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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
再会と出会い 西暦3147年11月

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不在のままで会議は終わった

 思っていた以上に議論が白熱していたのか。時計を見ると十六時半前だった。

 二時間半もノンストップだったので、流石に十分程度の休憩時間となった。

 殆どの参加者は飯島大佐の手で配られた、佐藤大佐の戦利品のお菓子を食べていた。佐藤大佐はドイツ副支部長から貰った激甘お菓子を食べていた。あの食べ方は自棄食いだ。胸焼けとかしないのかな?

 自分はセタリアから貰ったお菓子缶を開けて食べた。左右にいる松永大佐と佐々木中佐にも配った。上品で程良い甘さのマドレーヌに似た焼き菓子を食べる。お酒の上品な香りが鼻腔に届く。

 焼き菓子を一口食べた佐々木中佐は目を瞠っていた。

「星崎。これ、酒を使っているのか?」

「香り付けで香りの強いお酒を使っています。オーブンで焼く工程でアルコールは飛んでいます」

「そ、そうなのか……」

「はい。以前、松永大佐と一条大将に、大林少佐にも出しましたが、その時には何も言われませんでした」

 誰に出したのか教えたら。佐々木中佐はギョッとした。

「え!? 松永大佐も食べたのか!?」

「佐々木中佐。アルコールは完全に飛んでいるぞ」

「あ、……はい。そうなんですね」

 佐々木中佐の挙動不審な反応の意味が解らず、首を傾げた。

 休憩時間中、参加者全員が無言でお菓子を食べていた。咀嚼音と、缶コーヒーか、ミネラルウォーターのペットボトルを開けて飲む音だけが室内に響く。

 十分間、マジで無言だった。誰一人として声を上げずに、飲み食いをしていた。

 休憩時間が終わったら、議論が始まる予定だった。

 だけど、ドタバタと廊下を駆ける足音がドア越しに響いた。

「何? この音?」「足音だよな?」「走ってここに来る奴なんていたか?」「いないって!」『うんうん』

 本日、会議室に慌てて来る人間はいない。松永大佐に聞いても『いない』と回答を貰った。支部長が室内にいる全員を見回しても、『そんな奴はいない』で参加者全員の認識が一致した。

 認識が一致してから数秒後、会議室のドアが開き、走って来た人物が登場した。

「し、支部長、高橋、遅れました!!」

 全力疾走して来たのか。

 肩で息をし、ドアの枠に掴まって息を整えているのは、顔の下半分を隠す髭を生やし、服装を乱した高橋大佐だった。仕事を終わらせて、隔離部屋からここに直行したのか、微妙に何か臭う。

『ぁ……』

 皆揃って、支部長ですらも『忘れていた!』と言わんばかりに小さく声を漏らして絶句した。

 自分が聞かされた高橋大佐の扱いは『欠席』だった。現時点では遅刻だ。でも、大人一同の反応を見るに、『今日は来ない』と思われていたっぽいな。その証拠に、大人一同は反応に困っている。

「な、何だ、その反応は!?」

 室内にいる全員の反応を見た高橋大佐が顔を真っ赤にして怒鳴った。大事な会議を遅刻しておいて、歓迎される事は無いと思うの。支部長が欠席扱いしたから、マジで誰も来ないと思ったんじゃね? 

 支部長ですら反応に困っている中で、最初に立ち直ったのは飯島大佐だった。

「悪いな。今日は来ないもんだと思っていた」

「減給されるかもしれねぇのに、来ない訳ないだろ!? つか、何でこいつまでいるんだよっ!!」

 高橋大佐は唾を飛ばして飯島大佐に怒鳴り返した。そして、高橋大佐は空いているテーブルに持って来た荷物を置くなり、ビシッと自分を指差した。その回答は自分では無く、松永大佐が行った。と言うか、口を開こうとしたら松永大佐に止められた。

「呼び出したのは支部長ですよ」

「何で!? こいつが参加した会議は滅茶苦茶になったのに、支部長は忘れたんですか!!」

 頭を抱えて絶叫する高橋大佐を前にしても、支部長は冷静だった。

「高橋大佐、覚えている。覚えているが、その前に……一言言いたい事が有る」

「……何ですか?」

 支部長が発言途中で声音を低くした。頭を抱えていた高橋大佐は、支部長の様子が変わった事に気づいて警戒する。

 室内に静かに緊張が走った。

 皆の視線を一身に受けた支部長は重苦しい空気を放っていたが、軽く息を吐いてから頬を掻いた。

「大至急、シャワーを浴びて身嗜みを整えなさい。その状態でツクヨミ内をうろつくのは風紀的に良くない」

「へ?」

 支部長から指摘を受けた高橋大佐は、今になって自身の体を見下ろして気づいた。

 そこへ、追い打ちを掛けるように、会議の出席者達が高橋大佐に向かって『臭い!』と苦情を申し立てた。

 臭いと一斉に言われて、高橋大佐はショックを受けたような顔になった。

 髭で顔の下半分が隠れているのにも関わらず、高橋大佐だと判ったのは入室と同時に名乗ったからだ。

「三十分? いや、移動時間を考えると一時間か? 一時間以内で身嗜みを整えて来なさい。今すぐだ!」

「は、はいっ!!」

 支部長に命じられて、高橋大佐は再び走って去った。

「アイツは何をしにやって来たんだ?」「資料と報告書の提出じゃないか」

 誰かがポツリとそんな事を言った。誰かの回答通りだから、何とも言えない。

「さて、高橋大佐が戻って来るのはまだ先だ。高橋大佐に割り振りたい仕事が有るのなら、今の内だぞ」

 支部長が手を叩いて皆の気を引き、鬼のような事を言った。

 しかし、誰も批難しない。

 面倒な仕事は、決める時に参加出来なかった奴に押し付ける気満々な大人達だった。

 結局、高橋大佐は会議時間中に戻って来なかった。



 高橋大佐がシャワーを浴びに去った事で、会議は恙無く進んだ。

 と言うよりも、面倒な仕事を高橋大佐に押し付ける事で、会議が進んだとも言う。高橋大佐が持って来た資料だけを置いて去ったと言うのも含まれる。

 正直に言うと、『それで良いのか?』と思ってしまう。

 これまでの行動を見る限りだが、高橋大佐は書類仕事が苦手っぽい。

 でも、同じく書類仕事を苦手としている、佐藤大佐が問題無く会議に参加している。どう考えても、言い訳は通用しない。

 若干の憐れみを覚えるが、松永大佐と自分に手伝いを求めた時間を使って、仕事を進めれば良かったんじゃないかと思ってしまう。

 実際に、飯島大佐を始めとした面々も同じような事を口にした。

 会議は高橋大佐不在のまま進み、そのまま初日が終了した。

 当然だけど、高橋大佐が残した報告書類は皆で見た上で、今日の会議は終わりになった。高橋大佐は報告書類を提出に来ただけになったけど、誰かの言葉通りだった。


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