表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
再会と出会い 西暦3147年11月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

192/209

新体制の訓練学校 ②

 幾つかの授業風景の映像を視聴し、如月学長と武藤教官に感想を伝えた。

 別の機器を使って授業風景を視聴した松永大佐と飯島大佐、氷室中将の三人の感想は、後日纏めて如月学長に提出するそうだ。如月学長の顔が引き攣った笑顔で固まっていたよ。

 時間は流れて二十時。

 大人五人と別れて、現在自分は学生寮の食堂で夕食を取っている。一人でゆっくりと食べる事は叶わず、自分の周辺には学年を越えて男女様々な生徒が集まっていた。

 自分の周りに集まっている先輩後輩同学年生の生徒から大量の質問を受けるが、質問内容が似ていた生徒が複数人いたらしく、一つの質問に答えると幾つかの声が減った。

 自分が視察側に回っているのは、『生徒の中で、九月以前の授業状態を知っているのが自分だから呼ばれた』と、当たり障りのない回答をした。

 流石に、ツクヨミで正規兵として訓練を受けている、卒業生を呼び出す訳にはいかない。身軽なのは自分だけだ。ここまで言えば、『先輩に来て欲しかった』と言う声は無くなった。

 質問の受け答えをしていた途中で、すっかり忘れていた事を思い出した。

 ……そう言えば、今日は何曜日だっけ?

 季節感も曜日感覚も、全く感じない生活を送っていたからか。

 日付は覚えているのに、『曜日』だけは何故か、思い出せなかった。

 何気なくを装ってポケットから取り出したスマホの画面を見ると、今日は木曜日だった。何となく安心したけど、土曜日にはここを去る。日曜日が含まれていないところを見るに、如月学長が支部長に何かを言った可能性が高い。日曜日にまで余分な仕事をしたくないのかもしれないな。

「星崎。どうしたんだ? スゲェ顔になっているぞ」

「……曜日感覚が無くなっていた事に気づいただけです」

 男子の先輩に嘘では無い事を言った。

 ……嘘じゃないよ。今日が何曜日か思い出せなくて、スマホを見ただけだもん。

 だが、質問して来た先輩はおろか、近くにいた生徒全員の顔が引き攣った。

「授業の殆どをツクヨミで受けているって聞いたけど、曜日感覚が無くなるくらいに忙しいのか」

 ドン引きしている男の先輩の言葉を聞き、自分の秘匿されている情報を思い出した。

 ……そう言えば、自分が飛び級卒業している事を知っている人って、極一部なんだっけ?

 しかも、卒業したのは、書類上では九月だ。公には転校になっているけど。

 八月一日にツクヨミへ移動してから、訓練学校に戻って来たのはこれで二度目だから忘れそうになる。

 これはボロを出さないように慎重に、回答しないとだな。

 このあとの質問には、言葉を慎重に選びながら回答した。

 そして、大浴場で約四ヶ月振りとなる湯舟を堪能してから、眠りに就いた。



 翌日。

 午前中は授業の視察予定だが、自分は授業を受けなくても良いのかね?

 疑問を解消すべく、如月学長に質問をした。

「今更授業を受け直しても意味は無いだろう? それに、松永の授業参観になるから、出ない方が良い」

 作戦にも参加した身なので、今更授業を受ける事に意味を感じないのは判る。

 だが、後半部分の意味が解らない。授業参観ってどう言う意味よ?

「意味は解らなくて良い。――さて、時間は有限だ。武藤教官、案内は任せた」

「うむ。承った」

 自分の疑問は解消される事は無く、本日の午前中の予定を消化すべく、松永大佐と武藤教官の三人で中等部の校舎内へ移動した。



 現在、どこの教室も授業中なので、中等部の校舎内は静かだ。

 大人二人に挟まれて移動している最中、武藤教官から色々と質問を受けた。けれど、その質問内容は自分の身を案じるようなものばかりだった。『ツクヨミでの生活で不便は無いか』って、質問を初めて受けたよ。

 武藤教官は見た目が厳ついだけで、中身は大分真面だな。たまにマフィアの女ボスに見える時が在るけど、人は見た目で判断してはならない典型例だな。飯島大佐が言っていた『般若を背負う』一点だけが気になる。

 ツクヨミでの生活で困った事は無いが、たまに湯船に浸かりたいと思うぐらいだ。

 軌道衛星上に存在する基地へ、水の輸送にどれだけのコストが掛かるのかを考えると、水を大量に使用する場所が在るとは思っていない。月面基地にすら無いのだ。

 西暦三千年代に突入しているとは言え、水を人工的に作る技術が確立されていないのかもしれない。

 そう思っていたんだが、武藤教官からの回答は意外なものだった。

「分かり難いところに在るが、大浴場があった筈だぞ。松永、閉鎖はされていないよな?」

「閉鎖はされていませんよ。利用規約が色々と変わって、事前予約制になりました」

 二人の会話を聞いて『在ったのかよ……』思った。良く造れたな。ツクヨミはアメリカ支部が使っていた軌道衛星基地の『お下がり』だって聞いていたのに。

 大人二人から詳しく話を聞くと、先々代上層部の代まで、結構な回数の増改築を行っていたそうだ。

 ツクヨミに戻ったら、松永大佐から申請方法と場所を教えて貰う事になった。



 中等部の三年生の教室――七月まで在籍していたクラスの教室のドアを少しだけ開けて、生徒と教官にバレないようにこっそりと内部を見る。一時間目は英語の授業だった。

 記憶の中の授業風景と変わりはなく、昨日視聴した授業風景の映像と同じ感想を抱いた。

 ……やっぱり、教官が生徒の質問に答えている光景に驚くって異常だな。

 静かにドアを閉めながら、そう思ってしまう。

 三年生の残りの三クラスの教室も同じように覗き見てから、階段の踊り場へ移動する。そこで松永大佐と一緒に、武藤教官に授業風景を見た感想を伝えた。

 武藤教官には悪いけど、やっぱりこれ以外の感想を抱くのは難しい。

 続いて、二時間目に二年生の教室を覗き見て、授業風景がどうなっているのかを確認し、三時間目に一年生の授業を見て回った。

 流石に一学年に四クラスも存在するので、こっそりと見る時間も限られてしまう。



「教官が増えると、授業の進みが速くなるんですね」

 三時間目、一年生のとあるクラスは実技の授業だった。

 実技の授業内容で違いを見つけて、武藤教官に感想を述べた。

「む? 速いのか?」

「はい。私の記憶が確かなら、現在行っている授業内容は一年生の終わりの頃に習いました」

「……そうなのか。もっと早くに教える事だぞ」

 素直な感想を述べただけなのに、武藤教官が本気で驚いている。そんなに驚く事なのかと思い、松永大佐を見たけど、こちらも驚いていた。

「生徒の人数が増えた弊害か?」

「恐らくですが、これまでの教官の数が少なかった事が原因でしょう」

「確かに、士官学校の教官の数は多かったな」

 そのまま大人二人が議論を始めそうな空気を出した。だが、議論が始まる前に武藤教官から『他に気になる事は無いか?』と質問を受けた。

 他に気になる点か。

 今の質問が『教官の人数が増えた事で受けたもの』である事を踏まえて質問内容を考えていたら、二年前の事を思い出した。


 何を思い出したのかと言うと、二年前に男性教官が『女子寮の大浴場を覗き見した』事件だ。

 前の学長に『覗き見した男性教官の異動を求める署名』を提出した時に、『人事交換は簡単に出来ない。士官学校はギリギリの教官人数でやっている』とか言っていた。

 高城教官を始めとした良識の有る男性教官が『流石に、女湯を覗くのは犯罪だ』と口添えをしてくれた事で、件の男性教官は学期の終わりと同時に異動となった。

 

 二年前の事を思い出し、二ヶ月程度で訓練学校の教官の数が二倍以上に増えている現状を思った。

 前の学長が言っていた事と矛盾していないかと、疑問を抱く。

 武藤教官に二年前の『女湯覗き見事件』の事を話し、『士官学校の教官の人数ってギリギリじゃなかったのか?』と質問をした。

 二年前の事を話したら、松永大佐は笑顔で動きを止め、武藤教官は天を仰いだ。

「星崎。士官学校の教官数は多い。訓練学校の四倍以上の人数がいる」

「そうなんですか?」

「ああ。十年前の作戦が原因で、教官になる奴が激増したんだ。我々訓練学校の卒業生は『教員免許を取得してからでなければ、訓練学校の教官をさせられない』などと言われた」

「え!? 『私立学校では教員免許が無くても教師になれるんだぜ』って、自慢している教官いましたよ」

「法律上、免許が無ければ不可能だ。不可能なんだが、ここは特殊で、例外的な学校だから可能だっただけだ。九月辺りになってそれを聞かされて、我々は激怒した。教員免許取得に研修を含めて、数年も時間を使ったからな。しかも、これまでの異動届は全て教導隊が握り潰していた。教導隊は本国の、日本防衛隊が絡むせいで、流石の支部長も手が出し難かったそうだ」

 今回の事を聞かされた際に支部長から謝罪を受けたと、武藤教官の言葉が続いた。

「星崎。こんな事態になった原因は色々と存在するが、『士官学校の教官の質が悪い』のが最大の原因だ。士官学校の教員の質を少しでも上げる為に、我々は足止めを受けていた。これは許される事ではない。事が発覚した時、我々は何を言われても母校を選んだ。我らと違い、自らの意思で戦場に立つ事を選んだものを見捨てたとも取れるが、士官学校の皺寄せを訓練学校が全て受けたら、訓練学校そのものが駄目になる。そうなる事だけは、何が起きても避けねばならん」

 武藤教官はそこで言葉を一度切り自分を見た。それはまるで、自分がどこまで言葉を理解しているのかを、確認するような行動だ。

 自分は突然説教臭い事が始まって吃驚していたんだが、武藤教官の言いたい事は『大切な事はバランス』だと推測して続きの言葉を待った。

「どちらか片方しか選べないからと言って、片方だけに犠牲を強いては、その均衡は何時か崩れる。訓練学校は日本支部の最後の砦だ。だからと言って、士官学校を蔑ろにしても駄目だ。三代目はだいぶ良かったが、四代目の時は酷かった。今の支部長が我々の待遇改善に尽力してくれているが、次の支部長はどうだか分からん」

 武藤教官の話を聞いていて、雲行きが変わった事に気づいた。

「ガーベラのパイロットは、特別報酬として顔出しと名出しを拒んだ。だが、支部長が変わってもその報酬の内容が保証されるか怪しい。今後、何が起きるか分からない以上、覚悟だけはしておけ」

 そう言ってから、武藤教官は自分の頭に手を置いた。

 いや、覚悟しておけって言われても……。

「六月以降、色々と覚悟をする羽目になったんですけど、足りないですか?」

「……そう言えば、そうだったな」

 クォーツの剣が冗談抜きで頭上を掠めた時とか、露天状態で操縦した時とか、その後もう一度クォーツの剣がコックピットを掠めた時とか……いや、この辺は『やるしかないのか』って諦めた時だったか?

 覚悟を決めた時って言うのは、武藤教官には言えないが、八月に支部長の目の前でアゲラタムを操縦した時とか、前世の事やルピナス帝国絡みの事を話した時とか、この辺だな。

 覚悟を決めたと言うか、色々と諦めたとも言うが、短期間で色々と起きたのよ。

 なのに、今になって改めて『覚悟しろ』って言われてもなー。

 困惑していると、これまで黙っていた松永大佐が口を開いた。

「武藤教官。耳に届いている情報だけが事実ではありませんよ」

「解っている。老婆心みたいなものだ」

「ならば良いですが、ガーベラのパイロットの特別報酬は、支部長が他支部を巻き込んだので継続はされるでしょう。それと訂正を。様々な我慢と覚悟を星崎に要求しているのは、我々の方です。これ以上、星崎に要求するのは筋違いですよ」

「そうなのか?」

 松永大佐が頷いて肯定し、特別報酬の内容を明かした当時の状況も武藤教官に説明した。

 作戦終了後に行われた全体会議で、支部長が『紙に書いた報酬内容を発表した』だけだ。支部長は紙に書いた内容を読み上げただけで、どうやって他支部にも協力を取り付けたんだろうね? 

 ルピナス帝国が調査した弱味を暴露したのかな?

 そんな事を思っていた間にも、頭上で松永大佐と武藤教官のやり取りは続いていた。

「本来ならば、星崎は九月には訓練学校に戻る予定でした。八月中に発生したトラブルが原因で、そのままツクヨミに残っています」

「九月以降の授業についてはどうなっている?」

「必要になった時に、私がその都度教えています。幸いか不明ですが、今のところそのような事態は発生してません」

「普段は何をやらせているんだ?」

「私の仕事の手伝いです。他所の仕事の手伝いなどは支部長と話し合ってから決めています」

「一応、支部長を挟んで決めているのか」

 やり取りを終えた二人の視線が自分に戻って来た。

「星崎。松永経由で他所の仕事を手伝った時に、困った事などは起きなかったか?」

「一度起きましたが、飯島大佐がすぐに対処してくれました」

「ほう」

「それ以外だと、高橋大佐が仕事の手伝いを求めて隊舎にまで乗り込んで来たぐらいですね」

「何? 隊舎にまで乗り込んで来ただと?」

 武藤教官は松永大佐に詳しい説明を要求した。説明を要求された松永大佐は、笑顔で武藤教官の要求に応えた。

 そして、高橋大佐の行動に関する詳細と、松永大佐が追加で佐藤大佐の行動に関する詳細も併せて説明した事で、武藤教官の背後で何かが蠢いたように見えた。

「ほほう。その二名には灸を据えてやりたいが、勝手に行動をする訳にはゆかんな」

 火山の鳴動音を背負い、腕を組んで武藤教官は真剣に考え始めた。

「それならば、明日の午後、私達と共にツクヨミに向かいますか? 月曜日の午前中に戻れるように、憲兵部に協力を要請しましょう」

「今週末の予定を考えると、……月曜日の昼までに訓練学校に戻れれば、問題は無いな。学長に相談するか」

 己の予定を確認した武藤教官は顎に手を添えて、深く頷いて結論を出した。


 ※※※※※※


 その頃ツクヨミでは、強烈な寒気に襲われた二人の男が盛大なくしゃみを飛ばしていた。

 言わずもがな。高橋と佐藤の二人だ。

 高橋は周囲の顰蹙を買い縮こまった。

 一方、佐藤は『般若を、般若を見なかったか!?』と錯乱した。部下が誰一人として、般若を見ていない事を確認するまで、佐藤の錯乱は続いた。


 ※※※※※※


 武藤教官が今後の予定について考えを纏めたところで、移動となった。授業が終わると同時に移動を始めると、生徒の邪魔になりかねない。

 中等部の教室は全て見た。四時間目は高等部の授業を見る事になっている。

 これは、自分が高等部の授業を受けていないからと言う配慮だ。授業を受けさせる事は出来ないが、見る程度は出来る。

 そう言う訳で、四時間目は高等部三年生の授業を視察する事になっている。

 三人で高等部の校舎へ移動し、高等部三年生の授業(チーム戦の戦術理論)をこっそりと覗き見る。

 生徒の授業態度などは中等部の生徒と違い、皆必死の表情で授業を受けていた。卒業まで時間が無いから必死なだけかもしれない。

 それにしても、チーム戦に戦術理論なんて存在したっけ? いや、それよりも、生徒の人数が少なかったな。十五人もいなかったぞ。

 教科書の一部を読み上げ、解説をしていた教官が『質問は有るか?』と言い出せば、先輩達は我先にと手を上げて質問を口にして行く。そして、教官の回答を聞くなり、別の先輩が『こうじゃないのか?』と質問し、別の先輩が『それは違う』と声を上げ、そのまま白熱した議論に発展して行く。

 一緒にその様子を見ていた松永大佐が感想を零せば、武藤教官が対応する。

「教員の数を増やし、少人数制に切り替えての対応。生徒の反応を見るに、高等部三年生の授業はこのまま少人数制に切り替えた方が良さそうですね」

「あの議論が罵り合いの大喧嘩に発展しなければ、確かに少人数制のままにするのも、良いかもしれないな」

 武藤教官の口から、議論の果てに起きた事を聞かされて、思わずギョッとした。松永大佐も、これには引き攣り顔を作った。

 そっかー、この議論は罵り合いの大喧嘩にまで発展しているのか。別の意味で凄いな。

「……私が視聴した映像では、そこまで発展していたものは無かったですね」

「運が良かったな。大喧嘩に発展すると、その声が隣室にまで響くんだ。過去に何度か、真下の教室にまで声が響いてな。……授業中の議論は『別の教室への授業妨害』だと、教員会議で何度も議題に上がっている。それに、議論に発展する回数が多くて、授業時間が足りなくなっている」

「解決策は出ていますか?」

「出ていない。高等部三年生の授業だけ、授業時間と授業数を増やす事も検討している」

「来年度以降、夏の林間学校そのものを無くして、高等部の生徒向けに講習会でも開きますか?」

「その辺は冬休みまでに教官会議で話し合って素案を纏めて、支部長に相談する予定だ。現時点での応急策は、毎週土曜日を丸一日授業日にしている」

「それで対応し切れているのならば良いですが、元々いた教官はなんと言っているんですか?」

 松永大佐の発言で、元々いた教官の存在を思い出した。反発されそうだが、どうなっているんだろう?

「そちらは気にする必要は無い。現状で生徒の成績が目に見える形で伸びた結果を見て、あいつらは何も言わなくなった」

「その言い分ですと、当初は言われたって事ですか?」

「始めの内は、な。その辺は学長が一手に引き受けてくれたお陰で、我々は職務に集中出来た。流石に学長と『一対一で話し合う』と一度で気が済んだのか、二度と話し合いに臨む教官はいなかった」

 満足そうにしている武藤教官には悪いが、如月学長は一体何をやったんだ?

「ふむ。如月が動いたのならば、徹底的に圧し折るから大丈夫か」

 松永大佐。徹底的に何を圧し折るの?

 思わず慄いてしまう会話が頭上で行われている。

「士官学校へ異動した教官は出しましたか?」

「いいや。世知辛いと言うべきか、訓練学校の方が給料が良くてな。異動したがる奴すら出ていない」

「随分と図々しい理由ですね」

「全くだ」

 武藤教官は苦々しい顔で松永大佐の言葉を肯定した。

 図々しいかはともかく、個人的には給料が高い方を選ぶのは当然だと思う。訓練学校にいては使う場所が少ないから、貯まる一方だと思うけど。



 覗き見ていた教室から離れて、他の教室を全て見て回り、学長室に向かう道中。

 右隣を歩く武藤教官から、一つの質問を受けた。

「星崎。高等部三年生の授業に混ざりたいか?」

「止めておきます。私は感覚と経験で判断して動くので、意見を求められても『不利な位置を取られないように動きつつ、近づいて落とせば良い』としか言えないです」

「成程。『言うは易く行うは難し』の言葉しか出て来ないと言う訳か。とは言え、有言実行ならば、文句は出ないだろう?」

「非常に言い難いのですが、文句の代わりに、『成績下位の生徒』から目の敵にされるんです」

「………………苦労するな」

 武藤教官は長めの沈黙を挟んでから自分の頭を撫でた。

 自分の左隣を歩く松永大佐からも同情に満ちた視線を貰った。

 口にした自分で言うのもアレだけど、これは『真っ当な経験』をしていない事が原因だ。普通は体験しないような状況に直面する事が多く、誰かから『それは異常だ』と指摘されるまで『何が普通なのか』を知らないのだ。

 下手をすると、異常を正常(もしくは普通)だと認識したまま、普通の状況に直面して初めて異常だと知る。

 これが何度も起きるので、自分も諦め気味だ。

 乾いた笑みを浮かべていた間に、学長室に到着した。

 


 武藤教官を先頭に入室した学長室では、一足先に戻って来ていた別行動の三名が応接セットのソファーに腰掛け、真剣な表情で打ち合わせを行っていた。

 戻って来た事を報告し、松永大佐と一緒に視察した感想を如月学長に伝えた。

 氷室中将と飯島大佐の二人の感想(この二人の感想も松永大佐と似ていた)を聞かせて貰い、明日の講演の内容の打ち合わせに加わる。

 自分は意見を求められたが、『状況が特殊な為、参考になるか分からない』と前置きをしてから回答した。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ