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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
新しい変化 西暦3147年12月

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204/209

お知らせと不穏な気配が同時にやって来た

 大人達の会話に混ざり、会議で決まった事などについて教えて貰う。けれど、さして時間が経過せずに十二時になり、昼食が運び込まれて来た。今日は珍しい事に、佐々木中佐と井上中佐以外に誰も来ない。

 松永大佐の左隣に座り、大人四人と共に昼食を取りながら、会議について改めて教えて貰った。

 支部長は会議出席者が三人程代わると言っていたが、交代は二名で、残り一名は追加要員だった。これを『顔触れが変わる』と言うのかと思ったが、顔触れには『会合や事業に参加する人々。連中』って意味が有る。

 支部長の用法間違いかと思いきや、松永大佐の話を聞くと、今月半ばにもう一人抜けるそうだ。誰が抜けるか知らんが、もう一人抜けるんじゃ、確かに交代要員だな。

 自分は会議出席者の名前を殆ど知らないから、抜ける人の名前を教えられても誰だか判らない。今後の交流の機会が無い以上、深く追求するのは止めよう。自分は新しい人の名前だけ知っていれば良い。

 一人でそんな判断を下していると、松永大佐に声を掛けられた。

「星崎。今月の十三日に、他支部保有の無人島に移動する」

「無人島、ですか?」

 突然明かされた予定に困惑する。無人島で一体何をやるんだ? ルピナス帝国首都防衛支部みたいな訓練をしない事だけは確かだ。

 自分は困惑したが、松永大佐を挟んだ向こう側に座るマオ少佐には心当たりが有ったのか、小さく声を上げた。

「それって、……遂に交流会をやるのか?」

「交流会?」

「他所の支部の連中とスポーツ競技で交流をするんだ。日本支部に来る前、フランス支部長が何か企んでいるって聞いたんだ。あれは交流会の計画だったのか」

 マオ少佐が簡単な説明をしてくれたが、他所の支部の人とスポーツマンシップに則った事が出来るのか怪しい。だって、他所の支部長は『あのザマ』なんだもん。

 ここでうろ覚えだが、以前、松永大佐が変な事を言っていたな。

「そう言えば、以前、松永大佐が『食材争奪戦しか記憶に残っていない』とか、言っていたんですけど」

 うろ覚えの言葉を口にすれば、マオ少佐の目が泳いだ。中佐コンビと一緒に不審な視線をマオ少佐に送る。

「あー……、当日の昼はな、『支部ごとに飯を作って食う』んだ。その飯の『材料の質』がスポーツ競技の順位で変わる」

「肉で簡単に例えるのならば、一位が牛肉、二位が豚肉、三位が鶏肉となり、四位以下は魚になる」

 松永大佐の説明では、四位以下はそもそも肉ですら無い。『魚肉』と言う扱いなのだろうか?

 一緒に説明を聞いた井上中佐が恐る恐ると言った様子で、松永大佐に質問する。

「松永大佐、もしかして、なんですけど……、交流会当日って、『支部単位で嫌がらせを受ける』んですか?」

「もしかしなくてもその通りだ。原則として、『昼食は支部長、もしくは、副支部長と一緒に取る』事になっている。他所の支部長は『不味い食事を嫌って』ほぼ来ない。副支部長が代理で来る事が殆どだ。どこの副支部長も、軍人としての活動経験を保有しているから、食事が多少不味くても大丈夫だ」

 松永大佐は、何故かそこで言葉を一度切った。だが、松永大佐の続きの言葉を聞いて、安堵の息を漏らしていた井上中佐の顔が強張る。

「大丈夫だが、最も重要な調理の出来る奴が少ない。見つからないだけかもしれないがな。そのせいで、どこも焼けば簡単に食せる肉の奪い合いが酷い」

「それじゃあ、星崎は何が何でも連れて行く必要が有りますね」

 佐々木中佐が納得したと言わんばかりに頷いた。

「星崎は数少ない料理が出来る人間だからな。だが、今回はそれ以外にも連れて行く理由が有る。各支部の訓練生を一人連れて行く事になった。星崎には訓練生として同行して貰う」

「え? 私、飛び級卒業していませんでしたっけ?」

 松永大佐の言葉を聞き、八月末日の話し合いで決まった事を思い出した。

「それを知っている人間はごく少数だ。表向きは『選抜クラスが存在する学校に転校した』事になっているし、ここにいる理由は『成績が良過ぎたから、実務経験を積ませている最中』になっている。何より、『演習中に実戦に巻き込まれても、自力で生き残った実績』が有る。誤魔化しは可能だ」

「階級の誤魔化しはどうしますか?」

「前に言っただろう。『無用なトラブルを避ける為』で良い。当日は訓練学校の制服で行く事になるが、月面基地で知り合ったものがいたらその通りに言えば良い。これに関しては、佐久間支部長も了承済みだ」

 誤魔化し方について、松永大佐に確認を取ったが、ここで支部長の名前が出て来るとは思わなかった。どこまで事前に話し合っているのか。

 知り合いと遭遇した時の事を考えたが、他支部の知り合いは殆どいない。

 アメリカ支部のライトと、イギリス支部のイングラムの二名。

 現時点で、メールアドレスを交換したのはこの二人だけだ。この二つの支部の副支部長とも会っているが、立場を考えると知り合いに数えてはいけない。

 他の顔見知りは、スペイン支部のミゲル、オランダ支部のハルマン大佐、ドイツ支部のクライン少佐と、ロシア支部のゲルト大佐か。マオ少佐はイタリア支部から、日本支部に移籍したので除外する。

 名前を挙げた人数を数えると、六人になる。この全員と知り合ったのは、作戦前に月面基地に出向いた時だ。短期間で、マオ少佐を含めると七名と知り合った事になるんだけれど、それなりの規模を保有する支部に一人知り合いがいる計算になる。

 ここでふと気づいた。

 知り合い全員が交流会に参加するとは限らない。松永大佐にどこの支部が参加するのか確認を取る。

「松永大佐。確認ですが、交流会に参加する支部はどこですか?」

「現時点で日本支部以外では、アメリカ、イギリス、イタリア、ドイツ、フランス、ロシアの六ヶ国の支部だ。訓練生以外の参加者の階級は少佐以上となっている」

「その六ヶ国で少佐階級以上の知り合いは、クライン少佐と、ゲルト大佐だけですね」

 交流会で顔を合わせそうな人物は二人だけだった。唯一の心配はクライン少佐だ。顔を合わせるなり、泥酔したオジサン並みに絡まれそうだ。

「クラインは来ねぇぞ。交流会はな、基本的に女が来ない事で有名だ。主に『飯炊きをやりたくない』って、理由でな」

 一抹の不安を抱いたところで、マオ少佐から意外な情報が齎された。『料理をしたくない』と言う一点で、女性が来ないのか。『意外』と言えば良いかもしれないが、やっぱり『料理は女性の仕事』と言う固定観念が未だに残っているようだ。

 何はともあれ、クライン少佐が来ないのならば、顔見知りは一人だけになる。

「そうでしたか。それだと、参加支部の少佐階級以上で、互いに顔と名前を知っているのは、ゲルト大佐だけですね」

「あの御仁ならば、口裏を合わせやすいな」

「あの野郎は生真面目だし、日本支部には恩が有る。変に突っかかっては来ないだろ」

 松永大佐とマオ少佐が抱くゲルト大佐の人物評価を聞き、『ゲルト大佐は見た目通りの人なんだな』と感想を抱いた。



 昼食を食べ終えて食器を片付けて、出来上がったプリンを食べる。

 佐々木中佐と井上中佐は丼で作ったプリンを幸せそうな顔で食べている。自分と松永大佐とマオ少佐の三人は小さめの器で作ったプリンを食べている。

 マオ少佐はプリンを食べながら、首を傾げている。

「やっぱり普通に美味いな。月面基地でハゲが白目を剥いたクッキーは不味かったのに」

「カカオ九十パーセント越えのビターチョコを使ったからです」

 マオ少佐は月面基地で食べたあのクッキーの事を覚えていたのか。アレは飯島大佐の依頼で作ったクッキーなのに。

 まぁ、思い出してもあのクッキーはもう残っていない。松永大佐が誰かに食べさせて、食べた人物は倒れたらしいけど、一ヶ月以上も前の事だから、綺麗に忘れよう。

 プリンを食べながら、松永大佐から午後の予定を尋ねた。

 交流会に向かう前に何かしらの打ち合わせが有るかも知れない。そう思って尋ねてみたら、午後はマオ少佐と一緒に会議に参加だった。

「交流会の参加者五名を正式に発表する為だ。現時点で決まっているのは、私と星崎と、マオ少佐だ。残り二名は決まっていない」

「おい、何で俺まで行く事になってんだよ?」

「佐久間支部長が仰るには、『首に付けているものの説明をして来い』との事だ」

「……ああ、そうか。何時押し掛けて来るか分からねぇから、牽制して来いって事か」

「そう言う事だ」

「面倒くせぇが、確かに必要だな」

 マオ少佐はそう言いながら頭を乱雑に掻いた。参加を嫌がると言う事は、マオ少佐は体力に自信が無いのか? 喫煙者みたいだったし。月面基地でマオ少佐は煙管を所持していたが、ツクヨミで再会して以降、煙管を一度も見ない。

 疑問の解決ついでに、マオ少佐に尋ねてみよう。 

「あの、マオ少佐。喫煙者でしたよね?」

「ああん? 何を言い出すって……、あー、煙管の中身は薄荷系の香草だ。煙草はたまに吸っていたが、ニコチンが入った奴は吸っていない。主に吸っていたのは、香草とニコチンに似た風味付けの煙草だ。だから、体力は落ちていないぜ。煙管は貰いもんだから使っていただけだしな」

「……そうでしたか」

 ここまで察し良く会話が進むと、反応に困る。つーか、マオ少佐、察しが良過ぎないか? 『喫煙者でしたよね?』だけで、ここまで回答が返って来るとは思わないんだけど。

「パイロットなのに体力が無い訳ないだろ? お前の考えは杞憂だ」

「喫煙者だった以上、疑われて当然だ」

 マオ少佐は『何言ってんだ?』みたいな顔になったが、松永大佐からのコメントを受けて、憮然とした顔に変わった。

「うるせぇ。成人祝いで上官から貰ったんだよ。『悪い事でも役に立つ時が有る』って言葉と一緒にな」

「含蓄とかですか?」

「真に受けるな。煙草を吸う為に、正当に聞こえる理由をでっち上げただけだ」

 マオ少佐宛の祝いの言葉に、意味深長な意味が有るのかと思いきや、何も無かった。

 でも、悪い事を知らないと、ものの良し悪しが判らない時が在る。そう言う意味では、知っておいて損は無いだろう。

 マオ少佐は『煙草に関してはここまで』と言って、これ以上の質問を受け付けなかった。

「ん?」

 残りのプリンを口に運んでいると、突然、軽快な電子音が鳴り響いた。

 自分にとっては聞き慣れた音だが、大人四人は聞いた事の無い音だったらしく、音源を探してマオ少佐以外の三人が自分を見た。三人の行動を見たマオ少佐が怪訝そうな顔をする。

「何の音だ? つか、何でお前らホシザキを見てんだ?」

「それは音源が星崎だからだ。星崎、先の音は何だ?」

「向こうからのメールの受信音です」

「メール?」

 メールの受信音だと回答すれば、マオ少佐は困惑した。中佐コンビは顔を見合わせてからプリンを食べる事に集中し、松永大佐は天井を見上げた。

 三人の反応を見て、マオ少佐は困惑を深めた。

「星崎。メールを今ここで開封しろ」

「良いんですか?」

 松永大佐からの指示を受けて、思わずマオ少佐をチラ見した。察しの良いマオ少佐は、それだけでメールの内容の機密度を理解したのか、急に立ち上がった。けれど、松永大佐が止める。

「マオ少佐、大丈夫だ」

「いや、どう考えてもヤバい内容なんだろ? だったら、変な事に巻き込まれる前に逃亡するに限る」

「首にそれを付けた時点でそれは不可能だ。これくらいの事はしょっちゅう起きるぞ」

「……俺、選択肢を間違えたかな?」

 顔に絶望を滲ませたマオ少佐は諦めたのか腰を下ろした。

 頭を抱え始めたマオ少佐に同情の視線を送ってから、自分は端末を起動させた。そのまま操作して、先程届いたメールを開封した。

 メールの送り主はサイだった。セタリアでは無い事に安堵したいところだが、メールを読んで今度は自分が頭を抱えた。

「星崎?」

「松永大佐。交流会って荒れても大丈夫ですか?」

「「え゛っ!?」」「……」「……場合による」

 中佐コンビは目を剥いて驚きの声を上げ、マオ少佐は絶句した。そんな中、松永大佐は少し考えてから回答を口にした。

「星崎。メールの内容は何だったんだ?」

「どこから情報が漏れたか知りませんが、交流会の日程がルピナス帝国(むこう)に知られています。要約しますと、交流会当日に、『参加支部の支部長が勢ぞろいする』と言う情報を得たそうです。この情報を知った外交部のものが、『他所の支部長の顔を見たい』と我が儘を言い始めて収拾が付かず、サイはこの件について支部長に通信で相談したい、と言うものです」

 松永大佐の質問に回答すると、中佐コンビは『お代わりのコーヒーを取りに行きます』と言って素早く席を外した。出遅れたマオ少佐は引き攣った声なき声を上げた。

 松永大佐は三人の反応を無視して、額に手を当てた。そのまま一分以上も、松永大佐は動かなかった。

「相談相手は佐久間支部長だ。判断は佐久間支部長に丸投げする。返信の文章は『相談してみる』と言う内容で書くように」

 たっぷり一分以上も悩んでおきながら、神妙な顔をした松永大佐が下した判断は『支部長に丸投げ』だった。

 ……これさ、自分の報告を聞いて『どうするか?』を一分以上も悩んだのではなく、松永大佐は『支部長にどう報告するか』で、悩んだのかもしれないな。

 言葉にしたら『そうではないか?』と思えてしまうから不思議だ。

 メールの返信文章を急いで作成して送った。メールの送信完了を松永大佐に報告し、ふと、声を聞いていない人がいる事に気づいた。

 松永大佐を挟んで向こう側にいるマオ少佐は、耳を塞いでテーブルに突っ伏していた。マオ少佐は一分一秒でも長く、『知らないまま』でいたいんだろう。でも結局、会議で内容を全部知るので無駄な行動だ。

 中佐コンビが漸く持って来たコーヒー(自分用は砂糖とミルク多めだった)を五人で飲み、マグカップと器とスプーンと一緒に片付けてから、会議室へ移動した。


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