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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
作戦と試練 西暦3147年10月後半

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出発前のおまけ話 第二回写真撮影会

 一回目の写真撮影を行った翌日の夜。

 何故か食堂で、写真撮影をもう一度行う事になった。

 だがしかし、今回運び込まれた衣装の中には、カツラとメイク道具に、猫やウサギの耳が付いたカチューシャとそれらのセットらしき尻尾に、幼児向けニチアサ番組で使われそうな衣装に、不思議の国のアリスで登場しそうなエプロンドレスや色んな種類のメイド服などの、どこからどう見ても『コスプレ衣装』としか思えないものが混じっていた。ご丁寧にな事にも、小物まで運び込まれていた。

 そして、今回の写真撮影には……定例会議で何度か見かけた女性陣も参加している。

 さてこんな状況で自分は、完全な着せ替え人形と化していた。

「これなんかどう? 髪をツインテールにして」「ツインテールは待ちなさい。縦ロールはどう?」「流石に、縦ロールは古くない?」「でも、そのリボン付きのカチューシャも古いわよ」「ここはメニアニックなカチューシャにした方が良いんじゃない?」『ウサギの耳付きカチューシャはもっと駄目でしょ!』

 大林少佐が選んだウサミミカチューシャに、自分以外の全員が駄目出しをした。と言うか、何故それを選んだ?

 喧々諤々(けんけんごうごう)と話し合いが進んだ結果。

 トンガリ帽子を被り、マントと箒に幼女向けステッキを手にした魔女コスプレをする事になった。

 写真を一枚撮ったら次は、赤いミニ丈ドレスに着替えて、髪を整え、蝙蝠の羽を背負い、付け八重歯を犬歯に付けた吸血鬼コスプレをする。そして一枚写真を撮る。

 こんな流れで、コスプレをしては写真を撮るを、何度も繰り返した。

 最後にネコミミカチューシャを付けて、モコモコのホットパンツ(ネコ尻尾付き)とチューブトップに着替えて、猫の手を模したブーツと手袋を装着する。

「良い感じの猫又ね」

 ハンカチで顔の下半分を覆っている神崎少佐の感想はこれだった。これで猫又って方に驚くんだが、良いのか? 

「大林少佐。猫又の尻尾は二本だった筈ですが」

「尻尾の本数は気にしなくて良いわ。その服を着る事に意味が有るのよ」

 ……何だろう。今とっても、聞いてはいけない台詞を聞いた気がする。

 眼鏡を曇らせ、サムズアップしている大林少佐は大丈夫なのか?

 写真を一枚撮ってから思う。何に使う写真なんだろう。思い切って尋ねたら、胸の上辺りで髪を切りそろえた女性将官が代表して答えてくれた。

「ああ、コレ? 作戦が成功しても失敗しても、作戦参加者を労う為に、二日・三日ツクヨミ内限定で縁日みたいな事をする事になったの。縁日は縁日でも、季節的に『ハロウィン風』の縁日だけどね。数は少ないけど、ちゃんと露店みたいなお店も出るのよ。公表は作戦が終わってからだけどね」

「縁日に写真撮影って必要ですか?」

 作戦終了後の予定を知ったが、益々、写真撮影との関係性が見えない。必ず作戦を成功させるようにと言った、プレッシャーも無い。

「実は当日、星崎はツクヨミ内の出歩きを控えて貰う事になったの」

「それなら作戦終了後に撮った方が良いのではないでしょうか?」

 思わず、『今撮る意味無くない?』と言ってしまった。すると、大林少佐を除いて『あっ』と声を上げて動きを止めた。忘れていたのか。

「星崎は解っていないわねぇ」

 動きを止めた女性陣を無視して、そう言ったのは大林少佐だ。

 右手の人差し指で眼鏡の位置をくいっと直した大林少佐は、眼鏡をキランと光らせてから口を開いた。その声が原因で、直後に松永大佐が食堂にやって来た時に聞こえるドアの開閉音が掻き消されてしまった。

「いい? 松永大佐に勘付かれる前にやる事に意味が有るのよ。普通の写真撮影とでも言わないと松永大佐は絶対に許可を出さないし衣装と小道具を見ただけで取り上げてその場で燃やすわ。見た目の割に狭量で独占欲は強いし身持ちは硬いし他人の意見は聞かないし融通は効かないし見た目に騙されている馬鹿な女共に『ああ言うのが亭主関白』だって教えてやりたいぐらいよ。顔を見て松永大佐を見て騒いでいる女は馬鹿揃いで役に立たないし仕事はしないし本当に何の為にここに来たんだか。賑やかしに来たのなら帰れって言いたい。いっその事全員クビにしたい。松永大佐を広報活動に出した支部長も大概だけど顔だけの男は百害しか無いわね。日本支部に資金提供してくれそうな資産家の御婦人や御令嬢の御機嫌取りとか口添えとかも支部長にやらされているからその内駄目女を引き寄せる誘蛾灯に成り下がるかも知れないけど書類仕事が出来る人間だから支部長は手放さないでしょうね。手放したら書類仕事が出来る人間が減って日本支部の運営に影響が出るのは目に見えているから老衰するまで書類に埋もれそうね。ここを辞めてもホストの仕事は出来ないでしょうし、訓練学校の学長をさせる訳にも行かないし支部長の手でどこかの資産家の未亡人か御婦人か御令嬢のところに売られる可能性が一番高いからあんな男は書類に埋もれているのが一番お似合いよ!」

 ノンブレスのマシンガントークによる、松永大佐の悪口が大林少佐の口から出た。他の女性陣一同も頷いている。本人がいる事に気づかないまま。

「大林少佐。後ろを見て下さい」

「へ? 後ろ?」

 反応に困った自分は大林少佐に背後を見るように言った。大林少佐は背後へ振り返った。一緒に振り返った女性陣は動きを止めた。

「あら、松永大佐。何時からいらしたんですか?」

 背後にいた松永大佐を見て動きを止めた他の女性陣達とは違い、大林少佐はワザとらしく鼻で笑ってからそう言った。

「『松永大佐に勘付かれる前にやる事に意味が有る』の辺りから、いたが」

「まぁ、そうでしたの」

「ああ。――それで?」

「言いたい事を言ってスッキリとしたから、言い訳はしない!」

「そこに直れ。今日こそ、その腐った性根を叩き直してくれる」

「性根を叩き直す? はっ、何を言っているのかしら?」

 そのまま松永大佐と大林少佐の睨み合いが始まった。目に見えない火花が散る中、自分は女性陣に連れられて少し距離を取り、制服に着替えろと衝立を設置した方に押しやられた。

 直後、再び食堂のドアが開いた。

「うっす、松永はいるか……って」

 やって来たのは高橋大佐だ。高橋大佐は室内の状況を見て目を丸くし、自分を注視した。

「星崎。珍しくスゲェ格好してるな」

「写真撮影をする為に着替えていただけです」

「あ? 写真撮影だぁ? 写真撮るだけなのに、男に見せる訳でもねぇ恰好してんのか。そう言うのは見せる男が出来てから着るもんだぜ。そんな恰好してると、ここの女共みたいに男の影が遠のくぞ」

『あ゛ぁ!?』

 高橋大佐の台詞を聞いて青筋を立て憤慨した女性陣が高橋大佐を取り囲み、全員で高橋大佐の向う脛と膝裏を蹴り飛ばしてから床に転がし――簡単に表現するとリンチが始まった。

「子供に何て事を言うのよ!」「セクハラするしか能の無い男ねっ」「女の影どころか女に近づいただけで消臭剤掛けられる男が何を言っているの!?」「あんた、星崎の年齢を忘れたの? まだ十五歳なのよ! 十五歳の女の子の胸を見ながら言う台詞じゃないでしょ!」「男だ女だ言う前に! 先ずはあんたが女を捕まえて見せなさいよ! この万年女日照り!」

 四方八方から女性陣が高橋大佐を蹴っている。高橋大佐は身を丸めて転がって蹴りから逃れようとしているが、完全に取り囲まれている為、両手で頭を守る程度の事しか出来ていない。代わりに出来る事は、女性陣を止める為に声を上げる事だけだ。

「痛い! 待て! 待てって、蹴るな、痛い、謝るから、待てー!」

「リンチから逃れる為に言っているのが丸判りよ!」

「何で判るんだよ!?」

 そこで肯定するからじゃないのかと思ったけど、口にはしなかった。火に油を注いでどうするのかと、高橋大佐がリンチを受けている光景を眺めていたら、今度は睨み合っていた筈の松永大佐と大林少佐に呼ばれ、現状の説明を要求された。

「私の服装を見た高橋大佐の感想を『セクハラ』と受け止めた方々がリンチを始めました」

 簡単に説明をすると松永大佐と大林少佐は『ああ、そうなのか』とすぐに興味を無くした。だが、このままにする気も無かったらしく、二人は女性陣を止めて、高橋大佐をその場で正座させた。

 松永大佐が改めて事情聴取を始めた。その間に自分は衝立の向こう側に移動して着替える。軍服に着替えて戻る頃には事情聴取は終わったのか、全員で高橋大佐を取り囲んでいる。女性陣の中の数人は『蹴り足りない』のか、正座している高橋大佐の足を踵で踏み躙っている。しかも交代しながら踏んでいる。

 松永大佐に声を掛けると、何時かのように高橋大佐の処罰内容を決めて欲しいと言われた。ただし、今回は『十分間』と制限時間が付いていた。

「十分ですか? でしたら、十分間誰かの椅子になるとか、ですか?」

「星崎以外の誰を座らせるか悩むが、それで良いか」

「いや、良くねぇよ!」

 高橋大佐は松永大佐の言葉に突っ込んだが、女性陣達の言葉を聞いて顔を引き攣らせる。

「犯罪者は黙りなさい」「星崎が座ったんじゃ罰の意味が無いわ」「寧ろご褒美ね」「セクハラで憲兵部に突き出して欲しいのかしら?」「憲兵部に突き出したら『パワハラ・モラハラ・セクハラのどれかを受けながらのお説教』が待っているでしょうけど、受けたいの?」「九月の会議で言っていたアレね」「今こそ受けるべきね。神崎に連絡しましょう」

「……椅子で良いです。椅子でお願いします」

 女性陣の言葉を聞いた高橋大佐はその場で土下座をした。土下座をする直前に滝のような脂汗を掻いていたから、命の危機を感じ取ったのだろう。多分。

 土下座をした高橋大佐を放置して、大人一同が処罰内容について話し合う。絵面的は土下座をした男性を取り囲む、女性陣と男性一名と子供一名。シュールだ。

「ん?」

 話し合いが白熱した時、食堂のドアが開いて新たに誰かやって来た。姿を確認すると、神崎少佐だった。何か、凄いタイミングだな。

 目を丸くした神崎少佐に状況説明を求められたので、簡単に説明をする。自分の説明を聞いた神崎少佐は、説明内容と状況を見てから一度頷いた。そして、手を叩きながら大人達の輪に入った。

「ハイハイ、私刑はそこまでよ」

「……神崎? ちっ、何でこのタイミングで来るのよ」

「舌打ちをするんじゃないの。ああ、もう。高橋大佐を蹴っちゃ駄目でしょう。足も踏まない。コラッ、やーめーなーさーいー」

 神崎少佐は高橋大佐を足蹴にする女性陣を止めて、そのまま女性陣と言い合いになる。その隙に高橋大佐は再度床を転がって、何故か自分の許に転がりながらやって来た。けれど、自分の傍に来る寸前で松永大佐に背中を踏まれて止まり潰れたカエルのような声を上げた。

 その声を聞きつけて言い合っていた面々の視線がこちらに向く。一斉に首が、ぐりん、と動いたのでちょっと怖かった。こちらを見た一同は、自分と高橋大佐の位置を見て無言で近寄って来た。松永大佐は足で器用に高橋大佐を裏返して転がした。

『どさくさに紛れて、何をしているのよ!!』

 近寄って来た一同は高橋大佐を取り囲み、全員で高橋大佐を踏み付けた。



 そして、一時間後。

 神崎少佐からの依頼を終えて食堂に戻ったが、状況はまだ終わっていなかった。いや、一部は混沌としている。

「私は着ないぞ」

「せっかくの機会だから着なさい。どうせなら星崎と一緒に写真も撮る?」

「着ないと言っているだろう」

「どうしてよ? 松永大佐のコスプレ写真を売りに出せば高値で売れるのに」

「私で金儲けをするな!」

「はぁ!? 何を言っているのよ! せっかくの金儲けの機会なのよ!? 高値で売れそうなものを用意するのは当然でしょ!?」

「諜報部のトップが私腹を肥やす為に、馬鹿な事を口走るなっ!!」

「私腹じゃないわよ。部下のボーナス分よ」

「佐久間支部長に請求しろ。私で稼ぐな」

 大林少佐は吸血鬼コスプレ衣装と小道具を松永大佐に押し付けながら、別の攻防を始めていた。しかし、大林少佐。キレ散らかしている松永大佐の言う通り、憲兵部のトップの神崎少佐がいるここでそんな事を口走って良いのかと思ったが、聞こえていなさそう。

「む、り……げはっ」

 少し離れたところでは、四つ足状態だった高橋大佐が床の上に潰れて伸びた。高橋大佐の背中に、一メートル程度の長い板を置いて座っていた『三人』の女性が口々に文句を言う。

「ちょっと。まだ十分経っていないわよ」「何回最初からやり直せば気が済むのかしら」「六分五十八秒。さっきよりも短くなっているわ。やる気、有るの?」「やる気、あんだけどよ、足、踏むな」

 床の上で伸びた高橋大佐は流石に学習しているのか、女性相手に『重い』の一単語は口にしなかった。椅子になっていた高橋大佐を取り囲む他の面々が提案する。

「そろそろ神崎に代わる?」「それが良いわ」「交代しましょう~♪」「待て、流石に神崎は待て、十秒も持たねぇよ!?」「十秒は持つのね?」「っ!?」

 再び四つ足になるも、うっかり失言に気づいた高橋大佐は白目を剥いた。女性陣と入れ替わりで高橋大佐の上に座り、潰した神崎少佐は何故かここで自分に気づいた。

「あら、おかえりなさい」

 神崎少佐に声を掛けられた事で他の女性陣も気づいた。神崎少佐と同じようにおかえりと口にした。

「戻りました。まだ続いていたんですか?」

「そうなのよ~。根性無しで困るわぁ」

 そう言って神崎少佐は肩を竦めた。高橋大佐は潰れたままピクリとも動かない。

 神崎少佐の見た目は、控えめに言って『筋肉ダルマ』と言って良いぐらいに鍛えられている。身長が二メートル級なので、体重は恐らく百キロを超えているだろう。

 対して、高橋大佐は鍛えているとは言え、身長は百七十半ば程度である点から考えると、体重は七十キロ前後だろう。アスリートは『自身の身長マイナス百十の体重が理想』と何かで聞いたけど、パイロットとしてそれなりに鍛えているだろうから流石に七十キロ以下では無い筈。

 身長差と体重差を考えると、神崎少佐が高橋大佐の上に座ったら潰れるのは、ある意味当然なのかもしれない。高橋大佐が鍛えていないから潰れた、と言う可能性も存在しそうだけどね。

 


 混沌とした食堂は、何時ぞやかの時に見た高橋大佐の副官の少佐がやって来るまで続いた。その少佐も室内の状況を見て目を丸くしたけど、神崎少佐からの説明を受けると納得顔になった。高橋大佐を擁護しない点を見るに、『何時かやりそう』と思われていたのかもしれない。

「実は元部下の間宮に関する奇妙な噂が他の部隊の女性隊員に流れていて、その余波で我が隊全員が悪く言われていたんです」

 少佐から意外な事を聞かされた。

 間宮教官絡みだったので、思わず大林少佐を見てしまった。あれ? 報告しなかったっけ?

 自分の反応を見た他の面々に説明を要求されたが、大林少佐が代わりに『訓練学校の卒業生が行っている、卒業後に間宮教官のエロ猿呼びを広めよう運動』について説明してくれた。

 大林少佐の説明を聞いた面々は納得の表情を浮かべて、未だに床の上で伸びている高橋大佐に軽蔑を込めた視線を送った。

「高橋大佐にはまだ本日分の仕事が残っています。『徹夜で明日分の書類仕事も終わらせる』で、ご勘弁願えませんか? 執務室のドアは外からロックしますので、逃亡は不可能と思います」

 少佐の言葉を聞いた大人一同の反応は分かれた。

 顔を上げた高橋大佐は絶望顔を浮かべた。神崎少佐は少し考えてから『しょうがないわねぇ』と呟いて立ち上がった。松永大佐と女性陣は少し思案してから、小さく舌打ちを零し、高橋大佐を拘束する。

 女性陣が高橋大佐を拘束した状態で少佐に引き渡した。少佐は高橋大佐を肩に担いで去った。

 闖入者が去った事で女性陣達も冷めたのか、持ち込んだ荷物を手に去って行った。神崎少佐は大林少佐と明日に会う約束をしてから去った。大林少佐は女性陣達と一緒に去ったが、去り際に一言言い残した。

「星崎。作戦が終わったら三回目の写真撮影会やりましょうね」

「許可は出さん!」

 大林少佐は松永大佐からの一喝を無視して去った。


 

 この時に撮った写真がどうなったかは知らない。興味も無かったしね。

 写真は一ヶ月後に、十数ページ程度の『写真集』になって手元に来た。でも扱いに困り果てて、松永大佐に預かって貰う事にした。

 松永大佐は困惑顔になっていたけど、鍵付きのロッカーに仕舞っていたから、誰かが見る事は無いだろうね。


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