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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
作戦と試練 西暦3147年10月後半

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食事会後の一幕とツクヨミへ帰還

  食事会は、一時間が経過する前に終了となった。

 予め用意されていたお酒と食事が、参加者全員の胃袋に収まったからである。四十本近い酒瓶が全て空になっているにも拘らず、顔が少し赤いだけで誰一人として酔っ払っていない。一人ぐらいは千鳥足になっている人が出てもおかしく程の飲酒をしていたのに。大人一同の肝臓はどうなっているんだろう?

 去って行く大人達は元気だった。二日酔いと無縁なのかね? 残っている支部長と一条大将は何かの打ち合わせを始めている。大林少佐は二人にお茶を出していた。

 一方、お酒を一滴も飲んでいない松永大佐は解散と同時に、座ったまま自分を隣の椅子に降ろした。普段通りに通信機を使って、どこかと連絡を取っていた。艦の補給の進捗状況の確認かな?

 一人で艦に戻りたいけど、松永大佐に襟首を掴まれているので移動は不可能だ。自分は猫扱いなのか?

 そのまま待っていると、通信を終えた松永大佐は大林少佐を呼び、何やら耳打ちをした。

 松永大佐からの内容を聞いた大林少佐はニヤリと笑い支部長達のところへ戻った。不吉と言うか何と言えば良いのか。

 誰かが不幸な目に合いそうな予感がした。



 三十分後。予感は的中した。何故なら、顔色の悪いクライン少佐がやって来たからであ~る。相変わらず派手な化粧と相まって、クライン少佐が諦めて連行される事を受け入れた孔雀に見えて来た。うっかり失言の代償としては重いかもしれないが、下手な同情は禁物である。

 クライン少佐は自分と松永大佐以外にも、予想外の野次馬が三人もいる事に気づいて顔を真っ白にし、座ったまま(松永大佐に襟首を掴まれたままで立てない)自分を指差して叫ぶ。

『あ、アンタ、バラしたの!?』

『口を滑らせたのはマオ少佐だ。全員が集まっている時に口を滑らせたので、事情を説明しただけだ』

『それをバラすって言うのよ!!』

 松永大佐から語られた真相を知り、クライン少佐は悔しそうに『あのクソ野郎』と毒づいた。どうやら、こっちがクライン少佐の素の性格っぽいな。松永大佐にヤケクソ気味にキレて騒ぐクライン少佐の姿は馬脚を露わにしたと言うよりも、化けの皮が剝がれたって感じだ。

 化粧で顔を作って年齢を誤魔化す事は出来ても、本来の性格までは隠せないのか……ドンマイ。

 クライン少佐はキレて、犬が吠えるように松永大佐に対して悪口雑言をつらつらと言い立てる。見ようによっては、チワワかパピヨンが吠えているようにも見えた。松永大佐が笑顔で聞き流しているので、尚更そう見える。構図的には大型犬に向かって、虚勢を張って吼える仔犬と言ったところか。

『大体ね、そこのアンタ!』

 松永大佐に対して文句を言い続けていたクライン少佐だったが、突然、怒りの矛先が何故か自分に変わった。まだ騒げるらしい。クライン少佐の肺活量はどうなっているんだろう。

『大した美人でも無いくせに、何で松永大佐の横にいるのよ。私みたいな一番の美人でも無いくせに』

 クライン少佐の物言いを受けて、自分は首を傾げた。クライン少佐が一番の美人か否かは、他の女性を見ていないので議論の余地が残っている。美人には色んな種類が存在する。ルピナス帝国にいた頃に、様々な美人を見たから思うんだが、美『女』では無く、美『人』なのかね? 

『一番の美人? それって、松永大佐の事ですか?』

 抱いた疑問を解消すべく、質問を口にしたら空気が音を立てて凍った。クライン少佐は目を見開いた間抜け顔のままで動きを止めて、そのまま動かなくなった。

「ぷっ、あはははは!」

 大林少佐は噴き出すなり、クライン少佐を指差して大爆笑した。

 支部長が大林少佐に『指を差すな』と注意したが、効果は無い。一条大将はこちらから顔を背けているが、肩が小刻みに震えていた。最後に松永大佐の様子を確認すると、能面のように無表情だった。表現としては『神妙』の単語を使った方が良いかもしれないけど、神妙と言うには松永大佐の瞳孔が収縮し過ぎていた。

「ぷくくっ、星崎、ぷはっ、ナイスよ、くくっ」

「いや、ナイスじゃないからね。と言うか、何時まで笑っているの?」

 そんな会話が聞こえて来たので、音源に視線を移動させる。そこには、テーブルに突っ伏した大林少佐と額に手を当てている支部長がいた。一条大将はこちらに背を向けてパーティションを叩いていた。

「星崎。美人って単語は大体女性に使われるものだと思うんだけど?」

「美女じゃなくて、美人ですよ? 美人と言う単語は『性別を問わずに』用いられる単語ですよ」

 支部長からの質問に首を傾げて回答した。

 一度だけ、国語辞典で調べたんだけどその時の解説文に『容姿の美しい女性。容姿の美しい男性』って書いて在るのを見つけた。気になって色んな出版会社の国語辞典でも『美人』の単語を調べたら、解説文はほぼ同じだった。調べものに適した事で有名なネットのサイトの解説文も似たような内容が書かれていた。

 でも、大人四人の反応を見ると『やっぱり女性に対して使う』のが世間の一般常識なんだと肌で感じる。

 支部長も『美人の単語を女性にのみ使う派』だったのか、自分の回答を聞いたら黙り込んでしまった。

 ……さて、どうしよう。

 混沌とした状況となってしまったので、大人四人の様子を見る。

 支部長は黙り込んだまま。一条大将と大林少佐は、揃って笑い過ぎが原因で『腹が痛い』と涙を浮かべている。クライン少佐は間抜け面のまま固まったまま無反応。松永大佐は、何故か笑顔を浮かべたままだ。

 状況の打破は難しい。どうするかと頭を捻っていたところへ、パーティションを叩く音が明瞭に響いた。誰かと思えば、ハルマン大佐だった。

 現れたハルマン大佐は混沌とした状況を見て目を丸くしている。気持ちは解るよ。誰が見ても理解不能な光景だもん。ハルマン大佐は会話が可能そうな自分のところへやって来て、状況の説明を要求した。

 現状をどうにかしてくれそうな人なので、クライン少佐が呼び出された辺りから説明した。ついでにやって来た理由を尋ねたらクライン少佐を探して来たそうだ。スマホの時計で時刻を確認したら、二十分も経過していた。

 それにしても所属が違うのに何故と思ったが、ハルマン大佐の友人でクライン少佐の上官の御仁が、クライン少佐の帰りが遅い事を気にしてハルマン大佐に『どこかで見ていないか』と連絡を取ったらしい。ハルマン大佐は、クライン少佐が松永大佐に失言をした現場にいた一人だ。

 作戦前の僅かな時間で起きた出来事だったが、ハルマン大佐は覚えていたのだろう。だから、ここに来た可能性が高い。

 現状の説明途中でハルマン大佐も『一番の美人は松永大佐だ』の辺りで、少しだけ顔を引き攣らせた。何故だ? 

 そして、説明を全て聞いたハルマン大佐は……クライン少佐の頭頂に拳骨を落とした。突然襲って来た痛みで正気に戻ったクライン少佐は頭頂を押さえて蹲る。続いて、テーブルを叩き、音を使って支部長を正気に戻しに掛かる。幸いにも、テーブルを叩く音で残りの大人四人が元に戻った。

「松永大佐を美人扱いしたらウチの女性陣がキレ散らかす……はっ!?」

 ただし、支部長だけ我に返る直前に奇妙な事を呟いていた。それを聞いた松永大佐の笑みが深まった。支部長は滝のような油汗を掻く。

 話が止まる気配を感じて、松永大佐に呼び掛ける。

「松永大佐、クライン少佐はどうするのですか?」

「クライン少佐の上官に苦情を入れる。そして、始末書を提出させる」

「それで松永大佐の気が済むのならイイよ」

 二つ返事をするように、支部長は許可を出した。クライン少佐の上官が誰だか知らないけど、嫌なとばっちりだね。

 松永大佐はクライン少佐に改めて始末書の提出を要求した。クライン少佐は血の気の無い顔で慌てるも、ハルマン大佐に連れて行かれた。ドイツ支部まで責任を持って連行してくれるらしい。クライン少佐は嫌がっていたけど、大林少佐がどこから取り出したのか『首輪とリード』をハルマン大佐に渡そうとしたので、肩を落とした諦めた。

 ハルマン大佐の後ろをトボトボと歩いて付いて行く姿は、まさに敗北者だった。

「負け犬に相応しい姿ね」

 大林少佐がクライン少佐を鼻で笑っている。階級的にはギリギリセーフだけど、他支部の人相手にやって良いのかねと思った。でも、口は禍の元、と言う格言が存在するので貝になって見送った。

 


 このあと、自分は松永大佐と一緒に艦に戻る事になった。

 一緒に移動する戦艦の補給が終わるまで残り一時間も残っているらしいが、松永大佐は艦内に居たいそうだ。女性陣対策なのが丸判りだ。

 道中で自動販売機が並ぶ無人の購買部に寄り、共に飲み物を購入した。ツクヨミまでの移動時間はどれだけ長くても十時間だ。その間に一眠りすればあっと言う間に時間は過ぎてしまう。それでも、時間潰しは必要だ。何かを飲んでのんびりとするのも良いかもしれない。

 なお、支部長は明日月面基地で行われる作戦終了に伴い、今後を話し合う為の会議に出席する為に残る。一条大将と大林少佐はその補佐として残る。

 現時点で日本支部とルピナス帝国の取引の事は『防衛軍の長官と各支部長』に限定で教えるそうだ。教えると言っても、『作戦が成功したから、向こうから情報が少し貰えるかもしれない』とだけ言うらしい。会議が紛糾する事が約束された発言だが、セタリアにも『選ぶ権利』は存在する。

 日本支部は『接触しても良いかも』と思われただけと主張するらしい。

 本当に会議がどうなるか不明だけど、そこは支部長に頑張って貰おう。



 一時間後。日本支部が保有する軌道衛星基地ツクヨミに向かって、月面基地を出発した。

 作戦開始前よりも戦艦の数が減っているけど、生存者が多い事に越した事は無い。セタリア経由でティスに文句を言っておこう。

 そして、数時間後。一切のトラブルが発生する事無く、ツクヨミに到着した。時差の都合で到着時刻は十月三十一日の午前中だ。

 戦艦から降りてあれこれと色々とやっていたら、あっと言う間にお昼になった。


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