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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
再会と出会い 西暦3147年11月

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提案と食用の芋

 長いようで短かった昼休憩の時間が終わった。

 昨日サイから貰ったクッキーを収納機に入れて、フラガとセントレアと、松永大佐を含めた四人で会議室へ移動する。

 四人揃って認識阻害効果を持つ眼鏡を掛けて、現在あえて人の多いところを通っている。人が多いとは言っても、縁日モドキが行われている場所とは違う道だ。

 流石に誰かとぶつかってはバレると、松永大佐が懸念したからだろう。実際には『何かとぶつかったけど、何とぶつかったか分からない』になるから、松永大佐の懸念は杞憂だ。

 ……参考にしたラノベに出て来るアイテムの機能の詳細は覚えていないが、ノリで機能を追加しまくったから原型を留めていないんだよね。

 移動しながら、次からもっと詳細な説明をすべきか考え、松永大佐に感想を尋ねた。

 松永大佐の感想は『凄いな』だけだった。松永大佐が珍しく呆けた表情を浮かべていたので、単純に感想が思い付かなかっただけだろう。立っているだけで目立つ松永大佐が、注目されなかった経験は無さそうだし。

 人がいない事を確認してから眼鏡を外して会議室に入る。

 会議室に入室するなり認識阻害眼鏡に対して、松永大佐以上に驚いたのは支部長だった。勿論、支部長はフラガとセントレアの登場にも驚いていたよ。

 二人の登場と自己紹介よりも、認識阻害眼鏡の方のインパクトが強かったらしい。

 ……そう言えば支部長は、昨日の対談時に異能について聞かされていたんだっけ?

 そうだとするのなら、会議室に来る為に異能を使ったと思ったんだろう。

 現実は違うが。

 支部長に認識阻害用品について説明し、身に付けていた眼鏡を差し出した。

「これを掛けるだけで誰にも認識されなくなるのか」

「松永大佐にも掛けて貰いました」

「ほぅ、そうなのか」

 一見すると、金属フレームの普通の眼鏡にしか見えない。

 どこにでもありそうな、ありふれた見た目だから、その機能が目立つ。

 求められた訳でも無いのに、松永大佐が使用した感想を述べた。

「私も半信半疑でしたが、効果は確かにありました。実は人通りの多いところを通って来たのですが、誰にも注目される事無く、会議室に到着しました」

「凄いな」

 支部長が自分から受け取った眼鏡を物欲しそうに観察している。

「佐久間支部長。貸し出しは禁止です」

「松永大佐。それは理解しているから、威圧しないでくれ」

 支部長は口元を引き攣らせながらも、眼鏡を両手で持ち直して自分に差し出した。



 出席者が揃い、午後の会議が始まろうとしていた。

 その中で一人だけ、誰と言わずとも分かるかも知れないが、高橋大佐はゾンビを彷彿させるようなどんよりとした空気を纏っていた。

 支部長以下、ほぼ全員が高橋大佐を見なかった事にしている。

 初対面のセントレアですら、『あんな状態で良く会議に来たわね』と不快そうに眉根を寄せた。

 臨時参加の自分と、フラガとセントレアの三人は松永大佐の後ろに椅子を置いて座っている。ただし、フラガが反射的に変な行動を取らないように、自分はフラガの膝の上に重石のように座っている。

 会議を始める前に高橋大佐の処罰の内容を決める事になった。

 軍事組織の会議なのに良いのか?

 提案者の草薙中佐が頑なに『高橋大佐を月面基地に永久駐在させよう』と主張している。どう考えても無理なので、自分に別案を出せと要求された。

「三択から、高橋大佐に選んで貰う形で良いですか?」

 咄嗟に思い付くものでは無いが、『こんなんで良いだろう』と思う案は事前に考えて来た。

 発言前に高橋大佐から『手加減してくれ!』と懇願されたが、他の参加者の反応が分からないので言うだけ言う事にしよう。

 提案前に『提案だけをするので詳細をそっちで詰めて欲しい』と、お願いしてから発言する。

「一。月面基地駐在三年」

「長い!」

 永久駐在に比べればマシだと思うが、高橋大佐的には長いのか。即座に抗議の声が上がった。

「二。月面基地駐在二年と尻叩き九回」

「期間が短くなる代わりに、何で尻を叩かれなくちゃいけねぇんだよ!? つか、微妙な回数だな!」「星崎! 叩くんだったら、回数をもっと増やしなさい!」

 二つ目の案を口にしたら、二つの声が上がった。

 一つ目は高橋大佐だが、二つ目の声は草薙中佐だ。回数が少ないのかと疑問に思い、参加者の顔を見回した。草薙中佐の意見に同調するように頷いている人(主に女性陣)が何人かいた。

 混沌とする前に、三つ目の案を口にした。

「三。月面基地駐在一年と尻叩き十九回」

「だから、尻叩きは要らねぇだろ!!」「だから、星崎! 回数が少ないわよ!」

 高橋大佐と草薙中佐の声が同時に上がった。

 それにしても、『提案だけをするので詳細をそっちで詰めて欲しい』と、最初に言ったんだが、……この二人はそれを覚えていないのか。

 自分の発言内容を覚えていた支部長が二人を宥めて、尻叩きを入れた理由について尋ねて来た。

「痛みが無いと覚えてくれなさそうだったので……、駄目でしたか?」

「いいや。理由が在るのならば良い。――さて、決めようか」

「支部長! 『さて』じゃないですよ!」

 高橋大佐の絶叫を支部長は無視した。他の出席者も支部長に倣うように高橋大佐を無視した。高橋大佐はしつこく抗議の声を上げようとしたが、両隣りに座る松永大佐と飯島大佐に同時に頭を叩かれて静かになった。

「月面基地駐在期間は、最大で三年が妥当だと思う。尻叩きに関しては、多数決を問う。再犯を防ぐ為に体罰が必要だと思うものは手を上げなさい」

 支部長の問い掛けに、高橋大佐を除いた出席者の殆どが挙手した。多数決の結果を見た高橋大佐は、白目を剥いてテーブルの上に突っ伏すも、三秒後には復活してテーブルを叩く。

「くっそ、何でガキみてぇな扱いなんだよ! 誰か一人ぐらいは反対しろよ!」

 嘆いている高橋大佐には悪いが、これは己の人望の無さを恨むべきだと思う。それ以前に、九月の一件を忘れたのかね。

「なぁ、星崎。尻叩きは誰にやらせる予定だったんだ?」

 ここで、興味本位と思しき質問を男性将官から受けた。誰にお願いするのか特に考えていなかったが、咄嗟に思い付くのは二つだ。

「姫川少佐か憲兵部の人に頼もうかと思っていました」

「……高橋。姫川に『手加減してくれ』って土下座しろ。それが一番安全だ」

「何でそうなるんだよ!? 土下座で姫川が手ぇ抜く訳ないだろ!?」

「憲兵部は地獄だぞ」

「ここは提案者の星崎だろ!?」

「星崎は絵面的に止めた方が良いと思うぜ」

「絵面と、体と命の危機を比べられる訳ねぇだろ!?」

「それとも、星崎が九月に提案した残りの奴から選ぶか?」

「……それはそれで嫌だ」

「我儘言ってねぇで、とっとと決めろ。会議が始まんねぇ」

「くそ、他人事みてぇに言いやがって」

 高橋大佐は悪態を吐いているけど、ここまで来ると最早、他人事を通り過ぎて『見せもの扱い』でしょうね。

 同情は一切出来ない。仮に少しでも同情したら、松永大佐から『同情は不要だ』と怒られそうだ。

「?」

 頭を掻き毟っている高橋大佐の背中を眺めていたら、不意に袖を引かれた。

 何だろうと思って袖を引かれた方向を見ると、そこには不思議そうな顔をしたセントレアがいた。

「ねぇ、こっちでも尻叩きは大人相手にも普通に行われるの?」

「どちらかと言うと小さい子供向け。大人で尻を叩かれるのは恥ずかしい部類に入る。尻を叩くだけだし」

「そうだったの……。喪服淑女の会の正規会員だった女王様のところみたいにやるのかと思ったわ」

 セントレアの声は決して大きくはない。だが、頭を掻き毟っていた高橋大佐の耳に入る程度の声量は有った。高橋大佐の動きが止まり、室内の視線が自分とセントレアに集中する。

「あの国で行われている尻叩きは、脱税や横領をした文官向けの刑罰だよ」

「……文官向けの刑罰なのに、何で毒芋を使うのよ? しかも、尻に突き立てる必要って何?」

 毒芋を尻に突き立てる。

 字面にすると、いや、言葉にすると正気を疑われる。実際に見ても目を疑う。

 セントレアを含む室内にいる面々の勘違いを解く為に説明しよう。

「色々と勘違いされそうだけど、使われている毒芋は食用の芋を品種改良して尋問用にした品種だよ。石灰を溶かしたお湯で軟らかくなるまで皮ごと茹でると、毒素が抜けて食べられる。毒の効果が麻痺で、しかも水溶性だったの」

 どこからか『蒟蒻芋かよ』とか、『何で品種改良したんだよ』とか、『水溶性って情報は必要なのか?』とか、そんな声が上がった。

 自分も芋の説明を聞いた時に同じ感想を抱いた。

 でも、この毒芋の見た目は『山芋』で、扱いは地球で言うところの『マンチニール』と同じなんだよね。けれど、毒は強くないし、一日も経過すれば自然と体外へ抜けるから、解毒剤は無い。

「元々食用に適さない芋を親指大に細長く切って水に浸して、毒が体内に吸収されやすいようにしてから、『座薬』みたいに突き立てて『尋問道具』にしていた、長い歴史の有る芋なの。芋の品種改良は毒素を抜く為だったんだよ。まぁ、どうやっても毒素が抜けないどころか、逆に毒素が強くなって、品種改良を行った当初は処分に困ったんだって」

「当初はって、何よ? 当初『は』って!?」『うんうん』

 セントレアと一緒に話を聞き入っている室内にいる面々の半数以上が慄いている。そんな中で松永大佐だけは『色々と使えそうだな』と黒い笑顔を浮かべて呟いていた。その呟きを聞いた隣の高橋大佐が震え上がる。

「その当時、隣接していた国家が近隣諸国に間者を送り込んで、色々と計画を立てていたの」

「何となく話が見えて来たわね」

 顔を引き攣らせたセントレアと同意見なのか、背後のフラガも頷いている。

「尋問に品種改良した芋を使ったら、一発で白状したんだってさ」

「……ウチの国にいる、顔の良い変態だったら白状しなかったんでしょうね」

「顔の良い変態って何だよ!? つか、尋問じゃなくて『拷問』の間違いだろ!?」

 ルピナス帝国の首都防衛支部の連中です。ドMの連中からすると、これは『拷問』と呼ばない。

 そんな事は言えないので、工藤中将の突っ込みはスルーする。

「それはどうだろうね。毒の種類的には『麻痺毒』だけど、全身が痒くなる副次効果も有るから微妙だなぁ。フラガは痒みを一日我慢出来る?」

「無理」

「だよねぇ」

 首都防衛支部の面々でも、全身の痒みは我慢出来ないだろうなと思い、フラガに確認を取ったら即答された。

「だよねぇ、じゃないでしょ!?」

「毒芋の話題を振って来たのはセントレアでしょ?」

 指摘すればセントレアは言葉に詰まった。

「そうだけど、毒芋一個でここまで語られるなんて、流石に思わないわよ!!」

 先程セントレアと一緒に慄いていた面々が同意するように、激しく首を縦に振った。

 だがしかし、セントレアに限っては残念な事実が存在するので、ここで教えなくてはならない。

「セントレア。喪服淑女の会の正規会員だと、ここから流れるように『毒芋の入手方法と栽培方法について問い合わせたい』って言い出すよ。毒芋の方には流通の規制は掛かっているけど……」

「色々と言いたい。……『けど』何よ?」

 自身が属する秘密結社の名が出た事で、セントレアは必要以上に身構えた。

「規制が掛かっているのは『品種改良した芋』だけで、品種改良前の芋は普通に流通しているんだよ」

「品種改良したかしていないかに関わらず、規制すべきでしょう! 何で規制しないのよ!?」

 やべぇと言わんばかりに顔を引き攣らせたセントレアは、一瞬だけぶるりと身を震わせた。

 この分だと、最初に言った事を忘れていそうだ。

「忘れているかもしれないけど、れっきとした『食用の芋』だよ。毒素を抜いた状態で市販もされているし、荒れた土地でも育つし、肥料も殆ど要らない芋で、種を蒔けば必ず芽が出るから、割と重宝されているんだよ」

 しかも、茹でて毒素を抜いたこの芋は美味しい。見た目は山芋なんだけど、茹でたらサツマイモみたいな食感と味になる。おまけに毒素を抜いた芋の表面を焦げるまで焼くか、天日干しにすれば、長期保存も可能なのだ。

「強靭過ぎない?」

「すっごく強靭だよ。周辺の土中に毒素をまき散らさないから、畑を休ませる必要も無い」

「芋に毒が無ければ、不毛の土地では理想的な作物なのね」

「更に、毒が含まれているのは芋の部分だけで、葉は湯通しすれば普通に食べれる。葉には腸内環境を良くしてくれる熱に強い美容成分が多く含まれているから、流通を規制したら暴動が起きるよ」

「芋と葉っぱの効果の差が大き過ぎる」

「宇宙男姉妹連合傘下の化粧会社でも使われているから、規制を掛けるのは不可能だね」

「国の為とは言え、何で私はあそこの名誉会員になったんだろう……」

 セントレアは頭を抱えた。その様子を見て思う。

 ……頭を抱えているところ悪いが、セントレアよ。喪服淑女の会の正規会員は『花を摘む』感覚で、浮気男の首を狩る正規会員が大量にいる結社だぞ。

 フラガが小声で『人選失敗』と呟いた。

 セントレアには悪いが、これには同意する。

 立候補したのか、推薦したのか知らんが、セタリアも何で止めなかったんだ? 名誉会員だとしても、セントレアが馴染むには時間が掛かるぞ。

 次の通信でセタリアに聞いてみようと心の中で決めた。



 

 毒芋の話題で会議室の空気が微妙なものになった。会議の司会進行を務める支部長は天井を眺めていた。女性陣は『美容成分に興味は有るけど、芋の部分がなぁ』とコソコソ話し合っている。

「なぁ、星崎。毒芋で盛り上がっているけど、つ、使ったりしない、よな?」

「使って欲しいんですか?」

 そんな中、恐る恐る尋ねて来た高橋大佐に質問で返した。

 そしたら、高橋大佐は目を見開き、立ち上がった。

「そんな訳ないだろっ!? 例え解毒剤を事前に飲んだとしても嫌だからな!?」

「あ、この芋の解毒剤は開発されていませんよ」

「何で!? 解毒剤って品種改良よりも先に行われるもんじゃないの!?」

 解毒剤が開発されていないと言う事実は、聞く側からすると想像以上に衝撃的だったのか、あちこちから『嘘だろ!?』と声が上がった。

「毒と言っても効果は弱い方ですし、一日も経過すれば自然に体外へ放出されるんです」

『噓でしょっ!?』

 あちこちから悲鳴が上がった。頭を抱えていたセントレアもギョッとした。

「それに複数の麻痺毒に効果の有る解毒剤でも、効果を弱める事は出来ません。これは実際に使用した時に、解毒剤を事前に飲んでいたスパイがいたんです。その時に効果が弱まらなかったので、人体実験済みです」

「ちょっと待て! それって、『どこも解毒剤の開発に成功していない』って事なのか!?」

 男性将官の一人が質問をして来た。その回答は『はい』なので肯定する。

「そうですよ。流通に規制が掛かっているのは、毒を強めた品種改良した方ですし」

「あのさ、万が一の事を考えて、解毒剤の研究とか、普通はやるだろ!?」

「その万が一は一度も起きていないんですよね。仮に芋が肌に触れて痺れたとしても、『水か微温湯で洗い流せばどうにかなってしまう』ので」

 最後に『不思議ですよね』と付け足せば、高橋大佐は大口を開けて絶句した。その他の面々も絶句している。


 ちなみに、芋の品種改良を指示した時の国王は、研究申請を出した薬学研究者に対して、次のように言った。

「解毒剤が作れない未知の毒って響きが良いよね。我が国で大金を注いで研究しなくても、どうせ他国が対策を考えて実践して来るんだ。我が国で研究をする費用が削減出来て大助かりだよ」

 笑顔で薬学研究者にこう言ったと記録が残っている。そして、この言葉には続きが存在する。

「侵入した間者について他国に問い合わせても、どうせ『我が国はそんな奴を送り込んた覚えは無い』って白を切られるんだ。毒の効果が薄かったり、無かったりした奴は『存在しなかった事にする』から、解剖して良い。だから、そういう奴が出て来るまで、解毒剤の研究は禁止だ」

 そう言葉を続けて、時の国王は薬学研究者を震え上がらせた。

 

 言わなくても良い情報を思い出しつつ、何やら笑みを浮かべている松永大佐を見て、一言言った。

「取り寄せますか?」

「止めろぉおおおおおおっ!!」

 会議室一杯に高橋大佐の絶叫が響き渡った。


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