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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
再会と出会い 西暦3147年11月

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新体制の訓練学校 ③

 昼休憩を挟んだら、午後になる。

 午後には、高等部の生徒(希望者)とシミュレーターで対戦を行う。

 なお、希望者以外の高等部の生徒は、対戦の観戦か、自主学習のどちらかを選択するそうだが、……観戦の希望人数が多い為、食堂に対戦の映像が流れる。野球かサッカーの中継かな?

 対戦希望の高等部の生徒の中には、自分では無く、『松永大佐と対戦を希望する』猛者がいた。各学年から三人ずつだが、何故か全員男子だった。

 一体何を考えて、この男子生徒九人は松永大佐に対戦を申し込んだのか。

「沢城先輩からメールで『星崎は松永大佐の下で勉強をしている』って、教えて貰ったんだ。だから俺らも、松永大佐に実力を認めて貰えば、ツクヨミで実習の時に、星崎と一緒に勉強出来るかなって思って……」

 以上が、代表格の男子生徒の回答だった。

 何をどうしたら、そんな妄想が飛び出すのか。てか、もじもじながら言う台詞か? 一部女子の形相が凄い事になっているんだけど。

 流石にこれは予想外だったのか。如月学長と氷室中将は腹を抱えて爆笑し、武藤教官は呆れた。飯島大佐は笑顔で動きを止めた松永大佐に謝罪をした。

 笑い過ぎて腹を抱えたまましゃがみ込んだ氷室中将が、目尻に浮かんだ涙を指先で拭いながら、未だに動きを止めたままの松永大佐に声を掛ける。

「ひぃひぃ、松永大佐、必ず受けて頂戴。あはっ、これは良い土産話が出来たわ」

 氷室中将よ。これは土産話になるのか? それよりも、何時まで笑っているの?

 笑いが大分収まって来た如月学長も、目尻に浮かんだ涙を指先で拭ってから松永大佐の肩を叩いて声を掛ける。

「松永。ぷくくっ、是非とも受けてくれ。その九人は各学年の男子の中で、実技成績上位三名だ」

「……笑うか喋るかどちらかにしろ」

 漸く復活した松永大佐は、額に手を当ててため息を吐いた。

 松永大佐の表情には若干の怒りが滲んでいるが、対戦を拒む気配は無い。


 そして、約四十五分後。


 松永大佐は九人に対して、完全勝利した。しかも、一人当たりの撃墜時間は約五分だ。

大人気(おとなげ)ない? 彼らは星崎に五分程度で撃墜されていたのでしょう? ならば、私も同じ時間で撃墜した方が良いでしょう」

 松永大佐。そんな輝かんばかりの笑顔で言う事じゃないでしょ。

 敗北した九人は膝を突いたが、『次こそは!』などと拳を握っていた。


 言って良いか? 次は無いと思う。


 敗者となった九人を愉快そうに見ていた如月学長だったが、何かを思い出したかのように、軽く握った拳で手を叩いた。

「あ、そうだ。言い忘れていたが、明日も松永に対戦申込者がいるぞ」

「明日も? 明日は中等部の生徒だろう?」

「心配は不要だ。中等部三年生の実技成績上位五名の『男子』だ」

「………………もう何も言わん」

 けらけらと笑う如月学長に対して、松永大佐が零した嘆息は重かった。


 

 一方、自分の方は、対戦申込者(男女学年混合)総勢七十人と、対戦を行う事になった。

 人数を聞き、初めは多いと思ったが、今月の初め頃に飯島大佐のところで五十人と対戦をした事を思い出した。

 対戦相手が二十人程度追加されたようなものだと、己に言い聞かせて対戦に集中した。


 その結果。


 集中し過ぎてしまったのか。

 一人当たり『二分程度』で撃墜してしまい、二時間半も掛からずに、対戦を終わらせてしまった。

 大人一同から呆れた視線を貰った。

 対戦相手の先輩一同は、床を叩いて悔しがっていた。

 反応に困った自分は『放課後になる前に終わったから良いか』と現実逃避をした。

 そして、松永大佐と対戦した九人と追加で対戦し、全勝してから如月学長の判断で今日の予定はここまでとなった。

 流石に人数が多く疲れたので、如月学長の判断はありがたかったよ。

 あ、ツクヨミに戻ってこの戦績を報告しても、誰にも信じて貰えないだろうから言う予定は無い。

 昨日と似たような夕食時を過ごし、大浴場の湯船に浸かって少し伸びてから、この日は眠った。



 さて、最終日になった。

 最終日の午前中の予定は、氷室中将は講堂で高等部の生徒相手に講演、自分と松永大佐は昨日の午後と同じく、シミュレーターでの対戦だ。

 飯島大佐に対戦の申し込みは無いが、生徒から対戦の解説を求められていた。恐らくだが、飯島大佐の解説を聞きたいが為に、誰も対戦を申し込んでいないのか。

 なお、本日は土曜日なので中等部は休校している。中等部の生徒の行動は、対戦希望、観戦希望、講演(録画するので後日視聴可能)を聞くの三つに分かれた。休日なのに『どれも選ばずに自由に過ごす』と言う選択肢が無いのは流石だ。

 色々と思ってしまうが、自分は目の前の、男女混合三十人との対戦に集中した。


 

 最後の予定を完全勝利で終わらせ、生徒達と食堂で昼食を取る。出発時間は十五時なので、少し余裕がある。

「アンタさぁ、前よりも強くなっていない?」

「……どうでしょう? 実感が無いです」

 正面の席に座った高等部三年女子のボス的な位置にいる女子生徒から、昼食中にそんな質問を受けた。悪いけど、強くなった実感が無いからさっぱり分からん。

 作戦に参加しただけでなく、何度も実戦に出ている結果だと思うが、そんな事は言えないので誤魔化すしかない。誤魔化しついでに思い出した事を口にする。

 何を思い出したのかと言うと、今月の初め頃に遭遇した三年前の卒業生の事だ。詳細を省いて『遭遇したら喧嘩を売られた』とだけ言っておく。

「三年前に卒業した先輩に遭遇して、速攻で喧嘩を売られたぁ?」「相変わらず、プライドだけは高い先輩達だなー」「星崎。可能な限り会わないようにした方が良いぞ。マジで粘着質な人が多いから」「実力が足りないのに、自分が一番じゃないと騒ぐ人が多かったな」「沢城先輩も、滅茶苦茶苦労してたよな」「そうだったな。男女問わずにマジな嫌がらせして来る人多かったよな」「そうそう。三年以上前の先輩達って、陰険系が多かったな」

 ちょっと口にしたら、高等部三年生の生徒は口々に酷評した。

 高等部の二年生と一年生は、三年前の卒業生と接点が少なかったのか、何も言わない。けれど、何かを思い出して面倒臭そうな顔をしているものが多かった。

 三年前の卒業生と接点の無い中等部の生徒は、高等部の生徒の反応を見て不思議そうな顔をしていた。

 流石に接点が無いと、相手の人為(ひととなり)は解らないからこんな反応をしてしまう。こればかりはしょうがない。

 質問の波が途切れた隙に、冷めて来た食事を急いで食べ進めていると、別方向から質問が飛んで来た。

「星崎。武藤教官がツクヨミに行くって言っていたけど、何でか知っているか?」

「間宮教官の元上官に説教しに行くだけだから、月曜日の午前中には訓練学校に戻るよ」

 質問して来た男子生徒にそう返すと、女子一同の目付きが、一瞬だけ鋭くなった。質問者の男子生徒はそれに気づかず、『へぇ~』と納得していた。

 自分の正面に座る女子の先輩は口の端を吊り上げた。

「それは良い事を聞いたわ。武藤教官に念入りに尻を引っ叩くようにお願いしないと」

 念入りに尻を叩いて下さいって、そんな事を言われたら武藤教官も困惑しそうだな。

 正面で聞いていた自分も困惑するが、正面の女子に同調した女子生徒は『確かに』と頷いている。その中には、急いで食事を平らげる女子生徒の姿が見られた。

 わざわざお願いしに行くのか。何か大事になりそう。

 高橋大佐の無事は……この分だと祈っても意味が無さそうだな。高橋大佐の罰は軽くならないだろうから、これ以上の干渉は止めよう。

 あ、佐藤大佐が巻き添えを受けない事だけは祈っておこう。



 食事が終わったら、生徒達に最後の挨拶をして、学生寮へ荷物を取りに行く。部屋を引き払い、荷物を手に学長室へ向かう。

 ……色々と起きたなぁ。

 八月の上旬――マルス・ドメスティカと遭遇するまで、訓練学校に戻りたいとか思っていたけど、今となってはツクヨミの方が良く思える。

 学生生活も良いけど、不用意に出歩かなければ誰にも絡まれないツクヨミの方が楽なんだよね。

 仕事は忙しいけど、ルピナス帝国にいた事に比べれば内容は簡単だ。

 到着した学長室にノックをしてから入ると、自分が最後だったのか大人五人が勢揃いしていた。荷物を準備し、教官服(正規兵の制服に似ているが、細部が違う)に着替えた武藤教官もいる。

「済みません、遅くなりました」

 一言謝罪の言葉を口にすると、如月学長が笑顔を浮かべて口を開いた。

「揃ったばかりだから大丈夫だよ。それよりも、二泊三日の視察はどうだったかな?」

「訓練学校が良い方向に変わっているようで良かったです。正直に申し上げると、短期間でここまで劇的に変わっているとは思ってもいませんでした」

 視察の感想を求められ、忖度の無い正直な感想を口にした。

 正直に言った通り、ここまで良くなっているとは想像していなかった。愛校心が強く、後輩の事を考えている先輩がここまで沢山いるとは思わなかった。

 そして先代上層部はどれだけ負債を残して行ったんだよ。ここまで負債が溜まっていたら、もう汚職レベルだ。

「それは良かった。次の襲撃は、早くても半年後以降だと聞いている。最上級生に可能な限り色々と仕込む予定だ。色々と期待しててくれ」

「……実技成績下位の生徒の心が折れない範囲でお願いします」

 イイ笑顔になった如月学長に、一つだけお願いした。見掛けていないが、一部生徒はあの熱意に付いて行けていないだろう。置いてきぼりになった生徒を放置しては、『以前のままが良かった』と訴えるものが出かねない。

「案ずるな。その辺の対応は抜かりなくやっている。実技成績下位の生徒に対して、メンタルケアが上手い奴が率先してケアを行っている」

 武藤教官の回答を聞き、自分の心配は杞憂だったと知った。該当する生徒を見掛けなかったんじゃなくて、フォローの手が先に回っていたのか。

 抜かりないと言うか、体制が万全だな。

 感心していると、如月学長が思い出したかのように付け足した。

「そうそう。ツクヨミには武藤教官も一緒に行く。支部長にも連絡済みだ」

「女子生徒から『念入りにやってくれ』と頼まれたからな」

 顎に手を添えて頷く武藤教官を見て、高橋大佐と佐藤大佐の苦難(笑)は想像を絶するものになりそうだ。

「あ」

 苦難(笑)が訪れるであろう二人を思い浮かべた時、とある人物の進路を思い出して、思わず声が漏れた。

 自分の声に最も過剰な反応を見せたのは如月学長だ。過剰な反応と言っても、眉間に皺を寄せただけだ。他の四名が小首を傾げただけだったので、過剰に見えただけかもしれない。

 小首を傾げた四人を代表し、飯島大佐が口を開いた。

「星崎、今になって何かを思い出したのか?」

「大した事では無いんですけど、佐藤大佐が『退役後は教官になる』とか、言っていませんでしたっけ?」

「……言っていたな。そんな事」

「前回訓練学校へ向かう前日に、佐藤大佐はそれを理由に割り込んで来ましたね」

 思い出した佐藤大佐の発言を口にしたら、飯島大佐と松永大佐は前回訓練学校に赴く前の一悶着を思い出した。この一悶着は二ヶ月程前の事なんだが、大規模作戦を挟んでいた事も在り、すっかり忘れていたのかもしれない。

 眉間に皺を寄せていた如月学長は、杞憂と知るなり小さく安堵の息を漏らしてから、何故か朗らかに笑った。 

「はっはっはー……、――武藤教官」

「うむ。心得た。佐藤がどこまで本気なのか、確認を取る」

 如月学長と武藤教官は打てば響くような短い会話を交わした。目をギラつかせた武藤教官は名前を呼ばれただけで以心伝心で通じるのか。この訓練学校に来てから、どれだけ濃密な時間を過ごしたんだ?

 もしかして、赴任前から知り合いだったのかな?

 その辺の詳しい話は帰りの道中で聞けばいい。

 如月学長と別れの挨拶を交わしてから、校舎を出て五人で離着陸場へ移動する。

 その途中、校舎の陰からこちらをこっそりと見ている男性教官がいる事に気づいた。

 出発までの時間が無いから話し掛けには行かないが、訓練学校に来てから今日の午前中まで一度も、その男性教官と会話を交わしていない事に気づく。

 どうせどこかで話す機会が有るだろうと、無意識に高を括っていたのか。

 その顔を見るまで、男性教官こと――高城教官の事をすっかり忘れていた。

 前回訓練学校に来た時の空気が、物凄く湿っぽくて、今生最後の会話みたいな空気だった。あの時の高城教官は、もう二度と会わないって覚悟で、自分に話し掛けて来たって言われたら信じるぞ。

 自分も、今になって高城教官と話す話題が無い。

 高城教官と視線が合う前に、顔を正面に向けた。けれど、松永大佐は気づいていたみたい。

「星崎。数分程度ならば、時間は取れるぞ」

「大丈夫です。前回の高城教官との会話が、今生最後みたいな感じだったので、今更どんな会話をすれば良いのか、それが分からないです」

 正面を向いたままで、松永大佐に答える。

 強がりで松永大佐に『大丈夫』と言ったのではない。それに、高城教官とどんな会話をすれば良いのか分からないのは本当だ。

「また会えるとは限らないぞ」

「次の視察が無く、仮に行われるとしても私が呼ばれないのなら、その時には手紙を書きます」

 念を押すような声音の飯島大佐にそう回答する。

 強がる必要は無い。そもそも、訓練学校を卒業したら教官とは、二度と会えなくなるのだ。

 それを考えると、何度も会うのは互いの精神衛生的にも良くないだろう。

「星崎。まだ十五歳なんだから、もう少し大人に甘えても良いのよ?」

「氷室中将。甘えるってどうやるんですか?」

「……そこから知識が無いのね」

 素直に思った疑問を口にしたら、氷室中将に呆れられた。残りの三人を見ると、氷室中将と同様に呆れていた。

 ……呆れている大人一同には悪いが、『甘えと我儘の区別』と言うか、『この二つの違いの基準』が判らないんだよね。区別が付かなくても困った経験が一度も無かったから、考える事すらしなかった。

「う~ん。恋愛講座でも開催するしかないかしら」

「氷室中将。新人研修が控えているのにそんな余裕は無いでしょう」

「そうだな。そんな余裕が有るなら、元部下二人の教育をやり直して欲しいぜ」

「そうだったわね」

 松永大佐と飯島大佐の二人から苦言を呈された氷室中将は、乾いた笑い声を上げた。



 こうして、訓練学校の視察の全日程を終えた自分達はチャーター機に乗り、やって来た在校生に見送られながらツクヨミへ出発した。

 母校は確実に変わり始めている。この分ならば心配は無いだろうけど、もう口出し出来る立場ではないので、今は見守るしかない。



 ツクヨミへ到着するまでの五時間。

 自分は武藤教官から、士官学校の話や新しい教科書の内容について色々と教えて貰った。氷室中将の講演についても尋ねた。武藤教官が言うには、氷室中将の講演は好評だったらしい。

 講演の内容について氷室中将に尋ねたが、解せない事に『星崎は出来ているから、教えても意味が無い』と言われてしまった。

「多分だけど、星崎が作戦に参加する時はね、支部長から絶っ対に細かい指示が出るわ。だから、他のパイロットみたいに作戦内容と大雑把な指示からこんな風に捉えて動いて欲しいって、お願いする事は無いと思うの」

 氷室中将からここまで言われてしまったので、詳細を聞く事は出来なかった。

 このあと、夕食を機内食で済ませ、予定通り二十時頃にツクヨミへ到着した。


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