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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
新しい変化 西暦3147年12月

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交流会の打ち合わせ

 目下最大の案件は片付いた。サイとの通信はこれで終了かと思ったが、意外な方向に転がった。

「サイが交流会に参加するの?」

 今度はサイが交流会に参加したいと言い出した。映像の中のサイは一度頷いた。

『可能なら、そっちの他所の支部長の顔を拝んでおきたい。ウチの陛下は諜報部の報告書を読んで『気に掛けてもこっちに利点が無い』って切り捨てたが、二人支部長が変わるとか言っていなかったか? 陛下が興味を持たなくても、俺だけは気に掛けた方が良い。今のこっちで、陛下にものが言える奴は少ないからな。変装して顔を拝むか、ルピナス帝国の代表として出向いて、顔を合わせた方が良いかは、そっちの意見に合わせる』

 サイの発言を聞き、先月の会議中に発生した事を思い出した。マスコミを使って辞任に追い込むとか、そんな回答を貰ったと支部長が言っていた。結局どうなったかは聞いていないので知らない。

「支部長、どうしますか?」

 自分が決める訳にはいかないので、支部長に意見を求めた。

 ハナカマキリみたいな問題児に比べれば、サイは遥かに良識的だ。

 問題は、サイは変装をしても目立つ事だ。サイは松永大佐と比べても遜色の無い容姿を持つ。髪色を黒に染めても、市井に埋もれる事は出来ない。

「最初に言おう。支部長の交代はまだ実現していない。次に、あくまでも私の意見を述べる。個人的には、どちらでも良い。だが、事前の連絡も無しに、そちらが顔を出したら混乱を招く可能性が非常に高い」

『それなら、変装した方が良いか』

 支部長の意見を聞いたサイはあっさりと変装を選択した。サイは幼少期から色々と経験している。婚約者のカルタに至っては、諜報を家業としている家の出身だ。たまにカルタの仕事を手伝っていたからか、サイは諜報系の仕事を厭わない。諜報の仕事には変装も含まれていたので、サイは変装を拒まない。

 サイが変装を了承してくれたと判断した支部長は、大林少佐に『偽装の国籍と軍籍』を作成するように指示を出した。他支部からどんな調査を受けても良いように準備を、今からするのか。それだけ、警戒して事に当たる必要が有るのか。

 ……何と言うか、『交流会と言う名目で集まって、腹の探り合いをする嫌がらせ合戦』にしか思えなくなって来たな。

 大林少佐が慌ただしく作業を始めているのを横目に、サイに交流会の日程を教える――と言うか、自分も詳細を知らない。サイと一緒に、自分も支部長から教えて貰う。


 交流会は、今月の十三日に、他支部が保有する無人島で開催される。交流会と銘打っているが、その中身は支部単位で行う嫌がらせ合戦と、食材確保の障害物競走で構成されている。昼食は支部ごとに作って食べるのが決まりとなっている。

 だが、今回開催される交流会は十数年振りの開催と言う事も在り、昼食用の食材は支部ごとに持ち込みとなった。

 今回は『各支部の訓練生も参加する』から、食材だけは持ち込みになったらしい。大人が食材を奪い合う姿を、子供に見せたくないと言う配慮なのか知らないが、食べ慣れた食材が使えるのはありがたい。

 そして最も重要な、交流会で行われるスポーツ競技の内容だが、参加経験者の松永大佐が言うには『障害物競走』みたいなものらしい。これまでの話を聞いた限りだが、普通の障害物競走では無い事は確定している。

 けれど、無人島で開催されるのに『水泳が無い』のは意外だ。でも、マオ少佐から水泳が無い理由を教えて貰うと納得した。流石に、『獰猛な人喰い鮫と小さいドククラゲの生息地域で水泳をやる』のは、『遠回しに死ねと言っている』も同然だ。

 訓練学校でも海で泳ぐ時、教官から『クラゲに気を付けろ』とよく言われていたので、これには納得するしかない。

 だがしかし、このスポーツ競技で問題が発生していた。


「交流会の主催者のフランス支部から、スポーツ競技について、何度問い合わせても連絡が来ないんだ。フランス支部を始めとした他支部から『どんな嫌がらせを受けるか判らない』以上、普通の訓練生を連れて行く訳にはいかない。星崎には臨機応変な対応で他支部からの嫌がらせに対処した実績が有る。何より、星崎は他所の支部長の前で、イタリア支部長から謝罪を受け取った過去が有る。星崎が出向けば、イタリア支部だけは嫌がらせを控える可能性が有る。これらの理由が存在するので、星崎には何が何でも参加して貰う」

「支部長、無駄に長いですよ」

 飯島大佐から突っ込みが飛んだ。自分は飯島大佐のように突っ込みを入れずに、マオ少佐に六月の痴漢騒動を『意図的に引き起こした』事を教えたか、記憶を探っていた。

 思い出せなくてマオ少佐の顔を見たが、すぐに目を逸らした。何故かと言うとね。マオ少佐の顔が物凄い事になっていたからだ。マオ少佐は自分を睨みながら口を開いた。

「おい、まさかだけどよぉ。六月の痴漢騒動の被害者って、ホシザキなのか?」

「そうですよ」

 マオ少佐の発言から、六月の痴漢騒動について教えていなかった事が判明した。

「……痴漢騒動は何で起きたんだ?」

「荷物を持って更衣室から出ようとしたら、出入り口の方から佐々木中佐と井上中佐が『誰かと言い合う』声が聞こえまして……、ストレスが溜まっていたのか悪戯心が騒いだので、タオルで顔を隠して、下着姿になって待ち構えました」

 隠しても意味は無いので、『ストレス発散でやった』と、正直に言った。マオ少佐は眉をピクリと動かしたが、眉間を軽く揉んでから口を開く。

「理由はどうあれ、待ち構えていたら、馬鹿が本当に女子更衣室に突入したのか?」

「それが真相です」

 はっきりと言った。マオ少佐には悪いが、そうとしか言えない。自分は『待っていただけ』だもん。

「んじゃ、緊急放送を使った理由はなんだ?」

「松永大佐にも聞かれましたが、他にも連絡用のボタンがあったんですか?」

 変だな。解散してしまったチームの女子の先輩は『ここだけ覚えれば良い』としか言わなかった。高城教官にも確認を取ったが、『滅多な事では使わないからそれで十分』と回答を貰ったので、他のボタンの存在すら知らなかった。

 以前、松永大佐から質問を受けた時と同じ事をマオ少佐にも教えた。そしたら、又聞きをしていた支部長は天を仰ぎ、マオ少佐は右手で目元を覆った。

「………………女子更衣室に突撃した馬鹿が悪い。そう言う事にするか」

 長い沈黙を挟み、右手を下ろして腕を組んだマオ少佐は神妙な顔でそう言った。



『おーい、その痴漢騒動について一つ聞いても良いか?』

 交流会の打ち合わせ中だったので、今の会話は通信中だったサイの耳にも入った。

 自分は、サイの知りたい事が何か判ったので、痴漢騒動の一部始終を『解説付き』でサイに教えた。被害者からの報告だからか、マオ少佐も自分の報告に聞き入っている。

 痴漢騒動の一部始終を聞き終えたサイは、『へぇ~』と声を上げた。

『喪服女がいないだけで、随分と温い対応で終わるのか。それをルピナス帝国(ウチ)でやったら、短剣を持った喪服女がどこからともなく出現して、ケタケタ笑いながら馬鹿の首を狩りに行くぞ。外交部の連中はこれをネタに、馬鹿が所属する国家元首を泣かせて、徹底的に色々と毟り取りに掛かるぞ』

 サイの感想を聞き、男性陣はおろか、女性陣まで顔を引き攣らせた。

「やり過ぎると別のところから批難を浴びるから、交渉を有利にする程度にしか出来ない」

『そうなのか?』

 支部長のフォローを聞いたサイは自分に確認を取った。

「基本となる常識が、そっちの宇宙と大分違うから、……うん、対応も変わる」

『常識が違うだけでここまで変わるのか。ますます、バンダを向かわせる訳にはいかないな。あいつは基本的に毟り取る交渉しかしねぇ』

 サイの言葉を聞き、一条大将を始めとした将官級の人達の顔が引き攣った。その中でも、工藤中将に至っては、口の端を痙攣させてから、口をへの字に曲げた。

「国がデカいと、毟り取るのが基本なのか?」

「工藤中将。問題児(バンダ)だけが、毟り取る方針でいます。他の人は国に影響が出るような事が発生した場合のみ、毟り取りに掛かります。基本的には相手の話を聞きつつ、相手が不満を抱かないギリギリのラインを攻めますね」

「別の意味でクソ面倒くせぇな。流石は交渉の達人、と言ったところか」

 工藤中将の減らず口に対応していた僅かな時間、僅かに目を眇めたサイが工藤中将を観察していた。

 サイのこの行動……今の減らず口で、確実にロックオンされたな。今後、支部長以外の人がルピナス帝国と交渉する事になったら、工藤中将が指名されそうだ。

 可哀想に、と思っていたら、工藤中将と目が合った。

「星崎。何でお前は俺を、可哀想なものを見るような目で、見ているんだ?」

「工藤中将の仕事が増える気配を感じ取っただけです」

 工藤中将に対して抱いた正直な感想を述べた。そしたら、映像の中のサイが目を逸らし、工藤中将は両手を握りテーブルを叩いて叫ぶ。

「何でなの!? 俺は先月二人分以上の仕事をやったんだぞ! 書類仕事に関して無能な高橋をフォローしつつ、残骸回収の指示を出して、他支部との交渉やって、妨害を受けたら対処して、仕事をしつつやり返したり足を引っ張ったり、目が回る思いをしたんだぞ!」

 それは魂の叫びだった。

 一頻り叫んだ工藤中将は、頭を掻きむしりながら『誰か! 俺の仕事を減らしてぇえええええ!』と吼えた。そんな工藤中将を見た将官級の人達は皆揃って目を逸らした。皆さん、工藤中将に仕事を押し付けている自覚が有ったのね。

 支部長は我関せずと言った様子で、缶コーヒーを開けて飲んでいた。

 松永大佐を始めとした他の面々は、支部長と同じように缶コーヒーを開けて飲んでいた。佐藤大佐に至っては、持ち込んだお菓子を食べている。

 工藤中将は溜め込んでいたものを全て吐き出すまで放置された。

 混沌とし始めた光景を見たサイが疑問を口にする。

『なぁ、こっちの会議は何時もこうなのか?』

「違う。今回が特殊なだけ」

『……そうか』

 自分の回答を聞いたサイはそれ以上何も言わずに引き下がった。



 混沌具合が悪化する前に、缶コーヒーを飲み終えた支部長が取りなし、打ち合わせと会議は進むも、サイは中座した。

 現時点でサイが知るべき事は、交流会の日程だ。今日の会議が終了したら、自分が改めてサイに連絡を入れる事を約束し、サイとの通信は終わった。

 サイはセタリアに報告しに行かねばならない地位を保有しているので、それなりに忙しいのだ。今日中にセタリアから、こちらに来る許可を取りつつ、セタリアの交流会参加を阻止する為に動くだろう。ついでに、バンダがこちらに来襲するのも阻止する為に動く。セタリアとバンダの来襲は、何が何でも阻止して貰わなくてはならない。サイが達成出来なければ、性別詐称している二人が原因で、阿鼻叫喚の地獄絵図が発生しかねない。

 是非とも頑張って貰おう。



 さて、交流会にサイの参加は決まったが、表向きは『緊急時の交代要員』として扱う。その為、選出人数は二人のままだ。

 過去に交流会に参加した面々が、採用されそうな競技を予測して話し合い、佐々木中佐と井上中佐が選ばれた。二人三脚を始めとした、息を合わせなくてはならない競技が幾つも存在する為の選出だった。

 問題は、この二人は月面基地駐在担当である事だった。

「高橋大佐がいるから問題は無い」

 支部長判断で、残り二名は中佐コンビで決まった。交流会が開催される日の前後は、定例会議日とは違い、将官級の駐在担当者がいる。これを理由に、問題無しと判断された。

 参加人員が決まったら、次は交流会の昼食についての話し合いになった。

 今回は久し振りの開催である事を理由に、昼食は支部ごとに作って食べるが、『食材は持ち込み』に変更された。

「星崎、少ない材料で、複数種類の料理を作るとしたら何を作る?」

「そうですね……。カレーはどうですか? 辛さを調整すれば、複数種類の料理が出来上がりますし、同じ具材でクリームシチューや、ハヤシライスが作れます。牛肉と玉ねぎでビーフシチューを作っても良いです。お肉を挽肉に変えてキーマカレーかドライカレーになります。トンカツを作って後乗せにしたカツカレーなど、バリエーションも豊富です」

 カレーならば、作る工程は少ないし、日本人なら誰でも一度は食べた経験が有るだろう。学校の給食で一度は出る筈だし。


 カレーを作る工程は次の通りだ。

 肉と野菜を一口大に切って、水かお湯を入れて柔らかくなるまで煮ながら灰汁を取り、最後にカレー粉を入れて煮込む。

 作る過程を少し変えるだけで別のカレーになるし、カレー粉の代わりにホワイトソースを投入すればクリームシチューになる。下拵えの作業内容はカレーもクリームシチューも同じなので、気にする事は少ない。

 カレーは作り方と材料と調味料を変えれば、ハヤシライスやキーマカレーやドライカレーなどに変わる。ビーフシチューの作り方はカレーとは完全に違うが、ニンジンとジャガイモを投入してはいけないと言うルールは無い。

 ここまで来ると最早、『ルーが変わっているだけ』とも取れるが、各御家庭ごとの違いレベルだ。


 自分の提案を聞いた支部長は顎に手を添えた。 

「カレーか。私でも材料が判って良いな。ニンジン、玉ねぎ、ジャガイモ、肉で、カレー粉はどうする?」

「指定の香辛料と調味料を用意してくれるのであれば、現地で私がカレー粉を調合します」

「星崎。必要な材料の一覧表を明日の夜までに提出してくれ。分量は十人分で計算してくれ」

 支部長からの指示を聞いて頷こうとしたが、参加人数が違う事に気づいた。あと支部長、中佐コンビは三人前ぐらい平然と食べるので、十人分じゃ足りないぞ。

 ……じゃなくて、支部長に人数確認を取らないと。

 セルフ突っ込みを入れてから、改めて支部長に参加人数の確認を取る。

「十人? 支部長、参加人数が二人分多くないですか?」

「ん? ……ああ、言っていなかったな。訓練生を参加させるに当たり、各支部の訓練学校の学長他一名が引率者になる。今回の引率者は、如月学長と武藤教官の二名だ。前日にツクヨミで合流し、交流会の会場へ向かう」

 支部長から返って来た答えを聞いて、佐藤大佐が白目を剥いた。佐藤大佐の隣に座る飯島大佐も顔を少し引き攣らせた。他にも、ちょっと嫌そうな顔をしたものが数人いた。

 けれど、自分はそれらを無視して支部長に確認を取る。

「如月学長と武藤教官を入れた、合計十人で交流会の参加地に向かうのですか?」

「そう言う事になるな」

 支部長が発した肯定の言葉を聞きながら、何人分必要なのか考える。

 佐々木中佐と井上中佐はそれぞれ三人前を食べる。松永大佐とマオ少佐は二人前ずつ、自分は一人前よりやや多め、支部長と大林少佐はそれぞれ一人前と推定して、如月学長と武藤教官がどれだけ食べるか分からないが、それぞれ一人前と考える。

 合計すると、十五人分か? 待て、サイが抜けているから、十八人分? う~ん、計算が難しいから二十人前で良いか。動くから普段以上に食べるだろう。

 支部長に了承の応答を返して自分は下がった。

「本当は将官級からも一人連れて行く予定だったんだが、サイヌアータ殿が来るから今回は無しだ」

 支部長の言葉を聞いて、将官級の人達の間に緊張が走ったが、続く言葉を聞き、揃って胸を撫で下ろしていた。そんなに交流会に参加したくないのか?交流会で波乱を感じさせる態度だね。

 長引きそうだった交流会に関する打ち合わせは、これで終了したので良しとするしかないけどね。


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