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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
作戦と試練 西暦3147年10月後半

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束の間の一時(?)の筈 ①

 さて、現状を確認しよう。

 グダグダな状況に陥り、自分以外の五人には面識が無い。そんな六人で顔を合わせたら、気まずい空気になった。中佐階級の人に問答無用で担がれて運ばれたら困るか。

 全員と面識を持つのは自分だけだ。進んで音頭を取り、ライトとイングラム、ムリージョ准尉ことミゲルの三人と、佐々木中佐と井上中佐の自己紹介を済ませ、あそこにいた経緯を中佐コンビに話す。

 逆にライトとイングラムから、あそこで何が起きたのか教えて貰った。


 どうやら、ライトとイングラムは先程の休憩所で合流してから、自分との合流場所に向かう予定だったらしい。

 だが予定通りにはならず、イングラムが知人のムリージョ准尉と偶然にも再会した。その場で少し話し込んでいたら、松永大佐を怒らせた馬鹿三人がやって来て、ライトとイングラムを見つけるなり絡み、喧嘩騒動に発展した。

 二人は殴られたが、大した怪我にはなっていない。腫れも無いが、気になるようだったら医務室に行く事を勧めた。


 互いの状況を知ってから六人でそれぞれ飲み物を購入し、現在、一つのローテーブルを囲むように、周辺のスツールを各自で持って来て座っている。

 席順は時計回りに、佐々木中佐と井上中佐、イングラム、ミゲル、ライト、自分となっている。佐々木中佐と井上中佐の実年齢は教えたけど、やっぱり十歳以上年上に見える佐々木中佐の隣に座る勇気は三人には無いのか、佐々木中佐の隣には自分が座っている。階級的にもかなり上だから尻込みしていた。

 テーブルの中央にはお茶請け用に持って来たお菓子を紙皿に乗せて置いている。これらは、佐藤大佐からのリクエスト品を作るついでに作った品々で、出したのは砕いた胡桃を練り込んだソフトクッキーとアイスボックスクッキー三種に、マドレーヌとパウンドケーキだ。

 それぞれで購入した飲み物のお供にお菓子を食べながら、ガーベラに関する事で話は盛り上がった。佐々木中佐と井上中佐がガーベラのテストパイロットを務めた人物だと知り、イングラムとミゲルが質問攻めにしている。ライトも興味津々なのか、疑問が沸いたら必ず質問をしていた。

 佐々木中佐と井上中佐は嫌な顔を一つもせずに、ガーベラに関わる事以外の通常戦闘時の操縦に関する事まで、三人からの幅広い範囲の質問に答えていた。律儀と言うか、本当に良い人だ。でもその代わり、自分に質問が一切来ない。途中、飲み物のお代わりをこっそりと席を離れて購入した。

 お菓子を食べながら、五人の話に耳を傾けていると、複数の足音が聞こえて来た。

「ここにいたか」『何だか盛り上がっているな』

 足音に続いて、二人分の声も聞こえて来た。盛り上がっていた五人も気づき、自分も一緒に声が聞こえて来た方向を見る。

 そこには佐藤大佐と松永大佐にハルマン大佐と、栗色の髪を雲丹の殻か、モーニングスターを連想させる髪型に纏め、やや小さめの色の濃い丸レンズのサングラスを掛けた知らない痩身の男性がいた。知らない男性の左胸を見ると、イタリア支部所属の少佐だった。

 イタリア支部所属の少佐は自分達六人を見ると、口に咥えている細長い鉄の筒の端を上下させた。口に咥えた方とは逆側の端が垂直上に折れ曲がっているから、煙管か?

『立たなくても良いぞ』

 自分達六人は揃って腰を浮かせたが、完全に立ち上がるのを制するようにハルマン大佐が口を開いた。自分達は顔を見合わせたが、佐々木中佐と井上中佐が腰を下ろしたので、中佐コンビに合わせて腰を下ろした。でも話を再開させるよりも先に、イタリア支部所属の少佐が自分に近づいて来た。喫煙者なのか、接近と同時に、見知らぬ少佐から煙草の臭いが鼻に届いた。


 月面基地は全面的に禁煙となっている。

 煙草を吸いたい人は喫煙室へ行くのが決まりだ。これには電子煙草も含まれる。

 各支部の区画内に喫煙室は幾つか存在するけど、共用の区画に喫煙室は無い。


『おぅ、マツナガ。このガキ、おめぇのよ――ほごぉあっ!?』

 イタリア支部所属の少佐は自分の顔を覗き込んだまま言葉を発したが、その先の言葉を遮るように松永大佐はショートブーツの爪先を鳩尾にめり込ませるような蹴りを少佐の腹に放った。腹に蹴りを受けた少佐は、口から煙管を落とし、腹を抱えてその場に崩れ落ちた。

『済まない。足が滑った』

 蹴りを放った当の松永大佐は白々しく謝罪の言葉を口にした。松永大佐、回し蹴りを放った体勢のままで言う事じゃないと思うの。

『クッソ、てんめぇ……おぅ、マツナガ! いきなり腹に蹴り入れんじゃねぇ!』

 一分にも満たない短い時間で回復したのか、腹を抱えて蹲っていた少佐が煙管を拾ってから立ち上がり、松永大佐に詰め寄った。

 松永大佐が放った蹴りの威力を響いた打撃音から考えると、知らない少佐を床に転がす勢いで蹴りを放った筈だ。蹴りを受けた少佐には、蹴りの衝撃を逃がす暇すら無かった筈なのに、その場で崩れ落ちた程度で済んでいる。咄嗟の判断で少佐が腹筋に力を入れたとしても、相応に鍛えていないと出来ない事だ。何か凄い。

 少佐は松永大佐に対して、犬が吠えるようにギャンギャンと文句を言っている。松永大佐は慣れているのか、アルカイックスマイルを浮かべて聞き流している。

 突発的に始まった状況にどう対応すれば良いのか判らず、座っている自分達六人は顔を見合わせた。この顔触れの中で止められそうな佐藤大佐とハルマン大佐が、喧嘩と言えるのか怪しい状況を止める気配は全く無い。このままでも大丈夫なのは判るけど、あの少佐は誰だ? 

「佐藤大佐。あのイタリア支部の少佐は誰なんですか?」

 六人を代表して、佐々木中佐が佐藤大佐に尋ねた。その隣の井上中佐を見ると、こちらも知らないらしい。

「アイツはマオだ。マオ・リンバオ」

 佐藤大佐の回答を聞き、内心で首を傾げた。

 マオって、もしかして、(マオ)? いや、家名っぽいから、(マオ)になるのか?

 んん? でも、マオって確か、中華系の家名だった筈。イタリア支部の人が、何で中華系の名前を名乗っているんだ? 

「佐藤大佐。私の記憶が確かなら、『マオ』は中華系の家名だった筈です」

「ん? ああ。あの野郎は九年前に中国支部からイタリア支部に移籍した内の一人だ」

「移籍?」

 確認の為に佐藤大佐に質問したら、予想外の回答を得た。佐藤大佐の回答を聞き、日本語が解るイングラムが訝しんで、わざわざ日本語で呟いた。

「疚しい事は無い。アレは単純に、誘いに乗って移籍しただけだ。アメリカ支部からも声が掛かったらしいが、理由は知らんがそれを蹴って、イタリア支部を選んだ。互いに納得しての移籍だ。俺らが口を挟む事では無い」

 イングラムの怪訝そうな顔を見たからか。佐藤大佐が口にした追加情報を聞き、中国支部の状況を思い出した。記憶が正しければ、中国支部は他支部に優秀な人材を『引き抜かれて』いた。このマオ少佐もその内の一人って事になるのか。

「佐藤大佐、詳しいですね」

「十何年か前までは年に数回程度だが、支部間の交流が多かったんだ。今では支部長か副支部長級でしか行われていない」

 佐藤大佐からの追加情報に『それで他支部に知り合いがいるのか』と感心していたら、井上中佐が仰天の声を上げた。

「えっ!? 支部間の交流って、都市伝説じゃなかったんですか!?」

「都市伝説って、大袈裟だな」

「いやいや。交流会が有るって聞かされていたのに、一回も行われなかったんですよ。俺らの世代じゃ、都市伝説扱いになっていたんです」

「……そう言えば、十五年前の交流会は直前で中止になっていたな。最後に行われたのは十六年前だったか」

 井上中佐と佐藤大佐の会話を聞き、へぇーと、感心していたら隣に座るライトに袖を引かれた。どうしたんだと思い、三人の顔を見て、存在を忘れていた事に気づいた。

 日本語が出来るイングラムはともかく、ライトとミゲルは日本語が解らない。イングラムが通訳しても、目の前で行われている会話のペースには追い付かないか。

 英語で三人に改めて説明をする。その間に佐藤大佐とハルマン大佐は、自分に近いところのスツールに腰を下ろしていた。

『へぇー、移籍者だったのか』

 ライトと同じ感想を抱いたのか、イングラムとミゲルも納得顔になっていた。

『中国支部からの移籍者が多いのはアメリカ支部だと聞いてたんだが、イタリア支部にもいたのか』

『坊主の言う通り、一番多いのはアメリカ支部だ。マオは『空気が合わん』とか言って、イタリア支部からの誘いに乗ったんだ』

 イングラムの言葉をハルマン大佐が肯定した。自分は他支部の事など、考えた事が無いのでただ感心するしかなかった。

 ただ、イングラムを『坊主』呼ばわりするのはどうかと思った。ハルマン大佐が佐藤大佐の同い年なら、歳の差が二十以上になるので分かるんだが。

『マオの野郎はほっといて良い。マツナガがその内締め落とす。そっちは茶会か?』

 締め落として良いんだろうかと、思ったけど誰一人として突っ込まない。隣に座る佐々木中佐を見ると『松永大佐ならやりそう』って顔をして頷いてから、ハルマン大佐の疑問に回答しようとしたけど佐々木中佐に制止された。自分の代わりに中佐コンビが回答する。

『飲み食いしながら、質問の受け答えをやっていたんですよ』

『そこの金髪の二人、イングラムとミゲルがガーベラ絡みで日本支部に派遣候補者だったと聞いたんです。俺と佐々木はガーベラのテストパイロットをやったんで、実際の乗った感想を教えていたんですよ』

 中佐コンビの回答を聞き、今度はハルマン大佐が驚いた。

『あぁ。あの赤い機体か。機動力は見事だが、少しスピードを持て余していないか?』 

『スベン。お前はガーベラを操縦する際に掛かる負荷を知らんから、そんな馬鹿な事が言えるのだ』

『サトゥ。どう言う意味だ?』

 無駄に意味深な空気を醸し出してから、佐藤大佐はハルマン大佐を小馬鹿にするように言った。

 脳筋枠の佐藤大佐が他人を馬鹿にしている珍しい光景に目を丸くした。初めて見たかもしれない。

 自分としては、最大速度で動き回ると『初めて操縦した時』と同じく、周囲の機体と接触するかもしれないから半分の速度で動くようにしていた。第三者からすると『速度を持て余している』ように見えるのか。

『ガーベラが移動するだけで受ける負荷は平均で十五Gを軽く超える。最大速度を出したら二十Gを超すぞ』

『パイロットは大丈夫なのか?』

『大丈夫だ。志願したテストパイロットと違い、支部長が操縦の腕前よりも耐G訓練成績結果を優先してパイロットを選んだからな。耐G訓練成績が日本支部随一の奴で漸く満足に操縦出来る始末だったからな。それでも、最初の内は精密検査を受けていた』

 佐藤大佐が明かした追加情報を聞き、思わず『んんっ!?』と声が出そうになった。

 松永大佐から、そんな説明は受けたっけ? 仕様書は見たけど、最大速度しか書かれていなかった。パイロットに掛かる負荷は、実際に操縦しないと未知数だから、記載出来なかったのかもしれない。

 と言うか、自分で『耐G訓練成績日本支部一』だったのか。初めて聞いた。

 でも、自分で日本支部一の成績なら、教官が耐G訓練の結果を教えてくれなかったのも納得出来る。主に『他の奴が試したがるかもしれない』と言う理由でだ。一度も結果を教えて貰えず、毎回必ず訓練終了と同時に教官の手で医務室に担いで運ばれていたが、そりゃ精密検査を受けろと言われて当然か。自分は良く平気だったな。

 それはともかく、訓練生がそんな成績を叩き出したんじゃ教えられないか。『調子に乗りかねない』と危惧する。普通の十代の子供なら確かに調子に乗るだろうね。自分は怠ける事を優先していたから、そんな事を考えた事は無いけど。

 佐藤大佐の情報に関心を示していたら、ハルマン大佐が自分の事を心底不思議そうに見る。顔に出ていたのか?

『嬢ちゃんは、マツナガの部下なんだよな? 何で『たった今、初めて聞いた』みたいな顔をしているんだ?』

『いえ、その通りでして、初めて聞きました』

『初めて? 嘘だろう!?』

 何故かハルマン大佐が仰天している。意味が解らず佐藤大佐と中佐コンビを見るが、こちらも揃って『何で知らないの?』と、困惑に満ちた顔をしていた。

 そこへ、色々と終わったらしい松永大佐とマオ少佐がやって来た。マオ少佐は自分の正面に立つなり口を開いた。マオ少佐の見下しの視線と目が合う。その隙に松永大佐は、佐藤大佐の隣のスツールに腰を下ろした。佐藤大佐は隣に座った松永大佐を見て、一瞬だけ嫌そうな顔をした。

『おう、ガキ。お前、マツナガの部下でパイロットなんだろ? 何で知らねぇんだ?』

『確かに私はパイロットですが、教えて貰った事が無いです』

『教わっていない? おめぇマツナガの下に来てから、今日で何年目だ?』

 正直に『教えて貰った事が無い』と言ったら、異動してからの日数を聞かれた。

『今年の八月に松永大佐の下へ臨時異動したから二ヶ月? でも、正式異動になったのは九月過ぎてだから、一ヶ月と十日程度だと思います』

 松永大佐と出会ってからの日数を指折り数える。『臨時異動』と言うのは、松永大佐との事前に打ち合わせた内容の一つだ。

『は? 今年の八月? しかも、臨時異動?』

『そう言えば、サトゥもまだ三ヶ月経っていないと言っていたな』

 マオ少佐とハルマン大佐が信じられないと言わんばかりの顔になった。

 臨時異動と言うか、当初は『夏休み期間中のみ』の予定だった。臨時『異動』と言うよりも、ツクヨミへの臨時『移動』が正しいと思う。

 訂正の必要性は無い。だって、松永大佐に出会ったのは八月だ。この事実だけは変わらない。

 ハルマン大佐が佐藤大佐と松永大佐を見た。ハルマン大佐は大佐コンビを見る前に中佐コンビを見た。視線を受けた中佐コンビは無言で首肯した。訂正のしようが無いのだ。大佐コンビも肯定する。

『確かに、こいつが松永と会ったのは八月だ。それだけは事実だ』

『私も、支部長に一時的に引き取って欲しいと相談を受けたのは七月下旬近くです』

 元々、夏休み期間中のみだったので、一時的で合っている。松永大佐預かりとなった本当の理由を言わなければ、誤魔化せそうだな。

『ええと、六月に元いたチームが、その、私以外、駄目になってしまったんです』

『駄目になった? それって……』

 言い難そうに目を泳がせながら『駄目になった』と暈して言う。初戦で駄目になった面々を思い出すと、不味い、頭痛がして来た。

 自分が言った『駄目になった』の意味を、こちらにとって都合良く『誤解』してくれたマオ少佐は気まずそうに視線を泳がせた。そのまま『わりぃ』と謝罪の言葉まで貰った。

 騙しているようで悪いが、確かにチームは駄目になった。と言うか、チームそのものは解散した。解散しようが、全滅しようが、チーム自体が存在していない。これだけは、覆しようの無い事実なので、大差は無い(?)筈だ。

 付け加えると、あの日以降、あの四人と会っていないし、そもそも消息不明だ。松永大佐に聞けば教えてくれるとは思うんだけど、薄情で悪いが、聞く気になれなかった。状況的にすっかり忘れていたのは内緒だ。

 

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