なのに、四十歳を超えた女と同年齢に見られるって……』とか、『だから瑞貴を見ると海老が食いたくなるのか』とか、そんな声が聞こえた。

 そんな中、顔を正面に戻したマオ少佐が右の拳で左の掌を叩いた。

「あ、もしかして、地雷女って意味で同類なのか? って事は松永、お前、告白されたの?」

「確かに袖にしたな」

「お前に告白する女って、ほぼ地雷系だもんなぁ」

「……喧しい」

 瑞貴中佐に関する話題は、額にうっすらと青筋を浮かべた松永大佐の言葉により、ここで終わった。

 代わりに揃って怯えている佐々木中佐と井上中佐が呼ばれて、交流会当日に作る昼食のメニューの打ち合わせが始まった。

「さて、一口にカレーと言っても、カレーの種類が豊富過ぎる。事前にカレーを何種類作るか、付け合わせの有無などを決めてしまいたい」

「あー、何時もはどんな材料が手に入るか分からないが、食材を持って行くんだったら事前に決めた方が楽か。他所の支部は昼飯をケータリングで済ませそうだが、出来立ての方が美味いよな」

 松永大佐が音頭を取り、マオ少佐が補足を入れて行く。

 交流会参加経験の無い自分と中佐コンビは、松永大佐の提案とマオ少佐の捕捉を聞きながら、己の意見を述べて行った。


 自分は作るカレーは辛み成分が余り入っておらず、甘口カレーに近い。試食経験の有るマオ少佐の意見を聞きつつ、辛さに関しては『少量激辛カレーを作る』事で落ち着いた。

 普通のカレー(激辛と甘口)、ドライカレー、他支部への嫌がらせ用のビーフシチュー、シーフードカレーの五種類を作る事になった。ハヤシライスも候補に上がったが、現地でご飯を炊くとなると時間が掛かる上に、かなりの量を炊かなくてはならない事から却下された。当日は複数のパンを食べる事になった。

 ここで『ビーフシチューはカレーじゃない』と意見を貰いそうだが、使用する肉の種類が違うだけで、野菜の種類が同じだからか、この手の突っ込みは来ない。多分だけど、この場において『作り方を知らない人が殆ど』だからかもしれない。

 サラダとスープは無くなった。代わりにトッピングとして、トンカツ、ハムカツ、フライ二種類(白身魚とジャガイモ)、チーズが追加された。

 フライ二種類(白身魚とジャガイモ)は必要なのかと思うが、マオ少佐のリクエストなので、他支部対策の可能性が高い。だって、タルタルソースとモルトビネガーも必要って言われたんだもん。真昼間から、ノンアルコールビールを飲むのかと疑いたくなる。

 白身魚とジャガイモのフライの組み合わせは、イギリスの名物料理『フィッシュアンドチップス』だ。マオ少佐はイギリス支部に正面から喧嘩を売るつもりらしい。

 

「当日は星崎に負担を掛ける事になるな」

「佐々木中佐、食材を持ち込むのならば、事前に下拵えをしておけば大丈夫です。シーフードカレーは冷凍のミックスを使えば良いですし」

 佐々木中佐に『下拵えをすれば良い』と言えば、松永大佐とマオ少佐が真剣な顔をして考え始める。

「それなら当日は料理を仕上げるだけにして、事前に調理機械で下拵えを行えるように佐久間支部長と掛け合ってみよう」

「加工した食材を持ち込んではいけないって、決まりが無いなら行けるな」

 当日は材料を煮込むだけで済みそうな気配だな。

 それにしても、料理をしない人からすると、『作り置き』とか、『下拵え』って発想が無いのか?

 日本支部に料理男子はいないのかと、思考を明後日の方向に飛ばした直後、井上中佐が発言した。

「それなら一種類のカレーを、他支部用と俺ら用に二つの鍋で作るのはどうですか?」

「う~ん……、他支部用を小鍋にする分には良いんじゃねぇか? 簡単な交渉には使えそうだし」

「それは佐久間支部長と話し合って決めれば良い。相談事も出来たからな」

 井上中佐の意見は好意的に受け入れられた。

 それ以前に、食事一つで他支部を警戒しなくてはならないって、本当に『交流する』気が有るのか? 面倒な腹の探り合いの気配がする。

 正直に言うと、行きたくねぇ。



 食堂に来てから一時間後。

 大人一同と一緒に会議室に戻ると、青い顔で床の上で正座をした草薙中佐と瑞貴中佐の姿が在った。けれども、支部長が自分達の姿を確認するなり、二人を追い出した。

 理由は判らないが、草薙中佐も同罪扱いらしい。

 このあとに再開した会議は、恙無く進み終わった。

 自主的に残っていた氷室中将と神崎少佐に、自分達が食堂にいた一時間で何が起きたのか聞きたいけど……松永大佐に止められた。



 今回の定例会議は、初日の午前中を早めに切り上げたにも拘らず、三日目の午前で終わった。

 飯島大佐曰く。『瑞貴中佐の乱入以降、トラブルが発生しなかった為』らしい。

 なお、瑞貴中佐は一ヶ月を待たずに、幹部候補から降ろす事が決まった。

 会議乱入後、草薙中佐と一緒に氷室中将からお説教を受けて『その場では反省心を見せた』ものの、翌日には何時も通りに戻っていた事から、『これは駄目』と判断された結果だった。

 自分にとって、都合の良いものだけしか見ず、都合の悪い事については一切考えない、良く言えばポジティブ、悪く言うといい加減な性格と、午後の会議に出席出来ない事を言い触らす『口の軽さ』が問題視された結果だ。

 瑞貴中佐と共に怒られた草薙中佐はとばっちりを受けたように見えるが、瑞貴中佐の教育係になったのは『後進育成練習』の一環だった。

 しかも、『余裕な時に、可能な限り出来る事を増やせ』と言う、先月の会議で決まった事だった。

 次の襲撃が数ヶ月先だと分かっているからこそ出来る事だ。


 

 そして、十二日。

 月面基地からとんぼ返りして来た佐々木中佐と井上中佐の二人と、訓練学校から来た如月学長と武藤教官と合流し、夜にはサイを招いた。

 サイを招いた時に、後ろからバンダが登場し、工藤中将を始めとする同席した幾人かが膝を突くトラブルが発生した。バンダの頭をハリセンで叩き、フラガに回収させた事でトラブルは終息した。

 十三日早朝。

 自分を含めた合計十人でチャーター機に乗り、交流会の会場となる無人島へ向かった。


 投稿のたびに、誤字脱字報告ありがとうございます。


 最近、登場人物の脳内ボイスについて考えるようになり、気づけば一覧表を作っていました。

 出オチ芸人と主人公に称された瑞貴華のボイスは大久保瑠美さんです。FGOのエリちゃんが近いかな?

 次回、回想に登場するバンダのボイスは緑川光さんです。リトルバスターズの恭介が近いかな? UMA繋がりではなく、脳内でスッと再生されました。

 松永のボイスは、森田成一さん、中村悠一さん、櫻井孝宏さんでころころ変わり、ちょっと悩んでいます。中村悠一さんだと、スタイリッシュストーカーボイスになるのが悩みです。やっぱり森田成一さんかな?

 主人公も松永同様に変わるので、上田佳奈さん、日高里菜さん、高橋李依さんのいずれかの声で再生されてしまいます。

 キャラボイスって悩みますね。

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