翌日、その後を知って呆れた
翌日。飯島大佐と三人で昼食を取る事になった。何用で飯島大佐が来たのかと思えば、松永大佐が昨晩の出来事を飯島大佐に報告した結果だった。飯島大佐経由で沢城先輩に連絡を入れるには、事情を説明しなくてはならない。
当然のように、食事中の話題は昨晩の出来事だ。
「はぁ~……。それであの馬鹿は朝からシミュレータールームに引き籠っていたのか」
飯島大佐から質問を受けて昨晩の詳細を語ったら、最初に返って来たのはため息だった。てか、あの先輩はシミュレータールームに引き籠っているのか。
何やってんの? それしか感想が出て来ない。
「それにしても、お前は何時の間にそんな事を言われたんだ?」
「先月中旬終わり頃です。松永大佐、夕食後の食堂で大林少佐が持ち込んだ衣装を着て写真を撮る事になった日の事は覚えていますか? 途中で高橋大佐と神崎少佐が来た日です」
「……あぁ、あの日か」
飯島大佐の質問に回答し、松永大佐にあの日の事を覚えているか確認を取った。あの日に誰がいたのかも覚えているだろうと判断して、言葉を重ねる。
「あの日に『縁日の日はツクヨミ内で出歩きを控えて貰う事になった』と言われました」
「定例会議でそんな意見が出ていたな」
「星崎が行きたがる可能性を考えて、四日に言う予定だったな」
松永大佐。四日は二日前なので、割と直前だと思うんだが? 前日か、当日に言わない優しさか?
「星崎は縁日に行きたいのか?」
松永大佐の発言を聞いた飯島大佐は、少し考えてから自分の希望を尋ねて来た。
「会議の資料と支部長からの質問の回答の二つを作り直す事になったので、初日は時間的に行けません。それに人が多いところに行くと、トラブルに巻き込まれる可能性が高くなるので、先月言われた通りに行くのは止めようかと思っています」
「我慢しなくても良いんだぜ」
「いえ、我慢はしていません。二日目以降の予定も昨日決まったので……」
「予定が決まった? 昨日、何か起きたのか?」
飯島大佐の質問返しを受けて、昨日行ったセタリアとの通信に立ち会った顔触れを思い出す。
作戦開始前に行った通信には飯島大佐も立ち会っていた。だが、昨日の通信には立ち会っていない。
昨日行ったセタリアとの通信内容を話すべきか悩み、松永大佐を見た。自分の視線を受けた松永大佐はゆっくりと首を横に振った。
「俺には言えねぇのか?」
「佐久間支部長が必要になるか不明ですが、会議初日が終わったら判明します」
「支部長に聞いたら教えてくれるのか?」
「それはどうでしょうね。私から言える事は、他所から人が来る事だけです」
「他所から人が来る? 他所から来る奴で、星崎の予定が埋まる?」
松永大佐から断片的な情報を得た飯島大佐は考え込んだ。
自分と他所の人間と聞いたのでは、何の繋がりも無いので意味不明だ。
だが、自分に関する正しい情報を得ていると、他所の人間が『どこの所属の人間』なのか解る。
大変分かり難いが、飯島大佐は自分とルピナス帝国との関係を知っている。松永大佐が『他支部』と発言していないのも、一つのポイントだ。ここに気づいた飯島大佐は『成程』と頷いた。
「確かに、予定が埋まっているな。だがな、縁日二日目の午前中は予定が入っていないだろ?」
「……言われて見ると、確かにそうですね」
「飯島大佐。しつこいですよ」
ここは松永大佐の意見に同意する。飯島大佐にしてはやけに食い下がるな。
「沢城がシミュレータールームに引き籠ったって言っただろ? 部屋に入る時のあいつは涙目だったんだよ。しかも、たまに部屋から、ヤケクソじみた声まで聞こえるんだ」
飯島大佐が明かした現実を知り、思わず呆れてしまった。あの先輩は本当に何をやっているんだよ。
「なんかさ、見ていて不憫なんだよ……」
「私からすると、不憫よりも先に呆れが出ます」
先輩には悪いが、自分も松永大佐と同意見だ。松永大佐の言葉を首肯してしまう。
「星崎にこんな事を頼みたくは無いんだが、縁日二日目の午前中の予定を空けてくれないか?」
「タダで予定を合わせるのですか?」
「そんな事はしねぇ。今日の午後と明日行う、沢城の訓練成績が良かったら、星崎に頼みたい」
飯島大佐の松永大佐への回答はフラグだった。
訓練学校にいた頃にも、定期試験の度に似たような事が起きた。マジで懐かしいな。
「飯島大佐。私は構いませんが、それを教えるのは沢城先輩だけですか?」
「そのつもりだが、何でだ? 不都合でも有るのか?」
「実はですね――」
飯島大佐に訓練学校で実際に起きた事を教える。
それは座学の定期試験半月前によく起きた。
男子の上級生は『次の試験の成績が何番だったら、頼みが有る』で、同学年の男子は『次の試験の成績が星崎よりも上だったら、頼みが有る』だ。言っている事は微妙に違うが、内容は変わらない。一人二人では無く、各学年の男子が十数人単位で同じ事を自分に言いに来る。二年生に進級した以降は、下級生もここに加わった。各学年の代表者が来て欲しい。
そんでこの発言を一体どこで聞いているのか。必ず同じ内容が女子にも広がっていた。
そして座学試験当日。
男子は『我こそは!』と、女子は『絶対に阻止してやる!』と各々試験に臨むのが、毎度お馴染みの光景だった。
男子の上級生のほぼ全員が、女子の先輩の手で阻止された。男子の同級生と下級生もほぼ同じ結果だ。達成した男子はいたけど、どこへ行こうとも女子が監視の目を光らせていた。
ちなみに男子からのお願い事は……大体、自分が作った焼き菓子だった。
教官達は呆れていたけど、座学の平均成績が上がっている事から何も言わなかった。
「そんな事が起きていたのか」「女の執念は恐ろしいな」
訓練学校時代の試験期間中の一幕を教えると、大人二人の顔が引き攣った。
「はい。過去の経験上、一人だけに教えるのは不可能だと思います」
「ん~……それなら、トーナメント制にしても良さそうだな」
飯島大佐。一人に教えられないからって、トーナメントを行う必要は無いと思う。松永大佐も同じ事を思ったのか、半眼になっている。
「そこで『止める』と言う選択肢は無いのですか?」
「面白そうだからやる。たまには賞品が有った方が良いだろ」
「その賞品は星崎になるのですが……」
松永大佐の言う通り、賞品は自分だ。何で賞品扱いになるんだろう。
「縁日は十時から開始だ。十二時までの二時間だけなら、良いだろ?」
「良いも何も、私ではなく、星崎に聞いて下さい」
大人二人の視線が自分に集まった。
とてもではないが、嫌と言える空気ではない。大人二人ともその空気を感じ取ったのか、『嫌なら嫌と言っても良い』と言ってくれた。
悩んだ末に『二時間だけならば』と承諾した。
「良いのか? 無理をしなくても良いんだぞ」
「無理はしていませんよ。多分ですけど、女子一同が執念で番狂わせを起こす可能性が高いですし」
松永大佐は心配してくれたが、経験上、女の執念を甘く見てはいけない。何が何でも阻止する。
翌日の夕方。飯島大佐からトーナメントの結果を教えて貰った。
去年度と一昨年度の卒業生の女子一同が奮戦した結果、自分の予想が見事に的中した。
敗者となった男子一同は、皆四つん這いになって床を叩いた。
一方、勝者の女子は他の女子一同から胴上げされて称賛された。
トーナメントを制した女子の名前は『小菅香音』だ。
聞き覚えが有ると思えば、去年度卒業した、同学年の女子を纏め上げる女ボスの名前だった。この先輩は実技で学年トップ争いを行っていたトリオの一人だった。番狂わせと言うより、執念で勝ったのか。
事の発端の沢城先輩は二位だった。二十分を超える激戦の末に負けたらしい。惜しかったね。




