処罰決定
絶叫を上げて燃え尽きた高橋大佐が静かになったところで、支部長が脱線していた話を元に戻した。
全員で改めて話し合い、高橋大佐が支部長に土下座をして命乞いをした事で、正式に決まった処罰内容は、最終的に月面基地駐在『四年』で落ち着いた。
一年伸びているのには、理由が在る。と言うか、最初は三年だったよ。
でも高橋大佐がやらかしたので、期間を四年に延長する事で決着が付いた。
高橋大佐への処罰は月面基地駐在三年で決まった。体罰類は無い。
女性陣の何人かは、体罰が無くなった事に対して舌打ちで不満を露わにした。また、男性陣からは『草薙中佐に一発殴られた方がマシなんじゃ……』なんて意見も出て来た。
この反応に高橋大佐は大いに嘆いた。自業自得なのに、何で嘆けるんだろう?
「何で誰も優しくしてくれないんだよ」
「日頃の行いだ」
飯島大佐の言葉に皆が頷く。否定する人間は一人もいなかった。
「そうだとしても、誰か一人ぐらいは擁護してくれても、いいじゃねぇか」
「失言するしか能の無いお前を擁護したら、同類扱いされて、女共から軽蔑される」
「誰が失言するしか能がねぇんだ! 俺だって、たまには気の利いた事ぐらいは言えるぞ!」
誰かが言った拒絶の言葉に憤慨した高橋大佐は、何故か自分に振り返った。
「そうだよな、星崎!」
高橋大佐は何故か自分に同意を求めて来た。パワハラか。
昨日、フラガに対して失言をしたばかりなのに、もう忘れてしまったのか。
対応に悩んだ自分はフラガの膝の上から降りた。セントレアの左側に移動し、高橋大佐に一つの提案をした。
「では、こちらのセントレアに気の利いた事を言って下さい」
「は?」「えっ!?」
高橋大佐とセントレアはそれぞれ困惑の声を上げた。声を上げずとも、困惑した人は他にもいる。
けれども、困惑からすぐに復活したのは、嫌そうな顔をした高橋大佐だった。
「何で男に向かって、気の利いた事を言わなくちゃいけねぇんだよ」
「セントレアは女ですよ」
『……えっ!?』
少しの間を空けて、セントレアの性別を知らない面々は……セントレアを二度見した。
一方、室内にいた殆どの人から二度見されたセントレアは、眉一つ動かさなかった。セントレアからすると、この反応は見慣れているんだろう。あとで謝って、ティスから貰ったお酒を渡そう。
室内にいる面々は、セントレアの『正しい性別』を知って困惑を深めた。一部の人はセントレアがハイヒールを履いていたから『女ではないか』と予想を立てていたけど、正否を聞くとやっぱり困惑してしまうらしい。
しかし、どれだけ困惑しようとも、要らない事を言ってしまうのが高橋大佐だった。
「え? 女? 絶壁みたいに胸が薄っぺらで、声も男みてぇに低いのに? これで女ってあり得ないだろ!?」
セントレアの性別を知って、貶しているのか、驚きの余り『気の利いた事を言う』事を忘れてしまったのか。
高橋大佐は仰天するように立ってから大袈裟に仰け反り、気の利いた事を何一つ言わなかった。それどころか、高橋大佐はセントレアに向かって、思ったままに貶しているとしか思えない感想を述べてしまった。
アイコンタクトはしなかったが、フラガは自分がセントレアの隣に立った事の意味に気づいていたらしい。フラガは素早く立ち上がると、僅かに腰を浮かせたセントレアの背後へ移動し、セントレアの肩を掴んで力任せに椅子に座らせた。肩を押さえつけられ、真顔のまま怒気をまき散らすセントレアが暴れる。
「落ち着け」
「一回だけ、一回で良いから、蹴らせなさいっ」
「殺人事件になる」
フラガの言葉を聞いて動揺が広まり、狼狽えて椅子から立ち上がって壁際へ避難する人が続出した。高橋大佐はセントレアが放つ怒気に気圧されて、立ったまま硬直している。
自分はセントレアの両腕を掴み、説明ついでに宥める。
「セントレアが本気で蹴ったら、高橋大佐の原型が残らないから駄目。一先ず落ち着こう」
「手加減だけは、するからっ」
「加減しても、セントレアの脚力じゃ、高橋大佐の内臓が破裂するよ」
壁際に避難した人達から吹き出す音が聞こえた。ついでに高橋大佐は大量の脂汗を掻き始めた。
「馬の獣人族の蹴りは岩を砕くと聞いた」
「それは余裕ね。全力で蹴れば、鉄骨もイケるわよ」
フラガの言葉をセントレアが肯定した事で、高橋大佐が血相を変えた。でも、気圧されて逃げ出せない。
視界の端で、大林少佐が眼鏡をキラリと光らせて『ウマ娘なの?』とセントレアを凝視して、神崎少佐に頭を叩かれている。
「靴を駄目にするから止めなさい。また踵を圧し折る気?」
「今、履いているのは、私の種族用のものだから、一回だけなら折れない」
「腹に風穴が開く」
「蹴っただけでも殺人事件扱いされそうだから駄目」
フラガと二人掛かりでセントレアを止めるが、一発叩かないと落ち着く気配が無い。高橋大佐は硬直したままで、謝罪の言葉すら出て来ない。
どうするか一瞬だけ悩み、しょうがないと決める。
「セントレア。今から出す五つの中のどれかで、一回叩くだけで納めて」
「……何でなら、叩いて良いの?」
提案をしたらセントレアの動きが止まった。フラガと目配せしてからセントレアを解放し、改めて椅子に座らせる。セントレアが落ち着いている事を確認してから、叩く道具を腰のケースから抜き取った。
「スタンスティック、電撃棒って言えば解るかな?」
「何これ、軽いわね」
セントレアにスタンスティックを渡すと、その軽さに目を丸くしている。
意識が高橋大佐以外に向いている内に、収納機から次を取り出す。
「金属板を仕込んだハリセン」
「そのハリセン、確か電撃が放てた筈」
「最大威力は落雷と同じだけど、そこまで静電気を溜めるのには時間が掛かるよ」
ハリセンが放つ威力について回答し、上がった小さな悲鳴を無視して、セントレアの手に在ったスタンスティックを取り、一緒に近くのテーブルの上に置いてから次を取り出した。
三番目の選択肢となる物品を見たフラガが声を上げた。
「人工木を使った模造剣?」
「ちょ、人工木って、小指一本分の長さと同じ厚さが有れば、アゲラタムが踏んでも割れない木板よね? それを使っているの?」
「そうだよ」
素材の正体を知りセントレアは驚きはしたが、好奇心が勝ったのか、物珍し気に木剣を手に取って見ている。
木剣の形状は地球のバスターソードと同じなので、剣身は数センチ程度の厚みを有する。
「流石、開発者ね。最近になって人工木の値段は少し下がって来たけど、まだ高いのよね」
「それで尻を叩いたら、確実に四つに割れる。使い方次第ではアゲラタムの装甲が凹むのに、出して良いの?」
「フラガ、あくまでも、候補の一つだよ」
フラガが口にした余計な情報を聞き、小さな悲鳴が上がった。
なお、フラガが言っている事は誇張ではなく事実だ。自分は強襲訓練でこの木剣を使い、何機ものアゲラタムを行動不能に追い込んでいる。その内の一機には、当時新人だったフラガが乗っていた。
この頃のフラガは、女顔を隠す為に仮面を付けていたな。懐かしい。
セントレアの手から木剣を取り上げて、収納機から取り出したものを代わりに見せる。主に男性陣から、ドン引いた声があちこちから聞こえる。
「次は、形状記憶型の鞭」
「叩くなら、これが最適ね」
昨日の昼に、収納機の整理をしていた時に見た男性陣からも、今日初めて見る男性陣からも『うわぁ……』と声が上がる。対照的に女性陣からは『使ってみたい』と熱い視線が来る。
この鞭は形状記憶の名が付く通りに、形状の固定が出来る。
自分の使い方は、伸ばした状態で固定して長さ三メートルの槍にしたり、先端を十センチ程度に折って束ねて鈍器にしたり、三つ折りにして打撃武器にしていた。
この三種の使い方の内、三つ折り状態にして鞭をセントレアに渡した。
ここで、鞭を観察していたフラガが口を開いた。
「その鞭でアゲラタムを上下に真っ二つにしたり、戦艦に大穴を開けたけど、出して良いの?」
「単純な打撃武器として使う分には大丈夫でしょ」
どこからか『アウトだ』と声が聞こえた。判断に困って支部長を見たが、テーブルに突っ伏して寝ていた。一条大将はこちらに背を向けている。二人の代わりに、松永大佐を見た。
「松永大佐、候補に挙げるのは駄目ですか?」
「流血沙汰にならないのなら、問題は無い」
『いや、問題だろ!』「俺の命を何だと思っているんだ!?」
松永大佐が笑顔で回答すれば、主に男性陣から力強い突っ込みが飛んだ。
「気の利いた事が言えると言っておきながら、要求されたら何も言えないどころか、貶したそちらが悪い」
「うぐっ」
松永大佐から指摘を受けて、高橋大佐は何も言い返せない。
「それ以前に、思った事をすぐに口にする、その悪癖も問題ですが、そもそも同意を求める相手が違う。階級の低い人間に同意を求める行為はパワハラに近い。自ら自滅の道に向かって爆走しておきながら、助けを求めるのは筋違いでしょう」
「あ、いや、そ、その、困った時には助け合うのが仲間ってもんだろ?」
口籠った果てに高橋大佐の口から出て来た単語は『仲間』だった。この場で言うには不適切だ。同じ事を思ったのか、松永大佐はやれやれと肩を竦めた。
「仲間とは随分と便利な言葉ですね。私には、助けて貰った覚えも、仕事を手伝って貰った覚えも有りませんね? 助けてくれだの、手伝ってくれだのと言って、そちらが土下座をしているところは何度か見ましたが」
「……」
「仲間と言うのなら、『持ちつ持たれつ』が基本でしょう? 失言するしか能が無くて、他人に尻拭いを押し付けるしか能の無い男の、いっ・た・い・ど・こ・が・仲間なんですかね。この失言王が」
「撃墜王みたいに言うなよ」
松永大佐と高橋大佐のやり取りに皆の視線と意識が集まり、自分から逸れた隙に、最後の一つを取り出した。
バスケットボール大の大きさの鉄球から、ハリセンボンのような鋭い棘が生え、鎖が伸びている。
「最後に棘付き鉄球。あ、隕鉄製だから、ちょっと重いよ」
「何でそんなもんが出て来るんだよ!」
セントレアにバスケットボールと同じ大きさのモーニングフレイルを見せたら、何時の間に気づいたのか、あるいは遂に我慢出来なくなったのか、高橋大佐が自分に向かって声を上げた。松永大佐に意識と視線を集中させていた面々は、モーニングフレイルを見てギョッとした。
「私物と一緒に送られて来ました」
「来ましたじゃねぇ! 仮に届いたとしてもだな、人間に対して使うもんじゃねぇだろ!?」
「鉄球の上に座るかもしれないじゃないですか?」
「座らねぇよ! 座ったら確実に、尻に棘が刺さるだろ!?」
高橋大佐の言葉を受けて、思わず首を傾げる。自分の記憶が確かなら、これに座って負傷した人間はいない。その代表例の一人(他の例はサイとセタリア)でもあるフラガに、確認を取る。
「……フラガ、これの上に座って刺さった事は有る?」
「無い。刺さるものなのか?」
「普通は刺さるんだよ!? それ以前に、服に穴が開くだろ!?」
フラガも自分と同じように首を傾げて、頭に疑問符を浮かべた。
発達した筋肉で鉛玉すらも弾いてしまう筋肉を持つ獣人族でなくとも、手にしているモーニングフレイルに座って負傷した人間は見た事が無い。皆器用に服に穴すら開けずに座っていた。
フラガの回答を聞いて震え上がる人が続出した。そんな中、セントレアが怪訝そうに言う。
「この程度の棘が刺さるなんて、ちょっと軟弱過ぎない?」
「一体どこが軟弱なんだよ!? そっちの常識はおかしい!」
流石に今の高橋大佐の発言には同意見なのか、壁に張り付いた幾人かが頷いているのを遠目に見た。
混沌と化して来た状況の中で、空気が全く読めていない、あるいは空気を読んでいるけど疑問の方が勝ったのか、佐々木中佐が『何で棘が刺さらないんだ?』と無邪気に質問をして来た。
室内の面々は佐々木中佐の図太さに戦慄した。『こんな時に聞く事じゃないだろ』と声も聞こえる。
「種族特性。獣人族の中でも、格闘戦に特化している種族は筋肉が発達している。発達した筋肉が飛んで来た小石とか鉛玉とかを勝手に弾く。鉄の剣も普通に防げる。この棘も、もう少し細く鋭くないと、座った程度じゃ刺さらない」
「フラガの場合、細くしたら刺さる前に棘が折れるでしょう。……先に言うけど、フラガみたいな事が出来る奴は割と多いけど、熊虎狼系の肉食獣系の男で、そこそこ鍛えている奴じゃないと少しだけ刺さるわ」
昨日、直接会話をした事で多少打ち解けたのか、フラガが自分から説明をした。
昼前の一件で上げて落とされたセントレアだったが、自身の性別を見ただけで言い当てた人物相手には少し甘いのか、珍しく補足を行った。
さり気無く凄い事をやってのけている事に気づかない佐々木中佐は、フラガの回答とセントレアの補足を聞き、子供のように目を輝かせた。
「男限定だとしても、凄いな! 種族が違うだけで、そんな事が出来るのか!」
「佐々木、感心するところが違うぞ」『うんうん』
井上中佐から突っ込みが入ったが、これには自分も同意した。
佐々木中佐のお陰で室内の空気が意図せずに少しマシになった。
この隙に、モーニングフレイルはテーブルの上に置かずに、収納機に仕舞った。流石にテーブルの上に置いたら疵付けてしまう可能性が高い。
「戦槌は出さないの?」
「……フラガ、不満そうに言うんじゃない。戦槌で叩いたら高橋大佐の身長が『物理的に縮みかねない』し、セントレアの腕力で振り回したら、『原形を留めない』よ」
「それもそうか」
戦槌を出さない理由を口にすれば、フラガは納得したのか拳で手を打った。戦槌を出さない理由はもう一つ在る。それは、単純に戦槌が大きいからなんだけど、モーニングフレイルよりも大きな鈍器を出す必要は無い。
「待て! 否定しろ!」
「いや、事実なんで否定のしようが無いです」
「それ以前に、星崎、何でそう淡々と事を進めるんだよ! もう少し大人に対して、何かこう、気遣いをだな」
「未だに謝りもしない人を擁護しろと? 大人としてそれはそれでどうなんですか? 大体、昨日フラガに対しても失言して、謝罪すらしなかった人が何を言っているんですか?」
「うっ!?」
冷静に指摘をしたら、高橋大佐は胸を抑え目を泳がせた。謝罪をすれば『回避が可能になるかもしれない』と言う事実を忘れていたらしい。
ここで大切なのは、回避が『可能になるかも?』と言うところで、確実に回避出来る訳では無い点だ。
土下座をして謝罪をすれば、一撃を貰う未来の回避は可能かもしれない。だが、仮に回避出来たとしても、代わりに別のペナルティを貰う事になるだろう。
だらだらと、高橋大佐は再び大量の脂汗を掻き始めた。
このまま『会議が始まらない状態』が何時までも続くのかと思いきや、寝ていた支部長が起き上がり介入した。不貞寝をしていたのかと思う行動の速さだ。よく見ると、一条大将もこちらに向き直っていた。
支部長は介入するなり、素早く話を進めた。
簡単に言うと支部長は、月面基地駐在期間を一年延長するか、やらかした事を書いたプラカードを首から提げて人の多いところで女性陣から尻叩き九十九回受けるか選べと、二択を高橋大佐に迫った。
尻を叩く道具は、自分がさっき提示した五つの中から自由に選べるというオプション付きだ。
高橋大佐は懲りずに文句を言おうとした。その瞬間、神崎少佐が近づき高橋大佐に抱き着いて鯖折りにした。高橋大佐は一瞬で白目を剥き、泡を吹いた。神崎少佐が手放すと、高橋大佐は重力に引かれて床に倒れた。
高橋大佐が気絶したと思しき状態になった隙に、支部長の無慈悲な言葉が響く。
「ふむ。高橋大佐が気絶したのならば仕方が無い。こちらで多数決を取って決めようか」
「……月面基地に四年間行かせて下さい!!」
支部長の言葉を聞いて、カッと目を見開いて覚醒した高橋大佐はその場で素早く土下座をした。勿論、支部長に向かってだ。突っ込む気力が残っていないのか、誰も指摘しない。
テーブルの陰で支部長からは、高橋大佐が土下座をしているところは見えていない。それに気づかない高橋大佐はどれだけ必死なのか。
そんな高橋大佐の姿を見て、松永大佐が愚痴を零す。それに対応するのは神崎少佐だ。
「まったく。もっと早くに始末すれば早々に会議が始まっただろうに」
「うふふ。物事には時節が存在しましてよ」
「知らん。あとで申請者も締め上げるか」
「それは先に支部長に言いなさい」
決して大きな声で交わされた会話では無かったが、聞こえたと思しき草薙中佐の肩が大きく跳ね上がった。
松永大佐と神崎少佐のやり取りを支部長も確りと聞いていたのか、不意に草薙中佐を見た。
「そうそう、草薙中佐。今回のような申請は先に詳細を詰めてから言うようにしてね」
「うげっ、あ、はいっ!?」
名指しされるとは思っていなかったのか。動揺の余り、草薙中佐の口から『うげっ』なんて声が漏れた。
発端の人間が放置される訳ないでしょうに、どうしたのか。
「氷室中将。今日の会議の終わりに、確りと、指導しておいてくれ」
「分かりました」
氷室中将は笑顔で了承したが、草薙中佐は白目を剥き、そのまま椅子から落ちそうになった。左右にいた二人の男性が草薙中佐の腕を掴んで椅子に座らせた。
こうして草薙中佐は、今日の会議終了後に氷室中将からのお説教を受ける事になった。
「さて、改めて話し合おうか」
支部長の一声で、高橋大佐の処罰内容を決める話し合いが改めて行われた。
以上をもって、高橋大佐の処罰と月面基地駐在期間が決まった。草薙中佐は二日目の会議終了後、氷室中将からこってりと絞られ、翌日目元に濃い隈が出来ていたそうだ。
口は禍の元を体現したかのような一幕だった。
……蛇足みたいな一幕だな。良い年をした大人が何をやっているんだろうね。
困った事に、自分が呼び出された用件はこれだけだった。
支部長としては、今日こっちに来た二人(内一人は午前中の内に帰った)に会いたかったか、他の人の反応を見たかったんだろうね。午前の会議で既に疲れ果てていたから、二人を見た反応を知る事は出来ないが、少なくとも性格の把握に、種族の違いと『地球と常識と感覚が違う』事だけは理解した筈だ。
高橋大佐への処罰が完全に決まった事で休憩となったが、自分はフラガとセントレアを連れて支部長の許へ向かった。松永大佐も一緒だ。
支部長に質問事項と一緒に報告を行う。
生体演算機構は八月の時点で高温焼却処分済みで、その遺灰は本国の霊園で預かって貰っていたらしい。作戦が終了してから日が浅くまだ忙しい事もあり、取り寄せるには時間が掛かるそうだ。
それでも、支部長に取り寄せをお願いした。手元に届き次第、セタリアに連絡を入れれば良い。
逆に支部長からも、自分の異能に関する事を始めとした、幾つかの質問を受けた。
自分の異能は向こうの宇宙でも異質だ。最も近しいのが神族だけど、言うほど似ていない。自分の異能とされている力は、地味にファンタジー要素が強い。
向こうの宇宙の異能は八つに分類分けされている。
破壊、高速、回避、有機物干渉、無機物干渉、非物質干渉、空間干渉、特殊系の八つの系統で、神族の異能は特殊系に分類されていた。
自分の異能も特殊系に分類されている。
特殊と言っても、その他の七つに分類されないものを一纏めにしているだけだ。
神族は独自に異能を更に細分化して、幾つかの属性に分けている。ここでは割愛するが。
ルピナス帝国へのアゲラタムの残骸運搬に関してしつこく聞かれたが、『戦艦三隻分以内の量なら可能』とだけ支部長に回答してはぐらかした。
本当はもう少し行けるとは思うけど、明確な数字を提示してそれが予想外のものだったら、数字に気を取られて追及はして来ないだろう。
そんな簡単な計算で数字を提示したら、支部長の反応は予想通りで追及も受けなかった。
代わりに、松永大佐に頭皮を揉まれた。これは『ちゃんと説明しろ』って事なんだろうけど、人が多いところで――特に、自分の転生に関わる事を知らない人がいるところで言うのは、ハードルが高い。
松永大佐にだけ、今晩説明しようと心に決めて、支部長に最終確認と許可を色々と取り、フラガとセントレアにも確認を取る。
最後に、昨日サイから貰ったクッキーを受け取った時の言葉と一緒に支部長に渡し、退室しようとしたら大林少佐が近づいて来た。
何用かと思えば、大林少佐の視線はセントレアに向いていた。そして、受けた質問内容は『セントレアは本当に獣人族なのか?』と言うものだった。
こんな質問が出て来た理由は、セントレアの外見が原因だ。
同じ獣人族のフラガと違い、セントレアには獣の耳と尻尾が見えない。
尻尾は服の陰で見えないとしても、頭部の耳が見えないのはどう言う事なのかと、気になったらしい。
大林少佐の質問を受けたセントレアは、頭に付けていたカチューシャを外した。取り外されたカチューシャの下から、髪に紛れるように横になっていた髪と同色の馬の耳が起き上がった。
セントレアの頭部に出現した馬の耳を見て、大林少佐は驚いた。
「耳が見えた方が良いのに、どうして隠すの?」
「狼みたいに耳が大きい種族と違って、私の耳は細長いでしょう。耳は繊細な部位だから、男女問わずに保護する為に、専用の覆いを付けるの。私の髪飾り状のこれは良く使われる奴ね」
「耳を覆ったりして、聞こえ難くなったりしないの?」
「ちゃんと微細な穴が開いているから、聞こえに関しては問題無いわ」
セントレアの説明を聞き、大林少佐は素直に感心している。
「耳にリボンとか、飾りとかは付けないの?」
「リボンが何か知らないけど、耳に飾りって、そんな小さい子供みたいな事はやらないわよ。耳に飾りを付けるのは、基本的に小さい子供だけね。私が生まれ育った部族では『健やかな成長を願って』産まれたばかりの赤ん坊の耳に飾りを付けていたわね」
「そうなの? 何か勿体無いわね」
「何が勿体ないのよ? 耳に飾りを付けると、動いた時の揺れが大きくなるから鬱陶しいのよ。根元に巻き付けるようにすると、今度は耳を傷めるし。飾りは基本的に覆いに付ける事が殆どね。それでも飾りを付けるのは、格式の高い祝いの席と歓迎会とか、他には結婚式ぐらいかしら」
「ふうん。細かく決まりが有るのね」
セントレアから耳飾りに関する説明を聞き、大林少佐は残念そうに引き下がった。
……いや、何故残念そうな顔をするんだ?
セントレアも自分と同じ事を思ったらしく、大林少佐を不審者を見るような目で見つつ、カチューシャを装着した。
大林少佐がこれ以上何かを言う前に、昨日サイから貰ったクッキーの配布をお願いして、今度こそ退室した。
二人を連れて退室してから、ドイツ副支部長から貰ったお菓子の存在を思い出したが、戻れないので諦めた。




