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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
再会と出会い 西暦3147年11月

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十一月定例会議 二日目午前 ~佐久間視点~

 定例会議二日目。

 本来ならば日本支部の今後についての議論や、先月行った作戦の戦後処理報告などを行う時間で、昨日出来なかった議論を行う日だ。佐久間は今日中に終わらせる議案を終わらせようと気合を入れていた。

 だが、佐久間の出鼻を挫くように、会議が始まる前から工藤中将が床の上で正座をしていた。その正面に立つのは、松永大佐だ。

 会議が始まるからと、佐久間は松永大佐に一声掛けて、強制的に終わらせた。

 


 重要な議案は早々に話し合って決める。佐久間はそのつもりで会議を進行させた。

 昨日行った、ルピナス帝国側との対談の内容を開示し、日本支部の今後を決めて行く。

 そして、五分程度の休憩を挟み、昨晩佐久間の手元にやって来た申請の内容を開示した。

「さて、昨晩草薙中佐より、『セクハラ発言をした高橋大佐に処罰を求める』なる申請が来た」

 議長を兼任する佐久間の発言を聞き、会議に出席した面々の視線が高橋大佐に集まった。視線を集めた高橋大佐は滝のような脂汗を掻いている。

「昨日の時点で、『高橋大佐は近くに頼れる人間がいるから仕事をしないのでは?』と言う意見が出た。その解決策として、『一年間、月面基地に駐在させよう』と意見が出ている」

 会議を欠席したが為に、己の予定が知らぬ間に変更されていた事を知り、高橋大佐は狼狽えた。

「他に、今月行われる『作戦終了時に行わなかった、敵機残骸回収作業に工藤中将と一緒に参加』も決まっている」

「え゛」

「そこへ『セクハラ発言に処罰を』と申請が来た。仕事を増やすよりも、月面基地の駐在期間を延ばす方向で考えたいが、その前に皆の意見を聞きたい」

 佐久間は意見を求めて、出席者一同の顔を見回した。

 高橋大佐は滝のような脂汗を掻いて硬直している。他の出席者はそんな様子の高橋大佐を一瞥し、揃いも揃って『考える振り』をした。

 とは言え、誰かが意見を出さなければ、この議題は進まない。

 考える手間を省く為か、皆の視線は申請者の草薙中佐に集まった。そしたら今度は、視線を集めて面を食らった草薙中佐が滝のような脂汗を掻いた。

 皆の視線を一身に集めた草薙中佐は、暫しの間、言葉にならない声を上げ続けた。そして、何を思ったのか。草薙中佐は椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がるなり、『被害者の星崎に決めさせよう!』と叫んだ。

 困り果てたからと言って、星崎を召喚するのはどうかと思った佐久間だった。

 皆も佐久間と同意見なのか、それとも単純に呆れたのか。全員が白けた目で草薙中佐を見た。

「要。アンタねぇ、もう少しものを考えてから発言しなさい」

「氷室中将。ですが……」

「アンタは三ヶ月連続で会議を荒らしたいの?」

「あ」

 氷室中将の指摘を受けた草薙中佐は呆けた顔をした。どうやら草薙中佐は『星崎に決めさせればどうにかなる』と、実に安直な考えを持っていたようだ。

 先月と先々月の会議を思い出してげんなりとするものが続出する中、佐久間も同じように思い返した。

 実際に星崎に決めさせようとした九月がどうなったのか。佐久間も思い出したくは無い。一番思い出したくないのは高橋大佐だろう。危うく、男として色々なものを失う危機に直面したのだから。

 最大の問題は、先月も先々月も、星崎が己の意思で会議室にやって来ていない点か。彼女は必ず誰かに呼ばれてやって来た。大体、呼び出したのは佐久間か松永だ。

 それが、今回は草薙中佐になる。

 今になってその事に気づいた草薙中佐は目を泳がせたが、意見は撤回しなかった。逆に、幅広い意見を取り入れる為に星崎を呼ぶべきだと、草薙中佐は出席者に向かって半ばヤケクソ気味に主張した。

 出席者は白けた目で自棄を起こした草薙中佐を見た。けれど、思うところが有るのか、あるいは代案を考えたくないのか、反対意見は出なかった。佐久間の勘が導き出した答えは後者だ。



 話し合いの結果、午後に星崎を呼ぶ事が決まったが、本日こちらに来ているルピナス帝国の人員(三名が来ていたが、後に行われる午後の報告で一人は報告の為に帰還したと知らされた)はどうするのかと、別の疑問が出て来た。

 こちらに来ている三人の内の二人の外見は、狼の耳と尻尾が生えた男性と、報告で聞いた限りだが――性別不明にしか見えない女性(?)の二人は、誰もが振り返る程に整った容姿をしている、明らかに日本人ではない二人がツクヨミ内を歩いたらどうなるか。

 大騒動になるのは火を見るよりも明らかである。

 そんな二人の間に挟まれて歩く星崎は、間違い無く噂になる。

 試験運用隊隊舎の食堂で話し合えば大騒動が起きる事は無いと、意見が出れば同調するものが続出した。

 誰一人として、高橋大佐の処罰を撤回させようと意見を出さない。他人の不幸は蜜の味と言うが、流石にこんな時にまで蜜の味を求めなくてもと、佐久間は内心で思った。


 話題の面々は現在、日本支部が回収した敵機の残骸を保管している、第五保管区へ再度向かった。

 禁踏区画の一画の第五保管区に、佐久間の許可を得て星崎が訪問者を連れて行った理由は――これまでに回収した残骸の状態を見る為だ。

 回収した残骸を修理して再利用するにしても、ある程度の原形を留めている機体が無ければ、再利用は不可能だ。八月に佐久間が松永大佐と星崎を連れて第五保管区へ向かった時、星崎の見立てで修理して使えると明言した機体数は、佐久間の記憶が正しければ十機を超えていなかった筈だ。

 場合によっては、回収した残骸と機体の交換が出来ないかと、昨日の対談時に申し出ている。

 ただし、新品の機体が得られる可能性は低い。

 そもそも、交換する為には向こうの宇宙に残骸を送らねばならない。送る手段は存在するが、正直に言うと使いたくない。それでも、残骸を送る時が来たら、星崎と相談するしかない。

 昨日の対談時に発覚した事だが、星崎は転移門を使わずに大量の残骸を運ぶ手段を持っている。どのようにして運ぶのかは不明だが、手段が存在するのならば、残骸と何かの交換が可能となる。

 何と交換出来るかは、佐久間の交渉次第となる。星崎に頼んでゴリ押ししては、向こうからの印象が悪くなる可能性が高い。

 交渉する際には、何が何でも一条大将を巻き込もうと佐久間は決めていた。


 佐久間がここにいない三人と昨日の対談内容について意識を割いていた間に、高橋大佐の処罰についての話し合いが終わっていた。

 話し合いの結果、『昼食時に星崎に尋ねてから決めよう』で、一先ず落ち着いた。

 その後の会議は恙無く進んだが、知らない間に押し付けられていた仕事内容を知った高橋大佐の口から白い靄のようなものが漏れた。

 松永大佐が高橋大佐の頭をスタンスティックで叩いて正気に戻す光景が、会議中に何度か見られた。

 会議を欠席したのは高橋大佐が間に合わなかったからなので、誰も松永大佐を止めなかった。



 会議は恙無く進んでいたが、佐久間の秘書官の一人が会議室に転がり込んで来た事で状況が一変した。

 二つの副支部長から緊急の連絡が入ったのだ。

 リアルタイム通信でアメリカ副支部長(ジェフリー)イギリス副支部長(ヴァンス)から事情を聴くと、『ウチの支部長が、本国の阿呆に媚びを売る為に馬鹿をやった(意訳)』の言葉が飛び出し、皆に動揺が走った。

 しかし、『マスコミを使ってすぐに辞任に追い込む。後任は防衛軍に理解力の有る政治家を選ぶから心配しないで(意訳)』と続いた為、皆の動揺は収まった。

 大林少佐と神崎少佐が、すぐに諜報部と憲兵部を動かし、侵入者の捜索が行われた。



 連絡を受けて十数分後。

 人海戦術で発見した侵入者を三名捕縛し、神崎少佐が尋問を行った結果、合計十人の侵入者の存在が発覚した。松永大佐に星崎にも連絡を入れるように指示を出す。

 ルピナス帝国からの訪問者と行動を共にしている星崎ならば、保管区に留まる判断を下すと、誰もが思った。

 だが、試験運用隊が保有する演習場には色々と置いて在ると、松永大佐が指摘すれば皆の血相が変わる。

「侵入者の連中は、終わったな」

 工藤中将の呟きに皆が同意した。同時に、星崎が動くのなら、この騒動も早々に終わる。

 神崎少佐から尋問で得た情報を聞いていると、松永大佐の通信機が鳴った。松永大佐は通信機の画面を見るなり、一瞬だけ口元を痙攣させてから通信機を操作して通話に出た。

 星崎の声よりも先に、苦悶に満ちた声が、通信機のスピーカーから大音量で流れた為、室内に重い沈黙が落りた。沈黙を払拭するように、松永大佐が通信機のマイクに向かって発声した。

「こちら松永。星崎、何が遭った?」 

『演習場内で、侵入者と思しき七名を発見しました』

 星崎からの端的な報告を聞き、胃痛を覚えた佐久間は手で腹を擦った。その間にも、星崎からの報告は続く。

『フラガとセントレアが七名を――たった今、無力化しました』

 続いた報告内容を聞き、神崎少佐が部下に指示を飛ばした。

 ……無力化って、一体何をやったんだろう?

 スピーカーからは苦悶の声しか聞こえなかった。一体どのような行為で無力化したのか。それが判らず、佐久間は寒気を覚えた。

 その間にも星崎の報告はまだ続いた。全てを聞き終えた松永大佐が改めて確認を行う。

「状況は判った。憲兵部のものがそちらに向かっている。七人が全員そこにいるんだな?」

『はい。全員気絶していますが、拘束しますか?』

「いや、気絶しているのなら不要だ」

『空き部屋かトイレに、閉じ込めますか?』   

 珍しい事に、星崎が幾つかの提案を松永大佐に行った。流石に星崎でも、演習場に放置するのは良くないと判断したのか。

 松永大佐が対応するよりも先に、神崎少佐が動いた。

「割り込みするわ。神崎よ。星崎ちゃん。気絶しているのなら、何もしないでそのまま放置で良いわ。ウチの部下がそっちにつく前に色々と片付けちゃいなさい」

『はい、分かりました――って、ちょっとフラガ! 脚の関節を砕くんじゃない!』

 憲兵部のトップから言われて星崎は引き下がった。だが、続いてスピーカーから流れた、星崎の焦った声と内容に皆の顔が引き攣った。

『逃走防止やらないの?』

「骨をやる必要はねぇだろ」

 佐久間の記憶に無い男性の声がスピーカーから流れた。その声に突っ込みを入れるように誰かがぼやいた。 

 しかし、逃走防止目的で骨を砕くのか。

『憲兵部の人が放置で良いって言っているから待ちなさい。セントレアもやらないの』

『随分と手緩いわね』

 続いて、女性的な口調の男性のように低い声がスピーカーから流れた。

 皆の視線が神崎少佐に向かう。その視線は『お前のお仲間?』と問うていた。

 勿論、神崎少佐の答えは『否』だった。

『他所には他所の決まりと都合が存在するから止めなさい』

 星崎の言葉を聞いて、佐久間は頷いた。その通りだから止めて欲しい。骨を折らないだけで手緩いと言われるとは思わなかった。

『男を去勢した人数四桁記録持ちに、そんな事を言われる日が来るとは思わなかったわ』

 声音から判断すると、反論では無いのは判る。だが、感心した声でとんでもない情報がポロッと開陳されて、男性陣の何名かが浮足立った。

『何の記録だよ!? そこまでの人数をやった覚えは無いからね。瓦礫で生き埋めにした人数の総計が五桁に行っているの確実だけど、そっちの記録は覚えが無い』

「どこのテロリストだよ!?」「つか、そこまでって、三桁は行っているのかよ」

 星崎は反論するも、更に上回るとんでもない情報が飛び出し、皆はギョッとした。

 佐久間もギョッとしたが、総計の単語を思い出し、一度の行動で発生した人数では無いと、己に言い聞かせて落ち着かせた。

 その間に、星崎は小声で呟き、行動を決めた。

『済みません、神崎少佐。七名を廊下に積み上げるので回収お願いします』

「色々と言いたいけど、分ったわ」

 神崎少佐の大人の対応で、星崎との通信は終わった。

 佐久間は状況の確認が終わるまでの間、会議の一時中断を決めた。

 神崎少佐は尋問を手伝う為に退室した。

 佐久間は松永大佐に試験運用隊の演習場に向かわせ、現場の状況確認を行わせようと決めて指示を出した。

 松永大佐は佐々木中佐と井上中佐を連れて、会議室から去った。

 佐久間も執務室へ一度向かう為に大林少佐を連れて退室した。



 大林少佐に諜報部で情報確認をお願いし、佐久間はジェフリーとヴァンスに連絡を入れた。

 リアルタイム通信が繋がるまでの間に考える。

 ……それにしても、何故、こんな時に事を起こすのか?

 作戦が終了した事で日本支部が妬まれるのは分かっていたが、ここまで露骨にしなくても良いだろう。

 日本支部は協力者を得て一歩リードしている。だが、そのリードで本国に恩恵は無い。

 四代目上層部の愚行が原因で、日本支部と本国の関係は微妙だ。三代目上層部の面々の怒りが未だに収まっていない以上、関係が改善される事は無い。

 五代目となる我々も、四代目上層部の被害者が多数いるので、関係の改善は難しい。

 遺恨が完全になくなる事は無い。

 次代の上層部の人選について悩んでも、この遺恨は根強く残っている。

 軍事と政治は切り離して考えるべきだ。佐久間は個人的にそう考えている。

 政治家個人の思惑で、現場の面々に迷惑を掛けると無駄に恨みを買う。

 本国はこの恨みを大量に売った。買い叩いたのは三代目上層部と佐久間だ。

 佐久間は今回のケリをどう付けるか考えて、今回の情報がルピナス帝国に伝わる可能性について考えた。

 松永大佐からの通信を受けた星崎の傍に、ルピナス帝国からの訪問者がいた可能性は高い。星崎が状況の説明を要求された可能性を考慮すると、かの皇帝にまで情報は伝わると考えて良いだろう。

 皇帝に悪い印象を持たれるか、呆れられるかは分からない。

 関係が拗れない事を祈るだけだ。



 侵入者の報告を受けてから、約一時間後。  

 長いようで短い時間で色々と終わった。佐久間は会議を再開した。

 松永大佐経由の星崎からの報告を受けて、午前中の内に決める事を全て決めて、佐久間が何となく時計を見たら、十二時を過ぎていた。

 佐久間は改めて、室内にいる面々の顔を見た。疲労が顔に出ている。

 頃合いだと判断した佐久間は、二時間の休憩を言い渡した。

 佐久間は大林少佐を連れて早々に執務室に戻った。昼食を取りながら、ジェフリーとヴァンスの二人と今後について話し合う。

 


 そして午後。

 意外な方法で星崎達はやって来た。

 佐久間は対談時に教えられた『異能』とやらを使って来たのかと興味を持ったが、全く別の方法だった。


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