昼食を取りながら、アゲラタムについて語る
カフェオレを一杯飲んで一息吐いてからお昼を食べる。
最初は一人で食べていたが、十数分も経過すれば先月同様に、定例会議の出席者達がお昼を食べにやって来た。自分の正面に座った松永大佐から、午後の参加を知らされた。
「出席、ですか?」
「そうだ」
松永大佐の首肯を受けて、午後に立てていた予定が崩れる音を聞いた。
久し振りにお菓子を作りたかった。つーか、資料を作った意味が無いな。松永大佐の横に座り昼食を取っている飯島大佐が申し訳なさそうな顔をしている。
「わりぃな。次の襲撃が半年で来るとか言われても、まだ戦勝気分が残っている奴が多くて、今一こう、ピンと来ねぇんだ」
「作戦が終わってから、一ヶ月どころか半月も経過していませんので、それは仕方が無いかもしれませんね」
飯島大佐の反応を見て、思わず心の中で『末端はな』と付け加えそうになった。
先月行った作戦の成功は防衛軍として、十年振りだったり、過去にも行って失敗したと言う、色々と重要な意味を持っていた。
日本支部も、作戦の成功はセタリアの協力を取り付ける為に必要だった。
戦勝気分が抜けていないのは、縁日モドキで浮かれている兵士が沢山いるから判る。浮かれやすいのか、それとも、別の理由が在るのか。六月の二連勝で『超』が付く程に浮かれていたらしいし。
ま、どれだけ浮かれていても他支部の足を引っ張る事を忘れない辺り、『権力を求める人間って面倒くせぇ』と思ってしまう。抜かりないしね。ハイエナなのか、権力欲に飢えているのか、さっぱり分からん。
権力に付随する責任を果たすのならば良いけど、欲しがる奴に限って責任転嫁したり、別のところに丸投げか放棄するから、与えても意味が無いように思える。
「なぁ、星崎。次の勢力は今までよりも強いと聞かされたが、本当なのか?」
「それは事実ですね。これまでは寄せ集めのテロリストが相手でしたが、次は自前の軍隊を育成して保有する犯罪組織です。そこそこに新しい機体が出現する可能性も高いです」
左隣に座る佐々木中佐に『そこそこに新しい』と返したが、クォーツ以降に開発された新型機は無いと思う。
向こうの宇宙は長寿系が多いからか、新型機の開発間隔も長い。千年は当たり前で、聞いた限りだが、過去には一万年近くも新型機が開発されなかった時代も在る。
五百年も経過しない内に、新型機が五機以上も開発されて世に出た事は無い。
最新機がクォーツ(ルピナス帝国で手直しを受けたが、約千年以上前には原型が出来上がっている)だとすると、その前がターゲス(クォーツの原型登場から二千年以上前に開発)で、その前がオニキスになるのか?
ただターゲスは機能と性能面を見ると『失敗作』の評価を受けている。何より、先月の作戦で残存機は全て破壊されたから、除外しても良いだろう。
その前に登場した機体は、アゲラタムよりも性能が少し良い汎用機を目指して開発された、ハイドランジア、トレニア、シザンサス、モナルダ……だったっけ?
「星崎?」
「はい? あ、すみません」
指折り数えていたら、右隣に座る井上中佐に肩を突かれた。
「珍しいけど、どうしたんだ?」
「新しい機体に何が在ったかちょっと思い出していただけです」
「そんなに一杯在るのか?」
「いえ、開発の間隔が長いので、『何が在ったかな?』って感じになるんです」
「ちなみにだが、最新機はどの機体だ?」
恐る恐ると言った感じで飯島大佐が質問をして来た。飯島大佐の反応は気になるけど、開発されて世に出た機体の順番を知ると困惑に追い打ちを掛けそうなんだよなぁ。ちょっと心配だけど、教えるか。
「作戦中にガーベラと一騎打ちをしたあの白い機体です。同時期にもう四機が開発されています。白い機体には、色違いの機体が存在しますがこちらは無人機です」
「……その前は?」
「先月登場した金色の機体です。性能的には失敗作の評価を受けていますし、残機はもうありません」
自分の周りにいる四人以外の、自分の回答に聞き耳を立てていた大人達もギョッとしている。佐藤大佐は性能的に残念な評価を受けていた機体だと知り、ショックを受けていた。
「んじゃあ、……その前は?」
「作り直しが開発に含まれるのなら、オニキスですね。テラフォーミング時の船外活動用の機体を、戦闘用に作り直した機体なので、その辺がちょっと微妙ですね」
「完全な別物と化しているから開発扱いで良いだろ」
飯島大佐が肯定したので、オニキスの扱いは決まった。完全な別物と化している点は否定のしようが無い。寧ろ、手を加え過ぎだと怒られた。
「金色の機体と、その前後の機体の性能が完全に別もの過ぎるぞ」
顔を引き攣らせ気味の松永大佐が零した感想に、真実を知ってドン引いている中佐コンビが首肯した。
ターゲスの前後に開発された機体は、機能の詰め込み過ぎとか、特定方向に性能を突出させた六機なのだ。ターゲスとの明確な差は『資金と技術力』が原因で出来上がっている。
自分の場合、潤沢な資金と先史文明に近い技術が使い放題なので、下手なものが作れないとも言う。
クォーツと四機に関しては、ルピナス帝国の手入れで見た目が変わり果てているけどね。
「この前は、アゲラタムのような汎用機を目指して開発された機体が四機ぐらいあります」
「その四機の、機体の呼称は知っているか?」
「はい。ハイドランジア、トレニア、シザンサス、モナルダの四機だった筈です」
先程思い出した四機の名称を口にする。
「じゃあ、その四機の前は、どんなのだったんだ?」
「その前はアゲラタムの発展機のジユです。それ以外は完成しても、お披露目中に競争企業の妨害で爆発する事態が多かったです。壊れた事で残りの技術や部品をアゲラタム用に作り直し、採算を取る方向に走る企業が多くて、結果としてアゲラタムを超える汎用機は中々登場しない悪循環に陥っていました」
「新型機が登場しない原因が企業妨害って、嫌な現実だな」
「登場してから長い年月が経過しているアゲラタムも、パーツの耐久性を上げる、センサーやカメラの性能向上などの、部分的な性能向上の研究は行われています。一から新型機を創るよりも、アゲラタムの新しいパーツの開発をしたがる企業も多いので、結果としてアゲラタムが長期的に使われるようになっています」
「アゲラタムってどれだけ前に登場した機体なんだ?」
「そうですね。アゲラタムが登場した以降に発表された新型機は……、確か百機を超すと言われています」
「見た目の割に、新型機を百機も埋もれさせた機体だったのか!?」
聞き耳を立てていた一人の大人の絶叫が食堂に木霊した。食堂を見回すと、絶叫した本人と思しき名前を知らない長髪の男性将官がムンクの叫びみたいなポーズを立ったまま取っていた。他の大人は、二の句が継げないのか。口を半開きにしたままで固まっていた。
アゲラタムが登場したのは、十三万年以上も昔だ。今日までに発表された新型機の総数は百を超す。大体千年に一度のペースで新型機が発表されていた事も有り、『今日までに発表された新型機の総数は百を超す』は誇張では無いのだ。
過去に開発された新型機は、何かしらの方向に性能を特化させたものが多かった。小型化、大型化、可変型、スピード特化、火力重視などが、新型機として登場した。
アゲラタムはそんな中で登場した。
何かに特化しない汎用機は非常に目立った。
当時は、国や企業の最先端技術を詰め込んだ特化型が最良とされていた事も有り、初めの内は見向きもされなかった。
だが、開発が遅れていたアゲラタムのオプションパーツ(武装含む)が登場した事で評価は逆転した。
アゲラタムの真価はオプションパーツに在った。パーツを変えるだけで幅広い事に対応可能な機体は斬新だった。当時頻発していた戦争で、アゲラタムは特化型では対応出来なかった事にも対応して見せた。
特化型を数多く配備するよりも、汎用型を配備した方が対応にも困らない。
最新機が登場する度に、整備士に最先端の技術と知識を叩き込まなくても済み、整備面の負担も減った。
「嘘誇張無く、その通りです」
「妨害が酷過ぎるだろ」
工藤中将の感想に大人一同が頷いた。
「アゲラタムが評価される前は可変型機とかも在りましたよ。今は廃れて模型しか残っていませんが」
「夢もロマンもねぇのに、模型は残っているのか」
工藤中将。感心しているところ悪いけど、可変型と言っても『飛行艇に二本脚が生えた』ような状態で、高速飛行する際に脚を折りたたむ程度の変化しかなかった。
向こうの宇宙の新型機開発事情を知り、大人一同が顔を引き攣らせた。けれど、何か足りない気がする。
大人一同の顔を改めて見回して、一人足りない事に気づいた。
「今更ですけど、高橋大佐はどうしたんですか?」
「仕事がまだ終わっていなくて会議を欠席した」
飯島大佐の回答を聞き、思わず『は?』と返しそうになった。
この手の会議は基本的に欠席不可能だと思うんだが、支部長も何で許可したんだ? てか、まだ思わっていないのか?
「隔離部屋でまだお仕事をやっているんですか? 隔離部屋行きになって三日も経ちますよ」
「あの馬鹿は、三日経過しても仕事が終わらせられない馬鹿なんだ」
飯島大佐。二度も馬鹿呼ばわりして良いのか? 周囲を見ると頷いている大人が多い。あ、佐藤大佐も腕を組んで頷いている。
「向こうからお酒を樽で大量に貰ってしまったから、消費を手伝って欲しかったんですけど……」
「ここにいるのは酒豪揃いだから、高橋抜きでも消費し切るぞ」
「それなら良いですけど」
樽以外にも酒瓶が何本か在るんだけど……。
月面基地で行われた食事間での大人組の飲酒量を思い出す。
松永大佐は一滴も飲んでいなかったけど、他は全員ザルっぽかったな。
だったら大丈夫か。
酒豪のサイとフラガがこっちに来るから、余ったら二人に飲ませるか、持ち帰らせよう。
「そうだ。高橋で思い出した! 星崎、お前高橋の事をゴキブリ扱いしたんだよな? 野郎を簡単に害虫扱いするんじゃない! 男の心はガラスのように脆いんだぞ!」
急に立ち上がり自分を指差した中佐階級の男性から、決まり文句のような事を言われた。
男の心はガラスのように脆い? それは支部長と佐藤大佐も同じなのか?
「? 三日前の高橋大佐は、三種類の催涙スプレーをそれぞれ三プッシュで克服し、松永大佐に飛び掛かろうとし、逆に頭を床に叩き付けられて気絶し、大の字に伸びて、手足がピクピクと痙攣していましたけど……」
三日前の起きた事を見たままに報告したら、男性中佐は顔を引き攣らせて絶句した。何かいけない事を言ってしまったのかと思い、室内を見回した。
男女共に『それは仕方が無い』と言わんばかりの顔をして呆れていた。
自分を指差した男性中佐も、口を半開きにしたままで固まっていた。
「質問ですが、『男の心はガラスのように脆い』と言うのは、支部長とか神崎少佐とか工藤中将とか佐藤大佐とかも当て嵌まるのですか?」
質問をしてから大人一同を見回したら、松永大佐が一言言った。
「全員除外対象だ」
「何でだよ!? つうか、俺の名前まで上げるんじゃねぇ!」「星崎。俺のメンタルも割と脆いぞ?」
騒ぐ工藤中将と佐藤大佐を見てから、飯島大佐に確認を取る。
「飯島大佐、本当ですか?」
「どっちも虚偽申告だな」
「「確認を取るな!」」
飯島大佐にバッサリと切られて、二人は怒った。
その後、他の男性陣を巻き込んでギャンギャンと文句を言い始めたが、ふと気になった事を質問した。
「『男の心は~』の決まり文句を使うと、女性の心は頑丈だと言っているようなものですけど良いんですか? 女性差別だって、『あとになってから』怒られませんか?」
質問への回答は無かった。騒いでいた男性陣は無言になり、恐る恐る女性陣の顔を窺った。
顔色を窺われた女性陣は皆イイ笑顔だった。女性陣は声を揃えて一言言った。
『覚悟しときなさい』
『……分かりました』
対応する男性陣も声を揃えて返答し、テーブルに突っ伏した。




