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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
再会と出会い 西暦3147年11月

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180/209

保管区にて ②

「部品が足りないから取りに戻る?」

 合流したベロペロネの要望を聞き、意味が理解出来ず鸚鵡返しに尋ねてしまった。

「おう。ついでに報告もして来る。フラガ。何か提出するもんは有るか?」

「有るけど、自由過ぎる」

「堅ぇ事を言うな。ついでに人手も連れて来る」

「許可、下りる?」

「下りない。下りる訳ないでしょ」

 フラガの疑問を、自分は一刀両断した。ベロペロネの鼻先に指先を突き付け、許可が下りない理由を言う。

「先ず、ベロペロネが帰った報告をする。次にベロペロネの手伝い人を連れて来る許可申請を出す。この二つの報告と申請を、セタリアと支部長の二人に出す。直接会いに行って報告と許可申請が可能な支部長はともかく、セタリアに同じ事が可能だと思う?」

「済まねぇな、お嬢。無理としか言えん」

 ルピナス帝国で最も多忙な人間は誰かと問われれば、身分の問わずに誰もが『皇帝陛下』と回答する。ルピナス帝国の教育が行き届いているのか。それとも、身分問わずに支持を集めるセタリアが凄いのか。

 そんな国に属するベロペロネも、セタリアの多忙さを知っているから、すぐに無理だと判断したのだ。

「でしょう? 一先ず、ここにある部品だけでやってみて。ここにある部品だけでは、どうしても出来ないって報告した方が、許可は下りやすい」

「それもそうか。一先ず、どこまで出来るかやるか」

 納得したベロペロネは自分達に背を向けて作業に戻った。

 去って行くベロペロネの背中を見て、素直に引き下がってくれた事に胸を撫で下ろした。同時に、ベロペロネでも新品の部品を欲しがるぐらいに、状態の悪い部品しかない事を再認識した。

 昼前にベロペロネを先に帰らせて、部品を持って来させた方が良いかな?

 でもその前に、松永大佐が乗っていた機体の駆動系を交換して貰わないと。通信機を搭載する作業は保管区に移動する前に思い出して終わらせている。一機組み立てが終わったら、演習場に戻るか。

 フラガとセントレアに保管区で他に見て回りたい箇所の有無を尋ねて、無い事を確認してから移動する。

 ベロペロネの許へ徒歩で向かう途中、セントレアから質問を受けた。

「ねぇ、一つ聞いても良いかしら?」

「今になって何が聞きたいの?」

「人選理由よ。基本的に首都防衛支部からの派遣予定なんでしょう? 私を選んだ理由は何?」

「昨日ここに来た人員が、セタリア、サイ、アフェル、フラガ、カルタの五人。セタリアはすぐに帰ったけど、残りの四人で『濃い』って感想を貰ったの」

「初めて酒を飲む奴に、いきなり滅茶苦茶度数の高い蒸留酒を飲ませてどうするのよ!?」

 セントレアはギョッとしたが、例えの表現が的確だったので内心で拍手を送り、追加情報を明かす。

「フラガは宿泊予定だったんだけど、獣化したからサイが担いで連れて帰った」

「それは当然ね。フラガは何をしにここに来たのよ?」

「安眠枕」

 フラガは迷いも無く即答した。ここでフラガを抱き枕にするのは、色んな意味で問題が有る。

「誰用の安眠枕よ!? 首都防衛支部の常識は他支部の非常識って、教わらなかったの!?」

「忘れた」

 フラガはまたも即答したが、惚けた顔をしているので覚えて『は』いるんだろう。

「セントレアには悪いけど、基準が判らないと今後の人選に悩むから来て貰った。何なら泊まって行く? 空き部屋は多いから、許可は下りると思う」

「今晩こそ泊まる」

「サイが乗り込んで来るから、フラガは帰りなさい」

 セントレアは呼ばれた理由を知り、嫌な顔をせずに納得してくれた。

 一方、宿泊不可能と知ったフラガは肩を落とした。白い毛並みの尻尾も力無く床に向かって垂れている。そんなフラガを見たセントレアは『妥当な対応ね』と呟くだけに留めた。

 ベロペロネが作業している場所に到着するまでの間に、日本支部(と言うか地球の現状)について、殆ど何も知らないセントレアに色々と教えた。

 セタリアとのやり取りで決まった事や、今後の予定についても教える。

「近衛だけど、殆ど情報が来ていないわね。それ以前に、外交部案件だと思うけど」

「戦闘にも協力を仰ぐとなると、首都防衛支部が適任なんだよね」

「首都防衛支部の人員は、最近少し変わって来たって聞いたけど」

 セントレアから意外な情報を聞き、目を瞬かせた。ドМの魔窟じゃなくなったのか?

「口先だけの甘ったれが少し増えた。次の強襲訓練で陛下が直々に篩に掛けるから、全員いなくなる」

「少しは手を抜けって、セタリアに言いたいところだけど……。訓練内容が少しでも緩くなると、襲撃を仕掛けてくるアホ組織が出て来るから言えないんだよね」

「それ以前に、変態共の巣窟である事に目を瞑るとして、首都を守る役目を担う連中がそれで良いの?」

 過去の事例を考えると、セタリアに『優しくしてあげなさい』と言えないのが悲しい。

「反大公家派閥が正規手順で捻じ込んで来た。次の強襲訓練で不平不満を言うようなら、陛下が何かをやる」

「結果の出せない奴が捻じ込まれたって事か。それにしても、カルタの時と言い本当に懲りない連中ね」


 実を言うと、昨日再会したカルタは幼い頃に、反大公家派閥の連中の手で実家の伯爵家を引っ掻き回された嫌な過去が在る。

 この一件で、直系の中で唯一無事だったカルタが伯爵家の当主となった。

 カルタの家族を始めとした直系の殆どが、反大公家派閥と手を組んだカルタの父の異母姉に毒殺された。

 毒を盛られるも唯一、一命を取り留めたカルタの従兄は、毒の後遺症で車椅子生活を送っている。ルピナス帝国の医療技術であれば、高額になるが治療は可能だ。カルタの従兄は家の財政を傾ける訳にはいかないと、車椅子生活を選んだ。

 カルタの従兄に何度か治療費を出そうかと相談したが、助けられた上に治療費は受け取れないと辞退された。

 

「人口比率が変わった結果じゃないの?」

 セントレアなりに懲りない理由を考えたのか、そんな事を言った。けれど、自分は否定する。

「そんな訳ないでしょう。大公家は環境適合種の神族の家系だよ。それに、反大公家派閥は初代皇帝統治時代からいるんだよ。歴代の皇帝が何度根絶やしにしても、他国か犯罪組織の支援を受けて復活するだけ」

「根絶やしとか、サラッと恐ろしい事を言わないでよ」

「そう? 反大公家派閥はあのキルシウムとも、一時、繋がっていた事が在る派閥だし。大体、この派閥が存在するせいで、国内貴族の大掃除を不定期でしなくてはならなくなった過去も在る。ま、大掃除でいなくなっても、新興貴族が間者の誘いに乗って反大公家派閥を立ち上げるからねー。いい加減にしないと、ルピナス帝国で新興貴族は『どこぞの家から独立した分家』じゃないと認められなくなるよ」

「何の冗談よ?」

「議会で何度も話題になっているから、割と信憑性は高いと思う。ただ、平民上がりの人を家に迎え入れても良い家が少ないから、現状のままなだけ」

 議会でも反大公家派閥の認識は、その実態と活動内容から『売国奴』となっている。

 ルピナス帝国は実力主義の風潮が強いけど、新興貴族への風当たりは強い。

 平民から貴族に成り上がるのは名誉な事だけど、貴族の仲間入りした奴が立て続けに問題を起こしているので、『また問題を起こすのではないか』と色眼鏡で見られてしまう。真っ当な奴はいるよ。新興貴族の一割だけど。

 ただ、問題を起こす奴は後見人にも問題が有ったりする。先々代皇帝の頃から、新興貴族が問題を起こしたら、後見人を務める貴族も罰せられるようになった。

「……そう言えば、二百年前に子爵家以下の家は『二代以内に功績を立てないと取り潰し』に変わった」

「あー、そう言えばそうだったわね」

「遂に変わったか。それだと、次の強襲訓練で波乱が起きそうだね」

「その前に作戦が在る」

 フラガの言葉に『覚えている』と首を縦に振った。

「ルピナス帝国は進んで他国に攻め込まない事を信条にしているけど、売られた喧嘩は『平等に買う』よ。喧嘩を買ったら『報復として平等に攻め込む』、頭のおかしい戦闘狂が多いんだよ。喧嘩は買うけど売らないから防衛支部を名乗っているだけの魔窟に、攻め込む奴がいるの?」

「言われてみると、ルピナス帝国(ウチ)が最後に宣戦布告を受けたのって、先代皇帝の頃よね」

「しかも宣言直後、首都の近くに隕石が落ちたから、すぐに撤回された」

「情けない連中ね」

 自分は目を逸らした。咳払いをしてから、言葉を続ける。

「議会の決定が覆った事は無いけど、焦って何を仕出かすか分からない。皇室は医学研究分野でかなり貢献しているから、手は出し難いけど」

「皇室は数多の不治の病の治療薬を開発した実績が在るから、流石に大丈夫でしょう」

 自分とセントレアの言う通り、ルピナス帝国の皇室は医学研究者が多く、長年医学界に多大な貢献をして来た。その内容は主に治療薬の開発だ。『皇室が開発した治療薬で治せないのなら諦めろ』と言われるぐらいに数多の治療薬を開発し、不治の病を治せる病にして来た。

 未知の病が見つかれば、治療薬の開発依頼を真っ先に受けるのはルピナス帝国の皇室だった。

 そんな実績を保有する皇室に手を出せば、恩の有る国々がキレる。喪服淑女の会の正規会員の中には、皇室が作った治療薬のお陰で家族が助かったものもいるので、報復行動は犯罪組織も真っ青な事を仕出かす。

 広く知られている皇室の活動内容を考えると、セントレアが『大丈夫』と思ってしまうのは無理も無い。ただし、それは近衛のセントレアが言って良いものでは無い。表情を引き締めたフラガが指摘する。

「セントレア。『あり得ない事はあり得ない。ありとあらゆる全ての可能性を考えろ』が首都防衛支部の教え。『流石に無い』は弛んでいる証拠」

「……そう言う事が言えるのに、どうしてアンタはド変態なの? ルピナス帝国の七不思議かしら」

「セントレア。他所の国も似たようなものだから、ルピナス帝国限定の七不思議では無いよ」

 残念ながら違うよと、セントレアの言葉を訂正した。非常に残念な現実だけど、宇宙七不思議の一つと言っても過言ではない。国家元首が己の主張を目立たせる為だけに、国際会議に全裸で登場する事も辞さない。

 宇宙七不思議と言うよりも、『宇宙七悪夢』と言うべきかもしれない。

「嫌な共通ね。常識はどこかしら」

「常識は幻想の産物。そもそも存在しない。仮に誕生してもすぐに天に召される」

「天に召すな。存在そのものを否定するんじゃない!」

 セントレアは天を仰ぐも、フラガの言葉を聞いて突っ込みを入れた。



 ベロペロネが作業している場所に到着したが、組み立て作業は大分順調に進んでいた。

 二人を残して結界内に足を踏み入れ、頭を掻き毟っているベロペロネに声を掛けて、結界の外に連れ出した。

「新品じゃないと耐久年数に不安のある部品? そんなの在ったの?」

「あんだよセントレア。近衛はアゲラタムに乗る時間が少ねぇから、忘れているのかもしれんがな」

 ベロペロネから学んだ事を忘れていると指摘を受けて、セントレアは目を逸らした。

 だがしかし、厳密に言うとこの部品に関しては『整備兵でなければ学ばない』事なのだ。その一点を勘違いしているベロペロネに指摘した。セントレアは少しホッとした顔になった。

 ちなみに自分が知っているのは、オニキスを作る時にベロペロネから教えて貰ったからだ。

 先程、ベロペロネが『新品で無いと駄目』と言った部品は、簡易自動修復機能関係の部品だった。

 確かにこれだけは新品じゃないと、搭載されている機能が正常に作動しない可能性が有る。可能性が有るだけなんだけど、整備兵からすると可能性が有るだけでも嫌がる。

 完璧に仕上げる為に、一切の妥協が許せない。それが整備兵のプライドのようなものだ。

 けれど、ここにある部品だけでやって欲しいと既に言った。それでも新品が必要だと、ベロペロネは言った。

 新品が必要な理由を尋ねると、抜き取った生体演算機構に原因が有った。バグを残すとは恐ろしい。

「その手の不具合は、まだ一度も起きていないよ」

「マジかよ。んじゃ、不具合が起きたら必ず新品に交換する。これだけは譲れん」

「流石に不具合が起きたら新品の許可は下りるでしょ。珍しい不具合として、研究の協力を求められる可能性も有るけど、こればっかりは実際に不具合が起きないと判らない」

 妥協が許せないベロペロネに、今後のアゲラタムの研究の糧になるかも知れないからと、作業の続行をお願いした。ベロペロネは何か言いたげな顔をするも、咄嗟に不具合の解消策が思い付かないのか、結界内に戻った。

 ごねられるかと思ったが、ベロペロネが何も言わずに結界内に戻ってくれて助かった。

 ベロペロネの作業の邪魔にならないように結界の外に出ると、ポケットのスマホが鳴り響いた。スマホの画面を見ると、松永大佐からの着信だった。

「はい。星崎です」

『松永だ。星崎、今どこにいる?』

「保管区です」

『そうか。連絡も許可も無く、ツクヨミ内をうろついていた他支部の人間三名を、ついさっき捕縛した。幸いにも、三人揃って試験運用隊の区画に立ち入った様子は無いが、ツクヨミに侵入した人数は計十名で、残り七人が未だに捕縛出来ていない。諜報部と憲兵部の面々が捜索しているが、遭遇するかもしれないから気をつけてくれ』

「分かりました」

 着信を切り、怪訝そうな顔をしているフラガとセントレア、不穏な空気を感じ取って結界から出て来たベロペロネの三人に通話の内容を教えた。

「「「馬鹿?」」」

 通話内容を聞いた三人の第一声はこれだった。

「組織が一枚岩じゃねぇのはよくある事だが、作戦が終わってから半月も経ってねぇんだろ? 馬鹿としか言いようがねぇ」

「同意。流石にコレは無い。無能過ぎ。神経を疑う」

「幾ら何でも、流石に無断侵入は馬鹿がする事でしょう。どうするの?」

 以上が、ベロペロネ、フラガ、セントレアの順の感想だ。三人揃って辛辣過ぎて、顔が引き攣りそうになる。

「どうもこうも、あたしは一度戻る。小型転移門を出したまま来ちゃったし」

 盗まれないと思う――と言うよりも盗むのは難しいであろう、出したままの小型転移門は仕舞う必要が有る。

 自分は一度戻ると、行動予定を述べたら三人もそれぞれ口にした。

「一緒に行く」

「私も行くわ」

「俺は作業をやんねぇとだから残る」

 全員の行動予定が決まり、ベロペロネに保管区に戻る際には連絡を入れると告げて、走って移動した。


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