束の間の一時(?)の筈 ②
一方、マオ少佐と同じように誤解してくれたハルマン大佐が深く頷きながら『成程』と呟いた。
『嬢ちゃんの状況が何となく見えて来たぞ。一人生き残り、新しい所属が決まらず宙ぶらりんとなっていたところで、マツナガ預かりとなったのか』
『そうだ。実力の釣り合う部隊が見つからなくてな。見つかるまで、松永預かりになったんだ』
ハルマン大佐の言葉を佐藤大佐が肯定し、補足情報を入れた。自分が『受け入れてくれそうな部隊を捜した』のは事実だと思うけど、飛び級卒業した未成年者を受け入れてくれる都合の良い部隊は無いだろうね。絶対に軋轢が生まれる。
『見つからないって、……嬢ちゃんは下なのか?』
何が下なのか明言せずに、ハルマン大佐は疑問をストレートに口にした。マオ少佐も同じ事を思ったのか、ほぼ同時に佐藤大佐を見た。二人分の視線を受けた佐藤大佐はため息を吐いてから回答した。
『逆だ。こいつは一人で元いたチームの連中をフォローしながら敵機を撃墜していた。足を引っ張っていたのは、寧ろ元チームメイトの方だ』
『嬢ちゃんはどれだけ上なんだ?』
『訓練機で二十機以上の撃墜記録が在る。しかも、たった一度の出撃での撃墜記録だ』
『……そりゃあ、釣り合う部隊が見つからなくて当然だな』
佐藤大佐から自分の撃墜記録を知らされて驚く。六月のあの時にそんなに撃墜したっけ? そのあとの戦いのインパクトが強過ぎて、超うろ覚えなんだけど。背後からも『凄い』と呟く複数の声が聞こえて来た。訓練機は十年前まで実戦機として使われていたのに、驚く必要って在るのかな?
『嬢ちゃん。何でやり遂げた本人が一番驚いているんだ?』
『実は、集中すると五機から先を忘れてしまう癖で、撃墜数を覚えていないんです』
流石に『訓練機で行った戦闘自体がうろ覚えで、しかも言われるまで忘れていました』とは言えない。
代わりに訓練学校時代からの悪癖を口にした。教官から何度も『自力で数えろ』と注意を受けたけど、五機から先は覚え切れないのよ。命懸け且つ、集中力がものを言う現場なので、余分な事に思考を割り振りたくない。生身で行う戦闘と違い、カメラが見せる映像や計器越しでなければ、周辺の状況が得られないのだ。五感で敵が感知出来ないと、絶対、感覚に狂いが出る。
それに、別のところで数える人がいるのなら、その人に聞いた方が早い。戦闘中に余分な事に労力を割きたくない。
『嬢ちゃん。少しは数えた方が良いぜ。煩い奴は煩いからな』
『撃墜数五機と言えば、大抵の煩い人は去りました。対抗心を持たれても面倒なので、そこから先を数えるのを止めました』
『……煩い奴対策だったのか』
過去の面倒だった事とその対策を口にすると、ハルマン大佐は黙った。黙り込んだら、マオ少佐と同じように自分を観察する。
不躾と言う訳では無いが、何か気になる視線だ。
『……何か、気になる事でもありますか?』
『あぁ。マツナガはテストパイロット部隊の隊長で、ガーベラはテストパイロット部隊が保有していると聞いた。どこの支部もテストパイロット部隊の正確な人数は公表していないが、実際に所属している人数は片手で足りる人数しかいねぇ。こんな部隊編成で、ガーベラを保有している部隊の隊長の部下が出て来た。状況的に、お前がガーベラのパイロットである可能性が高い。そう思っていたんだがな』
『嬢ちゃんがマツナガの下へ異動した日付と理由を考えるとなぁ。十九人ものテストパイロットがろくな操縦も出来ずに負傷した、じゃじゃ馬としか言いようの無い機体を実戦で完璧に操縦するには、どうしても相応の訓練時間が必要だ。量産機のように一朝一夕で乗りこなせる機体でも無いなら、尚更、乗りこなすまでに時間が掛かる。今の専属パイロットがどれ程の時間を要したかは知らないが、数日では足りないだろう』
『俺も一度乗ったが、数日じゃ、時間が足りねぇ。せめて、一ヶ月は欲しいな』
何故だ? 一般常識を語られた気分になったぞ。てか、マオ少佐もガーベラのテストパイロットとして操縦した経験者だったのか。と言う事は、他支部からのテストパイロットを拒んだ理由って、マオ少佐の一件も含まれていたのか。
それからハルマン大佐。悪いが、二十分以下の時間で仕様書を飛ばし読みして、ぶっつけ本番で出撃しました。支部長からの無茶振りです。
自分が支部長からの無茶振りを受けた時の事を思い出していた間も、マオ少佐と三人の大佐の会話は続く。
『マツナガ、このガキは何でおめぇの下に残ったんだ?』
『書類仕事をたまたま手伝わせたら、思っていた以上にこなせたからです。不祥事が起きて、私の仕事が馬鹿みたいに増えた為、補充として残って貰う事にしました』
「偶然の産物だな」
佐藤大佐は日本語で感想を述べて、隣に座る松永大佐から肘で脇腹を突かれて黙った。
『このガキ、パイロットなのにデスクワークも出来るのか』
『ええ。他所から手伝い要請が来る程度には出来ますよ』
『嬢ちゃんはパイロットとしての腕も良くて、デスクワークも出来るのか。良い部下持ったな』
『だが、この時期にマツナガの部下が追加されたってのが、引っ掛かるんだよな。チームが駄目になったとしても、この野郎の下行きになるか? それに六月の何時どこで、チームが駄目になったが知らねぇけどよ。異動するまでに最低でも一ヶ月の時間が空いている。一ヶ月もの間、こいつはどこで何をやっていたんだ』
何を考えたのか、未だにどこにも座らないマオ少佐が再び、自分の顔を覗き込んだ。マオ少佐の目元が丸レンズのサングラスで隠れているせいで把握出来なかったが、近くで見ると彫が深くそれなりに整っている容姿をしていた。体臭が煙草の臭いで完全に駄目になっているので、総合評価はマイナスだ。
自分は顔を覗き込まれた事よりも、マオ少佐の直感にちょっと感動した。試験運用隊の事情を知っている人からすると、こうも簡単に正解へ辿り着いてしまうのか。今後、月面基地を歩く際に気をつけるべき事を松永大佐を確認した方が良いなと、感動の声を漏らしつつ思う。
「おぉー」
『……何だ、その反応は?』
マオ少佐に対して、自分の素直な感想を言うべきか迷い、マオ少佐の後ろで座っている松永大佐を見た。マオ少佐も自分に合わせて、自身の背後に座っている松永大佐を見た。他の面々も釣られるように松永大佐を見る。
注目を浴びた松永大佐は、自分と視線が合うなり、黒さが滲み出る笑顔を浮かべた。
「正直に言って良いぞ」
『では、マオ少佐は高橋大佐や佐藤大佐と同じく、頭脳労働が嫌いそうな方だと思っていました』
松永大佐からの許可が日本語で下りたので、正直に感想を言った。そしたら、マオ少佐の目が据わり、額に太い青筋が出現した。図星か?
『待て。俺をガタイだけの馬鹿と一緒にするな。確かに頭脳労働は苦手とする。だがな、俺はそこの野郎と違って、デスクワークから逃げた事はねぇ』
『あれ? そうだったんですか?』
意外だ。意外過ぎる。素直に驚いた。
マオ少佐と接触した短い時間が、性格は高橋大佐に近いと思っていた。比較対象の高橋大佐は、書類仕事から逃げて、追って来た副官の少佐に首根っこを掴まれて連れて行かれていた。
高橋大佐に似ていると思いつつも、佐藤大佐を引き合いに出したのは、単純に近くにいたからだ。
『そうだったんですかって、てめぇ、本気で言ってんのか?』
ドスが効いた――マオ少佐の声音はそんな表現が似合う程に、途中から一気に低くなった。剣吞な空気がマオ少佐から駄々洩れている。でも自分は、そんなマオ少佐が『怖い』と思えない。逆に素直に思った事は、悲しい事に『何で怒っているの?』だった。
感覚は麻痺していない。それだけは断言出来る。こんな反応をしてしまうのは、単純な『慣れ』である。
『嬢ちゃん。マオが怖くないのか?』
『飯島大佐と顔を合わせる機会が多いので、何とも言えないです』
ハルマン大佐の疑問に『見慣れているから』と納得して貰えそうな回答をしつつ、内心で『迫力が足りない』と本音を呟く。
マオ少佐よりも、喪服淑女の会の非合法暗殺部隊の方が何倍も怖い。
何せ彼女らは、哄笑しながら男の首を狩り、血濡れの制服の喪服を自慢する、淑女の要素が微塵も残っていない暗殺部隊なのだ。『暗殺をする時でも笑みを絶やさないから、淑女の要素は残っている』と、当人らは主張しているけど誰も信じていない。笑っていようとも淑女は、ナイフやサーベルを片手に『哄笑を上げない』し、自らの手で狩り取った男の首を『うっとりと眺めたり』もしない。どこのサイコパスだよ。
『イージィマ? お前、あの野郎とも面識があったのか』
『そうだとしても怯える気配すら見せないのは、異常では無いか?』
失敗に終わった。それどころか、ハルマン大佐も『異常だ』と言い出した。しょうがないので、ここ半年で最も肝が冷えた事を話す。
『ここ半年以内で一番肝を冷やしたのは、実戦で敵機の剣先が二回もコックピットを掠めた時です』
背が小さくて良かったと思った、あの時の事を思い出す。嫌な思い出だが、ハルマン大佐は大仰に頷いて納得した。見える範囲だが、佐藤大佐と松永大佐も納得顔になっている。マオ少佐だけ意味が解らなかったのか怪訝そうな顔になる。
『成程。迫力不足だったのか』
『ハゲ。てめぇも俺に喧嘩売ってんのか?』
ハルマン大佐の言葉を聞くなり、マオ少佐はハルマン大佐に掴み掛かった。胸倉を掴まれたハルマン大佐は動じる気配すら無く、言葉を重ねる。でも、何で『迫力不足』って言うのが解ったんだろう。
『違う。お前が凄んだだけの睨みは、命の危機と比べ物にならんだけだ』
『迫力不足って言う、一言が余計なんだよ!』
マオ少佐はハルマン大佐の胸倉から手を離し、両手で襟首を掴み直してから前後に揺さぶった。制服の生地が傷みそうな勢いで揺さぶっている。
この面子で唯一止められそうな松永大佐は、止めないどころか面白そうに眺めていた。階級を考えると少佐が大佐へ行う事じゃないんだが、何故止めない? 佐藤大佐は止める気が無いのか、その姿を自動販売機の前で見つけた。
「松永大佐。止めなくても良いのですか?」
今にも殴り合いの喧嘩が始まりそうな気配を感知したしたのか、佐々木中佐が腰を浮かせた。井上中佐も松永大佐の判断が聞きたいのか、やや前のめりになっている。自分を含めた残りの四人で松永大佐を見た。
視線を集めた松永大佐は、佐々木中佐に座るように指示を出した。
『佐々木中佐一旦座れ。マオ少佐は私と同年代で、パイロット業務に専念する為に昇進を拒んだんだ。これまでの功績を考えると大佐になっても問題は無い。本人は少佐でいる事を望んでいるが、功績は大佐階級の人間と大差は殆ど無いし、他支部でも大佐階級の人間のように扱われている』
松永大佐からの英語での説明を受けて、佐々木中佐が質問したのに、何故か井上中佐が驚きの声を上げる。井上中佐が日本語で松永大佐に尋ねたのに、英語で回答を受けた。これは日本語が解らないライトとミゲルの為か、通訳する手間を省く為だろう。実際に二人を見ると驚いていた。
「そうだったんですか」
『だから、止める必要も、気にする必要も無い』
松永大佐は英語でそう締め括ったが、視線は未だに揉めている二人に向いている。マオ少佐に胸倉を掴まれたまま、座ったままだったハルマン大佐は前後に揺さぶられていたが、自分達が少し目を離していた間に立ち上がり、マオ少佐にヘッドロックを仕掛けて少し離れた場所へ移動していた。どうやったんだろう?
「とは言え、これ以上続けば騒ぎになるか」
日本語に戻してそう呟いた松永大佐は目を眇めた。
その視線の先では、ハルマン大佐とマオ少佐が一戦を交えている。飲み物を買って来た佐藤大佐はスツールに腰を下ろし、カップを傾けながら観戦している。
ヘッドロックから抜け出したマオ少佐が猫のような身軽なステップでハルマン大佐を翻弄してから、左側頭部を狙ったハイキックを繰り出す。ハルマン大佐は左腕を上げて防御した。マオ少佐は即座に跳び上がって、右側頭部にもハイキックを繰り出す。雑技団の演技みたいな動きだ。
ハルマン大佐はマオ少佐のハイキックを二度も防ぐと、右の手刀を上から下へ振り下ろした。
マオ少佐とハルマン大佐の身長差は頭一つ分近くもある。身長差的にマオ少佐の攻撃は下から上へと、伸び上がる攻撃となり不利だ。
ハルマン大佐の攻撃は上から下への、打ち下ろしのような攻撃になる。だからか、手刀を振り下ろしただけなのに着地直後のマオ少佐の左肩に当たると、肉を打つ重い音が響いた。打撃音以上に痛いのか。マオ少佐も『いってぇ』と口にして顔を歪ませた。
直撃を受けてもマオ少佐の戦意は失われない。それどころか、腰の入った正拳突きをハルマン大佐の腹目掛けて放った。
ハルマン大佐は腹筋に力を入れて、マオ少佐の正拳突きを受け止めた。肉を打つ少々軽い音が響くも、ハルマン大佐は先程のマオ少佐と違い痛がりもしない。
この違いは二人の体重の差か、筋肉量の差だと思う。
マオ少佐は瘦身の印象を得る程に細い。軍服を脱いだら細マッチョかもしれないが、マオ少佐の相手は佐藤大佐並みの身長を誇るハルマン大佐だ。体格も佐藤大佐並みか、それ以上に骨太なので、筋肉量も体重も見た目以上だろう。体重はマオ少佐の二倍近くも有りそうだ。
スピードのマオ少佐と、防御力のハルマン大佐。
突然始まったボクシングに、決着は付くのか?
あ、マオ少佐が手数重視の攻撃に切り替えた。ハルマン大佐は攻撃の合間に重い一撃を放っている。終わる気配が無いな。
「松永大佐。決着が付くと思いますか?」
「児童のように体力が尽きるまで続くだろうな。先に体力が尽きそうな方に、一撃を加えて終わらせる」
質問をしたら、松永大佐はそう言って笑顔を浮かべ、何故か立ち上がってから自分に手を出した。
「星崎、スタンスティックは持っているな? 貸せ」
「使っても良いんですか?」
「殴るだけなら問題は無い」
松永大佐の笑顔が何時にも増して輝いている。『問題は無い』のところに突っ込みを入れたくなったが我慢して、スタンスティックをスカートの下から取り出し松永大佐に差し出す。
スタンスティックを取り出すところを見てか、松永大佐の笑顔が凍り付いた。
「……星崎。そんなところに仕舞うな。鞄に仕舞いなさい」
「? 駄目ですか?」
何故怒る。便利なのに。
思わず首を傾げたら、松永大佐に頭を掴まれた。駄目らしい。掴む手に力が入ったので、素直に『分かりました』と言うと松永大佐の手は離れた。解せぬ。
松永大佐は差し出したスタンスティックを掴み、マオ少佐の背後へ向かった。松永大佐に気づいたハルマン大佐が、マオ少佐の気を引くように動く。そして、タイミングを見計らって放たれた、松永大佐の振り被りの一撃がマオ少佐の後頭部に炸裂した。流石にスタン機能は停止させたままだったのか、軽い音だけが響いた。
『いってぇじゃねぇかっ!?』
背後から後頭部を殴られたマオ少佐だが、殴られた部位に手を添える事もせずに振り返った。痛がりもしていないから、体が頑丈なんだね。マオ少佐の意識が逸れた瞬間、ハルマン大佐は音を立てずに離れた。
『何時まで経っても、ボクシングが終わる様子が無かったもので、つい』
『つい!? マジ殴りしておいて、何がついだ!』
松永大佐は笑顔で白々しい言い訳をした。振り被っておきながら、流石に『つい』は無いと思う。宥める言い訳どころか、逆に怒りを買う言い訳だ。案の定、マオ少佐は眉を吊り上げて抗議の声を上げる。
真正面からマオ少佐の怒気を受けてもなお、松永大佐の笑みは崩れない。面の皮が厚いってレベルじゃない。では面の皮の千枚張りなのか? いや、同じ意味だったな。
『これはスタンスティックでして――』
『良く自制したな』
笑顔の松永大佐が手にしているものの正体を明かすと、マオ少佐は感心の言葉を食い気味で言い、松永大佐の肩に手を置いた。感心の言葉が松永大佐の言葉を遮るようになっていたのは、そこから先を口にさせては『危険』と判断したんだろうね。
その証拠に松永大佐は笑顔を浮かべたまま、スタンスティックでマオ少佐の鳩尾辺りを小突いている。もしも、スタンスティックのスイッチが入ったら危険だ。
「終わったな」
「ほぅひゃいへすね」
飲み物を片手に観戦していた佐藤大佐と、観戦しつつもお菓子を食べる手を止めない佐々木中佐。
「佐々木。せめて口の中のものを飲み込んでから喋ろ」
「んぐ。悪い悪い」
行儀が悪いと、井上中佐に指摘された佐々木中佐はお菓子を嚥下してから謝った。
その様子を見たライトがドン引きながら呟く。
『何をどうしたら、菓子を食いながら観戦が出来るんだ?』
『慣れだと思う』
『……慣れ? 肝の太さじゃないのか』
『慣れって怖いなー』
自分が持論を即答すると、イングラムが顔を引き攣らせ、ミゲルが慄いた。
喉が渇いたと、呟いたハルマン大佐が佐藤大佐を引っ張って自販機に向かった。佐藤大佐は飲み終えたのか、大人しく付いて行った。
自分は中佐コンビと怖じ気づいた三人を宥めていると、今度は電子音が鳴り響いた。電子音を聞いて慌て始めたのはミゲルだった。ミゲルは軍服のポケットからスマホを取り出し、画面を見て呻き声を上げて腰を浮かせる。
『やっべぇ。もうこんな時間か』
その声を聞いて、自分もスマホを取り出して時間を確認する。結構いい時間だった。
『もうこんな時間なのか』
『楽しい時間は早く過ぎるって事だな』
自分と同じように、イングラムとライトもそれぞれスマホで時間を確認した。紙皿のお菓子はまだ残っている。鞄から中身の見えない色付きのビニール袋とジップロック袋を何枚か取り出す。最後の一口のつもりなのか、クッキーに手を伸ばしたライトに袋を差し出す。
『良かったら使う? 保存料が入っていないから日持ちしないけど、これに入れて持って行っても良いよ』
『おっ、良いのか?』
『まだ残っているから良いよ。二人はどうする?』
目を輝かせたライトに二枚の袋を渡し、イングラムとミゲルにも尋ねる。
『それなら、クッキーを何枚か貰っても良いだろうか?』
『俺は、パウンドケーキを貰おうかな?』
自分が尋ねると、少し考えてから二人も希望を口にした。二人にも袋を渡す。袋を受け取った三人は、それぞれ希望のお菓子を袋に詰めて行き、カップを片付ける。
そんな三人を羨ましそうに見つめる人物がいた。自分が口を開くよりも先に、松永大佐の声が響く。
「佐藤大佐」
「……松永。俺はまだ何も言っていないぞ」
「その返しをする時点でアウトです」
「くっ」
飲み物を手に戻って来た佐藤大佐が悔しそうな声を上げた。既にビスコッティを渡したのに、まだ要るのか。三人が去ったらマドレーヌの残りを渡すか。




