作戦は終わり、スタートラインに立った
知っているようで知らない青年に見送られて、小惑星から出て戦闘空域に戻る。
転移門周辺に味方機の姿は無い。敵機が沢山いた。遠くに見える戦況は旗色の悪い状況だが、逆を言うと『味方を巻き込む可能性が無い』とも言える。
「アゲラタムよりも速いんだな」
「オニキスはアゲラタム用のオプションパーツ改造して付けているので、大体二倍は速いですね。この速度で行った戦闘データを基にして、クォーツを開発したんです」
「そうだったのか」
転移門へ全速力で移動中。松永大佐の口から、感嘆とも感心ともつかない、あるいはその双方が綯交ぜになった、感想が零れた。
これまでに、実際の戦闘で向こうの宇宙との技術力の差を感じているから出た、感想なのかもしれないな。実際に、向こうの技術に触れるようになったのは八月中旬辺りからだったから、まだ二ヶ月程度の時間しか経過していない事になる。
そんな短期間で色々と見て体験するともなれば、嫌悪感を抱く暇すら無いのかもしれない。
「む?」
正面からターゲス三機を含む三十近い敵機が接近して来た。予想外の機体の登場に慌てているのか、それなりに離れているにも拘らず、ターゲスは焦ったようにライフルを乱射している。と言うか、まだ残っていたのか。
「星崎っ」
「大丈夫です。速攻で終わらせます」
声に焦りを滲ませる松永大佐を宥めてから対応を始める。
オニキスの両肩の収納機からビームカノンを取り出し、両肩に装着。続いて、ビームライフルを取り出して両手に持った。威力過剰な気がするけど、これ以上時間を掛ける訳には行かない。
敵機への対処が雑になっても、今必要としているのはスピードだ。今は雑兵の相手をしている場合では無い。
右肩のビームカノンの砲身の長さを調整してから一発放った。ビームカノンより放たれた一発は、拡散砲のように小さな白いビームの弾丸が広範囲に飛んで行った。
ビームカノンの砲身を最大限に伸ばして行う砲撃は、小さな無人島を消し飛ばす程の威力を誇る。だが、それでは芸が無い。砲身を短く微調整して拡散砲も放てるようにした。
それなりに至近距離から放たれた拡散砲は、接近しつつあった雑兵を瞬く間に全滅させた。その間を通り過ぎて、転移門へ向かう。
今度は接近して来た三機一組の敵機に向かって、左手に持ったビームライフルを三発分チャージしてから放った。極太の白いビームが三機を飲み込んだ。白い閃光に飲み込まれた三機は数秒と持たずに爆散した。
そのまま、数が多ければ拡散砲で対処し、六機以下ならばチャージしたビームライフルで対処しつつ、転移門へ向かう。
「……」
背後の松永大佐が絶句しているのが、何となく空気で判った。けれども、構っている暇は無い。
単騎で接近して来た敵機を、オニキスの足先に仕込んだビームサーベルで横真っ二つに切り捨て、背後の爆発光を無視して先を急いだ。
転移門を破壊する手順は無い。
結合部位を破壊して分解すれば、旧式の転移門は勝手に自壊する。これが新式だったら『自動で結合を維持する』機能が起動するけど、制限時間が存在する。その制限時間の『一時間以内』だったら、形状維持を可能とする。一時間を越えたら流石に自壊が始まってしまう。大体一時間以内で対処は終わっていた。
さてそんな事よりも、転移門を破壊する手順は無いが、弱点だと誤認したままの転移門の先端部位を最初に破壊する事にした。再度、転移門が地球の近くに登場した時の事を考えて『ここは弱点では無い』と――戦闘映像の記録を録っている事を信じて――記録に残す為にも、一括で破壊したい気持ちを抑えて個別に破壊する。
ビームライフルをチャージしながら、転移門の先端部位が視認可能な距離になるまで近づく。途中の敵機は左で撃墜し、右は目標の破壊用にフルチャージしている。
両手に装備しているビームライフルはチャージすれば射程距離が延びる。フルチャージすれば最大約数十キロ圏内が射程範囲内となる。威力よりも貫通力を重視したので、ビームカノンに比べると最大射程距離は短い。それでも射程距離が数十キロも在れば十分だ。
射程距離を考えると、転移門の防衛を全て突破する必要は無い。視認可能な距離にまで近づいてから、簡易照準を画面に表示させ、ビームライフルを放った。
ビームライフルから放たれた極太の白い光は、盾になるようにいた十数の敵機を爆散させながらも進み、転移門の先端部位を貫通した。一拍の間を空けてから爆発する。爆発は連鎖的に広がり、先端部分と本体の結合部位が崩れ始めた。結合部位が崩壊した結果、転移門自体が傾き始める。
「良し、次っ」
先端部位が爆発に飲まれて崩壊した事を確認してから、簡易照準を一度非表示にして、次の目標に意識を切り替える。
次の破壊対象は転移門の本体だ。
だが、転移門自体が少し傾き始めている上に、全体的に大きい。直径二十キロを超える巨大な建造物だ。転移門は宇宙用の戦艦も利用する。その為、戦艦の巨体が原因で渋滞が起きないように配慮しなくてならなくなった。渋滞を解消する為に転移門は大きくなり……いや、これ以上は関係無い事だ。
ビームライフルを持ったまま、傾き方を見てどこから砲撃するのが良いか決めてから移動を始める。
転移門をビームカノンで砲撃して破壊すれば作戦は強制終了――じゃなくて、作戦完了となる。ここで最後の問題は転移門の大きさだ。転移門はとにかくデカい。砲撃をするのならば、ある程度の距離が必要となる。また、距離以外にも周囲に気を遣う。今回は周辺に味方機皆無だから気にしない。
両肩のビームカノンの砲身を最大に伸ばして、移動しながらチャージを始める。
少し離れたにも拘らず、敵機の攻撃が飛んで来た。一部とは言え破壊したから、警戒対象になったんだろう。少し近づかれたが、オニキスと敵機では移動速度が違うのであっさりと振り切ってしまった。移動先で振り返ったら正面に敵機が一杯いそうだ。
「まぁ、纏めて薙ぎ払えば問題は無いか」
「……お前は何を薙ぎ払う気だ」
「? 敵機と転移門ですよ」
松永大佐の独り言なのか、質問なのか判らない呟きに回答した。だが、松永大佐から反応は返って来ず、唖然としたような空気だけが伝わって来た。松永大佐に何度か呼び掛けたが、反応は返って来ない。再起動するまで放置するしかないな。
砲撃を始める位置に到着したが、フルチャージはまだ終わっていなかった。終わっていないと言っても、十秒も待てば終わる。その間にビームライフルを収納機へ仕舞い、再度簡易照準を全周囲画面に表示させる。
……いざ、作戦を強制終了させるっ!!
フルチャージ完了と同時に、両肩のビームカノンを同時に放った。
先程も放ったビームライフルの倍以上の太さを持つ太く白い光が、射線上の敵機を飲み込んでから転移門の側面に当たり――いとも簡単に貫いた。そのまま反対側の側面へ向かいこちらも貫通する。そのままビームカノンで薙ぎ払うようにオニキスを左右に動かせば、転移門だけでなく、周囲の敵機までも飲み込んだ。
時間にして十秒程度だっただろうか。体感としては一分近くの長い時間を感じた。
転移門の本体を貫いた白い光が消えた。その直後、転移門が端から爆発した。連鎖的に起きた爆発が転移門を飲み込んで行く。爆発の巻き添えを受けた敵機が続出したが、爆発は止まらない。そして、一際大きな爆発が起きた。画面が白くなる程に強い光が発生した。そして、爆発が収まると、そこには残骸だけが残っていた。
百年も地球に被害を齎していた構造物の終わりとしては、実にあっけない最後だった。
「終わった、のか……?」
松永大佐の呆然とした声はか細いぐらいに小さかったが、自分の耳には確かに届いた。
「はい、終わりましたよ。作戦のきょ、完了です。作戦成功ですよ」
うっかり『強制終了』と言いそうになった。慌てて言い直したが、後ろの席に座る松永大佐は目の前の現実を受け入れる事で手一杯なのか、突っ込みは入らなかった。
ここは、自然な反応が返って来るまで待つか。
待つ間に、残党が残っていないか探す。敵機は粗方撃墜したと思うが、用心する事に越した事は無い。
周辺の探索を行っていると、画面に通信が来た事を知らせる表示が出た。録画状態にしてから通信に出ると、画面に映ったのはティスでは無く、セタリアだった。使う言葉をルピン語に切り替える。
『はぁい、クゥ。短距離転移門の破壊を確認したわ。周辺に残党もいないわよ』
『そう、ありがと。破壊を確認したって事は、条約範囲内での援助を行う事を認めるのね?』
『ええ。認めるわ。ちょっとクゥが頑張り過ぎな気もするけど、ディフェンバキア王国からの条件は突破したみたいだし。少し大目に見ましょう』
少し気にしていた事を言われたが、松永大佐達三人のお陰でどうにかなりそうだ。
『基地に帰還してからで良いから、また通信を頂戴。何時でも良いわよ』
『分かった。少し落ち着いたら通信する』
『またね~』
セタリアは手を振りながら通信を切った。録画状態を解除し、両肩のビームカノンを収納機に仕舞う。収納機に何かを入れられたみたいだったが、セタリアに聞くのを忘れたな。いや、また通信するからその時に聞けばいいか。
「松永大佐、帰艦しますよ」
「……」
「あれ? 松永大佐?」
二度も呼び掛けたが、松永大佐から返事が無い。操縦席から身を乗り出して背後を見ると、松永大佐は呆然としたまま画面に映る転移門の残骸を見ていた。
十年越しに作戦が成功したから、なのか?
三度目の呼び掛けは大きめの声で行った。そしたら、三度目にして松永大佐はやっと反応を見せた。ただし、声は何となく虚ろに感じる。
「あっ、……ああ。済まない、ぼんやりとしていた」
「良いですよ。今から帰艦します」
「分かった」
オニキスの武装は全て収納機に仕舞っている。手足にビームサーベルを仕込んでいるけど、使う機会は無いと思いたい。
帰艦する為に、オニキスの方向を変えて移動を始めた。
また一つ、セタリアとティスからの無茶振りを達成した。
今回に限っては、やらないと色んな意味で不味いから進んでやったけどね。
操作盤のボタンを幾つか押して、画面の一部に背後を映し出した。映像に映るのは転移門の残骸だ。これらの残骸がどうなるかは不明だが、クリソプレーズの整備をしているところを見た。これから察するに、ディフェンバキア王国が残骸の中でもこちらの宇宙に流出しては困るものだけ、彼らが回収するだろう。防衛軍側も少しは回収するだろうが、回収対象と認識されるものは少ないだろう。
転移門の残骸の映像を消し、遠くに見える艦隊群を見る。あそこの中にこれから帰艦する戦艦が混じっている。旗色が悪そうな状況だったが、戦艦の残数は予想より多い。けれども、それなりに減っている。戦艦の周りには、生き残りの戦闘機の姿も見える。これはオニキスを警戒しているな。
逆の立場なら、警戒するのは当然だな。自分もそうする。
オニキスを一旦、停止させた。ここの辺でガーベラ弐式を収納機から取り出して、抱えて移動するしかないかな?
「?」
ガーベラを取り出すタイミングについて考えていたら、後ろから微かに寝息が聞こえた。コックピット内のカメラを操作して後ろの座席を見ると、松永大佐が寝落ちしていた。ヘルメットは右の肘掛けに引っ掛かっている。開けたパイロットスーツの隙間から、黒いインナーウエアが見えている。だが腹部を見ると、血が滲んだ包帯が見えた。更に、腹部に添えるように置いていた右手は細長い何かを二つも握っていた。形状から考えると、鎮痛剤が入った携帯用の使い捨て注射器だな。しかし、松永大佐は鎮痛剤を使ったのか。となると、寝落ちは鎮痛剤の副作用と、単純に作戦が終了した事による、緊張の糸が切れた結果か。
移動開始前に呼び掛けても返事が無かったのは、単純に眠気を我慢していたんだな。道理で声が虚ろに感じたのは、眠気に耐えていたって事か。
慣れない戦闘を行い負傷して、緊張の糸が切れたら、疲れがどっと押し寄せて来る。自分だったらその疲れに負けて寝落ちする。
「ん~……しょうがないか」
その結論に至り、そっとしておく事にした。
オニキスを操作して、収納機からガーベラ弐式を取り出して抱える。そのまま一分程度移動したところで、腰の辺りから振動音が聞こえて来た。
「何だ?」
こんな時に何かと思えば、スマホが振動していた。オニキスの移動を停止させ、ウエストポーチから取り出して画面を見ると、井上中佐からの着信だった。
後ろで眠っている松永大佐を起こさないように、音量を小さくしてから着信に出る。
『星崎、今どこにいる!?』
「あれ? 黒い機体で帰艦するって言いませんでしたっけ?」
『……あっ!?』
井上中佐の叫び声に首を捻ってから回答したら、まさかの反応が返って来た。
忘れていたのかよ。
そんなぼやきが口から洩れそうだ。内心でぼやく自分とは反対に、井上中佐は激しく狼狽え始めた。
『も、ももも、勿論覚えているぞ! あ、あー、あっ!? ま、松永大佐はどうした!?』
「一緒にいますよ」
今は寝ているけどね、とは流石に言えない。
「何だか警戒されていますけど、そっちに行っても大丈夫ですか?」
『その場で待て。佐々木がナスタチウムに搭乗して待機しているから、今からそっちに向かわせる』
「分かりました。佐々木中佐と一緒に帰艦します」
井上中佐の指示に従うと対応を返したが、通話は終わらない。
「えー、井上中佐、どうしました?」
『星崎。作戦は成功で終わったんだよな?』
神妙な声で、井上中佐から奇妙な質問を受けた。質問を肯定したが、返って来るのは困惑だった。
「そうですけど、それが、どうしたんですか?」
『いや、劣勢が一気に覆されて、作戦が成功で終了したから、どこも困惑しているんだ。俺もたった一機の行動で、戦況が引っ繰り返されて終わるってのが慣れないんだ』
「そうでしたか。対象物の破壊が成されたんですから、素直に成功だと喜んでも良いと思いますけど」
『佐々木じゃあるまいし。お前は気楽で良いな』
脳筋系な人と一緒にして欲しくは無いんだが。井上中佐の声が何時も通りに戻ったので、声に出さずに我慢した。
『星崎。お前と長々と話していて、松永大佐の声が全く聞こえないんだが、どうしたんだ?』
井上中佐の疑問を受けて数秒悩み、どの道、知る事になるんだから良いかと教える事にした。
「松永大佐なんですが、渡したサバイバルキットの鎮痛剤を二本も使ったからか、気づいたら寝落ちしていたんです」
『はぁああああっ!? ちょ、ちょっと待て! た、たた、担架が要るのか!?』
鎮痛剤を使ったと言っただけで、井上中佐は仰天しつつも、担架が必要と判断した。合っているんだけど、動揺し過ぎ。
「今は眠っているので、必要ですね」
『マジでっ!』
井上中佐の絶叫を聞き、何故かムンクの叫びを思い出した。『あわわ』と慌てふためいている井上中佐をどうやって宥めるか考えていると、タイミング良く正面から非武装のナスタチウムが接近して来た。
「井上中佐。正面から非武装のナスタチウムが来ました。佐々木中佐が乗っている機体でしょうか?」
『え? あ、た、た、多分、な? 今、確認を取る』
通信機の受話器から井上中佐があたふたしながらも、艦長経由で佐々木中佐に確認を取っている会話が聞こえた。艦長が近くにいて、佐々木中佐の声がはっきりと聞こえるって事は、井上中佐はブリッジにいるのか?
『星崎。佐々木にナスタチウムのコックピットから顔を出して、右手を振るように指示を出した。見えるか?』
「はい。正面のナスタチウムから誰か出て来て、右手を振っていますね」
ナスタチウムのコックピット部分を拡大表示にすると、ヘルメットのバイザー越しに佐々木中佐の顔がはっきりと見えた。
『そのナスタチウムと一緒に行動しろ。ガーベラはそのまま運んでくれ』
「分かりました」
この応答を最後に、通信は切れた。
ナスタチウムのコックピットから出て来ていた、佐々木中佐がコックピット内へ戻った。コックピットのハッチが閉まると、ナスタチウムはすぐに反転して移動を始めた。自分もオニキスを操縦してナスタチウムに続く。
まだ一波乱ありそうだけど、一つの作戦が成功で終わった。
ゴールに辿り着いたようにも思えるが、実際はスタートラインに立っただけだ。
これからが本当の意味での勝負だろう。
「それにしても、アレの対処ぐらい向こうでやって欲しいわ~。前にあたしがアレを、半日休暇を潰された怒りでぶった切った時、『対応が試せなかった』って、滅茶苦茶キレ散らかしたんだから、そっちで対応しろっての。何で丁度良く次元の亀裂を見つけたからって、他所の宇宙に不法投棄すんのよ。次元の亀裂を塞ぐ手段が無ければ、下手したら二つの宇宙が滅びるってのに……。全く何を考えているんだあの国――いや、共和国と一緒に潰れて、もう残っていないんだっけ? にしても、要らない知性を持った亜種って本当に面倒だわ。要らない入れ知恵を貰ってそうだし。あー、最悪」
ブツブツと愚痴を漏らす。幸いにも聞いている人間はいない。人はいるけど、その人物は眠っている。
帰艦するまで、遠慮なく愚痴り続けた。




