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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
作戦と試練 西暦3147年10月後半

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出発前の最後の一時

 アラームをセットした時間に起き、艦内食堂で食事を取る。

 忘れていたけど、自分以外の戦艦搭乗員は全員男だ。男ばかりの職場には慣れているから別に良いんだけどね。ルピナス帝国にいた頃の女だけの職場は、喪服淑女の会か、宇宙男姉妹(だんしまい)連合(オネェマンと姉妹の契りを結んだ人達で構成される連合)のどちらかが絡んでいる時が多く、色んな意味で碌な思い出が無い。逆に男ばかりだった時の方が平和だったわ。

 そんな事より何よりも、奇人狂人変態変人ドSとドМに鬼畜外道やサイコパスが一人もいない職場の素晴らしさよ!

 別の意味で毒されている自覚は在るが、ノーマルな人間しかいない職場って良いね。ある日突然、奇人狂人変態変人ドSドМに鬼畜外道やサイコパスに目覚める奴がいないのも最高だ!

 変な奴代表としてセタリアを思い浮かべやすいけど、何故か別の人物を――炎のような赤く長い髪に深い緑色の瞳の女性、サルビアを思い浮かべた。

 昨日クライン少佐に『同性の友人はいないでしょう』と言われた事が切っ掛けだろう。向こうの宇宙で個人的な付き合いのある同性は、大体が喪服淑女の会か宇宙男姉妹連合の関係者ばかりだった。流石にあの面々を友人扱いしたくない。

 

『私は女にしか欲情出来ないの。だから、奇病で男と女のどちらになるか選べと言われた時に、迷う事無く、女になる事を選んだわ』

『前触れも無く真顔で言わないでくれる? 普通に考えると、そこは男になる事を選ぶところじゃないの?』

『はぁっ!? 何を言っているのよ! 男になったら女の子を上から下まで全周囲舐め回すように見たり抱き着いたりしたら変質者として通報されるじゃない! 何でそんな簡単な事が解らないのよ!?』

『……変態のお前が言わなきゃ正論だよ』

『誰が言っても正論よ。女の身で女の子を美味しく頂く一時が何よりも最高なのに、どうして分からないの?』

『正論云々以前に、女王が涎を垂らしながら言う台詞じゃないでしょう!!』


 ついでに頭が痛くなる会話も思い出した。

 何が『そして』なんだよ。『女の身で女の子を美味しく頂く』って、真昼間に言う台詞じゃない。色んな意味で寛容な向こうの宇宙でなければ、間違いなく叩かれる。本当に、何故こんなのが女王なんだろう?

 最初から『二つの性器を持って生まれる奇病』の事を隠して、男として育てれば良かったのに、あの両親は何故選ばせたんだ? 寛容も過ぎる。

 余談になるが、この会話のあと。

 サルビアは有名な某怪盗三世みたいなダイブをして来たので、口の端から涎を垂らしたアホ顔を容赦無くハリセンで叩いて撃墜した。不敬罪? 問われないよ。臣下の皆さん(主に男性陣)から何度か『ウチの変態陛下をどうにかして!』と何度も泣き付かれたのだ。ハリセンで引っ叩いた程度では皆さん驚かない。寧ろ『陛下の性格矯正中なんですね。我々は見なかった事にします。さぁ、どうぞ』と目を瞑ってくれるのだ。護衛騎士までも似たような状態だ。

 実際に、サルビアに『交際相手の女性を寝取られた男』がいた。それも大量に。自分の彼女が目の前で、女王といちゃついているのを見る。人によっては嫌がらせと取るだろうね。

 涙を誘う、日頃の苦労が伺える。

 サルビアに関して『女になる』事に許可が下りた本当の理由は、推測になるが『胤をばら撒く男になられたら困る』辺りだろう。女同士で何かをしても子供は生まれないからね。男女で何かをやって子供は誕生するのです。同性同士で子供を作る技術は確立されていたけど、体の一部を加工する事が殆どだ。


 朝から変な事を思い出したが、食事を完食して部屋に戻る。その途中で松永大佐に会ったけど、業務連絡は無かった。出発日に急用が捻じ込まれる事は流石に無かった。

 松永大佐から予定を聞かれて、『部屋で他所の支部の意訳作業を行う』と回答した。流石に日本支部内部の情報は、支部長が知っているだろうと思って外した。リクエストの有無を尋ねると、ドイツ、フランス、イタリアの三つの支部とその本国の意訳を依頼された。理由を尋ねても回答してくれるか怪しいし、知らなくても良いと言われる可能性も高い。

 分かりましたと、素直に返事を返して松永大佐と別れて部屋に戻る。

 机とセットの椅子に腰掛けて端末を起動し、空中ディスプレイを表示させると、ティスからメールが来ていた。メールを開封して件名を読む。メール本文の冒頭には『返信不要』の文字が在った。

 そしてメールの内容は、ティスに聞き忘れた事についての回答だった。一度読み、二度読んで内容を確かめて、未読状態にして閉じた。

 ……もう一回同じ事をやれ? マジかよ。

 メールを読んだ感想はこれだった。深くため息を吐いて現実逃避したくなった。

 現実逃避の代わりにボストンバッグからノートパソコンを取り出して意訳作業を始める。時間を忘れないように、二時間後にアラームをセットする事も忘れない。


 そして。


 へぇー。そうなんだ。マジかよ。何やってんの? 馬鹿じゃね? 冗談でしょ? 一国でこのザマなの?

 などと、心の中で感想と突っ込みを入れながら意訳作業を行う。

 二時間に一度、時刻確認を兼ねた休憩を入れて作業を行い、割と順調に進んだ。もうちょっとでフランス支部と本国分が終わる。

 作業をしていて思い出したんだが、セタリアは全ての報告書に目を通したんだよね? 笑い転げながら読んでいる姿が鮮明に目に浮かぶ。つーか、この報告書の内容を向こうの宇宙の国家元首クラスの人達に見せたら抱腹絶倒ものなんだけど。諜報部の連中はどんな思いで報告書を書いていたんだろう。

 向こうの宇宙は、ギャグノリとシリアスノリの落差が激しい。仲良く馬鹿をやっているようにも見えるが、水面下では激しい蹴り落とし合戦が行われている。

 個人的な感覚で言うのならこの二つのノリの落差は、マリアナ海溝が浅く感じると言えば良いのか。そのくらいには闇が深い。

 付け加えると、シリアスノリになるとすぐにドンパチし始める程度には殺伐としている。医療技術が進んでいるからか、即死でも無い限りほぼ助かってしまう。最新の機器を使えばが付いてしまうが、死ぬまでの残り時間が十秒『も』あれば救命は可能なのだ。

 医療技術が進んだ結果、人命の扱いが軽くなった。何をどうすればこうなるんだか。

 諜報員や捕虜の尋問に『臨死体験〇回コース』を取り入れていた自分が言って良い台詞ではないんだけどね。

「はぁ~、……んん~」

 一つ目の意訳が完了した。意訳文章を保存してから息を吐き、腕を真上に伸ばし、体を左右に倒して伸びをする。軽く骨が鳴った。思っていた以上に集中していたみたいだ。時刻を確認しないでスマホのアラームを解除し、椅子から立ち上がった。ベッドの脇に置いていたボストンバッグに手を伸ばす。ボストンバッグをベッドの上に置き、中から持って来たお菓子のビスコッティ(出発前に作った)を入れたジップロック袋を取り出す。封を開け、一番小さい一個を取り出して気分転換として食べる。

 ボリボリと、煎餅を食べているかのような音を立てて咀嚼する。二度焼きして水分を飛ばしているから硬いんだよね。

 ビスコッティを食べ終えた。続いて作って来た別のお菓子を食べようと、ボストンバッグを漁っていたら、呼び出しの電子音が鳴った。端末を操作して空中ディスプレイを閉じてから対応する。やって来たのは松永大佐だった。

 ドアを開けるとバスケットを持った松永大佐がいて、その後ろにはそれぞれバスケットを持った佐々木中佐と井上中佐がいた。

 三人が持っているバスケットを見て、一瞬何だっけと考え、立食パーティーの存在を思い出した。同時に、残り十二時間で月面基地を出発する事も思い出す。

「星崎。立食パーティーの事を忘れていたのか」

「す、すみません。意訳作業に集中していました」

 立食パーティーの存在そのものを忘れていた事が松永大佐にバレた。怒っているのか、ジトっとした視線を貰い素直に謝る。

「「意訳?」」

 一方、何の意訳か知らない中佐コンビは揃って首を傾げた。

 ここから先は入り口で立ち話して良い事では無いので、三人を部屋に招き入れる。そして、端末を操作して一度閉じた空中ディスプレイを再表示させて、中佐コンビに意訳して内容を教える。

「……この直訳文章が、全部支部長の手元に在るのか」

「うわぁ。支部長が高笑いしながら、他所の支部長を泣かせている姿が目に浮かぶ」

「ウチの支部長に、一番渡しちゃいけない情報だろ、これ。支部長は一体何を考えて、いや、今度はどこの支部を虐めるつもりなんだ?」

 中佐コンビは揃って慄いているけど、同時に支部長が他所の支部長を泣かせそうだと断言した。どうやら日本(ウチ)の支部長はいじめっ子らしい。

「泣くのは各支部の支部長だけでなく、その本国の政治家も一緒に泣くな。泣きわめこうが、号泣しようが、自業自得だ。同情の余地は無い」

 松永大佐はあっさりと切り捨てた。中佐コンビは顔を見合わせてから『その通りだな』と言った顔で頷き合った。

 まぁ、自分も『自業自得』の一点だけは納得出来る。

 

 十年以上も昔の、先代支部長時代。

 良い評価を聞かない時代だったが、まさか他所の支部と国家と一緒に『日本支部を』ズタボロにしていたとはね。最悪の一言に尽きる。知りたくも無かったよ。

 フランス支部とその本国でアレだけの事をやっていた。つまり、他所の支部も同じだけの事をやっている可能性が高い。

 でも、アメリカ支部とイギリス支部は清算が終わっていそうだ。現日本支部長は、過去の清算を終わらせずに付き合いを続けるような人間には見えない。フランス支部では、上層部の人員が変わったと記載されていた。アメリカ支部とイギリス支部も上層部の面子が入れ替わっていると見て良いだろう。


 四人で顔を見合わせて一度頷き合い、『この話はここまで』と認識は一致した。

 改めてバスケットについて尋ねると、詰めて貰った料理とノンアルコールのシャンパンの瓶が入っていると回答を得た。一つのバスケットの中身を見ると、四人前近い量のパーティーに出て来そうな数種類の料理が入っていた。だが、バスケットは三つ在る。その内の一つはノンアルコールの小さめの酒瓶が十本以上も入っている。余ると聞いていたが思っていた以上に余ったらしい。

 残り二つのバスケットの中身には、計十種類の料理(流石にデザートは無かった)が詰められていた。その量は約八人前。食べるのは自分と松永大佐だけだ。

「松永大佐。食べる量を尋ねても良いですか?」

「佐々木中佐と井上中佐にも多少は食べて貰う。食べ残しの心配は不要だ。食堂で温め直してから食べるぞ」

 松永大佐からそう言われて、昼食を取っていない事を思い出した。ノートパソコンと端末を落として、大人三人と一緒に食堂へ向かう。

 歩いて艦内を移動し、到着した無人の食堂の奥に在る厨房の料理人(これから百人以上の夕食の仕込みを始めるところだった)に頼んでバスケットの料理を温めて貰う。料理が温まる間に四人分の取り皿とフォークと、プラスチック製の透明なグラスを受け取り、テーブルに並べる。

「表示はノンアルコールですけど、匂いは完全にお酒ですね」

 グラスに注ぐ為に酒瓶の栓を抜いたら、普通のお酒の匂いがした。透明なグラスに酒瓶の中身注ぐと、普通のシャンパンにしか見えない。

「星崎。アルコールは一パーセント以下だから心配しなくても良いぞ。これを飲んでいた下戸の奴が何人かいたけど、体調を崩したり、酔った奴もいなかった」

 思わずグラスをまじまじと見ていたら、井上中佐から心配不要と言われた。立食パーティー中に、実際に飲んで体調に異常を来した人がいないのなら、確かに飲んでも問題は無いだろう。そもそも、自分は酒で酔えるか怪しいから、気にしても意味が無い。

 実際に味見として少量をグラスに注いで飲んでみると、アルコール特有の苦みを感じなかった。それどころか、炭酸ジュースのように甘い。もうジュースとして扱って良いな。

「ジュースみたいに甘いですね」

「そうだろ。……あ、料理が来たぞ」

 自分の味見の感想に、うんうんと頷いた井上中佐だったが、その途中で料理がやって来た事に気づいた。自分も井上中佐に言われて気づいた。二人で料理を運んで来た松永大佐と佐々木中佐の手伝いを行い、テーブルに料理が乗った大皿を並べた。大皿は料理人が貸してくれた

 料理を大皿に乗せると、その量は十人分に見える。一杯貰って来たんだなぁ。貰い過ぎだよ。

 お願いした手前そんな事は言えない。グラスにノンアル(ジュース)を注ぎ、乾杯してから料理を取り分けて食べる。

 ちなみに料理の種類は、ポテトサラダ(角切りハム入り)、ポテトフライ、コロッケ、鶏肉の唐揚げ、ハンバーグ、ローストビーフ(カット済みが塊のようになっていた)、ナポリタンスパゲッティ、厚焼き玉子サンド、厚切りローストポークサンド、ツナマヨサンドの十種類だ。

 依頼しておいてアレだが、見事なまでに児童向けのメニューだ。これしか残っていなかった可能性が在る。どれも美味しいから良いんだけど。料理の腕の良い人が良い素材を使って作ったんだね。

 特に、厚焼き玉子サンドは一口食べて見ると、美味しい出汁巻き玉子だった。ツナマヨサンドも隠し味に出汁醤油を使っているのか、醬油に紛れて出汁の風味がした。

 コロッケを半分に割ると、中身はシンプルな挽肉、チーズ入り、ツナマヨコーンの三種で、ハンバーグも普通のとチーズ入りの二種類だった。ポテトフライは塩とジャーマンポテトの二種類だった。鶏肉の唐揚げの見た目は同じだが、食べると醤油・ニンニク塩・ニンニク醤油の三種類に分かれていた。

 思っていた以上に美味しかった。食べきれるか怪しかったけど、四人で感想を口にしながら無事に完食した。

 ジュースもそれなりに消費した。食べ終わる頃には全部の瓶を開けて空にしたけど、松永大佐は二杯しか飲まなかった。松永大佐はジュースを好まないのか? 何時もブラックコーヒーを飲んでいたし。

 対して、自分はやたらとジュースを飲まされた。子供っぽく振舞おうとした事が原因かな?

 料理を完食したら四人で手分けして、使用した食器を全て自動食洗機に投入し、空き瓶をゴミ箱へ捨て、使用したテーブルを布巾で拭く。最後に大皿を貸してくれた料理人にお礼を言ってから、四人で食堂を出る。中佐コンビとはここで別行動を取る。作戦開始時間までにトラブルが起きた時の事を考えて、中佐コンビはギリギリまで部下の人達と一緒にいる事になっている。

 なお、バスケットは自分が持ち込んだ私物なので全部部屋に持って行く。

 中佐コンビと別れたので、松永大佐ともここでお別れかと思ったが、意訳文章を一度見たいと希望を受けたので一緒に部屋に戻った。


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